とりあえずエルフの里に潜入する
いつも通りの調子に戻った俺とミーゼはたまに言い合いをしながら朝食を作り、作り終えたミーゼは自分の分を早々に食べると再び眠りに行った。怪我してすぐということもあって限界だったようだ。まあ赤くはれた目をカヤノに見せたくなかったのかもしれんが。
そして大体7時くらいにカヤノとニーア、そしてエルノが起きてきた。予想外だったのはハイエルフの2人も薬が抜けたのか起きだしてきたのだ。さすがにしばらく水だけで何も食べていなかった2人にみんなと同じ食事を食べさせるわけにもいかなかったので、野菜などを細かく刻んだスープを作りなおした。食べずに家宝にするなんて馬鹿なことを言っていたので「黙って食え!」と口にスプーンを突っ込んでおいた。なぜか涙を流して喜ばれた。
カヤノには正直に今の気持ちを伝えた。少し残念がっていたが「がんばります。」とやる気を出していたのでとりあえず問題はねえだろう。しばらくは現状維持のままだ。気持ちに踏ん切りがついたおかげか普通にカヤノには接することが出来たと思う。ミーゼに感謝だ。
そんなミーゼが起きたのは昼過ぎのことだった。まあその直前に俺とカコウによる第2回怪獣VS精霊大戦争が行われたんだがな。あいつ、カヤノが俺にキスしたと聞いて問答無用で斬りかかってきやがった。正に親馬鹿コウってところだ。
ちなみにその争いはすぐに終わり、エルノとカヤノの2人にカコウが説教される中、俺は遅めの昼食を作っていた。ミーゼが起きたことで説教が終わりとなり、ちょうど俺も昼食を作り終わったので食事をとりながら今後のことについて話し合うことにした。
「じゃあハイエルフの2人の内1人はアルラウネの里に行って里の防衛に加わり、もう1人はエルノとともにここに残るってことでいいんだな。」
「はい、風の精霊様の意図はわかりかねますが、土の精霊様と光の精霊様が向かわれるというのであれば我々が手を出すことはありません。」
「悪いな。」
「いいえ、土の精霊様には命を救っていただきましたし、手料理を食べさせていただくなどわが身に余る・・・」
「あー、じゃあ頼むぞ。次だ。」
男に頬を赤く染められてもやっぱり嬉しくとも何ともねえな。イケメンなんだけどな。
良かった、俺の価値観がまるっと変わっちまった訳じゃあなさそうだ。
「俺とカコウ、そしてカヤノとミーゼとニーアはハイエルフの里に向かうってことで良いんだな。」
「もちろんだ。貴様に何と言われようともあいつを切り刻まねば我の気が済まん。」
まあ、カコウは長年の恨みがあるだろうから聞くまでもねえんだけどな。こいつの性格からいって一人で突撃していかないだけましだろう。
「ミーゼとニーアは本当にいいのか?ミーゼはまだ体調が万全じゃねえだろうし、ニーアも同じハイエルフを敵に回す可能性が高いんだが。ここに残ってもいいぞ。」
「風の精霊の奴に一発ぶちかますって決めたから、行くわ。」
「私はリクの仲間だから。それにハイエルフの中にも今の状況はおかしいって思っている人はいるはずだし。そういう人を説得するよ。」
「カヤノは・・・」
「リクがいる場所が僕のいる場所です。」
生意気にもいっちょ前なセリフを言ったカヤノの頭をくしゃっと撫でる。ミーゼの視線がちょっと険しくなったがため込むというよりも、あんた後でちょっと話があるから覚悟しておきなさいよとでも言いたげなスケバンのような表情なので多分大丈夫だ。いや、おそらく俺はなぜか怒られるんだろうが、ミーゼの精神的な面としてな。
カヤノは俺のことをリク先生ではなくリクと呼ぶことに決めたようだ。俺は今朝からそう呼ばれているのでだいぶ慣れたがミーゼにしてみたら正に寝耳に水だろうしな。うおっ、なんか寒気がしたんだが、本当に大丈夫だよな?
