とりあえず樹海に行く準備をする
エイトロンについて既に11日。情報収集と街の把握を兼ねて街の中の仕事ばかり受けていた。街に着いてはだいぶ詳しくなったが、アルラウネの情報についてはさっぱりだ。
これはギルド長のルージェスが知らなかった段階である程度予想は出来ていたんだがやっぱりちょっとがっかりはするよな。
既に昨日滞在延長の手続きは取っておいたのでまた10日は滞在可能なんだが、この10日ごとの滞在許可システムも面倒なもんだ。
この世界で俺たちのような冒険者が街へ滞在するときには許可証が必要になる。街に入るっていう安全を金で買ってるわけだ。これは冒険者だけじゃなくて商人も同じなんだけどな。
例外としては貴族なんかはいらないらしいが、そんなのに成れるわけねえし、他に滞在にお金がかからないっていうとその街に市民権を持つ必要があるんだ。
この市民権ってのが厄介で、10歳の教会での登録を行った場所が基本的に市民権のある場所になるんだ。カヤノとミーゼは当然バルダックだな。俺は・・・まあ当然のごとくねえんだが。
と言うか俺が冒険者登録するときもその身分証明の紙が無かったんでちょっと一悶着あったんだが、置き引きに荷物を全部取られたって嘘で何とか乗り切ったんだよな。あれは焦った。
まあ、それは置いておいて市民権の話だ。
この市民権だが、最初に登録した街から変更できないかと言うとそんなこともない。旅の途中で知り合って結婚するような奴もいるだろうから出来ない方が不自然だしな。
で、肝心の変更の方法なんだが、買うのだ、市民権を。
まあ買う前提条件として半年以上の連続滞在、そしてその間に犯罪などを起こしていないことっていうのがあって、それを満たしてさえいれば街の役所で簡単に買うことが出来る。
じゃあ長期滞在するなら買った方がいいじゃんって思うだろ。違うんだよ、めちゃくちゃ高いんだよ、値段が。
街ごとに値段は違うらしいが、ちなみにこのエイトロンだと100万オルつまり最低1000万円以上必要らしい。許可証の滞在は10日で25オルだから1年が360日だとして・・・概算1000年以上は滞在可能な訳だ。うん、いらねえ。
一応市民権にもメリットはあるんだぞ。街の中で店を開くなら市民権が必須らしいからな。だから旅商人なんかの夢の1つに市民権を買ってその街で店を持つってのがあるそうだ。
まあなんでこんな話をしたかと言うと・・・
「そうですね。エルフの里で喜ばれるのはやはり金属製の鍋などの調理道具や・・そうそうお菓子や野菜、塩なんかの調味料も人気がありますね。」
「そうなのか?」
「ええ。森の中で暮らすとどうしても鍛冶なんかは難しいですし、畑を耕すにしても場所の確保がなかなか難しいですからね。森の恵みと言っても限りがありますし。」
俺たちが今話しているのは2日目に濃縮ポーションを卸したエルフのやってる薬屋だ。店主の名前はアルケニーゼ、アルゼと呼んでくれと言われているのでそう呼んでいる。
アルゼは俺たちのポーションに最も高い値段をつけてくれた奴だ。濃縮ポーションを薄めて普通のポーションにして、店の雰囲気や商品の値段、ラインナップなんかを考えながら実際に試供品を渡して試してもらった5店舗の中で一番だった。
もしかしたら試供品を渡してない他の店の方が高かったかも知れねえが、まあ全部に渡すとせっかく作ったポーションがもったいねえしな。
俺たちが持ち込んだのは合計30本。その一本当たりの買取値段は3000オル。つまり俺たちは9万オル、だいたい100万円以上を稼いだわけだが支払いは即金だった。
市民権を買って店を出しているやつは成功者って訳だな。
ちなみに金は三等分してギルドに預けてある。ギルドカードさえあれば他支部でも金を引き出せる銀行のようなものだ。たぶんこの金額もギルドカードの内部に情報が入ってんだろうな。
「野菜ね。さすがに森の中をリヤカーは通れないわよね。」
