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判断と新装備

 放心しているルイナに対してシオンが不思議そうに言う。

「どうしたんですか? 上手くいってるなら良いのでは? 運よくダンジョンドリームを掴めた、ということなんですから」

「そりゃあそうなんだが」

 ルイナは一際大きなため息を吐くと身を起こした。

「こいつの場合、幸運以外の理由もありそうなんだよなぁ……それに嫉妬もヤバそうだし」

「他の冒険者の嫉妬が怖いのには同意ですわね。こんな装備では恐喝に遭ったら抵抗できないでしょう。レベルもそれほど高くないし、マナも……あれ? マナの感じはそこそこですわね」

「ああ、こいつの魔力制御は……ん? この程度だったか?」

 ルイナは目を細めてマナの感知に集中する。前回見たときよりマナが散っているように見える。

 

 鼠もルイナの訝しがる視線が気になったのでラスに念話で聞く。

(なにかしてるのか?)

(あんまりマナの流れが綺麗だと不審に思われるから、適当に散らしてるよ。多少うまいくらいに見えると思う)

(なるほどな)


「……まぁいいか。とにかくさっさと装備を固めることには賛成だ。どうするんだ? ウチはセレクトショップみたいなもんだからな。大手どころのようになんでもあるわけじゃねーぞ。その分オーダーメイドを受け付けたりしてるけどな。お前にはまだ早ぇーが」

 そう言って立ち上がろうとして、シオンの会計がまだ済んでいないことに気がつく。

「お前はどうするんだ? 双節棍二本でいいんだな?」

「はい。先ほどの二つで。でも折角ですから私も装備選びに参加させていただいても?」


 後半は鼠にも向けたものだった。鼠は自分では判断がつかず、まずはラスに、そしてルイナに相談する。

(装備の情報を知られるのはまずいかな? 悪い人には見えないけど)

(マナからは害意は読み取れないよ。でも実際にどうするかは鼠の判断に任せる)


 ルイナには視線を向けるだけで伝わった。

「まぁ大丈夫だと思うぜ。結構イロモノを使う奴だから、アタシとは違う目線の意見が貰えるかもしれねぇな」

 悩む鼠に対して、ルイナは笑いかける。

「これも冒険者(エクスプローラー)として必要な訓練だぜ。誰にどこまで情報を明かすのか。それによってどこまで協力を得られるのか。わたしの意見はあくまでわたしの意見だ。それを聞いて判断するのはお前だぜ」

(この件に関しては、わたしも同意見。鼠自身でも判断できるようにならないとね)


「……わかりました。では、是非お願いします」

 時間にして十数秒悩んだ鼠は、のちに敵対した時のリスクよりも、より良い装備の選択ができるかもしれないという目の前のメリットを取った。腰を折って見様見真似のお辞儀をする。

「ふふふ、可愛いですね。うちのガキんちょとは大違いですわ」


 ん?

 

 鼠は一瞬可憐なシオンの声音にドス黒いなにかが含まれたような気がして、身体を跳ね上げる。しかし顔を上げた時のシオンは、にこやかで上品なメイドだった。


 ◆


「情報収集機器、防具、それから銃か。優先順はそれでいいのか?」

「あっ、はい。大丈夫です。でも全部同じくらいのグレード? で揃えたいなって」

 この辺りはラスと相談済みである。基本的にはソロで活動をすることになりそうなので、一つに大金をつぎ込むより、総合的に能力を上げることにした。一芸特化、例えば優れた情報収集能力があるが、攻撃力がない人間などは、チームには有用かもしれないが、個人ではどう考えても厳しい。


「まぁ最初はその方針でいいだろうな。一芸特化するにも基本的な能力がなけりゃ話にならんし。上層で完全にチームを組んで生活費だけ稼いで終わるならそれでもいいかもしれんが……」

 ルイナが鼠に視線をやった。鼠は黙って首を振る。

「だよな。だが一応質素に暮らせば一生食うに困らねぇ額だぜ? いいのか?」

「んー、そんなことは考えてませんね」

 本当はラスとの契約もあるが、不思議なことにダンジョン探索から離れたいというような感情は全く湧いてこなかった。


 ラスは無意識への干渉が初めて上手くいっていることに気がつき、誰が見ても害意のない、可愛らしい微笑みを浮かべた。


 ◆


「予算は?」

「一応五千万は残しておいて、二億くらいは装備に使いたいなと」

 ギルドから査定時に出されたのは二億八千万だったが、そこから三千万円分の未来(フューチャー)遺物(アーティファクト)を持ち帰ったので実際手に入った金額は二億五千万ほどである。