「よ、よし。じゃあ今日は体調を万全にするために皆は休んで英気を養ってくれ。俺とカコウはこの周囲を巡って魔物を狩って魔石の確保だな。俺は良いとしてもカコウが必要だしな。」
「あの・・・」
「ああ、みなまで言うな。ちゃんと肉は持って帰ってきてやる。」
「大好きです、リクさん。」
「ぐぬぬ、カヤノに続いてエルノまで毒牙にかけるとは。貴様とは一度本気で戦わねばならぬようだな!」
「だからすぐに剣を抜くんじゃねえよお前は!っていうか毒牙ってなんだ、毒牙って!!エルノもこうなるのがわかっててからかうんじゃねえ!」
「あらあら。」
半ば定例となりつつある俺とカコウの争いというか、カコウが突っかかってくるから仕方なく相手をしているだけなんだが、はエルノによってとりなされて本格的な戦いは回避された。皆がさすがエルノと言っていたがそもそも原因を作ったのはエルノ自身なんだが・・・まあいいや。
俺とカコウが午後と夕食が終わった後の夜中にも狩りを行ったので必要な分の魔石はなんとか確保できた。最近この辺で狩りをすることがたびたびあったためか思ったより魔物の数が少なくて多少苦労したが。
夕食として食べたエルノこだわりの肉料理のおかげもあってか皆の体調も良さそうだ。この分なら問題なくハイエルフの里へと向かうことが出来るだろう。
翌朝、俺たちはエルノたちに見送られ予定通りハイエルフの里へ向けで出発した。この周辺の魔物については昨日俺とカコウで狩りつくしているためしばらくの間は平穏な行程だった。魔物と遭うことが少ないため体力の消費を抑えることができてラッキーと言えなくもないのだが・・・
「おかしいですね。」
「そうだね。森が静かすぎる。最初はリクたちが昨日狩ったせいかと思ったけどこれは異常。」
「嫌な予感がするわね。慎重に行くわよ。」
ミーゼの言葉に俺を含めて3人がうなずく。唯一うなずかなかったのはもちろんカコウだ。まあ奴は「どんな異変であろうと我にかかればすぐに解決してみせるわ。」などと自信満々に言ってのけていたが、これから向かうハイエルフの里にいるであろう風の精霊にはめられて長い間地下に閉じ込められてしまったことを忘れちまってるんだろうか?いや、自分から風の精霊に仕返しをすると言ってこちらに来たわけだから忘れているわけではないと思うが、どこをどう考えればそんな自分は無敵みたいな考えに行きつくんだろうな。奴の思考回路がいまいち理解できん。
そんな感じで様々な不安を抱えながらも俺たちは通常よりも早くハイエルフの里、いや正確に言うならハイエルフの里の外にあるエルフの里の防壁を意外な形で目にすることになった。
「結界が消えてる・・・。なんで?」
ニーアが呆然と立ち尽くしたまま呟く。
エルフの里を覆っていたはずの霧の結界は跡形もなく消え去り、巨大な樹木で出来た防壁が姿をさらしている。しかしそれだけじゃなかった。
「匂うわね。」
「この匂い、あそこにあるのってもしかして・・・あっ、リク、お父さん!」
カヤノの言葉が終わる前に俺とカコウが先行する。防壁付近に広がっていたのはもはや元が何だったかわからないほどぐちゃぐちゃになった生き物の死体がゴロゴロと転がった光景だった。カヤノたちが気づいた匂いはこいつらの血の匂いだろう。
生き物の死体は門の方向へ向かうとともに多くなっていき、そして血で染まっていない場所を探すのが困難なほどその数は多い。こいつはまずい事態になってそうだ。
「カコウ、カヤノたちを頼む。俺は少し偵察に行く。」
「何を言っておるのだ。我がいれば何も問題は無い。敵など倒せばよいのだからな。」
「お前はそうでも、カヤノたちはそうじゃねえんだよ。お前はいい加減、親としての自覚を持ちやがれ。カヤノたちは俺たちと違って普通の人なんだよ!お前が勝手に突っ走って勝手に倒されるのはどうでも良いが、それにカヤノたちを巻き込もうとするんじゃねえ!」
「しかし・・・」
反論しようとしたカコウの頬を思いっきり殴る。避けられるかと思ったのだが不意打ちだったせいか何とか当てることが出来た。良かったぜ、ここで空ぶったら格好悪いなんてもんじゃねえしな。
「お前も俺も精霊だ。だが人と共に生きようとするなら考えを変えろ。じゃなきゃ、いつかお前は後悔することになる。」
「くっ、貴様に何がわかる!」
「わかるさ。だって俺は・・・まぁいいや。じゃあ3人のこと頼むぞ。30分くらいで戻るわ。」
元は人だからな、という言葉はなぜか言う気が起きなかった。余計に混乱させるだけだろうしな。
カコウが追ってこないことを確認しつつ地面に潜ってハイエルフの里を目指す。なんでこんな事態になってんのかわかんねえが、とりあえず状況を確認しねえとな。
リクが立っていたのはおびただしい死体に囲まれた平原だった。見覚えのない景色に動揺するリクへと見たことのない生物が襲いかかる。果たしてリクの運命は!?
次回:リンカー
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




