とりあえず樹海へ入る
ユーミルの樹海。
正確な広さなんかは全く分からず、その前人未到の中心部を目指して入った冒険者たちを飲み込んでいく魔の森として有名。
とは言え森全体がものすごく危険かと言われればそうではない。奥に入っていくにしたがって魔物の強さが強くなっていくので外周部分で採取や狩猟を繰り返すならば豊かで比較的安全な森ともいえる。
それでも中心部を目指す冒険者がいなくならないのは、その中心部にお宝が隠されているとまことしやかに囁かれているからだ。冒険者たちはそれを夢見て今日もまた挑戦し続ける。
「とは言うが、確かに魔物は多いな。」
「私の魔法で一発だから別にいいじゃない。」
「まあ、そうなんだけどな。」
俺を先頭に、カヤノ、ミーゼと続いてユーミルの樹海を進んでいく。今進んでいる外周部に関しては木がそこかしこに茂っていて薄暗くて空気が重いっていう樹海のイメージとは違い、所々に木漏れ日の差す比較的見通しのいい森だ。
そうなんだが、魔物との遭遇率が半端じゃない。今まで旅してきたときなんか、多くても2時間に1度くらい遭遇するくらいだったのに比べ、この森に入ってから20分に1度は遭遇しているような気がする。
まあとはいってもまだまだ外周部分なので出会うのはゴブリンとかフォレストラビットなんかの弱い魔物ばかりだ。ミーゼの言う通り後方からのミーゼの魔法一発で死ぬから時間のロスは少ないんだがな。
ちょうどあった切り株に腰を下ろしながらカヤノがゴブリンを解体して魔石と角を取るのを待つ。
俺が前衛で直接魔物と対峙し、ミーゼが後方からの魔物に注意しつつ魔法で攻撃しているのでカヤノの出番は今のところは無い。と言うかカヤノが直接戦う状態ってのはまずい状況の時ってことだしな。
カヤノの役割は回復役だ。直接戦闘しなくてもいるだけで大事なんだが、せめて解体くらいはさせてほしいと言うカヤノの要望でこういう形になった。
解体でナイフに着いた血なんかを布でぬぐいカヤノが立ち上がる。その様はもう堂々としたものだ。解体だけで言えば俺やミーゼよりももうよっぽどうまいからな。
「お待たせしました。」
「んじゃ、行くか。」
立ち上がり解体したゴブリンをいつも通り地中に埋めて再び歩き始める。
普通は地中に埋めないとアンデットになる可能性もあるんで埋めたり燃やしたりするのが常識なんだが、この森に関しては特に問題はないらしい。死んだ奴は生きた魔物にもれなく食われるからだそうだ。
確かにこんだけの頻度で戦っていちいち埋めたり燃やしたりなんてかなりの手間になる。まあ俺の場合は簡単に埋められるので埋めちまうが。
道は聞いていた通り、獣道よりはましと言った感じだった。結構な行き来があるようで何人かとすれ違ったし、道を見失うようなことはねえが、それでも凸凹とした舗装されていない道なので普通の道よりは体力を使うだろう。
とは言えカヤノにとって森はホームみたいなもんだし、ミーゼもカヤノに付き合って森を探索することも多かったので慣れている。俺は言わずもがなだ。つまり俺たちにとっては特に問題ないってことだな。
午後3時ごろに森が少しだけ切り開かれた場所へとたどり着いた。一応ここがエルフの里との中間地点で休むのに推奨されている場所だ。無理して進むことも出来るが日が落ちてから森を歩くなんて遭難すること請け合いなので休むことにした。
切り開かれた範囲は縦横だいたい10メートルくらい。所々にたき火した後が見えるので日常的に利用されているんだろう。とは言え今は誰もいねえが。
「じゃあ俺は俺のコテージを作って適当に料理しておくわ。カヤノとミーゼは・・・」
「薪集めですね。」
「そうだな。ミーゼ頼んだぞ。」
「わかってるわよ。」
森へと入っていく2人を見送り、地面を操作して俺のコテージ(改良版)を作る。外見に関しては前と同じただの立方体だが中身がグレードアップした。
部屋が多くなり、トイレがしっかりとした造りになったのは言うに及ばず、特筆すべき点はシャワー室が出来たことだ。
