二十四、私は確かにここにいる
眩しい日差しに顔をうつむいていると、騒がしい声が聞こえてきた。
「おーい! 伶奈! 早く行こうよ!」
半目で道路を見てみると、いつものように咲が手を振って待っている。
「はいはい、行きますか。」
張り切って駆けてゆく咲は、一瞬で小さくなった。
教室に入ると、帯刀が顔を伏せているのが目に入ってきた。面白そうなのでイタズラしようと忍び寄る。
「む。」
帯刀は不意に顔を上げると、私を睨んできた。苦笑いしながら手を振るが、何をしようとしていたかお見通しといった表情だ。
「夜更かしでもしてたの? ちょー眠そうじゃん。」
唸りながら間延びした返事をする帯刀。例の如く、真夜中街中を走り回っていたのだろうか。
「ああ……ちょっと寝かせて……」
そう言い残し彼女は頭を落とした。
それから放課後、一足早く部室に来た私。帯刀は何故かまだ来ておらず、咲は日直の仕事があるらしい。
「おいお前ら、やってるか。」
仲馬先生が乱暴に戸を開けてきたが、私しかいないのを見ると、大きく深い息を吐いた。それから椅子に座ると、背もたれにだらりと寄りかかる。
「ああー、しんどー。」
気の抜けた表情の先生を見ていると、親近感が湧いてくるものだ。
「そんな表情してると顔溶け出しちゃいますよ、センセ。」
先生の眉間にシワが寄るのが見える。
「やっとテスト用紙が作り終わったんだ。つーかお前もそろそろ勉強始めろよ。」
とろけ出している先生の言葉は無視して、帯刀がまとめた活動記録に目を通してみた。ファイルを見てみると、怖い噂がある場所について記述してある。噂の内容と現地調査の結果から基づいた真実と真相、だそうだ。いかにも帯刀らしい。
「うぅわぁぁぁ。」
気味の悪い声とともに、両肩を強く掴まれた。私は驚いて飛び上がると、後頭部を何かに強くぶつけ、甲高い叫びが共鳴する。先生が呆れ顔で、
「なにやってんだ。バカだなぁ、お前ら。」
と言っている顔がムカつく。振り返ると、デコを抑えながらも、へらへら笑っている帯刀がいた。
「こんにゃろ!」
反撃を試みたが、頭の痛みにやる気を奪われ、先生のように椅子にもたれる。
「みんなーおまたせー!」
猛スピードで部室に突っ込んできた咲。誰か轢かれないか心配になる速度で、廊下を走るのはやめてほしいものだ。
「よし、全員集まったな。」
先生が溶けるのをやめ、立ち上がる。
「お前らが何してるか知らんが、全員今のところ無事でなによりだ。正直な話、この辺りには怪奇現象の噂がかなり多い。何が原因にしろ、事故や怪我には気を付けて活動するように。いいな。」
いつになく真剣な眼差し。私達は元気よく返事をした。
「さて、それじゃあ私は戻るから。あとお前ら、テスト近いんだから勉強しろよ。」
腰を叩きながら先生が出てゆく。見計らったように帯刀は鞄からファイルを取り出し、一枚の紙を取り出した。紙には、森に潜む怪物について、と書いてある。
「こいつの調査は一時中断しようと思うの。」
頬杖をつきながら、帯刀は紙を指差す。不思議に思っていると、一息ついて再び話し始める。
「もうすぐテストだし、今日から部活自体の活動を休止しようと思うわ。身体を休めつつ、備えてちょうだい。それに成績が悪いとまた教師に目をつけられる。」
最後が愚痴なのはよく伝わった。私と咲が返事をすると、帯刀は荷物をまとめ始め、
「私これから用事あるから、先に帰るわね。」
と残して去っていった。帯刀が帰ってから何をするか考えていると、いいことを思いついた。
「咲! 遊びに行くか!」
とてつもなく冷ややかな目で見つめられる。しかし怯むことはない。
「大丈夫! まだテストまで余裕があるし。」
咲は両手で私の頭を掴むと、思い切り力を込めた。
外に出ると、私は学校の近くにある展望台に向かう。皮成村に続く坂を百メートル登ると、展望台に続く短い道が見える。その道を進み、展望台にある木製の階段を上がるといよいよだ。
「久々来たよね。懐かしい。」
私は木製のベンチに腰掛け、展望台の手すり越しに街を眺める。隣には咲が座り、周囲をゆっくり見渡している。
「なんか色々あったよね。でも帯刀と会ってから一ヶ月くらいか。なんかもっと長くいた気がする。」
私の声に咲は笑いながら、
「確かに! なんか昔から知ってるみたいだよね。」
と言って立ち上がった。彼女は手すりまで歩いて、そこから街を眺める。
「伶奈とは色々な場所に行ったよね。小学生の時はずっといっしょに遊んでたし、これからもずーっとこんな風に続くと思ってた。」
昔同じ風景を見たのを忘れない。私がベンチに腰掛け、咲は手すりに手を置き街を眺めている。だがお互いに、見える景色は変わってゆく。彼女は今、何を思い、何を考えているのだろうか。世界が変化してゆく中で、私達はどうなってしまうのか。ただ確かにわかることは、私にとってこの高校生活が、自身にとって忘れられない記憶となるということだろう。
不意に強く風が吹き抜ける。心地よい風が髪を撫でるように通りすぎていった。
とりあえずここでおしまいです。続きはまたそのうちに。
ご覧くださりありがとうございました。




