紛糾会談とほっこり観光
「なんでまたいきなり、お里訪問なわけ?」
あまり気乗りしないジュリアは、一行よりすこし歩調を緩めながらこぼした。
本日の調査隊の予定は、リヴィエラの急な決定により、豹紋族の邑への表敬訪問となっている。
そりゃ、許されるもなら一度は訪れてみたいと思っていた所ではあるし、行きたいか行きたくないかと問われれば行ってはみたい。
ただ、自分達が訪れることを、相手は決して歓迎はしないだろうこともたしかだ。集団でぞろぞろいけばなにがしかの摩擦が起こるだろうことは容易に想像できる。
それでもまだ、まったく見知らぬ人たちの住む邑のほうが気は楽なのだ。だがよりにもよって、セッチとミックの住む邑を選ぶことはないだろう。これではまるで、ふたりを助けた恩を着せるようではないか。
「逆に、まったく知らない人たちのところへ行くよりは話も通じやすいでしょう?」
リヴィエラがしれっという。気楽にいってくれるわ。
「それに、私はあの子に嫌われたままですしね」
豹紋族のような独自の文化をもつ人たちの居住地区に足を踏み入れるには、まず彼らの許可のほかに、国の公式の許可がなければならない。この許可はたいていその地区をおさめる政府機関が、その合否を下すことになっている。その許可は手回しの良いことにリヴィエラがすでに取りつけているらしい。
「でも貴重な機会じゃないですか。セッチちゃんとミックちゃんも喜びますよ、きっと」
「まあ、そうならいいけど······」
やがて、一行の眼前に巨大な山が見えはじめた。
最初にセッチたちに遇った日には暗くて分からなかったが、その山は、山というよりはむしろ台地と呼ぶべき形をしていた。
全体は山脈といって相応しいような大山が連なり、面白いことに、その天辺が見事なまでにまっ平らになっている。その上に緑がこんもりと盛られているのですべてそうだとは言い切れないが、おそらくはそうなっているのだろう。いったいどんな成り立ちをしたらこうなるのだろうか。
邑への入口は、両側に切り立った山鎧の隙間にはいっていくような坂道となっていた。
その前にはひとり、大人の豹紋族が待ち構えていた。
セッチたちと同じく縞柄の長袖の服でその屈強な身体を包んだ男で、分別どころといった歳だ。
日に焼けた肌に厳めしく口元を結んだ様は、ただ立っているだけで威圧感がある。よくよく考えれば、大人の豹紋族をみたのはこれが初めてだ。
見た目によらず、こちらが質問したことには答えてくれるだけの愛想はある男の案内で、ジュリアたちは山へと分け入った。
「なんだな不思議なところだ。複数の力場が、それもすべてポジティブな方へと湧いているというか···」
誰かがポソリと言った。
そもそもこの辺り一帯の沼地からして、なんとも得体のしれぬ力の混じり合いを、自分も初めてこの地にきたときには感じたものだ。
だが、この山の異質さはまた全然違うものだ。こうして歩いているだけで、なにやら元気というか、勇気が湧いてくる。それはなにも、このテーブルマウンテンの頂上への登山が健康的というだけではないだろう。
一刻の後、みな一応に息を荒げ終えた頃、ようやか山道が途切れ、一行は豹紋族の邑への門をくぐった。
沼地もちかい台山の頂上なため、湿気もかなりのものだ。それゆえに建物はみな高床式で造られており、地面からは離されている。全体まるまる立派な木材で組んであり、どっしりとしていて、居住性もかなり良さそうだった。
邑のなかをすすむ一行にたいして人々が遠巻きにむける瞳には、恐れと興味とが入り雑じっているようにみえる。すくなくとも敬遠されているわけではなさそうなので、ジュリアもひとまず安心した。
元来が好奇心旺盛な性分なのだろう。
子供のいる母親などはみな一応に我が子を胸元にひき寄せているが、その子達の瞳にきらきらとしている光は、はじめてセッチやミックと出会ったときと同じものだ。全員黄色っぽい綿地に意匠のはいった長袖衣と柔らかいズボンで、足元を革のブーツで護っている。
そうやって進んでいくと、おそらく邑一番と思われる広大な敷地をしめる、立派な屋根を備えた二階建ての住居がみえてきた。その前にはおおくの人影が集まっている。どうやら邑長を筆頭にして、主だった人たちがすでに集まっているようだ。
遠慮しているのか言い含められているのか、その人影のなかにはセッチとミックの顔もみえる。ジュリアが自分たちの住む邑にきてくれたことに興奮しているのは、その瞳の輝きからも一目瞭然だったが、それを必死に抑えているような気配だ。
「よく来なさった。疑うわけではないが、市長の認可状はお持ちかな?」
