とりあえず魔物の蹂躙を始める
置いて行ったことを多少怒られたが、緊急事態であったことを伝えて何とか納得してもらいカヤノ達に現状を説明した。事態がわかり深刻な表情をしたカヤノ達だったがエルフたちを助けるために協力してくれると言ってくれた。
カヤノとミーゼに関して言えばハイエルフたちから攻撃されしかも監禁までされたんだがそれでも助けたいと言えるこいつらはすげえと思う。
地下を通り、先ほどのハイエルフの里の門付近の前線基地まで向かう。カコウが居るおかげで地下を通るときも光があるので問題は無い。妙にカコウが大人しいのが気になると言えば気になるが、アルラウネの里のように暴走しないだけましだ。
外に出て現状を知った3人は少し顔を青くしていたが、それでも自分にできることはやると言ってくれた。
「とりあえず一番魔物の多い正面は俺が立つ。カヤノはここでポーションなんかを作っていてくれ。あんま離れると俺が消耗するからな。何かあったら1号に伝えてくれ。」
「はい!」
元気よく返事したカヤノの頭を撫でる。
俺には聞こえねえ棒サイちゃんずの声が聞こえると昨日言われた時は嘘だろと思ったが、確かに意思疎通は出来ているようなので納得せざるを得なかった。まぁ、何で俺の精霊なのに俺には聞こえねえんだよって言う疑問は残るんだがな。俺から用があれば2号か3号に伝えればいいからある意味で楽なんだが。
「次にカコウとミーゼだ。お前らはここ以外の外周を回ってヤバいところのフォローをしてくれ。特にミーゼは必ずカコウの目に届く場所に居ろよ。カコウはミーゼの事を注意してやってくれ。襲うのは魔物だけじゃないかもしれねえしな。」
「わかってるわ。」
「・・・うむ。わかった。」
うわっ、カコウの聞き訳が良すぎて逆に気持ちが悪いんだが。この状態がどこまで続くかわかったもんじゃねえが少なくともこの戦いが終わるまでは続いて欲しいもんだ。ミーゼについては外からも内からも注意する必要があるからちょっと申し訳ないが、こんな時に馬鹿なことをするような奴はいないと思いたい。いたとしてもミーゼも警戒しているだろうからすぐにどうってこともねえはずだ。魔力の量だけならおそらくミーゼはハイエルフたちより上だろうからな。ぼんやりとしか俺にはわからんが風の精霊もそのようなことを言っていたようだしそれは確かだろう。
「ニーアは風の精霊の所に行ったと言う長老を探してきてくれ。あいつの行方が知りたい。それが終わったらそこで伸びてるハイエルフみたいに指揮と言う名の邪魔をしている馬鹿が居ねえか見て回ってくれ。仲間になってくれそうな奴がいるなら先に仲間にしておけよ。」
「うん。」
「じゃあ行くぞ。全員行動開始だ。この後、風の精霊をぶっ飛ばしに行くんだ。メインディッシュの前のこんな前菜なんかで腹いっぱいになるなよ。お前ら全員無事に帰ってこい!」
「「「「おう!」」」」
4人がそれぞれが出来ることをしに別れて行った。それを見送り俺も防壁の方へと向かう。
「リク、大丈夫だよね?」
心配そうに声をかけてくるカヤノへと振り返って笑顔を向ける。戦局は悪い。だが精霊が2人も入ったんだ。ひっくり返せないほどではない。
「ああ、俺を誰だと思っている。エルフ族に神とあがめられている土の精霊様だぞ。神の前に魔物などちりあくたのようなものだ。」
「・・・」
カヤノの表情が変わることは無かった。はぁ、冗談でごまかせるかと思ったが無理だったか。さすがにこれだけ付き合いが長ければそうなるか。
「大丈夫だ。俺は死なねえよ。そしてお前も死なせねえ。プロポーズの返事もしてねえしな。」
「はい、約束ですよ。」
カヤノはまだ心配そうではあったが俺に向かって微笑んでくれた。そして薬を作っているエルフたちに混ざって手伝いを始めた。もう俺を見てもいない。俺を信じているからこそ自分に出来る最大限の事をしようと全精力を傾けているのだ。だから俺もここはカヤノに任せて自分の役割を果たさねえとな。
「さあ行くか。」
地面に潜って防壁の外へと向かう。
そこにあるのは足、足、足。なんていうか見るからに臭そうな足ばっかりだ。たまにシャンプーとかしているはずの家猫や家犬でさえ臭いって言うしな。風呂なんて入るはずのないこいつら魔物は臭いに決まってる。まあ俺は嗅覚がねえからわかんねえがな。
じゃあちょっとお前ら落ちろよ!
