とりあえず隠れて話を聞く
蔦のボールのような姿のアルラウネ?にフラウニがにこやかに話しかける。
「そろそろ話す気になりました〜?私、早く研究がしたんですよねー。」
「裏切り者のお前に話すわけなかろうが、このバカ娘が!!」
「えー、ちゃんと夢を叶えてあげたじゃないですか。頭が薄くなってきたのを気にしてたでしょ~。」
「違うじゃろうが!妙な薬を飲ませおって。生えたことは生えたが、おかげで全く身動きがとれんわ!!」
フラウニが不服そうに口をとがらせる。相手のアルラウネは蔦に埋もれちまって表情が全く見えんがかなり怒ってるみたいだな。蔦ボールがゆさゆさと揺れている。言っては悪いがコミカルな光景だ。
「あー、面倒だね!他の奴を起こせばいいんじゃないかい?」
見た目からしてきつい性格をしてそうなちょっと俺好みの獣人の女が、いらいらした様子でフラウニに言うが、フラウニは首を横に振った。
「知ってるのは長だけなんだよねー。後は巫女もだけど巫女のいる場所に行きたいんだから意味がないし。」
「ちっ、手元にある分じゃ足らないのかい?」
いらだちを隠そうともしない獣人の女の瞳がフラウニを貫くが、フラウニ自身はまったく気にした様子もなく、ちょっと悩ましげな様子で腰に下げたバックをごそごそと漁ると、その中から布で包まれた何かを取り出し、そしてそれを開いていく。
「だってこれだけしかないんだよ。研究するにしても少なすぎだよ~。」
「ただの白い草にしか見えないんだけどねぇ。」
「精霊草だよ。とーっても貴重なんだからね。多分これだけで一生遊んで暮らせるくらいの金額になるんだから。組織がケチで買ってくれないからわざわざ里まで来たのに~。」
「あんたは金を使いすぎなんだよ!あたいがどれだけ文句を言われているのかわかってるのかい!?」
「え~、だって自由に研究させてくれるって言ったのはローちゃんでしょ~。」
「ローちゃんって呼ぶんじゃないわよ!!」
呼び方についてフラウニとローちゃん?が言い争いをしているわけだが、そんなものは俺の耳に入ってこない。俺の視線はフラウニが持っている精霊草とやらに釘づけだ。
乾燥済みらしいそれは、量としてはだいたいフラウニの両手から少し溢れるくらいの量だ。そうだな。具体的に言うならコップー杯分の量になるくらいだ。
あれ、俺たちが白い薬草って言っている元気ジュースのもとになっているやつじゃねえか!?えっ、まじであの量で一生遊んで暮らせるくらいの金になるのか?だとしたらカヤノなんか下手したら千人単位の一生分の金の価値があるものを飲んでいることになるぞ。
いやいやいや、さすがにそんなことはありえねえだろ。元気ジュースのもとの白い薬草なんてこっちが処理に困るくらいの速度で繁殖すんだぞ。そんなもんが貴重なはずがねえよな。ふぅ、驚かせやがるぜ。
「ちょっとイェン、あんたも突っ立ってないでなんか言いな!」
「そうだねえ、こいつの体を少しずつ切り刻んでいくとか、どうだぁい?」
「えー、せっかくいっぱい生やしたのにもったいないよ~。」
「そういう問題じゃないだろ。それにイェン。それはあんたがやりたいだけでしょうが。はあー、なんでこんな問題児2人を部下に持っちまったんだか。」
「くっくっく、ついてないねぇ。」
「がんばれー、ローちゃん。」
「あんたたちが言うんじゃないよ!!」
頭に手を当てて顔をしかめていたローが二人に向かって怒鳴る。そしてもう一度大きなため息を吐くと周りにいる冒険者風の格好をした占拠犯たちに向かって声をかけた。
「仕方ない。明日からここに半数を残して残りはその光の精霊が封じられているっていう場所を探しに行くよ。」
「馬鹿な、光の精霊様は荒ぶる精霊じゃぞ。その封印を解くつもりか!?」
「巫女ってのがいるんだろ。そいつと交渉すればいいじゃないか。聞いたところこの里との仲も悪そうだし喜んで協力してくれるかもしれないしね。あくまで目的は精霊草であって精霊と対立するつもりなんてさらさらないよ。」
ローの指示を聞いた占拠犯の内、5人がここから離れていく。一方でフラウニは不満げな表情をしていた。
「えー、せっかくアルラウネにも効く自白薬を作ってたのに。」
