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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
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50 久しぶりに会うクラスメイト

 夏休み明けの初日というものはどうしてこんなにワクワクするのだろう。普段通り教室へ行くことが、この日ばかりは特別なことのように感じられる。藤城皐月(ふじしろさつき)は高まるテンションを隠しながら校舎に入っていった。

 6年4組の手前まで来ると、開け放たれた引き戸から栗林真理(くりばやしまり)の姿が見えた。ざわつく教室の中、真理は相変わらず一人で受験勉強をしている。

 見慣れた真理の学校での日常だ。真理の席は窓際の一番前で、皐月の席は廊下側の真ん中辺りだ。教室に入って真っ先に真理に声をかけに行くのは、席の並びから考えると少し不自然だ。

 でも2学期の皐月はそんなことは言い訳だと思った。つまらないことなんか気にしないで真理と話に行こうとすると、クラスで一番スケベで、一番気の合う花岡聡(はなおかさとし)につかまった。


「先生、久しぶり」

 聡は皐月のことを先生と呼ぶ。こいつに先生呼ばわりされると自分までドスケベだと思われてしまいそうだと思い、はじめはこの呼ばれ方が嫌だった。だが聡といると楽しいので、まあいいかと許す気持ちになる。

「花岡、久しぶり〜。夏休み中、何かいいことあった?」

「もちろん……イヤ……今回の夏休みで……俺は……今回も……なんの成果も得られませんでしたっ!」

「無能かよ!」

 二人で大笑いしていると近くにいた月花博紀(げっかひろき)のファンクラブ会長、松井晴香(まついはるか)にうるさいと怒られた。

「あ〜、(わり)ぃ悪ぃ」

「あんたら、声でか過ぎ。マジうるさいから、どっか行って!」

 晴香は博紀以外の男子には言い方がキツイので、他の男子から怖がられている。聡も少しビビっているが、皐月はあまり気にしていない。


「松井。耳なんか出してるから、声が大きく聞こえるんだよ」

「何? 耳出してたら悪いの!」

「悪くねーよ。ハーフツインって、耳が出てると超かわいいじゃん。その髪型、松井によく似合ってる」

「ホント?」

「ああ。今まで見た髪型の中で一番かわいいよ。ミニクリップもセンスいいね」

「あんたに褒められたって、何も嬉しくないわ」

 ぷいっと横を向いて、晴香はおしゃれグループの方へ行ってしまった。

「松井、怖え〜。お前、よくあんな奴と喋れるな。俺なんか、口きくのもヤダだよ」

「そうか? 松井って扱いやすいと思うけど。それにツンデレでかわいいじゃん」

「かわいい? あいつ、ツンばっかりで全然デレてないじゃん」

「ああ見えてデレてるんだよ、松井って」

 晴香はルックスがいいのに、性格がきついのと月花博紀(げっかひろき)のことが好き過ぎることで、4組の男子に人気がない。博紀は晴香のことをそれなりに相手をしているが、気のないことは明らかだ。晴香は性格でだいぶ損をしている。

 おしゃれグループの中にいる晴香が友達に髪を留めているミニクリップを自慢していた。今の晴香を見ればデレているのがわかるのに、と聡に教えてやると「さすが先生」と変な褒め方をされた。


 筒井美耶(つついみや)が教室に入ってきた。髪を切ってマッシュショートにしていたので、一瞬誰だかわからなかった。晴香がおしゃれグループのみんなと一緒に美耶の元へすっ飛んで行き、みんなで美耶に抱きついた。晴香はキャッキャと騒ぎながら、美耶の隣の席に座った。

「松井。お前だって声でかいじゃん」

 晴香が座っている席の机の上に、皐月は荷物をドンっと乗せた。ここは皐月の席だ。

「ごめんね〜、藤城君。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった」

 晴香の代わりに美耶が謝った。

「いいよいいよ、俺やさしいから。声がでかくてもあっち行けなんて言わないし」

「はぁ?」

 晴香がキレそうになるが、皐月は無視。

「それより筒井、久しぶりだな。髪の毛切ったんだ」

「短くし過ぎちゃったかな?」

「そんなことねーよ。いい感じじゃん。斜め後ろからのシルエットとかカッコいいし」

 美耶が嬉しそうにしている。晴香とは違って美耶の反応は素直でかわいい。髪型を変えて、見た目もかわいくなっていた。


「筒井って出校日休んでたけど、どこか行ってたの?」

「お母さんの実家の十津川(とつかわ)村に行ってたの。8月はずっと向こうにいたよ」

「メッセージが来なくなったからどうしたのかなって思ってさ」

 美耶はいつも夜遅くメッセージを送ってくる。皐月はもう寝ているので即レスができない。次の日の朝にチェックするが、寝過して見忘れたり返信できないと、学校で美耶が怒る。

「こっちにスマホ忘れちゃった。おばあちゃん()ってネットに繋がっていないから、だいぶ浮世離れしたよ」

「へ〜、俺ならヒマ過ぎて死ぬわ。じゃあ筒井は向こうで何してたの?」

「昼は山に入ったり、川で遊んだり、家の手伝いをしてて、夜は本読んだり勉強したりしてた」

「毎日電話で私と話してたよね」

「うん。晴香の声を聞くことだけが楽しみだったよ」

 こいつら何を言ってるんだろう、と皐月は不思議に思った。

「筒井。スマホ、宅配便で送ってもらえばよかったじゃん」

「あ……」

「松井、教えてあげなかったの?」

「……私も気付かなかった。ごめんね〜。美耶」

「でもさ筒井。それはそれで貴重な体験ができて良かったじゃん。俺なんか学校のキャンプ以外で山や川で遊んだことがないからちょっと羨ましいな」

「藤城君、そういうアウトドアとか興味あったんだ。だったらいつか一緒に十津川の山で遊びたいな……」


 髪を切った美耶はかわいかった。久しぶりに会ったこともあり、皐月は優しい気持ちになっていた。

「いいね、それ。でも十津川村って熊野古道の奥の院だよな。さすがに小学生だけで行くのは親が許してくれないかも……」

「十津川なんてよく知ってるね。小学生は普通、知らないよ」

「奈良交通の日本一走行距離が長い路線バスが通ってるじゃん、十津川って。八木新宮特急バスだったっけ。一度乗ってみたいなって思ってんだよね」

「鉄道好きなのに、バスにも乗りたいの? 私はバスが苦手だから、車がいい。車の免許取ったら案内してあげるよ」

「本当? それは楽しみだな。でもそれ、だいぶ先の話じゃん。お前、絶対忘れてるだろ。スマホ忘れるくらいだし」

「ちゃんと覚えてるよっ! 藤城君こそ忘れないでよ」

「じゃあ約束だ」

 美耶のじらし作戦にひっかかった気がしないでもないが、皐月はこの約束を軽いものとは考えなかった。美耶の雰囲気がいい感じに変わったので、そこまで美耶を変える十津川というところに惹かれ始めていた。


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