「はい」リヴィエラが促すと、脇に控えていた研究員が懐から書類をとり出し、長老の側近に渡した。
側近から証書をみせられた長老は、それを一瞥してうなずいた。
「本日は私どもの訪問をお受けくださり、ありがとうごさいます」
邑長はその言葉に渋い目線を返したが、リヴィエラのメガネの奥の笑むような瞳には微塵も揺らぎがない。
場所を移し、邑長の家で会議の卓を双方の代表者たちが囲んだ。
普段は邑の会合に使われているのであろうそこは、深い色合いも美しい木組みのなか、暖炉の前に、巨大な木材から切り出した一枚板のテーブルがどっしりと据わっていた。
その上の壁には、赤い房飾りに縁取られた黒地に、民族の象徴たる豹が白で染め抜かれている、大きなタペストリが燻されている。じっくりと腰を落ち着けて話し合うにはまことに良さそうな場所だった。
明けの空側の代表者はリヴィエラ以下、側近たち、カナレア、ライナス、など五名。
豹紋族側の代表者は邑長以下、主だった壮年から中年までの男女。みな風土に鍛えられてきたといった確かな風格をもつ者ばかりだ。
ジュリアも立会人というかたちでテーブルの末席に座を与えられた。
この頃になると、彼女にもこの場が、ただたんに両者の友好を深めるためにもうけられたものではないということがわかり始めていた。両者の間には明らかな緊張感がある。
「まず知っておいてもらいたいのは、我々がこの会合の申し入れを受け入れたのは、決して望んだわけではないことを申し上げておきます」
いきなり事務総長代理がぶちかました。
「とはいえ、我々としても、この場が皆さんと理解を深めあえる貴重な機会であることも重々承知しております。解決の糸口を掴めるよう努力いたします」
リヴィエラの言葉を聞いた豹紋族の有志は、みな一応に顔をしかめた。邑長が重い口を開いていった。
「我らとしても、その気持ちに違いはない。わざわざお呼び立てしたのはこちらだから、我々から申し出よう。
どうか、ヌワングの狩猟制限を下げてもらえるよう、協力してもらいたい」
──なんてことだ。自分はかなり嬉しくない場に関係者として巻き込まれてしまった···。
ジュリアは心中に苦いものが込み上げてくるのを感じた。
彼らの言葉でヌワング──学名ニモオ・ピグモラケヒ・アムニモ、通称ハネモグラ。現在では全大陸的にその狩猟、捕獲がほぼ禁じられている。
それを許されているのは豹紋族をはじめとした、昔からハネモグラと密接な関係をもってきた一部の少数民族だけであり、それらにしても一定の数にとどめるという規制が条約で決まっている。
もちろん豹紋族はハネモグラを食糧として狩猟する。
だが、その数内であれば商品として売買することも許されており、それが貴重な現金の収入源ともなっている。ただ、その行為は世間的にあまりよく思われていないのも事実であった。
この保護・回復条約に厳密に罰則などは存在しないが、個々の国が独自に法律で取り締まっている場合もあって、最近では全大陸的な条約に罰則を明記しようという運動も盛り上がりを見せてきている。
もしもそんなことになれば、彼らはその狩猟行為さえも禁止されてしまう危険がある。
そうなれば一族の貴重な文化への侵害となるばかりか、生活への直接的打撃になりかねない。豹紋族はそれを心配しているのだった。
「···しかしその数値は、統計に基づいた充分な数で算出されているはずです。それを下げろと仰られるのはいかがなものでしょう。それを許せば、貴方がただけというわけにもいかなくなります」
「その統計とやらに疑問がある」
邑長は顔の前で両手を組むと、じっと感情を抑えるように淡々と語った。
「どこの誰がだしたものか。
そもそも我々は、太古よりヌワングとは持ちつ持たれつやってきた。当然必要以上の分を狩ることなどしなかった。
貴公らの資源の保護という言い方をするなら、我らはずっとそれをやってきたのだ。護ってきた。ことさらそれを他者に押し付けられずとも、その事は我らが一番よく知っているはずだ。違うかね?」
リヴィエラはふっと言葉を呑むように顎をひいた。
「······確かにそうです。でもそれは、あくまでも昔の話ではないですか。現在とは条件が違います。資源の枯渇しつつある今の世に、豊かなりし過去の尺度を用いるのは辛い気もします」
「だが世界は、君たちは」
たまらず、といった感じで、長の右隣にいた中年の男が口をはさんだ。
「その枯渇しつつあるというヌワングの具体的な数を、ずっと示してはいないじゃないか。いつもそうやって、『数が減ったから保護します』というだけだ。我々の知るところでは、調べようともしていないそうじゃないか」
