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第十五話 「くらやみのさいご」

今回の話は終了です。

街から応援が来た。どうやら逃げ出した中に俺の姿を覚えていた奴がいたらしい。


血と臓物まみれで戦うから誰も近寄れなかったらしい。

あまりにも戦いがすごかったためか、ついたあだ名は「紅の戦乙女」、もはや何も言うまい。

ランクの低い冒険者を中心に広がっているそうです。


疲れた体を引きずってギルドの就寝室で寝させてもらう。アルマさんごめんなさい、疲れて宿に戻れそうにありません。

それに泊まりになるとは思わなかったので、そのことを宿に伝えてくれと職員に頼んでおいた。


寝ようとしたところ、職員がアイテムボックスの開示を求めてきたので死体を積み上げておく。

おどろく職員を他所に睡魔が襲ってきたので休むことにする、おやすみなさい。



冒険者30人の死亡、これが今回の犠牲者の数である。

オードリーがゴブリンのテリトリーで野営したせいで場が混乱し、リリーシャ以外が死亡してしまった。

生き残りもいたが冒険者復帰は絶望的だ。

リリーシャ本人によればゴブリンを100体以上殺したらしい。現にギルドに死体の山が出来上がっているし、夜通し確認したので間違いない。

もはやリリーシャに任せておけばよかったんじゃないかとギルド側は意気消沈だ。


本当にリリーシャは類まれな才能を持って生まれた天才だ。

秀才程度のオードリーが小ざかしい策を弄しようともまったく動じない。

事実、オードリーはゴブリンのテリトリーでリリーシャを置いてけぼりにしたらしい。

殺すためにしたことだろう、しかしグレーターゴブリンの縄張りに入って生きて出られるほうが難しい。

オードリーの馬鹿は調子に乗った挙句、自分の評価を過信して勝手にくたばった。

オードリー程度ではグレーターゴブリン一匹倒すのがやっとだというのに、若い娘もパーティーメンバーにいたが彼女たちにもかわいそうなことをした。


「マルク。オードリーはそんな馬鹿なことをするような人間ではないぞ」


ギルド長が言う。


「だったら今頃山狩りは大成功しているところだな。一々テリトリーに入る愚を犯す奴なんていない」


「嫉妬で動いたといいたいのか?」


「そうじゃねーか。リリーシャは俺が目をつけている最高の冒険者だ。自分じゃ歯が立たないと思い、今のうちにって考えられるだろう?」


「信じられん……仲間を見殺しにするなど」


「逃げ出した奴に聞けば直ぐにわかるはずだぜ」


逃げ出した冒険者に聞けば、不可思議なオードリーの行動が浮き彫りとなった。

どうやらオードリーは街一番の冒険者の座を取られたくなくてリリーシャを亡き者としようとしていたらしい。

未だEランクだが注目度が高く、俺が目をかけているせいでリリーシャに迷惑をかけてしまった。


肝心のオードリーはグレーターゴブリン戦いで敗北して死亡したとのことだ。なさけねぇ。


「七光りでランクを上げるからこうなるんだよ。実力つけて上げるのが一番確実で文句がでねぇ」


俺がそう言うと、ギルド長は苦虫をかみ締めてた表情をしていた。

オードリーはギルド長の甥に当たる、ギルド長推薦でオードリーのBランク昇級が決まったので、これは不祥事になるとでも思っているのだろう。

俺に言わせりゃ馬鹿が馬鹿やって皆を巻き込んで自滅した、それだけだ。

もちろん最低の行為だが、冒険者家業は裏切りも存在しているために今回のことはリリーシャにとっていい薬になったと思いたい。

リリーシャがそんなことを思っているとは思えないのが残念だが。


「今回は緘口令を敷く、ギルドから裏切り者が出たとあっては信用問題に発展する」


はいはい。お得意の隠蔽ね。俺は文句はないぜ。


「ただ怪我をした冒険者に見舞金をやってくれ、口止め料込みでな」


「わかっておるわ、相場より高く見積もってやる」


生き残りは三人、口が重いといいけどな。あんたの誠意しだいさ。


憂鬱な空気のギルド長の部屋を後にする。そうだリリーシャでもからかいに行くか。

俺はギルドの就寝室を目指し歩き出した。




就寝室ではリリーシャが寝息を立てて寝ていた、こう久しぶりに見るとその美貌に驚きを禁じえない。


マルク・ハーマンの人生の中でこれほど美しい人族を見たことはなかった。

白っぽい長い銀髪も初雪の粉雪のような決め細やかな肌もその青いの瞳も。

はっきり言って女神かと思った、悔しいことに亡き妻と比べても目の前の少女は美しかった。


その少女がこちらを見て僅かに目を見開いた。

というか目を開けていたので見られていた。バッチリと。


「なんでしょうか?」


毛布を胸にかき抱き警戒態勢をとられる。俺はそんなに飢えてないぞ。


「お前さんの処分が決まった。いや処分じゃねーな。オードリーの馬鹿がやったことが認められた。緘口令は敷かれたが」


「ギルドの信用問題になりますものね」


くすくすと笑う。悪い笑みだ。


「まあ私はこれまでどおり冒険者を続けますよ。オードリー君が何を考えていたのかは知りませんでしたが、私にとって経験が稼げたので良しとしますか」


「あいつはお前を殺そうとしたんだぞ」


「死んでいませんし、グレーターゴブリンでは殺されません。まあリーダーには殺されかけましたけど」


豪胆な奴だな。俺なら奴の頭を勝ち割っているところだ。もう出来ないが。


「これからどうする」


「どうするとは?」


「疲れているだろう。冒険者家業は休暇したらどうだ?グレーターゴブリンの討伐報酬は出るし、元々金は持っているだろう。一週間程度休んだからって誰も文句は言わない」


この世界は7日で一週間で、現実と通じる。安息日と呼ばれる休みが一日ある。


「でだ、街を散策するのも言いし、マールと遊んでくるのもいいと思うんだがよ」


少しぼうとしていたのを軌道修正する。




脳内で計算してポイントで魔法を覚えてみてもいいかと思う、レベルアップのお陰で、もう接近戦にほとんど憂いがなくなってきた。

次は魔法戦に移りたいと思う。できれば魔法の師匠がいればポイント消費なしに覚えやすいのだが。


「魔法を覚えたいのですが、魔道書を売っている場所を知りませんか?」


「魔道書は基本的に売られていない……売られるのはオークションだな、あと一ヶ月は開催されないぞ」


なん……だと……。魔道書が売られていないだと。

下位魔法よりも中位魔法を覚えたいのに。


"山猫"には超高位魔法(オーバーマジック)しか残っていなかった。下位魔法など眷属たちが代行していた。

それにコレクションしていた魔法書など持ってこなかったことが裏目に出てしまった。


「あ、それとリリーシャ。お前Dランクになったぞ、よかったな」


ついでですか教官。

俺は今日、Dランクの冒険者として産声を上げた。


次は山猫のお話です。

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