普通の土なら溶けてしまうところだが、その部屋だけはがっつりと気合を入れて固めることで何とか水に溶けない部屋を作ることが出来たのだ。水はミーゼの魔法で補給する仕組みだが、温めることが出来ねえからとりあえずシャワーだ。水を温めることのできる道具が手に入ったら風呂も作ろうと画策しているがな。
旅するうちに慣れた作業なので結構短時間で作成が終わっちまったな。料理を作り始めてもいいんだがカヤノとミーゼが帰ってくるまでにはしばらく時間がかかるだろうし、どうすっかな。わざわざ作るのに冷めた飯ってのも嫌だしな。
突貫してきたゴブリンを蹴り飛ばしつつ休憩所を見る。
ただ切り開かれただけの空間だ。テントとかを張るなら便利っちゃあ便利かも知れねえが、地面も凸凹だし、今のゴブリンみたいに魔物の侵入も防げない。使いにくいよな。
よし、カヤノたちが帰ってくるまでちょっと改造しちまうか。
1時間ほどしてカヤノとミーゼが帰ってきた。その背中には薪になる木の枝が結構たくさん背負われていた。やっぱり森だと集めるのが楽みてえだな。
「おう、お帰り。」
「お帰り、じゃないわよ。何なのこの変わりようは!?」
「暇だったからな。ちょっと整備してみた。」
「ちょっとじゃないですよね。」
そう言いながらカヤノとミーゼは休憩所を見回して驚いている。俺的にはそう大したことはしてねえんだがな。カヤノが近くにいない状態であんまり頑張りすぎると俺が寝ちまうからちゃんと力はセーブしていたし。
まず行ったのが地面を平らにすることだ。テントを張る冒険者が所々平らにしていたみてえだが、面倒なのでこの休憩所全体を平らにならした。
次に作ったのが井戸だ。幸いなことに15メートルも掘れば水が出てきたので軽く周囲を固めて今は放置している。俺たちにとっては今のところ不要なものだが、もしかしたら必要になることがあるかもしれねえしな。どっちにしろ水が落ち着くまでは飲めねえから今は丸く作った土の蓋で穴をふさいでいる。
使うためには滑車とか桶とかが必要になるんだが、それはおいおいだな。俺たち以外の奴が作ってくれるかもしれんしちょっと期待しておこう。
そして井戸、と来れば次に必要なのは料理するためのかまどだ。複数のグループが使用することも考え東西南北にそれぞれ一つずつかまどを作った。旅の楽しみと言えば食事だからな。携帯食料ばっかってのも気が滅入るだろ。
一応かまどは中心部に近いので、夜の警戒時にはそのかまどの火を中心に移せばそのままたき火になるっていう想定だ。
で、最後が・・・
「じゃあ仕上げだ。フンッ!」
中指と人差し指をくんっ、と上に曲げる。それに呼応するかのように土が盛り上がり、休憩所を囲むように高さ2メートルほどの壁が出来た。
おぉ、と言う歓声とパチパチというカヤノの拍手が心地好いぜ。
「よしっ!」
「よしっ、じゃないわよ!あんた、力はなるべく隠すって言ってたじゃない。何やってんのよ。」
せっかく過ごしやすい環境を作ってやったのに文句を言われるこの理不尽さね。確かに力があるってわかると面倒ごとに巻き込まれそうなのでなるべく隠す方針ではあるんだがな。
「カヤノの安全のためには自重はせん。それに見てる奴もいねぇし大丈夫だろ。」
「・・・」
力を隠したがために対処できませんでしたではすまないのだ。俺のコテージで大体は大丈夫だと思うがリスクは減らしたいからな。
「じゃあ料理作っちまうからコテージに入ろうぜ。」
ミーゼには呆れられ、カヤノもちょっと苦笑していたが気がつかない振りをしてコテージの階段を上がる。
とりあえず今日狩ったフォレストラビットの香草焼きをメインにするか。パンもまだまだ柔らかいからうまいだろうし。
能力を全開にし、一夜城を作り上げたリク。その功績により出世していくリクであったがそれを妬むものたちの妨害が始まろうとしていた。
次回:猿
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




