とりあえずアルラウネの里を偵察する
俺たちが今後のことを話し合っているとカコウが戻ってきた。何というか今まで感じていた圧のようなものが薄まり、晴れやかな顔をしているような気がする。その傍らにエルノがすっと歩み寄り、カヤノも多少ぎこちなくはあるもののそばへと近づいていった。3人は何か小さな声で話し、そして笑っていた。幸せな家族ってこんな風景を言うんだろうなと思うとともに少しのさみしさが俺の心の中に湧いた。
これでいいんだよな。カヤノの幸せを考えるなら両親と一緒なのが一番なのは当たり前だし。そう整理をつけて今後の計画の話を続けていく。
「じゃあまずはアルラウネの里を俺とカコウで偵察。状況を把握した後ここに戻ってきてその内容を報告するからその時にどうするかを決めるぞ。俺もカコウもここに核があるから死ぬことはねえし、最悪向こうで倒されたとしてもここに戻ってくるからだいたい今から1日くらいは待っていてくれ。皆もそれでいいな。」
カコウも含め全員がうなずいたのを確認する。話し合って推測の話は色々と出たが、あくまでそれは推測の範囲の話であり、実際の状況を把握しないと今後にどうしていくかは決定出来ねえからな。別に話し合いが無駄って訳じゃねえ。こういう可能性があるって思いながら行動するってのは火災現場で建物に突入するときもそうだが重要なことだ。わずか数秒の違いかもしれねえが、そのとっさの判断が生死を分けるってこともあるんだしな。
というわけで俺とカコウは2人で階段を上って地上へと出た。登ってきた階段の入口は土で覆って、はた目からは見えないように戻しておく。変な魔物が入ってきてもまずいし、それに俺たちを探しているハイエルフが見つける可能性もあるしな。
カコウは見るからに上機嫌だ。まあ待望のカヤノにも会えたし、その上あの地下の空間から出ることが出来たんだからわからないでもないんだが。しかしこれから行うのは偵察だ。わかっているとは思うが一応釘は刺しておくか。
「おい、浮かれるのはわかるが油断すんなよ。何が起こったのか探るのが目的なんだからな。」
「浮かれてなどおらぬわ。貴様こそつまらぬミスなどするなよ。」
心配して声をかけてみれば結構な言い草だな、おい。
一瞬引き締まったカコウの顔だったが、しばらくすれば元の通りの緩んだ空気をだしている。もう処置なしだな。とりあえずこいつがミスしてもフォローできるように注意しておこう。はぁ、これが前振りにならなきゃいいんだがな。
「じゃあな。」
「ああ、3時間後にここで集合だな。遅れたら置いていくぞ。」
「お前こそ、遅れんなよ。」
アルラウネの里まであと500メートルほどの森の中でカコウと別れる。俺は地面から、カコウは空から偵察する予定なのだ。カコウは宙へと浮き上がり空に溶けるようにして消えていった。さすが光の精霊といったところか。この状態のカコウを見つけられるとしたらよほどのことがあったときだろうな。
まあいつまでもここにいても意味がないので俺も地面に潜ってアルラウネの里へと向かっていく。エルノによるとアルラウネの里にはハイエルフの里のような結界はないそうだが、蔦の防壁は可動式で、中のアルラウネによる操作である程度動かせ、その蔦でからめとり魔物を倒したりも出来るのだそうな。もはや兵器の域だな。
入り口の近くまで近づき、ちょっと観察する。この前とは違い、防壁の蔦はすべてを覆うドーム型の形状ではなく、王冠のような形になり上部を開放していた。いや、聞いてはいたが本当に動くんだな。何ていうかこんな大きな蔦が自在に動くなんて改めて異世界だって感じるな。動くところを見ることが出来たらもっとすげえんだろうけど。
そんなことを考えながらサクサクッと里へと侵入していく。ちなみに里の入り口は閉ざされており、見張りも何もいなかった。近づくのは簡単かもしれねえが入るのは難しそうだな。