「……まぁ妥当だな。二億か……ざっくり情報収集機器、防具、銃、その他細かいものに五千万ずつ、って感じだな。サブ武器やら次元収納袋やらはその他に含めるとして」

 鼠はそれを聞いてなるほど、と納得する。細々したものも必要だし、なんと言ってもサブ武器といえば短剣だ。

 

 嬉しそうに頬をほころばせている鼠を細目で見たあと、ルイナは他の既に決まっている条件や希望をがあるかと聞いた。正直セレクトショップなのであまり選択肢はないのだが、それはともかく購入者の希望は聞いておかなければならない。しかし鼠からは特にないとのことだったので、まずは優先度の高い情報収集機器から決めていくことにした。


「……まずは情報収集機器か。マナでの出力オプションをつけるとなると、本体は四千万くらいだな……コレか」

 そう言ってルイナが手に取って見せたのは、大小様々なつまみと中央に大きなパネルが付いた手のひらほどの大きさの長方形の機械だった。

「力体探知、音響探知、熱源探知、魔力探知、動体探知、諸々が入ってる総合情報収集機器だ。それぞれ専用の探知機器を買って組み立てる奴もいるが、お前には無理だろう。初心者のうちは大人しく総合機器を使っておけ」

「はい」

 鼠は納得して頷く。続いてルイナは情報をマナに変換するオプションパーツを取って見せる。

「マナパターンで情報を受け取るにはお前からもマナを送る必要がある。戦闘中もだ。無意識に意識する……みたいなことが常に必要になるが大丈夫か?」

「大丈夫だと思います」

 鼠はラスがやってくれるだろうと考えることなくうなづいた。


「……判断が早いな。まぁそういう注文を最初からしてくるんだ。考慮済みか。それからこのオプションパーツだけで一千万するぜ。特殊なオプションだからな」

「問題ありません」

 了承の返事を聞くと、ルイナは柔らかい布が敷かれたトレイに総合情報収集機器とオプションパーツを乗せてカウンターに置いて戻って来た。


「次は防具だが……ここが一番難しいかもしれねーな。選択肢が多い」

 そう言ってルイナは鼠を防具が集められている箇所に案内する。店の中で一番広いコーナーだ。


「まずは補助インナーか補助スーツか、だな。どちらも機能は同じようなもので身体能力全般を向上させる。いくつか相違点があるが、ざっくり言うと機能性を重視するなら補助スーツ、見た目を気にするなら補助インナーだ。分かりやすいのが手だ。補助スーツは首から手足の先まで全て覆われている。指の力も相応に強くなる。敵を殴った時も手指を守ってくれる。それに対して、補助インナーは手先や首など一般的に服からはみ出す部分はカバーしていない。拳でモンスターの装甲を殴りつけたら、腕力は強化されてることもあって間違いなく拳はぶっ壊れるな。あと補助インナーは着心地を考慮して薄く、軽い分、同じ価格帯の補助スーツに比べれば性能が低い。だがまぁ、補助インナーの方がやっぱり楽だからな。わたしもシオンも今着ているのは補助インナーだ」

「私も全力を出さなければいけない戦闘があるとわかっていれば補助スーツを着ますが、普段はそこまでしませんね。見た目を整えるのもメイドの務めですし」

 そう言って微笑むシオンの首元をいつの間にか見つめてしまっていた鼠は慌てて視線を逸らす。逸らした先でジト目のルイナと目が合い、更に目を背けるとその先ではラスが満面の笑みを浮かべていた。


(……なんだよ)

(べつにー?)