「······」
「我々とていつまでも昔のままではない。この現代と折り合いをつける努力はしているつもりだ。信頼できる学者に頼んで、調査はしてもらった」
「──なるほど、大海の環と手を携えて、ということですか」
大海の環。
地道な調査により、ハネモグラの総数はここ百年で回復、増加しているとして、その狩猟を数を厳守することで再開するべきだと説いている学者グループだ。いってみれば、明けの空の大敵ともいえる存在である。
比較的早期に文明を発展させて大陸をリードしてきた国々と密接なパイプをもつ組織とは反対に、昔ながらの独自な文化を護り、発展してきたいくつかの小国の集まりがバックアップするのがこの集団だった。豹紋族の言い分とも近しいこともあり、連絡を取りあうことはごく自然な成り行きだろう。
彼らの説によると、昔よりの保護活動によりその数を増しているハネモグラは環境的資源の観点において、人と競合する存在になっている。
当初の保護の目的はとうに達成されており、これからは増えすぎないように人が管理していくべきだというのが主張だった。
「すこし意外な気もします。彼らの意見は貴方がたにとって傲慢とも思える気がするのですが」
そう。ハネモグラをたんなる資源、食糧としてしかみないということは、それを神聖視してきた豹紋族の考えを否定することになる。
「···我らとて、そこまで割りきった考えを善しとはしない。たが、それを傲慢だというのなら、貴公らとて同じだ」
「我々を支援する国は過去、たしかに無分別に乱獲をおこない、彼らに多大なる迷惑をかけてしまった。
だが、だからこそ、その過ちに気づき、反省して保護運動を立ちあげて現代に至っているのだ。詭弁を盾に、ただ金のために狩猟したいだけの連中と一緒にしないでもらおう」
リヴィエラの腹心が厳めしげに吐き捨てる。負けじと、今度は長の左隣の人物が応戦した。
「だが、彼らは決められた数を遵守するともいっている。我々とてそうだ。大陸会議ではかって折り合いをつけてもいいとまで思っている。だが貴公らは、ただ反対というのみではないか」
ライナスが手を挙げて割り込む。
「その回答はすでに出ているからです。協定で決まった数なら我々とて認めているではないですか。なぜいまの数で満足していただけないのですか」
「その譲歩はありがたく思っている。ただ足りない。昔からの数より何割も減らされている。このままでは、狩猟の完全中止にまで追い込まれかねない」
「一度決まった数を覆すことを認めてしまえば、それこそキリがなくなるでしょう。そうなれぱ我も我もという輩が出てきて、この百年にわたる努力が水の泡となるのですよ」
「それに、今さら食糧がどうのということもないでしょう」
腹心の男の声に、邑長の語気も強まった。
「······それはどういう意味か」
「つまり、今なお苦労しまでハネモグラを狩る必要があるのか、ということですよ。
食糧に困窮してきた昔とはちがい、今は替わりの食物などいくらでも手に入るはずだ」
「ヌワングは我らにとって単なる食糧ではない! 母なる大地からの神聖な贈り物だ!」
「どうだか。本当はたんに金儲けがしたいんだろう」
「なんだと!」
思わず立ち上がった豹紋族の男はしかし、ながく風土に鍛えられてきた忍耐力を発揮し、そこでグッと言葉を呑んで、鼻からながく息を吐きだすと、席へ戻った。
ジュリアはその行動に感じ入った。狩猟民族である彼ら豹紋族は、勇猛で血の気の多い人たちだと思っていた。彼らは想像上に強い自制心を備えているようだ。
と同時に、豹紋族へ肩入れしている自分に気づいた。
リヴィエラや組織の面々の言っていることは、ほんの少し前、自分が言っていたことだ。それが正しいと信じこんで疑いもしなかったし、それゆえに己の言葉だとおもって口にしていた。だが今は、その言葉に不快なものを感じる。
はたして傲慢なのはどっちなのか。
組織のいっていることは、つまりこうだ。
我々は間違ったのだから、その危うさを知っている。誤りから自らを正し、動いてきた。だから我々の意見は正しい。従うべきだ。
でもそれは、豹紋族を糾弾する理由にはならない······
そう、豹紋族は間違っていない。ずっと昔からこの生活を維持してきた。言わば間違わなかった人達だ。
そんな彼らに対し、間違った我々が頭ごなしに正当性を振りかざせるいわれなどあるだろうか。
さきほど自分が豹紋族にしめした感心とてそうだ。よく知りもしないで、たんに血の気の多い喧嘩っ早い民族だと勝手に思い込んでいた。
劣っている。そう思いたいだけではないの?