「無理ですね。道を整備しようとしたこともあるらしいですけど、結局魔物に荒らされてしまうのでとん挫したと聞いています。一応頻繁に人が行き来していますから小道は出来ていますし、それから外れなければ迷うことは無いと思いますよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「仕事中に悪かったな。」
「いえ、ポーションを作ったらまたお持ちください。」
にこやかに手を振るアルゼに別れを告げ、俺たちは店を出た。
「とりあえず、鍋とか包丁とかを買っていきましょう。食料はどうする?」
「そうだな、厳選して俺が持てる限界量までは持っていくか。鍋や包丁なんかはある程度長持ちするから売れねえかもしれねえしな。野菜なんかは消え物だから需要はあるだろ。」
「頑張ります。」
「そこまで気合を入れなくてもいいぞ。今回は様子見だしな。」
わざわざアルゼにエルフの里のことを聞きに来たのは俺たちが受けた依頼が原因だ。その名も「エルフの里への道の確認」。
ギルドにそろそろユーミルの樹海へ入る仕事をしたいと言ったらぜひに、とおすすめされた依頼だ。道の確認と言っているが、先ほどアルゼが言ったように一般的にイメージするような道と言うよりも獣道みたいなもんだから危険があるか確認をしろと言うよりも道を覚えろと言う意味合いが強いのかもしれない。
そう思う根拠にこの依頼主はエイトロンのギルドであり、報酬が1000オルと安いことがある。片道2日、向こうでの休息も含めると5日程度かかると予想されるのにこの値段だ。魔物が襲い掛かってくる森で野宿する必要があることを考えても報酬が低すぎる。そのためなのか依頼書の末尾に、エルフの里で売れる物を持っていくことが推奨されていた。
具体的に何を持っていったらいいかは書かれてなかったのでギルドで情報を集めても良かったんだが、どうせならエルフのことはエルフにってことでアルゼに聞き込みをしてみたのだ。
「じゃあ俺は食料系の買い付けに言ってくる。カヤノとミーゼは金物系だな。くれぐれも持っていく量を考えて買えよ。」
「わかってるわよ。売れなくて持ち帰りなんてしたくないし。」
「じゃあ、行ってきます。リク先生も頑張ってください。」
二手に別れて、それぞれを買いに行くことに決めた。
カヤノとミーゼが楽しそうに話しながら人ごみに消えていくのを見送った後、俺も目的の食材を仕入れるべく店へと向かい歩き始める。
確実に必要そうなのは塩だよな。岩塩なんかがあればいらねえかもしれねえがここらで採れるって聞いたことはねえし。あとは砂糖もか。だけど高えんだよな。まあ一応持っていくか。
エイトロンの近くには海と言えばユーミルの樹海があるだけで普通の海なんてはるか彼方だ。そのせいか塩でさえかなりの値段がするし、砂糖はその5倍はする。その値段の割には色がついていたり、結晶が荒かったりと俺にとっては散々な物なんだがこれが普通なのだ。ちなみに塩は1キロで1000オルだ。報酬じゃ買えねえところが涙を誘うな。
塩は人間が生きるために必要不可欠なもんだ。夏なんかは塩分を取らねえと水を飲んでいても脱水症状で倒れたりするしな。
塩は絶対として、一応砂糖も少しは買っていくか。お菓子も人気があるって言ってたし需要はあるだろ。
それにしても日本みてえにビニールの袋にパックされてれば一番いいんだが、残念なことにこの世界の塩や砂糖が入っているのは壺だ。つまりあまり数を持っていけないと言う訳だ。まあ持てる分だけって感じにするしかねえな。
野菜は日持ちするジャガイモやニンジンなんかは定番として、後は萎れるのが早い葉物なんかもある程度は入れていくか。そっちのが需要は高そうだしな。
考えながらの買い物はなかなか楽しく、いつの間にか背中の巨大なリュックが満杯になっていた。
これで準備は完了だ。明日はユーミルの樹海へ入る初依頼。頑張らねえとな。
ついに目的地の樹海へと侵入を試みるリク一行。しかしそこは悪霊が徘徊する呪われた森だった。戸惑うカヤノにリクは非常な決断を下す。
次回:回復魔法で死ぬんじゃね?
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




