とりあえずカコウの暴走の後始末をする
そこで広がっていた光景は、まさしく頭痛が痛いという間違った表現がぴったりだった。
「フハハハハ、貴様らの実力はその程度か!?すべてをかけてかかってくるが良い!」
「ちっ、イェン。何とかしな!」
「無理だねぇ。もともと正面からぶつかり合う流儀ではないしねぇ。こういうのはローズエッタ殿の分野だよねぇ。」
「くっ。フラウニ、なんか案はないのかい!?」
「無理だねぇ。薬も効かないみたいだし私の出番はないねぇ。」
「こんな時にイェンの真似なんかするんじゃないよ、このあほたれ!」
「えー、せっかく場を和ませようとしたのに~。」
鞭を手にしたロー、というかローズエッタか?がカコウへと攻撃を加えていく。その操りようは見事なものでまるで自分の手足のように動くさまは思わず受けてみたい・・・じゃなかった。正に達人の域だろう。しかしカコウはそんな変幻自在の攻撃を難なく剣のみで弾いており、隙を見つけては斬りかかって行く。なんとかイェンがそれを止めて態勢を立て直してはいるがどう考えてもじり貧だ。
イェンやローズエッタが弱いわけじゃない。これまで俺が旅してきた間に見た兵士や騎士、冒険者などと比べても頭1つ分どころか2つか3つ抜けているぐらいの実力差があるはずだ。俺がもし生身だったら間違いなく負ける自信がある。そんな奴らを子ども扱いするほどカコウの技量は並外れているということだ。
まあそんな熱いバトルをフラウニはのほほんと観客気分で見ているみてえだが。
「そろそろ飽きてきたな。新たな手がないなら終わらさせてもらうぞ!」
「させるか!イェン、気合を入れな!」
「はぁ、ついてないねぇ。」
攻撃を弾きながらカコウが徐々に3人に近づいていく。それを防ごうとローズエッタとイェンが必至な表情で攻撃の速度を速めていく。フラウニもさすがにまずいと思ったのか、「えいっ。」と気の抜けるような声をかけながら、何かの薬や爆発する爆弾もどきのようなものを投げている。それでもカコウの歩みは止まっていない。徐々に追い詰められていく3人。彼らに起死回生の一手はあるのか!?
うん、もうめんどくせえ。っていうかなんで俺がこいつのフォローをいろいろしてやってる一方でこいつは楽しそうに主人公たちに相対する強大な敵みたいなポジションを満喫してやがんだ。腹が立ってきたぞ。こうなったら最高のタイミングでこいつの邪魔をしてくれるわ!
「我が子孫に手を出したことを後悔するがいい。光断!」
(ここだ!!)
カコウがロースエッタとイェンの2人まとめて横なぎに剣を振るうのに合わせて2人の立っていた地面を凹まし引っ張り込んで腰の位置まで埋めてやる。2人の頭上をむなしく通り過ぎるカコウの剣のブォンという音が響く。へっ、いい気味だ。
「うぬぅ、貴様見ているな!」
怒りを込めた視線を地面に向けるカコウ。いやそこに俺はいねえけどな。
まあこのままだと会話も出来ねえから、地面からせり上がり俺も姿を現す。偵察だけのつもりだったので服も鎧も剣も持っていないから土で作った服と鎧姿だ。まあ、それはいいとして・・・
「お前はどこぞの吸血鬼か?」
「ふっ、何を言っておる。我は光の精霊だぞ。そんなことも忘れるなど貴様の頭はやはり土しか詰まっていないようだな。」
くっ、さすがに知らねえ奴にする突っ込みじゃなかったか。それにしてもいちいちかんに障る言い方をする奴だ。本当にカヤノの父親か?いや、エルノが嘘をつくとは思えねえから実際そうなんだろうが・・・まあカヤノが母親似で良かったと思っておくか。
「違えわ!っていうかなんでいきなり戦ってんだよ。偵察だって何度も言っただろうが!」
「この程度の相手に我が負けるわけがなかろう。」
「お前が勝てる勝てないの話じゃねえんだよ。人質の安全を最優先にしろよ。お前の子孫なんだろうが。」
「しかし我であればたとえ人質に取られたとしても怪我をさせることなく助け出せるはずだ。」
「その人質になる奴の気持ちになれよ、馬鹿が!!」
何とも不毛な罵りあいだとは自分でもわかっているが言わずにはいられない。こいつと会ってからまだ短い期間しか経っていないが、こいつとはどうもウマが合わない。常識がない、いや違うな、俺とこいつの間では常識の定義が違うんだろう。こいつが精霊だからそうなのか、それともただ単にこいつのせいなのかはわからんが。
基本的にこいつの思考は唯我独尊。一部の例外を除いて他者をかえりみないのだ。他人の気持ちをわかろうとしないとも言えるか。それがどうしても俺には受け入れられない。エルノがいればその辺のストッパー役をしてくれるんだろうが、残念なことにここにはいねえからな。
「とりあえずお前は黙ってろ。っていうかいると邪魔だからこっちに向かってきているあいつらの仲間を倒しておいてくれ。」