彼らよりはやく発展し、栄光をつかんだ自分たちは、どの方面においてでも、その教えの享受を拒んできた者らに遅れるなどあってはならない、あるはずなどない。その凝り固まったプライドが、彼らの言葉の根底にあるものなのではないのか。
邑長はギュッと口を結んで、それでも眼のみは爛々と輝かせている男を慰撫するように、その強張った肩に手をおく。リヴィエラも、ふっと造り笑いをみせて、仲間に視線を走らせた。
「皆さん、いったん落ち着きましょう」
そう笑顔を向けられて、腹心も熱くなりすぎたことを悟って小さく詫びをいった。ややあって、邑長が憂いをおびた溜息ゆっくりと吐いた。
「···たしかに、我らは恵みを食べるだけではない。必要とあれば商いもする。
だがそれは、そうしなければ今の世に合わせられないからだ。金がなくても生きて行けた時代はすでに過去の話。これが現実だ。そうするしか我々には手段がないことも解ってほしい。
我々も、今を生きているのだ」
会議は物別れに終わった。
どうやらこの会談は豹紋族の側から持ちかけられていたらしいことは、会話の流れからもわかる。その要請にリヴィエラは応えたということだろう。
わざわざ自らが出張ってきてまでそうする理由はよく分からないが、これは組織にとっては、少し異例といえることだ。
普通、このテの会談要請に、組織は応えない。
ほかのところはどうか知らないが、少なくとも明けの空ではそうだった。話し合う。そんな手段に取りつく島さえ与えぬことが通例だ。
こんなことなら、紹介役としてだけに納まっていればよかった。強引にでも会議への同席を拒否すればよかったのだ。ジュリアは暗澹たる気持ちで邑長の家を辞した。
あんな話さえ聞かなければ、この邑はなるほど、なかなかに心地のよい所だ。
多少湿気があってひんやりとしているが、邑は雨林を切り拓かれて作られている。内にも樹木が溢れ、そっと彼らの拠り所を包み隠してくれている。何というか、この山が彼らの存在を許しているというか、己の一部として受け入れていらような感じがする。
自然と命のリズムを共にする古き良き魔女の理想も、きっとこんな感じだったのではないか。ここを歩いていると、そう思えてくる。
自分をみる大人たちの視線は厳しい。おそらくもう、邑長宅での会議の内容は漏れている。居丈高に乗り込んできた連中の仲間だとおもわれて──まあ実際そうなのだが──いるのだろう。おもい至ると、ざらりとした苦い気分になった。
ふいに自分の手に柔らかいものが触れた。
驚いて目をやると、ミックが心配そうなカオをしてこちらを見上げていた。屈んでその頭をよしよしと撫でる。
「こっち」
それだけ言って、ミックはジュリアの手をとり先に歩きだした。少し腰を屈めるようにして、ジュリアも後に続く。さっききた道を戻っていく。大人たちは、そのふたりの姿を静かに見守っている。
小屋の戸をくぐると、待ち構えていたセッチが顔を輝かせ、ミックと一緒になってジュリアを火の傍へといざなった。
なかには戸棚やらベッドといった家具はあるが、椅子やテーブルはなく、木張りの床に柔らかくなめした敷物をしいて直に床へと座るようだ。
中央の辺りが一部四角くくり貫かれて、そこに灰を敷き詰めて火床をしつらえてある。そのなかでは薪がちょろちょろと絶えずに燃えてた。
暖炉の傍にはふたりの身内だろうか、真っ白な髪をした老婆と、中年の女性がひとり座っている。ジュリアはふたりに頭を下げ、遠慮しつつその向かいへと腰を降ろした。
「······」
無言のまま、老婆がジュリアの前に木皿をだした。そのうえにはイモだろうか、なにか野菜を燻して乾燥させたようなものがのっている。
ジュリアがそれをつまんで眺め入っていると、セッチとミックが皿の上からそれをひとつずた失敬し、美味しそうにに頬張った。老婆も、ふたりのうちどちらかの母親とおぼしき女性も、たしなめこそすれ、悪びれない笑みをこぼす子供らを優しく見守っている。半分ほどかじってみた。
美味しい。
思った通り、細く切ったイモだ。なんという木を燃やして燻したものだろうか。香ばしいイモの匂いにまじって、鼻をくすぐるようなよい香りかたち昇っている。
「大変美味しいです。ありがとうございます」
ジュリアはもうひとつ摘まみながら礼をいった。ふたりの女性も顔をほころばせる。
