とりあえずポーションを売りに行く
ギルドで紹介してもらった宿でカヤノとミーゼが旅の疲れと汚れを落とした翌日、まあ普通の冒険者ならすぐに依頼を受けるところかも知れねえが俺たちは街を散策していた。
俺とカヤノが調薬が出来るし、ミーゼも魔法を使えるのではっきり言って戦力的には鉄クラスに引けを取らない。簡単に言えば普通の銅クラスの奴なんかに比べればはるかにお金に余裕があるのだ。
かといって無駄に散策しているわけでもなく、アルラウネを探しつつ、俺たちが作ったポーションを売るための市場調査に来ているのだ。
ポーションと言えばバルダックのフラウニの店のように、地元に根付いた薬屋が売るのが一般的だ。道端なんかで売っている奴もいるんだがそういう奴はあんまり信用が出来ねえ。ポーションとは名ばかりの効果のない色付きの水を売るような詐欺師もいるしな。
とは言ってもそんな奴に騙されるような冒険者は新人くらいだ。そしてベテランになるにしたがって決まった店で買う傾向が強くなる。
これはポーションの効果が造り手によって変わることが原因だ。
同じ店で買えば、同程度の品質が保たれているし、自分で効果効能が経験上分かっているので使いやすいかららしい。
ここで俺たちのポーションなんだが、まあ俺が作るポーションははっきり言って普通だ。普通の店売りの物よりはいい品質だと自負しているが、フラウニ流の魔力を使ったポーションであるカヤノ製の物に比べるとやはり回復量が違う。
先生が生徒に負けると言うとぐぬぬっとなってしまうが、まあこればっかりは才能の差だと最近はあきらめ気味だ。
と言うか俺は元気ジュースの方ばっか作ってるからな。カヤノもミーゼも好きだし、水分補給は冒険者にとって必須だしな。だからポーションで負けても問題ねえんだよ。
まあそれは良いとして、俺たちのような旅の調薬師が普通に道端でポーションを売ろうとしたって絶望的だ。ならどうするか?
答えは2種類。1つは街の薬屋へ作ったポーションを持っていくことだ。効果を確かめるために数本は無料で譲ることになってしまうが、効果次第では高価で売却可能なのがこの方法だ。
もう1つの方法は冒険者ギルドへ納品する依頼を受けると言うことだ。ポーションのお世話になることの多い冒険者たちへギルドが安く売るための依頼で、ある程度の品質であれば一定の価格で買い取ってもらえ、さらには依頼の成功と言う実績も手に入るって寸法だ。
で、俺たちはと言うともちろん前者だ。現状ギルドのランクを上げても特にメリットが感じられねえし、何より品質の良いポーションを作れる俺たちにとっては売却価格にかなり差が出ちまうしな。
店売りのポーションは大体1本300オルで売られている。とは言ってもこれはポーションの瓶の代金も入っているので最初だけだ。次からは使い終わった瓶を持って来ればその分が値引きされ、半額の150オルで購入が出来る。つまりポーション一本分の値段は実質150オルってことだな。
で、カヤノのポーションがいくらで店に売れるかっていうと150オル以上で売れるのだ。店のポーションより明らかに効果が高いからある意味順当か。ちなみに俺の作ったやつだと100オル前後になる。この時点で50オル以上、つまり一本につき500から1000円違ってきちまうので俺のやる気も下がるってもんだ。俺が作っただけ損するんだからな。
ちなみに売却した俺とカヤノのポーションだが、瓶の値段を抜いた価格で俺のは200オル、カヤノのは350オルで売られていた。おいおい、そんな値段で売れるのかよと思ったのだが、それでも効果を検証するために薬屋に渡したポーションを使った冒険者の口コミなんかでぽつぽつと売れていた。まあ稼いでいる冒険者にとっては生命線にお金をかけることは無駄じゃないと承知しているんだろうな。
