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カークスの未来

 ベネット子爵家を訪れる度に、ポーチに立つ執事他使用人の出迎えを受ける。

 それがいつもの、日常風景だった。


 なのに、今日はそれがどこにもない。


 執事がそこに立っている以外、子爵邸はひっそりと静まり返っているのだ。


 馬車を降りると、玄関ポーチで執事が深くお辞儀をする。


「カークス様、事前の連絡も無しに……」


「すまない、突然の訪問を許してくれ」


「はぁ……それよりも、お久し振りでございますね」


「今日は用件があって来たのだ」


「少々、お待ち下さい」


 いつもなら何も言わずにすんなり通すのに、今日は馬車を背に玄関ポーチで待たされている。


 執事の態度自体はいつもと変わらなかった。

 感情を隠しつつ、主に支える姿そのものと言える。


 ただ、何かが明らかに違っていた。

 俺を取り巻く雰囲気が拒否しているように見えるのだ。


 五分、十分……。


 しばらくそのまま待たされた俺は、徐々に苛立ちを隠せなくなってきた。


 許可も無く、勝手に足を踏み入れるわけにはいかない。

 だからといって大声で誰かを呼ぶわけにもいかない。


 とにかく苛々して仕方ない。


 ベネット子爵家はウォーカー伯爵家より格下の身分のはずだ。

 それなのに、こんなにも待たせるとはどういうつもりなのだろう。


 すると、ようやく中から出て来たのはベネット子爵本人とさきほどの執事。


「ウォーカー君、こんな朝早い時間に失礼ではないかね?」


 いつもなら俺をそうは呼ばない、親しみを込めてカークス君と呼ぶのだ。


 それは俺を他人だと拒絶する意思の表れに思えた。



 ☆ ☆ ☆



 昨日、ジョルジュの屋敷から戻った俺はメリルが居ない事について、ジョージを問い詰めた。


 ところが、ジョージは決してメリルの居所を喋ろうとはしない。


『ご自分でどうぞ』


 自分で探せだなんて、主に支える人間としての態度でもなければ言葉でもない。


 それは、そうしなければならないほどの事態が起きたという事だ。


 メリルは屋敷内のどこを探しても見つからない。

 どこかに出掛けているわけでもないらしい。

 とにかくどこにも姿が見えなかったのだ。


『ジョージ。 メリルがどこにもいないのは何故なのか、教えてくれないか』


 すると、ジョージはため息を一つ吐いて言った。


『先日、ベネット子爵様がお見えになりました』


 ジョージはもうそれ以上何も喋ろうとはしなかった。


 そして俺はすぐに馬車で発ち、やって来たのだ。

 ベネット子爵家に、メリルの居るであろうはずの実家に。



 ☆ ☆ ☆



「時間帯も弁えずに申し訳ありません、ベネット子爵。 実は私の留守の間にメリルがこちらに戻ったと聞きまして伺いに参りました」


「わざわざお越し頂いて申し訳ないが、メリルはここには居ないよ」


「居ない、とは?」


「居ないから居ないのだ。 言葉の通りだよ」


「しかし……」


「君はメリルの事も行きそうな居場所をも何も知らずに、今まで他の女レベルのつまらない婚約者として扱って来たのかね?」


「そんなつもりはございません」


「ならば、メリルがどこに行ったか私に聞かずともわかるだろう」


 俺は途方に暮れた。

 その通りだと思ったのだ。


 このご令嬢が婚約者だ、と幼き頃に告げられ、何の疑いもなしに当たり前のような日々を過ごして来た。

 メリルとの間に愛情も何も生まれていないと思い込んでいた。

 俺の良き伴侶になる為にどれだけの努力をして来たのか見ているつもりで、知っているつもりでいたのに。


 アイリスへの想いに目が眩んでしまっていた。


 メリルの存在が面倒で、見て見ぬ振りをしたのだ。

 俺の婚約者ならばメリルの努力は当たり前の事だ、と。


「話がそれだけなら立ち去りなさい」


 ベネット子爵の氷のような宣告の言葉に頷き掛けた。


 いや、駄目だ。

 それでは駄目なのだ。


 俺は焦った、このままではメリルが俺の側から消えていなくなってしまう。


「お話がしたいのです、どうしても」


「ウォーカー君、君はメリルの居所を知らないかと私に尋ねたのではなかったかね?」


「メリルは私の婚約者です」


「ほぉ、そうだったかね?」


 ベネット子爵は嫌悪を隠す事なく、不快感を示しつつも俺を中に招き入れた。


「話があるのなら聞こう」


 執事に指示すると、ベネット子爵は先に立って応接間へと入って行く。


「で、話というのは?」


 ソファーに座り、出されたお茶を前にしてもベネット子爵の俺を嫌悪する態度は変わらない。


「実はヘンダーソン伯爵が体調を崩されまして」


「ヘンダーソン伯爵というと、ご子息が君のご友人だったね。 とても立派な伯爵だという話は聞いているよ」


「はい、ジョルジュと言います。 お父上が倒れられてその者が代理仕事を受けねばならず、私に相談に乗ってくれないかという依頼の文が届いたのが今から半月ほど前の事です」


「伯爵殿のお身体は良くなられたのかね?」


「まだ臥せったままのご様子ですが、医師の話では心配いらない、と」


「そうか、それは良かったね」


 ベネット子爵はこんな風に切り捨てるような会話をしない方だ。


 そんな方にこんな態度を取らせているのは、おそらく俺に原因がある。

 いや、間違いなく。


「ジョルジュの手伝いをするとなると、彼の屋敷は離れた土地にありますのでしばらく家を空けねばなりませんでした。 そこで……」


「メリルを置いて行った、というわけか」


「本当は連れて行くつもりでした。 ですが、自分が居ては邪魔になるからと」


「メリルは立場を考えて、身を控える事のできる人間だよ。 そのように育てて来たからね」


「承知しております。 心配ではありましたが、メリルなら大丈夫だろうと……」


「愚かだね。 メリルは女だよ」


「はい、申し訳ございません」


 ところが、その後でベネット子爵から告げられた言葉に俺は衝撃と驚愕を感じた。


「だが、今後はその心配も必要ないだろう」


「と、言いますと……?」


「君とメリルの婚約は近々、破棄するつもりだ」


「え?」


「ウォーカー伯爵には私の方から願い出る」


 俺は思わず立ち上がってベネット子爵を見下ろした。


「聞いておりません。 どういう事ですか?」


「君には新たな婚約者ができるというではないか」


「新たな、婚約者?」


「確か、名前をアイリス・キャンベルと言ったか」


「いえ……アイリス嬢はジョルジュの婚約者ですよ?」


「だが、彼女は君の子を成すつもりだと聞いているよ」



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