「……で、その補助服の上には見た目と実益を兼ねた防護服を着るのが普通だ。防護服は基本的にはただ頑丈なだけの服だが、色々機能が付かない分、価格帯が同じなら補助服よりも遥かに堅い。防護服と言っているが鎧のようなものを着る奴もいるな」

「補助服だけ、という方はほとんどいませんね。身体能力強化機能のために補助服は身体にぴっちりと密着ていなければいけないので。例えばほら、ぴっちりとした補助インナーだけのルイナを想像してみてくださいな」


 鼠は促されるままルイナに視線を向け、補助インナーだけのルイナを想像してしまう。

「おぶっ」

「ぶっ殺すぞテメェ」

 鼠がしなやかな筋肉に覆われた躍動感あふれる黒豹のような身体を想像して吹き出すのと、ルイナが頬を僅かに染めて脅すのは同時だった。


「てめーもだぜ、シオン。おらシオンの方向けや」

 そう言ってルイナが鼠の顔を掴んで無理矢理シオンの方へ向ける。タチの悪いことにシオンは片手でスカートを引き上げてストッキングのような補助インナーに覆われた美脚を見せ、同時に少し屈んでもう片腕でかなり大きい胸を強調するように持ち上げた。


 薄いインナーを纏った、色白でどちらかと言えば華奢な身体と大きな胸、それが今の煽情的なポーズで脳内再生されてしまう。平静を保とうとするも堪えようとした鼻息が漏れてしまう。

「ぶっふぅ」

「おい」


 ルイナのツッコミを聞きながら、鼠の視界の端にシオンと同じポーズを取っているラスが映る。

 つるぺったんなラスを見てすんと冷静になり真顔になった鼠は、ゆっくりとルイナの腕を外した。

 ぎゃいぎゃいと念話でわめくラスを無視してルイナに言う。

 

「補助スーツでお願いします」

「まぁお前はそうだと思ってたぜ。ならあとは防護服だな。……ここがどうするかなんだよな」

 ルイナは防護服がハンガーにかけられて並んでいる辺りを指さす。

「見た通りジャケット、Tシャツ、ボトムス、色々ある。一セット買ったらそれだけで何千万になるし億に届きかねん……そこでだ」


 ルイナは折りたたまれた補助スーツを棚から引き出し、手先からぶら下げて鼠に広げて見せる。

「こいつはあまり身体の線が出ねぇ造りになってる。で、だ。お前の着てるそれ、大男用のサイズのデカいブルゾンかなんかだよな」

「あ、そうですね。袖が長いのでコートみたいにしていて……」

「いや袖をまくるか切るかすればいいだろ」


 鼠に原因不明の電流が走った。身体が熱くなるのを感じ、呂律も怪しくなる。袖に腕を通さないことに疑問を持ったことがなかったのである。


「でゃ、ださいじゃないですか……?」

「……まぁ、お前の厨二心はいい。丁度そういうお年頃だろうしな。それより別のデカい奴の依頼を受けて作ったのに、受け取る前に死んじまった防護服がある。ちょっと待ってろ」

 そう言ってルイナはカウンターの奥の扉へ向かう。


 分けも分からず頬が熱くなっている鼠はラスに念話を送る。

(なぁ、ラス、厨二心ってなんだ?)

(さぁなんでしょーねー!)

 ラスは顔をしかめてそっぽを向いている。まだラスのセクシーポーズをシカトしたことを根に持っているようだった。

 

 鼠がシオンの精神的に見下ろすような微笑みに冷や汗をかきながら待っていると、ルイナが一枚の黒い服を持って戻ってくる。手に持ったままぶら下げて広げると、フード付きの毛皮のコートだと分かった。


「レアモンスター素材で防護服を作ってくれと言われてな。もう引き取りに来るやつもいないし、丁度いいからお前にニ千万で売ってやる。レアモン以外の素材費とトントンだがいつまでも倉庫に置かれっぱなしってのもアレだからな。フードもあるから必要なら頭部も守れる。銘はそうだな……レアモンの名前から取って黒熊とかでどうだ?」

 鼠は硬い手触りの毛皮のコート、黒熊に触れる。そしてなにか、魂の繋がりのようなものを感じた鼠は勢いよく顔を上げた。


「はい! ぜひこれをください!」

「ああ。なら補助スーツと合わせて六千万だ。一千万オーバーするが構わねぇよな? 一応袖は短くしておくが、羽織った状態で動いても落ちねぇように首紐もつけておいてやる。袖に腕を通さないスタイルも、中で銃を構えられるっていうメリットもあるしな。いや、別にお前の厨二病に付き合ってるわけではなくな」

 なぜか含み笑いをしながら真面目くさった口ぶりで言うルイナに、鼠は再び頬が熱くなるのを感じた。

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