一方でギルドの買取は一本につき瓶の値段抜きで一律50オルだ。安っ!と最初は俺も思ったんだが実情を聞いて納得した。はっきり言ってギルドのポーション買取の依頼は見習い調薬師たちが店で売ることが出来ない品質のポーションを買い取っているというのが現状なのだ。
どうりでランクが木と銅ランクのはずだ。
いちおう一定の品質以下の物についてはギルドではじいているらしいし、ギルドでの販売価格もそのままの50オルと安いので新人などの支援の意味が強いんだろう。
若いうちはギルドの効果が低いポーションを、稼げるようになって来たら店売りの高いポーションをって感じで住み分けてるんだな。
まあそれは良いとして・・・
このエイトロンの街はちょっと面白い。ユーミルの樹海が近いから木造建築が多いっていうのも今までの街とは雰囲気が違って新鮮ではあるんだが、やはりエルフや獣人が多いっていうのが目を引く。エルフは想像通り美形が多いし、獣人はいろんな種類の獣人がいるので興味が尽きないんだよな。
あとは店のラインナップと言うか店自身もかなり偏りがある。
はっきり言って武器屋とか防具屋、薬屋が乱立しているのだ。冒険者が多いし、それだけ需要があるってことなんだろうが、今まで通ってきた街は武器屋が4店舗あったところが最高だった。まあバルダックは内の街を散策できなかったから良くわからんけどな。
それに比べてエイトロンはすでに武器屋は5軒、防具屋が4軒、薬屋が3軒と確実に多い。飲食店なんかも多少多い気がするがその増加率に比べて、この3種の店は多すぎる。だってまだ大通りだけなんだぜ。大通りは門から中心部へと4本走っているので単純計算でこの4倍以上は店があるはずだ。潰れねえのかな。
最初は俺たちも適当な薬屋に入ってポーションを売って、アルラウネを探しつつプラプラする予定だったんだがこの状況は想定外だ。薬屋も結構ピンからキリまであるようで3店舗を比べただけでも商品のラインナップも違えば値段も違うためどこで売ればいいのか判断に迷っているのだ。
「あの、リク先生。大丈夫ですか?」
「おう、問題ねえぞ。」
「リクは問題ないかもしれないけど、ちょっと見た目がね。」
リヤカーは散策の邪魔になるかもしれんと思ってとりあえずポーションが入った箱を2箱だけ持って歩いていたんだが、箱自体が一抱えするほどの大きさなので結構重い。とは言っても俺にとっては気にならない程度の物だ。
だが確かにミーゼが言うように見た目が問題だった。2箱重ねて持っているので箱の高さはあごの下辺りまであり、正面から見たら俺の太もも辺りから顎下まで四角い箱でそこからにょっきりと手足と顔が生えているように見えるようだ。
子どものころに段ボールを切ってロボットごっこをしたもんだがそんな感じだ。
すれ違う人からの視線を感じてはいたんだが、やはりそうか。
いや、言い訳をさせてもらうならこんなに目立つつもりは無かったんだ。適当な薬屋でポーションを売っぱらって自由に散策するつもりだったしな。
目に見える範囲に2軒も薬屋があったのがそもそも悪いのだ。うん、俺は悪くねえ。
その後も街の散策を続け、見つかった薬屋は合計で12店。もしかしたらフラウニのようにアルラウネがやっている店があるかもしれんと頑張って探したんだが、それは無かった。
もしアルラウネがやっていたらお近づきになる意味も込めてそこで売ろうと考えていたんだがな。
そして結局ポーションを売ったのは最初に入ったエルフがやってる薬屋だった。
街には詳しくなったが、歩き通しでカヤノとミーゼはぐったりしていたし、俺も注目を浴びすぎて精神的に疲れた。ただ街を散策しただけなんだがな。大きすぎるぜこの街は。
ポーションを売りさばくために街を練り歩くリク一行。やっとの思いですべてのポーションを売り払ったリクに怪しい影が近づく。
次回:樽を落とすお仕事
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




