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4・神の名

昨日は多くの人を魔法で治した。

俺は相手に触れて変人がブツブツと何かを唱えると目の前で治っていく様子はしかと見れた。

何も知らない誰かがあれを見て神の奇跡だと言われれば、そう納得するしかない。

そんな不思議な光景を何度も見た。


難病の子供、交通事故による骨折や欠損、先天性の身体障害、アレルギーに手術痕など様々な傷や病を治した。


それこそ患者に限らず変人は病院で働いている看護師や医師なども対象としていた。

まさかあれほどの数の人間が魔法を受ける事に同意していたとは思わなかった。

常に俺の周りで奇行を繰り返している変人ではあるが|東〈あずま〉総合病院においては人望が厚かったようだ。

しかし納得できる話でもある。


経営者の娘という立場もあるだろうが病院が開催していた朗読会や演奏会、フリーマーケットなどイベントやボランティアには必ず参加してたからな。

それこそ病院で働く者や通院患者に意識がある入院患者で変人を知らない者は居ないと断言できるくらいには関わりを持っていた。


小さな子供は奇跡を信じていたようだが殆どの者は病院のイベントとして受け入れていたように思う。

月に何度か変人が企画したイベントが行われていたから今回も奇跡で治すという趣旨のイベントだと勘違いしていたのだろう。

名目も似たようなものだったし。


傷や病が治った後は呆然としていたり、驚愕したりと様々な反応があった。

なかには外見では治ったか分からない人も居たが病院が総動員で魔法を受けた患者に対して検査を実施していたから後日、治ったかどうか分かるだろう。

無くなった手足が生えたぐらいだから大抵の人は治ったとは思うがやはり確認はすべきだ。


そして今回の事を隠す事もしていなかったから昨日のうちからテレビで報道されていた。

変人が隠し撮りでもしていたのか魔法で肘から先が無くなっていた患者の映像が放送されていた。


骨や筋肉、皮膚など体を構成する物が肘から生えて最後には普通の腕と変わらない様子がバッチリと映っていた。


今、俺は家に居るが家の前には人だかりができて容易に外に出る事は叶わないだろう。

少なくとも俺は外に出たくない。


母親が父親と妹を車に乗せて人波を強行突破していくのは流石としか言いようがなかった。

母は強し。

平気な顔で家に上がってきた変人にも呆れたが。


変人はスマホを見ながらニヤニヤと嗤っている。

漏れ出る言葉から察するに昨日、魔法で治した相手から振り込まれた大金に目が眩んでいるのだろう。

ガッポリとか言ってるし。


どれだけの大金を要求したかは知らないがそれだもこれから多くの者が魔法を、奇跡を頼ってくるだろう。

家の前に居る者の中にそういった思いの者も居るだろう。


もう普通に人生を歩めないと諦めるしかないか。

俺自身が普通に社会で働けるかはさておき。


「よし、行くぞ!

 兄弟!」


「…どこに?」 


「奇跡を起こしにさ!」


どうやら振り込まれた大金を見て妄想を膨らませるのを辞めてもっと金を稼ぎたいらしい。


俺は大きく息を吐きながら立ち上がる。

金はともかく助けられる奴を放って生きるなんて後味が悪い。

俺は渋々、変人に連れられて外に出た。


………あぁ、人だかりは嫌いだ。


「神のお通りだ!

 アズマノイワ!

 アズマノイワを信仰せよ!

 我が神の名はアズマノイワ!

 アズマノイワを信仰せよ!」


変人は持ってきた拡声器で妄言を撒き散らしながら人を押しのけ、移動する事を数十分。

市役所の横に併設された市民体育館に来た。

めっちゃ人が居る事に嫌な予感しかない。


どうやら変人が事前に準備していたらしくアズマノイワという名前で予約されていた。

アズマノイワってなんだ?

さっきも拡声器で喚いていたよな?

もしかして変人と俺の名前を混ぜたモノを神の名前として扱ってないか?

面の皮が厚すぎるぞ。


しかも変な服に着替えさせやがって。

今の俺の格好はオレンジ一色のテルテル坊主だ。

首から足元までオレンジ色の布で覆われた格好は不審者そのものじゃねえか。

いつの間にこんな服を用意してやがった。


更に神秘性を高める為に俺に無言を貫けなんて注文のオマケ付きだ。

寡黙な俺にとっちゃ苦ではないが、変人が何か企んでいる事は分かる。


体育館には既に結構な人数が集まっており、最奥にはマットレスが何枚も重ねて置かれていた。

アイドルの握手会のように最奥のマットレスに向かって綺麗に行列ができている時点がなんとなく察しがついた。


その最奥のマットレスに俺を座らせると変人が拡声器を使って話し始めた。


「さぁ、これより我が神、アズマノイワの奇跡を順番に行使する!

 奇跡は皆の祈りを力に変えている!

 アズマノイワを信仰せよ!」


病院でやった事をここでもやるのだろう。

違いがあるとすれば俺が動くのではなく、相手に来てもらうということか。


報道陣に色々と話していた変人の事だ。

今日の事をそれとなく話していたに違いない。

それでもこれだけの数の人が実際に見てもいないモノを信じてくるとは…


よく見ればギプスや車椅子の女性が多い。

病院の情報網からも宣伝を流していたのかもしれんな。


そして変人は最初に並んでいた女性を俺の元へ誘導して…俺の膝の上に座らせた。


幼い娘が椅子に座っているお父さんの足の上に座る、あんな感じだ。


変人がニヤニヤとこっちを見上げている。

こいつ、俺を変態に仕立て上げたいのか?


そして魔法が使われた。

変人がブツブツと唱えると女性が驚きの声を上げた。


指が生えた、と。


どうやら彼女は指が欠けていたようだ。

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