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【完結】王様の嫁は御庭番  作者: 真波潜
第三章 アシュタロスの虚像
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第三章 十四幕 結婚式・2

 それからは大変忙しかった。

 まずはルルイエ辺境伯のもとに向かい、グラシャラボラス神によってルルイエが残留していないかを調べてもらう。どうやらルルイエは霧散したようで、グラシャラボラス神は少し複雑そうな顔をしながらも、よかった、と笑って天に帰っていった。

 父親同様、魔術を使った反動でアルージャも意識を失ったので、同じ部屋の寝台に寝かせておく。

 彼らはニシナが見張ってくれるという。起きたときに事情を説明するにも、魔術に造詣がある者の方が良いとの判断だ。

 ソルテスを加えてロダスとリァンが待つサロンへ向かった。ここまでの顛末を話し、ルルイエに対する食糧流出問題を不問とする為の作戦を考えておくように命じる。リァンも早速とブツブツと考え始めた。

 ルルイエ辺境伯の意思でないのなら、工作した上に不当な罰を与えるわけにはいかない。

 リァン一人に任せられると判断し、ロダスと共に今度は執務室へ向かった。

 リユニアには予め人払いをしておくようにと命じた為、シャイアたちは誰にも見られることなく執務室へ辿り着いた。

 明日の戴冠式について話合わねばならない。

「早い戻りだったな」

「何をするのかが丸わかりでは、阻まれるのも当然だよ」

「……千里眼とやらは、便利にすぎる気がするな」

「そこは後だ。明日どうするかを決めよう」

 従兄弟同士、話も早い。

 六人はソファに腰掛けると、顔を寄せて何度目かも知らない作戦会議を行った。

「私は王冠はリユニアに渡してもいいと思っているんだが……」

 シャイアの爆弾発言は会議の直後に落とされた。

「いけません」

 ナタリア。

「ならん!」

 リユニア。

「だめです!」

 カレン。

「いけませんって!」

 ソルテス。

 ロダスに至っては怒り心頭で黙って震えている。

「あ、いや……、ナタリアと離れるのが嫌だから、私が王でも構わないかな? と、聞こうと思って……」

 ナタリアが無表情のまま真っ赤になる。

 リユニアはやれやれと笑って背凭れに身体をもたれ掛けさせた。

「シャイア殿、貴殿はまだ王では無いのだな?」

 脚を組んで悠然と尋ねる。

 リユニアの王様ごっこに気付いて、シャイアは座ったまま略式の礼をした。口元が笑っている。

「はっ」

「ならば、一言言わせてもらっても構わんか?」

「勿論でございます」

 大きくリユニアは息を吸うと……人払いをしているから誰にも聞かれることはなかったのだが……、大声でシャイアを怒鳴りつけた。

「貴方が外で暗躍している間に直轄地と領地の二重経営をしていたんですぞ! 過労による人殺しと謗られたくなかったらさっさと玉座に戻りなさい!」

「はい!」

 思わず背が伸びたシャイアである。

 たしかに、ただでさえも大領主である上に、王として直轄地を任されてしまったのだ。

 誰かに任せるにも後進は居ない。下手なものに任せる事も出来ない事情もあった。

 お陰で、この一ヶ月ほどの間、リユニアはまともに眠れていない。

 本気で怒っているときは美辞麗句を屈指した嫌味が飛び出て来ない事を知っているシャイアは、ごめんなさい、と深々と頭を下げた。

「よろしい。……では、明日の段取りですな」

「それなんだが……、ロダス、明日は結婚式も兼ねていたな?」

「はい。しかし略式ですので、証人としてある程度の領地を持つ貴族を呼んであるだけです」

「では、そのまま私とナタリアの結婚式にしよう」

 確かに、シャイアが没したとなって結婚証明書は燃やされた。今は互いに独身である。

 シャイアは徐にナタリアの前に跪くと手を取った。

「私と結婚していただけますか、御庭番の姫さま」

「……っもちろんです」

「よかった」

 見せつけられてカレンもソルテスも無表情で空を見つめていたが、そのカレンの肩をリユニアが指で叩いた。

 顔を寄せて内緒話の体である。

「カレン殿、私はいきなりプロポーズとはなりませんが、先ずは今度、夕餉に招いても構わないだろうか」

「なっ……?!」

「シっ、ロダスに聞かれると面倒だ」

「お戯れを……」

「私は遊びで女性を夕餉に招いたりはしないよ」

 考えておいてくれ、とリユニアは悪戯っぽく笑って顔を離した。

「……カレン、どうしました?」

「あの、いいえ、はい、なんでもありません」

 殿方に誘われる事などとんとなかったカレンは、すっかり茹で蛸のようになってしまった。

 会話が聞こえていたソルテスは素知らぬふりである。

 ロダスはプロポーズが終わったと察して咳払いを一つ。

「では、明日は大神殿にシャイア王が立つという並びで構いませんね。口上はリユニア陛下にお任せします」

「ちょうどいいな。戴冠式も結婚式も済ませられる、ならばしっかりと盛り上げてやろう」

 リユニアが不敵に笑って請け負った。

 彼らにとっては全て作戦であったが、これの実情を表沙汰には出来ない。

 リユニアに理由付けを一任し、あとはそれに合わせる形になった。

「さぁ、明日は一世一代の茶番だぞ」

 シャイアが締めて、作戦会議は終わった。



 その日、国中に激震が走った。

 死んだはずのシャイア王が現れ、戴冠し、王妃と婚姻を結び直したのだ。

 前回は無表情で、社交界では密かに人形姫と揶揄されていた王妃が、蕩けるように微笑んで署名している姿は、大貴族たちに電撃を走らせた。何人かが奥方に高い踵で足を踏まれていたようだが、王にも王妃にもその姿は目に入らなかった。

 リユニアの説明はこうだ。

 暗躍する山賊の残党が、ルルイエ辺境伯の領地より食糧を奪っていた。その山賊によって命までもを狙われていたシャイアを一時的に隠し、目を欺き、その間にアッガーラの協力を得て山賊を掃討した、という事になった。

 西の山賊騒ぎはまだ耳に新しい。抗議の声をあげるものは居なかった。

 シャイアの隣に並んで輝かんばかりに微笑んでいる、純白の衣装を着たナタリアの姿をこっそりと盗み見て、ローザは涙を流していた。

「奥方殿」

「はい、シャイア様」

 笑顔で誓いの言葉を述べ、署名したシャイアがナタリアに小さな声で話しかける。

「アッガーラの結婚式では、誓いの接吻をするらしいのです」

「まぁ」

「誓いの言葉を互いに封じる意味があるとかで」

「まぁまぁ」

 ナタリアの声も驚きに染まっている。

「これからも、私の王妃であり、御庭番でいてくださいますか」

 シャイアの問いかけは優しくも厳かであった。

「この命尽きるまで、あなたのお役に立ちます」

 ナタリアは微笑んでヴェールをあげた。

 二人の顔が重なる。

 この誓いの接吻は、瞬く間に国中の結婚式で取り入れられるようになるのだが、それはさておき。


 ここに、王様の嫁として御庭番が嫁いできた。

二ヶ月ちょっと、お付き合いありがとうございました!

今後改稿版を投稿し、続きのお話も書いていきますが、一先ずは完結です。

読んでくださり、本当にありがとうございました!


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