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12/12

12・パニックガール

「ば…化け物ぉぉお!?

 妖怪ぃぃい!?

 寄るな来るな近寄るなぁぁあ!!」


部屋の隅、両手で頭を隠して縮こまり泣き叫ぶ少女が一人。


その様子をニタニタと眺めながらこの部屋の唯一の出入り口付近で仁王立ちの変人。

その背後で出入り口を完全に封鎖しているゾンビ2体。


部屋の中央に立つ俺。


どう見ても悪の組織と囚われた少女の構図だな。

一応、俺達は彼女を助けた側なのだが…


ただ、まぁ…窓があるべき部分がコンクリートで固められていたり、物が一切置いてないなど独房のような部屋だから疑問や恐怖を感じるだろう。

パニックを起こすのも無理はない。


…化け物や妖怪とは俺の事だろうか。

なんせ中腰でも天井スレスレの巨漢である。

初見ならば威圧感マシマシだろう。

本物の化け物なら入口に居るのだがな。


「…治ったのか?」


「治したさ!

 ちゃんと兄弟を認識してる!

 言葉もはっきりと話せてる!

 ちゃんと治ってるだろ?」


部屋の隅で泣き叫ぶ少女。

それは脳を萎縮させる薬物を投与されて延々と言葉にならない声で叫ぶだけだった頃を思えば…前進、してるか?

ヤクザの拠点で見つけた頃とあまり変わったように見えないのは俺だけだろうか。

それよりも俺に対して恐怖を抱いている分、悪化してるように感じる。


「おいおい、兄弟!

 彼女は赤羅組に囚われていたんだぜ?

 きっと、あんな事やこんな事も…にっしし!

 精神的に壊れててもおかしくないだろ?」


…そうだった。

彼女はヤクザの、薬物の被害者である。

薬以外にも手を出された可能性もあるだろう。

正常な精神状態とかけ離れていてもおかしくない。

それはともかく、被害に遭った事をニヤニヤと嗤いながら語る変人。

何を考えているか想像はつくぞ、ゲスめ。


それに変人の魔法は体の傷を治せても心の傷は癒せなかった。 

クラスメイト同様、強すぎる魔法で廃人にする訳にもいかない。

ダメ押しに俺自身が怖がられるような見た目なのだ。

状況と環境でパニックは仕方ないだろう。


…助けた相手に怖がられるのは傷つく。

少々、怖がり過ぎな気もするし。


「さて、兄弟!

 話を聞き出すから捕まえろ!」


「ひぃぃぃ!?」


…うん、変人の言葉をちゃんと理解してさらに怖がっているな。

聞き出すと言ったが俺が近づけば悪化しないか?

人から怖がられる事は慣れているが怖がっている相手と接するのは苦手だ。


俺は大きくため息を吐くとその場に座った。

長時間、中腰はきつい。


「おい」


声を出して思ったが…俺はどう接すればいいのか。

アズマノイワの神としてか?

それとも素の俺か?

…どちらも変わらない気がするな。


「俺は岩戸(いわど) 大成(たいせい)。

 あっちは東(あずま) 茜(あかね)。

 あんたがヤクザに捕まってた所を助けた」


俺は現状を簡素に伝えた。

アズマノイワは伏せておこう。

訳の分からない状況で宗教団体なんて信用できないだろう。


突然、少女の声が消えた。

よく見ると叫ぶ姿勢のままピクリとも動かなくなってしまった。

近付いて確認するとどうやらあまりの恐怖に気絶してしまったようだ。


…とりあえず、起きるまで放置だな。

俺は変人の方を向いて尋ねる。


「帰すか?」


薬物の後遺症も治せたなら家に帰すべきだ。

家族も心配してるだろう。

それに会話する前に気絶するような相手と接する自信がない。


「帰すだって!?

 ダメに決まってるだろ!」


「…なんでだ?」


もしや彼女には帰る家が無かったり、帰せない事情でもあるのだろうか。

あの怖がりよう…もしかしたら家庭内暴力でも受けていたのか?

それを変人がヤクザの拠点から調べて知っていたのかもしれない。


「いいか、兄弟!

 あれは俺の魔法に抵抗力を持っているんだ!

 俺達の破滅の一手になりかねない!

 薬物の影響なのか、それとも…

 とにかく、逃がすのはダメだ!」


ただの変人の都合だった。

魔法が効かない、か。

薬物の後遺症を治したと言っていたが…もしやそれ以上の魔法でも試していたのか?

確認するべきか。


「治す以外の魔法か?」


「あぁ、そうさ兄弟!

 記憶が読めなかったし、魅了も効いてない!

 今まで奇跡と一緒に使ってた魔法全て!

 精神操作が全く効いてない!

 もしこれが薬の作用だったら恐ろしいぞ!」


変人の方が恐ろしいぞ!?

今まで奇跡と称して裏でそんな魔法を使ってたのか!?

体の傷を治す代償がデカ過ぎないか!?

…待てよ、それじゃ、この団地も魅了の魔法の成果って訳か?

薬物を変人に投与した方が世の為、人の為か?


「夜はまだこれからだが時間が惜しい!

 それ!」


俺が悩んでいる間に変人は少女の元へ近付いて何かを鼻に塗った。


「ふぎゃ!?」


少女は尻尾を踏まれた猫のような声を上げると起きた。

気つけ薬でも塗ったのか。


「にっしし、さぁ、話を聞かせて…」


「ば…化け物ぉぉお!? 妖怪ぃぃい!? 寄るな来るな近寄るなぁぁあ!!」


少女はそう叫ぶと走る犬のように四つん這いで変人から距離を取った。

どうやら少女は俺よりも変人を怖がっていたようだ。

変人はしばらく固まったまま動かなかったが、のそりのそりと入り口の方に歩いていじけた様子で座り込んでしまった。


変人でも傷付く事はあるらしい。

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