閑話 帝国編 2
帝国は何をしている。短いです。
帝都の屋敷、マルケハイマン家の屋敷にでっぷり太った男が走りこんできた。
贅肉がたるみ、走るたびにゆれる姿は滑稽を通り越して哀れにすら感じる。
「マルケハイマン!何故私を呼ばなんだ!
巫女姫様はお眠りに成ったまま起きぬと聞いたぞ!」
烈火のごとく怒りの声を上げて部屋に飛び込んできたのは、帝国の重鎮の一人ディクニス卿だった。
それも今までだけであったが。
「ディクニスよ、お前は辺境領に旅立ったままで帰ってくるそぶりも見せなかったではないか。それを今更忠臣面してわが屋敷に怒鳴り込んでくるとは何事か!」
マルケハイマンが叱咤すると、ディクニスは悔しそうに唸り怒りの矛先を変えた。
「しかし巫女姫様も頑固な方だ、何故あの場所にこだわった。何をしておられたのだ」
マルケハイマンはそれも知らぬのかと息を吐いた。
「敵の攻撃をそらすため結界を作り、身を置かれたのだ。敵の【エンドオブファンタズム】はこのままでは帝都に直撃するところだったからな」
お前は家族と帝都から脱出した大分後になるがなと、口に出そうになってやめた。
この能無しに言っても無駄だとマルケハイマンが判断したのだ。
「まて、巫女姫は動けぬといったはずだったが……誰が直前になって動かした。帝都にいたはずだったと記憶しているぞ」
だからお前は逃げ出したんだろう。
という非難を顔ににじませながら問いを返した。
「サジュス・カンデモランだ。奴め、秘策があるとかで巫女姫様から許可を貰い、移動させたのだ」
「"あの巫女姫"様が移動を許可されたと?」
おかしいではないかと言う、ディクニスはマルケハイマンに詰め寄った。
「どうやって巫女姫様を動かした!あの巫女姫様がどうして異動を許可されたのだ!」
帝国の頂点に位置する皇帝よりも尊いものとして君臨する、巫女姫。他者の言葉を信じず、扱いにくさでは帝国皇帝を遥かに凌駕する。
それを動かした一言がディクニスにとって気にかかることだった。
「そのサジェスとやらはなんと言ったのだ。
巫女姫様を動かすのだからさぞ壮大な事を言ったのだろうな!」
「私は知らんよ。ただ"新しい召喚魔法"を作り出したとかで巫女姫様を呼んだらしいが……」
「新しい召喚だと?!」
ディクニスの目が妖しく光る。
この男は目先の利益に飛びつくことだけが生きがいの男だ。
新しい召喚で、いくら金を稼ぐかと言うことしか頭に無い、とマルケハイマンは思った。
「それを何故もっと早くに言わない!
サジュスが召喚したのは何だ!言え!」
「知らんと言っている!ええい、鬱陶しいわ!
おい、こやつをつまみ出せ」
そこらに立っていた兵に言う。
「しかし……よろしいのですか?」
「構うものか、どうせ逃げ出した卑怯者よ」
兵はそのまま何も言わず、ディクニスを引っ張りあげ屋敷の外まで連れ出した。
以外にもディクニスはおとなしく屋敷の外へと運ばれていく。
馬車に詰め込まれ、ディクニスはちらりとマルケハイマンの屋敷に目を向け、下を向いた。
「マルケハイマン。そのサジェスは超高位神格能力保持者を召喚したかも知れんのだ」
でっぷりと太ったディクニスは帰りの馬車の中でポツリと呟く。
・
ディクニスが屋敷に帰ると、紋章官達が急遽呼ばれた。
紋章官とは各家の紋章を記録する、貴族位の証明者のようなものだ。彼らの頭の中には自国他国を問わず貴族の名前が叩き込まれている。
ディクニスは時間との勝負だと思った。
自分の考えが正しいなら、そして召還主が少しでも社会システムを利用しているのなら"まだ"気がつけるはずだと。
「帝国、王国問わず全ての国々に存在する貴族。そうだ共通して全ての国に登録されている貴族を探し出せ」
紋章官達は戸惑い「そんな貴族は聞いたことありません」と言ったが、ディクニスは調べろの一点張りで引かなかった。
紋章官達が調べ終わるまでディクニスは一睡もせず血走った目を向けていた。
「まさか……!」
夜が明ける頃、一人の紋章官が一つの貴族を見つけた。
暫く後に帝国、王国だけではなく周辺国でも紋章が確認された。
「ディクニス様。見つけました」
待っていた、とばかりに座っていたディクニスはひざに手を打って喜んだ。
「して家名は」
「アルマータ伯爵家にてございます」
「よし、詳細は分かるな」
ディクニスの考えが正しければ、記載されているはずである。
「楽園所属・アルマータ伯爵家・別名・N-1024番でございます。それ以外は特に」
ディクニスは背筋が凍る思いがした。
楽園だと、何を呼び出した、そして番号で呼ばれているということは。
「憑……ぐっ……」
ディクニスはそのまま倒れるように床に転がった。
「かかかか改竄……き記憶……きろ……く」
そのままビクンと跳ねるように止まると、動かなくなった。
意を決した紋章官が近づくと、息をしていないことが確認され、大慌てで医師が呼ばれ死亡が確認された。
死因は心臓麻痺で、不摂生が祟ったのだろうといわれた。
・
マルケハイマンはディクニスの死を朝議の席で知った。
「調べずにいられなんだか、馬鹿な奴め」
それだけ呟くと、他の出席者を無視して巫女姫が眠る御所に足を進めた。
巫女姫が眠る御所は白く、ただ真っ白く塗り固められていた。
マルケハイマンは近衛に体を検めさせられて御所に入った。
「マルケハイマン殿」
白い髭を蓄えた暗い目をした老人が、マルケハイマンに近づいてきた。
老人はこの白い空間の守り手であった。
「サジェスは天才であった」
この老人から聞きたくない言葉を聴いた。
この老人の言葉が正しいのなら、サジュスは成功していたのだ。
超高位神格能力保持者の召喚(呼び出すこと)に。
「巫女姫様が目覚めぬ代わりを、天は差配したのかも知れぬな」
「見つけてどうする。子を孕ませ、また帝国の習慣に縛り付けるのか?」
マルケハイマンの言葉に老人は掛けた歯で笑いながら答えた。
「それが天の意思ならば」
老人の言葉はとけるように白い空間に響き渡った。
王国編は本編に絡んできます。
8/18 修正しました。