魔物を捕らえていたって話も聞いたからもしかすると閉じていたとしても外を見る方法があるのかもしれん。ここら辺はエルノにもう少し情報を詳しく聞いてみるか。
残っている仲間と一緒にここに来るならばハイエルフの里から脱出したときみたいに地下を通っていくしかねえだろう。ただ明かりのない状況で地下を進むのも・・・あっ、明かりあったわ。ちょっと口うるさくて暴走しがちな明かりだが本当に地下を進まないといけなくなったら便利だろう。
思ったより根が深かったが、隙間を縫うように通り抜け無事にアルラウネの里へと潜入する。第一目標はアルラウネたちの生存確認だ。あくまで俺たちが助けたいのは人であって場所じゃない。考えたくもないが占拠した奴らに里の住人が皆殺しにあっていた場合、おそらくもうここには来ないだろう。誰がそう言ったわけでもねえが、俺自身そんな場所にカヤノたちを連れていきたくねえしな。フラウニがなんでそんな奴らの中にいたかは気になるが、そのために危険を冒す必要はねえからな。
アルラウネの住居はザ・普通であるエルフやハイエルフたちとはうって変わり、エルノが地下で作っていたようないくつかの木が融合したドーム型の住居、まあもちろん扉はついているものに住んでいるようでこんな時でなければファンタジー感満載のその姿に俺の少年の心が踊り狂っていただろう。
見た限り里の中にはアルラウネの姿はない。その代わりと言っては何だが、冒険者らしき男や女が二人一組になって周囲を警戒するようにして歩いている。ざっと見て10組はいそうだ。見えていない場所や交代の要因も含めれば下手をしたら100人を超える規模かもしれねえな。ちょっと予想以上だ。
とりあえず1軒、1軒、家の中を確認していく。家の中は本当に簡素なもので、木の根が盛り上がった床の上に布に干し草か何かを詰め込んだようなペラペラの布団が敷かれているくらいで装飾を施した家具のようなものは一切無かった。木の家だから炊事場は家の外に作られるのが当たり前のようなので家の中の印象としては非常にさみしいものがある。まあ子供のいるらしき家なんかは子供用のおもちゃが散乱していたりしたがな。
近場から順番に家を探していったが、アルラウネについては全く発見できなかった。誰か寝ていると気づいて喜んで覗いてみたら里を占拠していると思われるやつらの仲間だったりした。嫌な予感が沸々と湧き上がる中、外周からぐるぐると回るようにして中央に生えている大きな木を目指して進む。結局そこに着くまで誰一人としてアルラウネを見つけることは出来ず、そしてそれまでに発見した占拠犯は70名を超えた。
里の中央、20メートルは超える大樹の元はその木の根がまるで舞台のように平らになった広場があり、その広さは学校の体育館ほどの広さだろうか。明らかに不自然なつくりなんだが、まあ動く蔦の防壁とかに比べればまだ常識の範囲内かもしれねえな。
まあそれは良いとして問題はその舞台の上にアルラウネたちが集められていることだ。というよりはほとんどのアルラウネが横になったまま微動だにしていない。外傷は見たところねえし、胸もゆっくり上下しているようだから死んではいねえと思うが。大体200人くらいか?今まで回ってきた家の数から考えても全てのアルラウネが集められているようだな。
その舞台を取り囲むようにして20人ほどの占拠犯たちが周囲を警戒しており、唯一起きている蔦が成長しすぎたのか丸い球体のようになっているアルラウネ?とフラウニと確かイェンとか言った俺を追いかけてきやがった男、そしてどこかで見たことがあるような赤髪で緑のうろこの爬虫類系の獣人の女が対峙していた。
舞台の裏側からこっそりと様子を伺うリク。しばらくして地の底から響くような音が流れ始め、倒れていたアルラウネたちが幽鬼のように起き上がった。
次回:ショータイムだ
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




