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4-2 悠星視点 昨日と違う場所にいる朝

今日も昨日と同じ位置から電車に乗り、いつも通りのポジションを取っていたわけだが……今日は昨日までとは違った。

1つ先の駅。ドアが開いて鈴木が乗ってくるのが見えた時、一瞬身構えた。

だが、鈴木は昨日の反省からか、あえて悠星のいるドアを避けて「隣の扉」から乗り込んでいったのだ。

(あ、アイツ、隣の扉に逃げたな……)

少し離れた位置に鈴木の姿を見送りながら、ホッとしたような、でも正直に言えばちょっとだけ寂しいような、複雑な気分で数駅を過ごした。なので、今日の車内では1ミリも密着していない。命拾いした。

(……いや、でもやっぱり気にはなるわな)

ポーカーフェイスを維持しつつ、ズボンのポケットに両手を突っ込んで、前を歩く人たちの背中をぼんやり眺める。

ハプニング続きだったからこそ、あえて距離を置かれたことが少し頭に引っかかっていた。

そんな時、後ろからトトトッと少し早くなる足音が近づいてくる。

「おはよう」

不意に横に並びかけながら、鈴の鳴るような声が降ってきた。

驚きで心臓が跳ねそうになるのを必死に抑え、いつものローテンションを装ってちらっと視線を向ける。

「おはよう」

そこにいたのは、やっぱり鈴木りこだった。

ちょっと小さく、はにかむように笑いながら、彼女がこちらの顔を覗き込んでくる。

「桧山くんだよね?」

(……っぶ)

名前、覚えられてた。

同じクラスとはいえ、新学期が始まってまだ間もないのに、ちゃんと認識されていた事実に、胸の奥が少しだけ熱くなる。

だけどここでニヤつくわけにはいかない。悠星は一瞬だけ間を置いた。

「……うん、そっちは鈴木だろ」

「うん、そう」

鈴木は嬉そうに頷く。

並んで歩く。車内では距離を置かれたのに、こうして降りてから声をかけてくれるのが、なんだか妙に嬉しい。

「朝よく会うよね」

鈴木が前を見ながら、何気ない風を装って言った。

よく会うどころか、毎日ドア越しに姿を探してしまっているわけだが、そんなことは口が裂けても言えない。

「そうだな」

短く合わせると、鈴木はそのまま自然な調子で言葉を続けた。

「ていうかさ、最寄り駅どこなの?」

(あ、そこ気にするんだ)

悠星は前を向いたまま、自分の最寄り駅の名前を口にした。

「○○駅」

「あ、じゃあ私の一個前なんだね」

「そうなるな」

鈴木はポンと手を叩きそうな勢いで、小さく納得したような顔をした。

「そっか、だからよく見るんだ」

楽しそうにそう言う鈴木を見て、悠星はちょっとだけ意地悪というか、自分からも一歩踏み込んでみたくなって、軽く肩をすくめた。

「鈴木は△だよな」

この3日間、自分の1つ先の駅から彼女が乗ってくるのをこの目でバッチリ見ている。だから最寄り駅なんてとっくに知っているのだ。

鈴木は「え、なんで知ってるの?」と言いたげに、一瞬驚いたように目を丸くしたあと、嬉しそうに笑った。

「そうだよ」

そこで、ふっと少しだけ間が空く。

周りは相変わらず、せわしなく歩く他の生徒や通勤客ばかり。

だけど、不思議と気まずさは一切なかった。

ただ同じ方向に並んで歩いているだけ。

会話だって、なんてことない世間話だ。

なのに、悠星の胸のうちはさっきからずっと温かい。

明日からの通学路が、ほんの少しだけ楽しみになり始めている自分に気づき、悠星はバレないように小さく口元を緩めた。

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