1-1 りこ視点 初めての満員電車と、知らない距離
りこ視点は前の投稿と大差ないです
4月。
高校2年生になった鈴木りこは、引っ越し先からの通学に少し緊張していた。
今までとは逆方向の電車。
朝の駅は思った以上に人が多くて、ホームの空気も少し落ち着かない。
(……これ、毎日なんだよね)
少し不安なまま、電車が来るのを待つ。
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ドアが開いた瞬間、人が一気に流れ込む。
りこもその波に押されるようにして車内へ入った。
満員電車。
思っていたより、逃げ場がない。
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カバンは肩にかけ、脇に抱える形にしていた。
両手もすぐには動かせない。
(え、これどうやって立つの……)
そう思った瞬間、電車が揺れた。
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体勢が崩れる。
支えようとしても、周りの人の圧で動けない。
そのまま流されるように前へ押される。
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前に立っていたのは、同じ制服の男子だった。
同じ学校だと分かる距離。
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そして次の瞬間。
避ける間もなく、距離が詰まる。
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桧山悠星。
同じ学年の男子。
りこはそのまま、ほとんど抱きつくような形で密着してしまった。
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「……っ」
思わず息をのむ。
カバンを挟む余裕もない。
身体がそのまま固定されてしまう。
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りこは慌てて離れようとした。
けれど、人の圧でほとんど動けない。
「……ご、ごめんなさい」
声は情けないほど小さかった。
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悠星は一瞬だけ目を見開いたあと、ふいに視線を逸らした。
「……大丈夫」
短く、それだけ返ってくる。
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怒っている様子はない。
それどころか、何もなかったみたいに前を向いている。
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でも、だからこそ余計に気まずい。
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電車が揺れるたびに、ほんの少しだけ距離が変わる。
でもすぐ戻る。
逃げ場はない。
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りこは顔を上げられないまま思った。
(なにこれ……無理……)
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心臓が早い。
ただの満員電車のはずなのに、状況が全然処理できない。
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悠星はその後も何も言わなかった。
前を向いたまま、静かに立っている。
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それが逆に、りこの意識を落ち着かなくさせた。
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電車が到着するまで、やけに長く感じられた朝だった。
悠星視点を夕方投稿予定です