「こちらこそ。
先日はこのセッチとミックが危ういところを助けていただき、本当にありがとうございました。ずっと直にお礼を言いたかったのですけれど···」
そこで中年の女性は言葉を詰まらせる。
何となくわかる。相手は外界の者で、しかも魔女なのだと聞かされれば、それは足もままならぬというものだ。
かりに逆の立場だったとしても、自分がこの人たちの邑にたった独りでこられるかと考えると、二の足を踏んでしまうに違いない。通常の状態でもそうなのに、さっきも見た通り、いま魔女と彼女らとはじつにこじれた関係にある。
自分は喧しいことを言う方ではないと思っているが、でも魔女なのだ。彼女たちからしたらそれは変わらないし、そんな目で見るのも仕方のないことだ。
「いえ、それより大層なお土産を頂いてしまって、恐縮していたところです。
あの···大丈夫ですか、あんな貴重なものを」
「もちろん。子供たちの命に比べれば何でもないのです。もし喜んでいただけたなら良いのですけれど、かえってご迷惑になったのでは」
「とんでもないです。大切に使わせていただきます」
ジュリアが笑うと、女性も笑い顔を返してくれた。
「大切なものを護ってくれたから、大切なものを贈った。それだけのことさ」
老婆が火床を棒でかき回しながら口を添えた。
セッチとミックはその様子をなんだか詰まらなそうに見ていた。
いつも自分たちとはまるで同年代の友達のように接するジュリアがなんたが大人にみえてつまらない。それよりせっかくだから自分たちの邑で彼女と遊びたい。そう思っているような顔だ。
「じゃあ、もう少し時間があるからどうしようかな。できればこの邑をあちこち見て回りたいなぁ」
ふたりの顔がぱっと輝いた。待ってましたとばかり、残りのイモを頬張ると、それぞれにジュリアの両腕を急かすようにひっぱって立たせ、戸口へと向かった。
ふたりは次々と、自分たちのお気に入りの場所へジュリアを誘った。
そのたいていが自然の中のもの──見晴らしのいい高台のうえにたつ樹だったりとか──だったが、それはふたりにとってまぎれもない宝物だった。だがジュリアも、それを何だかいいなと思った。
ふたりによる豹紋族の邑観光ツアーは、その実際の広さ以上の見所をおさえているらしく、なかなかに元気で、せわしないものだった。この機会に自分たちの好きなものを全部見てもらおうと張りきるふたりは、なんたか活き活きとしていた。
そろそろ夕餉の支度をといった頃になっても、セッチたちは泊まっていけとしつこかった。
もちろん許されるならそうしても良かったのだが、一応は調査隊の道先案内人兼お世話係だ。家に帰って、客のためにあれやこれやとせねばらなぬ身でもある。
ジュリアは名残を惜しみながらもセッチたちの家を辞し、調査隊とともに帰途についた。
数日後。
ジュリアは相変わらず調査隊のお宿係として、それなりに忙しくしていた。
もっとも、最近はリヴィエラ事務総長代理とその取り巻きはシルキフルの街に拠点を移して活動をすることが多くなり、ずっとこちらには帰っていない。
残っているのは連絡係として残されたカナレアとその婚約者ライナスのふたりだけで、テレシアも事務総長代理の護衛として出張ったままだった。
そのため食事などの負担はぐっと軽くなっていたし、カナレアの申し出で当番制となったので、一時期の忙しさに比べたらだいぶんに楽だ。
調査隊にくっついて豹紋族の邑を訪問した日以来、セッチとミックも遊びに来てはいない。
自宅が調査隊のペンションと化したため、ふたりにはずっとつまらない思いをさせていたので、愛想をつかされてしまったのだろうか。
一抹の寂しさをもて余していた、そんなある日。
風呂を洗っていたカナレアが、庭で落ち葉を掃いていたジュリアの元へ血相を変えて駆けつけてきた。あまりにも勢い込んでいたため、ジュリアが掃き集めていた落ち葉のやまを蹴飛ばし、前掛けの裾にたくさん貼り付けながらも、彼女はそんなことには構わずに息を整えている。
「なになに? どしたの」
「それが──代理たちが、豹紋族の狩りに実力行使するって連絡が······!」
お読みくださいまして、まことにありがとうございました。
いつにもまして、やたらと長ゼリフがおおい回となってしまいました······