「ふんっ。話し合いなどに興味はないからな。勝手にしろ。」
戦いの邪魔をされた不満を隠そうともせず、捨て台詞を残してカコウはこちらへと向かってくる敵の方へと飛び出していった。完全に八つ当たりをするつもりだろう。
俺はその様子に1つ大きなため息を吐くと、気分を入れ替えて3人の方へと向き直った。土に埋まって身動きの取れないローズエッタとイェンの鋭い視線とフラウニの興味深そうな視線が俺に刺さる。
「まずは自己紹介だ。俺は土の精霊だ。さっきお前らと戦ってたのが光の精霊だな。で、そっちはローズエッタにイェン、そしてフラウニってことでいいよな。」
「こそこそ隠れて見てたのかい。精霊が聞いてあきれるね。」
唾を吐いて反抗的な目をするローズエッタに肩をすくめて返す。確かにそう言われても仕方がねえしな。もともと戦う気がなかったのにカコウが暴走して、それをフォローするために動いていたっていうのはこっちの都合だし、不意打ちで身動き取れないようにしたんだから、された当事者からしたら卑怯者と思われるだろう。
まあ敵にどう思われようがどうでもいいことではあるが。
「とりあえずまず聞きたいんだが、そっちの木の根の上で横になっていたアルラウネたちは大丈夫だよな?」
「ふんっ、言うは・・・」
「えーっと、あれはねぇ、アルラウネの特有の行動で食事とかが食べられなくて栄養が摂取できなくなるとあんな感じになるんだよ。あの状態だと飲まず食わずで1か月くらいは生きられるね~。」
「何べらべらしゃべってんだい!」
「えー、だってローちゃん。こんなこと里長に聞けばすぐわかっちゃうんだよ。黙っている意味がないよ~。」
あっけらかんと言うフラウニにローズエッタが頭を抱えている。何というかローズエッタの苦労が垣間見える瞬間だな。まあフラウニの言っていることも正しいと理解しているからそれ以上何も言わないんだろう。
しかし、そういうことなら一安心だな。俺と同行したハイエルフたちみたいにフラウニの薬でそうなってんのかと思っていたがそういう種族ということであればしばらくは命の心配はしないでいいだろう。里長、たぶん蔦ボールのことだと思うがそいつに聞けば元の状態に戻す方法もわかるだろうし。
「じゃあ次だ。なんでこの里を襲った?」
「だから言うはずが・・・」
「精霊草が欲しかったからだよ~。だって不老の秘薬を研究しろっていう割にその程度も用意してくれないんだよ。お金を出せば手に入る程度の希少さなのにね。ケチでしょ~。」
「だからあんたは黙ってな!!」
「えー、だって隠れて見てたなら会話も聞かれてるんだろうし、今更でしょ~。」
ローズエッタがフラウニの言葉にがっくりと肩を落としている。わかる、わかるぞ。その気持ち。マイペースな奴に振り回されるその苦労。つい最近俺も味わったしな。ローズエッタは身動きがとれねえから物理的にフラウニの口を閉じさせることも出来ねえし、苛立ちは俺以上だろうが。
質問するこっちとしては楽なんだが、本当にこんなんでいいのか俺のほうがちょっと心配になるくらいべらべらとしゃべってくれる。しかも聞いてもないことまで。なんだよ、不老の秘薬って。そんなもんあるわけが・・・ってこの世界ならありえるのか?俺たち精霊も半分不老みたいなもんだしな。
「じゃあ次は・・・」
「はいはーい。こっちからも質問いい~?」
空気を読まずに元気よく手をあげたフラウニを半眼で見つめる。心なしか仲間であるはずの2人も同じような目で見ている気がする。
「・・・何だ?」
「土の精霊ってことは精霊草ってどこで採れるか知ってるの~?」
「知らん。精霊草って貴重なんだろ。似たようなもんは知ってるがそれは繁殖力が強すぎるくらいだから多分違うしな。」
「そっか~。それは残念。」
本当に残念そうに顔をゆがめるフラウニの姿にある種の恐れを覚える。どこまでマイペースなんだこいつは。いや、バルダックにいた時も調薬命って感じでその他のことはどうでもいいって感じだったがそれに磨きがかかってねえか?
「じゃあ次はこっちな。お前ら何者だ。どこの組織に属してんだ?この里を再び襲う可能性はあるのか?」
「「「・・・」」」
さすがにこの問いかけにはだんまりか。フラウニあたりがぽろっと言ってくれるんじゃねえかと期待したんだが。いや、逆に考えればフラウニが不用意に発言を控えるほどの組織ってことだよな。うわっ、滅茶苦茶面倒そうじゃね?
謎の組織の情報を入手したリクはそれに基づき後顧の憂いを無くすためにアジトを襲撃する。しかしそのアジトで見た光景はリクを驚愕させるのだった。
次回:美容結社 ワカズクリン
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