魔物たちがいた門前の地面が崩落し、何百と言う魔物たちがそこへと落下していく。さすがにユーミルの樹海の奥地の魔物だ。落下したぐらいで死ぬような魔物なんてほぼいない。しかし地面がすぐに元通りになり魔物を生き埋めにしていく。
魔物は馬鹿なのか元に戻った地面へと後続の魔物が詰め寄り再び埋葬されていく。それを数度繰り返し、そしてついに千を超える魔物を埋めることに成功した。とは言っても1割強削れた程度だがな。
魔物が再び地面の上へとやってくるがこれ以上埋めることは出来ねえ。地面は魔物の死骸でいっぱいになっちまってるからな。大量の魔物を倒したことでレベルアップしたようだがどのくらい上がったか確かめている暇はねえ。今は再びわらわらと進んできている魔物の群れをどうにかするしかないんだ。
地面から浮き上がり地上へと姿を現す。地上へと出てきた俺に向かって魔物が殺到する。怖い。自分なら攻撃をくらっても問題は無いと今までの経験上十分にわかっている。しかしそれでも恐怖を感じるほどの圧倒的な圧を感じるのだ。まるでダンプトラックが集団で突っ込んでくるような感じとでも言えばいいか?うん、前世なら死亡確実だな。だが今ならどうとでもなる。
じゃあ、行くか!
「2号、3号!」
俺の呼びかけに2号と3号が俺の左右にしゅたっと現れる。これはカコウとの戦いの最終兵器だったんだがな。しかし今この状況では最も効果的だろう。元々はお遊びだったしな。まぁ、そんなことはどうでも良い。今は一匹でも多くの魔物を倒してハイエルフの里を死守するのみ!
「変・身!」
俺と2号と3号の体を土が覆っていく。レベルアップしたおかげか土の動きが速くなったみたいだな。好都合だ。その土は俺の想像通りの形へと変化していく。見た目、中身ともに知り尽くしているんだ。その変身にかかった時間は短かった。15メートルを超える巨体から魔物たちを見下ろす。先ほどまで恐ろしかった魔物が小さく見えた。
そしてなぜか力がみなぎる。こんな奴らすぐに倒せてしまいそうだ。
「合体消防ロボ、メガ棒サイちゃん見参!お前ら悪者の命の火、消火してやるぜ!」
決めポーズは管そう(消火の時に水が出る筒のことだ)を構えた放水姿勢だ。右手は取手、左手は先端のノズル近くのプレイパイプを握り、握った右手は腰に当て仰角30度をキープする。左足を一歩前に出し膝をやや曲げ重心を前に置き、右足は反動を抑えるためにまっすぐに伸ばし体全体としては前傾姿勢を取る。
完璧だ、完璧なる放水姿勢だ。これなら操法、あっ、何というか消火するまでの動きを競うやつで毎年全国の消防団が集まってナンバーワンを決めるんだがそれでも減点などされない放水姿勢だろう。
そんな完璧な放水姿勢を取ったせいか、魔物の群れは巨大な俺を恐れもせず、いやむしろ俺を倒そうと先ほどよりも多くの魔物が俺に向かってきている。良いぜ、相手になってやる。
「火点は前方の標的。水利は俺自身。手広めによる二重巻きホース不要。一線延長発射!!」
何となく消防団への操法の指導員をしていた時のことが思い出されたので、指揮者の言葉を流用する。切羽詰まってるのはわかってるんだけどな。だが、ここでのらなきゃどこでのるってんだ!
管そうへと変形した2号と3号が動き始める。俺もそれに合わせて土をどんどんと作っていく。準備は整った。じゃあ行くぜ!
「放土、開始!!」
管そうから勢いよく発射された土が魔物たちの波を押し返し、土へと埋めていく。水の代わりに土が飛ぶなんて前世では考えもしなかっただろうな。しかし土ってのは天然の消火剤なんだぜ。土に埋めれば酸素の供給がストップするから火が消えるんだ。
だから・・・
「お前ら、命の火を消したくねえんならさっさと森へ帰りやがれ!」
そう大声で叫び、俺へと向かってくる魔物たちへと土を発射していくのだった。
刻一刻と近づく出番に緊張を隠せないリク。休めの姿勢で仲間と共に待機する中、ついに開始の旗が振られ指揮者が左斜め前方へと走って行くのだった。
次回:操法開始!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




