トリップ後
目を開けると、見知らぬ部屋の中だった。テーブルとパイプ椅子だけの殺風景な部屋……会議室かどこかだろうか。
(ここは……どこでしゅ?)
目の前には見知らぬ若い女性が一人、テーブルを隔てて自分と向かい合わせに座っている。
「じゃあ……してくるから、ちょっと待っててね」
スーツ姿の女性はそう言うと部屋から出ていってしまった。
「一体何なんでしゅか……僕はお兄ちゃんの部屋で『ぎゃるげー』をしていたはずなのに……って、あれ!?」
さっきまで女性が座っていて気付かなかったけれど、新太の目の前の壁に鏡がかかっていた。そしてそこに映っていたのは―――、
「ボク、じゃないでしゅ……」
サラリと流れる長めの黒髪。鋭いけれどどこか温かさのこもった瞳に、白い肌。小ぶりの唇。そして、しゅっと引き締まった、凛々しい顔立ち。
まごうかたなき、イケメンがそこにはいた。
「ぼっ、ボクがイケメンになってるでしゅ!どういうことでしゅか!?夢!?」
頬をつねってみるが、しっかりと痛みは感じるし、鏡の中のイケメンも同じく頬をつねって顔をしかめていた。
どうやら夢でも、別人というわけでもないようだ。
(じゃあ、ここは『ぎゃるげー』の中の世界ってことでしゅか?着ている服もなんかピシッてしてるでしゅ……。)
「ん?」
辺りを見回して、テーブルの上に書類らしき紙が置かれてることに気付いた新太は手に取って読み上げてみた。
「転校手続きについて……?」
その紙には『黒崎 巡(くろさき/めぐる)』が転校生として『聖祈ヶ丘学園高等部』の二年生に転入する旨が記されていた。
「巡、ってお兄ちゃんの名前でしゅね。やっぱりここはぎゃるげーの中なんでしゅ。きっと最新のゲームは中に入ることができるんでしゅ!」
納得したところで扉が開き、先程の女性が入ってきた。
「じゃあクラスの方に移動しようか、巡君」
(この人は……多分先生でしゅね……)
立った時の視線の高さに驚きつつも、小さく頷いて先生の後ろについて部屋を出る。
と、
(うわぁっ!なんでしゅかここ!)
さっきまでの光景とは一変して、校内は豪華絢爛だった。
天井からは大きなシャンデリアが垂れ下がり、柱の一本一本は大理石でできていて、細かい装飾までほどこされている。
長く広い廊下はしっかり磨かれ、光を反射するくらいだ。
壁の窪みに置かれた花瓶や置物はどれも高そうなものばかり。
もうお金持ち高校を通り越してどこかの宮殿のようだったが、高校を知らない新太もとい巡は目を輝かせていた。
(高校ってこんな所なんでしゅね!幼ち園はもっと安っぽいんでしゅけど……!)
キョロキョロと周りを眺めまわしていた巡に、
「さぁ、着いたわよ」
先生の声がかかった。
いつの間にか巡は高さ2メートルぐらいの大きな扉の前に立っていた。
扉は左右にスライドするものではなくホールなどで使われる、押して入る式の分厚い扉だった。しかも革製である。
(これをあけたら、くらすめいとがいるわけでしゅね……)
巡は扉から醸し出される厳かな雰囲気に圧倒されながらも、取っ手を握り、力いっぱい押し開けた。