「あんたの作る薬は危ないんだよ。アルラウネにはそういうたぐいの薬は効きにくいんだろ。もし失敗した場合はどうなるんだい?」
「良くて意識不明かな~。」
「却下だよ!!」
あー、ご心配の光の精霊の封印ですがすでに俺が解いているので意味がないんですがね。というか伝承自体が偽りなんだがそんなことは誰も知るはずがねえからな。そしてもしかしたらそのカコウ自身がここにいるかもしれねえけどな。
というか名前から予想はついていたがやはり精霊草はカコウのいた地下の空間で採れていたもののようだな。ますます白い薬草と似た特徴な気がするんだが・・・。まあそれは一旦置いておこう。それにしても巫女に協力を仰ぐか。エルノなら肉を持ってくれば二つ返事で引き受けそうな気がするな。いや間違いなく受けるだろう。肉への情熱は並々ならぬものがあったし。
とりあえず現状はわかった。蔦ボール以外のアルラウネが横になったまま動かないのが気にはなるが顔色が悪いわけでもねえし虐待を受けているような感じもしない。起こすって言ってたしこれなら今すぐにどうこうということもねえだろ。
そろそろ3時間経つし、とりあえず情報収集はこんなところか。さっきの場所に戻ってカコウと合流して一度皆のところへ戻ろう。あの横になっているのはフラウニの薬のせいなのかそれともほかの理由なのかエルノなら知っているかもしれんしな。
俺が踵を返そうとしたその時、何気なく見たイェンと目が合った気がした。
「やはり視線を感じるねえ。そこかなぁ!」
俺を目掛けてナイフが飛んでくる。マジかよ。別に当たったところでダメージはねえはずだが、俺の気配を感じられる人間がいるってのは脅威だ。俺のアドバンテージが1つ潰されたってことだからな。とはいえわざわざそんなことを教えてやる義理はねえからさっさと避けて帰るか。
キンッ。
去ろうとした俺は背後で聞こえたそんな金属同士が打ち合う音に振り返る。そして浮かび上がるように姿を現したその黄金の背中に頭を抱えたくなる。そういえばナイフの軌道が俺を狙ったにしては少し上だった気がしたけどそういうことか!
「我が子孫に行ったその蛮行、誠に許し難し。成敗してくれるわ!!」
(この馬鹿野郎!)
毒づく暇ももどかしく、俺は即座に舞台の上のアルラウネたちを囲うように壁を作っていく。第一優先は言うまでもなく人命だ。カコウもその辺はわきまえてると思っていたんだが。
当のカコウと言えば、ナイフを投げたイェンとローの2人を相手どりながら優勢に戦いを進めている。アルラウネたちを見張っていた仲間も増援に来るのだが、実力が違いすぎて一刀のもとに切り伏せられては蹴飛ばされて遠くへと転がっている。俺が手伝う必要はなさそうだ。
ペタペタと突然出現した土壁を興味深そうに触っているフラウニを通り過ぎ、壁の中のアルラウネの様子を探りに行く。混乱しているようだったら最悪俺が出る必要があるだろう。いきなり自分たちの周囲に壁が出来たんだ。混乱していないわけがねえけどな。
そんなことを思っていた時期が俺にもありました。
土壁の中では相変わらずアルラウネたちは横になったままだ。やっぱりフラウニの薬で動けないのか?いや、俺にとっちゃあ好都合っちゃあ好都合なんだが、なんか肩透かしをくらった気分だ。
唯一動ける蔦ボールじゃなかった、えっと多分アルラウネの里の長か?はその丸い形状をさらに丸くしてぶつぶつと何かを呟きながらがたがたと震えている。
「終わりじゃ。始祖様が解放されてもうた。我らはもう終わりじゃ。」
うん、とりあえず相手にすると面倒そうだし、震えているだけで害もなさそうだから放置だな。いやー、俺ってばカコウの助けに入らないといけねえから忙しいんだよな。まぁ、カヤノにあんな仕打ちをしやがった罰だ。ありもしない妄想にしばらく苦しんでいるがいいさ。
あっさりと蔦ボールのアルラウネを放置することを決めた俺は壁の外へと目を向けた。
遂に生と死を操る薬の作成に成功してしまったフラウニ。その薬を巡る血みどろの争いに否応なく巻き込まれていくリクたち。果たしてその薬を手に入れる者とは!?
次回:神薬毛根活性
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




