episode1 君と出会った梅雨の日
6月は祝日がないから嫌いだ。
これは社会人、学生問わず思うことだと俺は思う。
俺は高校3年生のうんざりするような湿気が立ち込める6月を過ごしていた。
夏に向けてじわじわと上がる気温といつ何時でも降り注ぐ雨のせいで6月が嫌いだ。
俺らのクラスに転校生がやってきたのはそんな6月の中旬頃のことだった。
やけに暑く、冷感ブランケットを蹴飛ばした6月17日の朝。
リビングの方から誰かが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
「陸人、早く起きなさい。間に合わないわよ。」
慌てて起き上がると、握りしめていた目覚まし時計は8時を指していた。
「やべぇ、間に合わねぇよ。」
慌てて制服とスクバを掴んで一階に駆け降りる。
「だから昨日、夜更かししたらだめって言ったのに。」
という母の小言をスルーし洗面所で顔を洗う。
寝ぼけた顔に冷水をぶっかけ、無理やり意識を起こす。
「もう自転車じゃ間に合わないでしょ。バスで行ったら?」
顔を洗い、雑に歯磨きをしていると最終警告を告げに母が洗面所にやってきた。
「わーってるって。」
不機嫌にそう言い返して口をゆすぎ、制服に着替えるが、ネクタイを結んでいる時間はない。
慌ててブレザーのポケットにネクタイをねじ込み、ローファーを履いて鞄をひっつかみ玄関を飛び出した。
「間に合った…。」
ネクタイを結びながら廊下を進み、3年2組の教室の扉を開く。
俺が席に着くなり、幼稚園からずっと一緒の学校に通うカオリが、俺の机を叩いた。
「ねぇ陸人、今日うちのクラスに転校生来るって知ってた?」
「いや、今初めて聞いたけど。」
「さっき委員長の朝倉さんが言ってたからほんとだと思うんだけど、可愛い女の子らしいよ?」
「ふーん。だからあの辺色めき立ってんのか。」
クラスの一角で男子が何やら話し込んでいるのを眺めながら呟いた。
「職員室で見た子が言うには黒髪ロングの美人さんだって」
ちらりと俺を見るカオリの視線を感じながらも、僕は机に肘を付きあくびをした。
「何?寝不足なの?」
そう言いながら俺の後ろの席に座るカオリは、弱小バレー部の副部長でポジションはセッターだった。
「昨日のサッカーの試合、深夜にテレビでやってたからさ。あれ見てたら寝るのが遅くなったんだよ。」
「そんなにサッカー好きなのに何でやめたんだか…。」
「その質問何回目?ここのサッカー部が肌に合わなかったって何度も説明しただろ?」
俺はムキになってカオリに詰め寄った。
「ば、バカ近いわよ。」
「いてっ、クリアファイルで殴んなよ。」
「顔じゃなくて肩にしてあげただけ感謝しなさいよね。」
「はいはい、そりゃどーも。とりあえずその美人転校生が来たら起こしてくれ。」
俺は机に突っ伏し、2度寝を試みた。
「はーい、ホームルーム始めるよー。席ついて。」
担任の声が響き、俺は慌てて身体を机から起こした。
「今日は転入生が来てます。挨拶しますよー。ほら、転入生入っておいで」
寝ぼけ眼で黒板を眺めていると、黒髪ロングをたなびかせた白い肌が特徴的な女子生徒が教室に入り、黒板前へと立った。
「はーい、彼女の名前は茅ヶ崎琴美さんです。茅ヶ崎さん、ご挨拶をどうぞ。」
呼ばれた女子生徒はお辞儀をした。
「初めまして、家庭の都合で引っ越してきました。茅ヶ崎琴美です。…よろしく。」
そう言って会釈した転校生の表情に少しの居心地悪さを感じた。
「はい拍手。」
担任に促されるまま、俺達は拍手をした。
「とりあえず机増やしてみたから、みんな出席番号順に席を変えてください。茅ヶ崎さんは、立花くんの後ろの席、彼が立花くんね。」
担任がテキパキと指示を出しながら、俺を指して説明した。
「よろしく。」
俺が振り返りそう言うと、彼女は黒髪を耳にかけ、
「よろしく、立花くん」と呟いた。
その一連の動作が大人びた女性のようで少し驚いた。
「ついでに彼女のこと校舎案内したってくれ。」
「え?俺がっすか?」
「帰宅部の立花くん以外に適任が見当たらないんだが?」
昼休み、担任から頼まれた校舎案内を切り出す為、女子生徒が群がる中心にいる転入生に声をかけた。
「茅ヶ崎さん、ちょっといい?俺昼休みに校舎の案内するように担任の佐藤に言われてんだけど、もういける?」
ちらりと後ろの席を見ると、転入生は貼り付けたような笑顔で周りの対応をしていたようでこれ幸いと立ち上がり周囲に「ごめんね」と挨拶をして俺の隣に並んだ。
「ごめんなさいね。先生の無茶ぶりでご迷惑おかけして…。」
黒髪を爽やかにたなびかせ、俺の目の前に立った。
「そろそろ愛想笑いも限界だったろ。表情筋ピクピクしてるぞ。行こうぜ。」
「あらそう?完璧だと思ったんだけどな。」
転入生はいたずらっ子のような微笑みを浮かべ、俺にだけ聞こえる声でこっそりと呟いた。
「こっちが理科室で、奥が準備室。たまに社会科で映像見るのに使ったりもする。次こっち部室棟、渡り廊下は風強いから気をつけて。」
転入生に説明しながら隣の棟へ向かう。
「下の1階は運動部、2階のここは文化部、3階は放送部と生徒会室と、今は廃部の天文学部の部室がある。」
「立花くんは何部なの?」
唐突な質問に驚き振り向いた。
「え?俺?…俺は帰宅部。」
「そっか…」
少し気まず雰囲気が流れ、それをぶち壊すかのように転入生が突然口を開いた。
「ふーん。ここの上が天文部ねぇ…。天文部の部室って見られたりするの?」
「あぁ、鍵開いてるから見れるけど。行きたいの?」
「うん、少し。いいかな?」
転入生に言われるまま階段を上り、放送部の部室をすり抜けた奥の突き当りにある天文学部の部室を開けた。
入り口付近にある電気を付け、転入生を中へ誘導した。
転入生は廃部になった天文部に一歩踏み出し室内を見回すと、長い黒髪を風にたなびかせて振り向いた。
「手慣れてるね。もしかしてここで授業サボったりしてる?」
「はは、まぁ当たらずとも遠からずってとこかな。」
転入生の探りをのらりくらりとかわした。実際何度か昼寝場所に拝借したからな。
少し埃っぽい部室の匂いに顔をしかめ、俺はカーテンと窓を開けた。
「えーっと、茅ヶ崎さん?」
「茅ヶ崎でも琴美でも自由に呼んで。」
そう言うと茅ヶ崎は、まだ埃っぽさが残る天文部の中を歩きだした。
「じゃあ遠慮なく、茅ケ崎。天文部は一応廃部中なんだけど、もしかして興味あるの?」
俺は部室を見回し、天体望遠鏡を覗き込みながら茅ヶ崎に問いかけた。
「うん。私、夏の星座が好きなんだよね。知ってる?夏の大三角形。」
「あぁ聞いたことはあるくらいかな。アルタイルとかなんとかだよな?」
昔、カオリと見た星座図鑑の知識を絞り出しながら答えた。
「デネブ、ベガ、アルタイルだね。」
茅ヶ崎がすらすらと夏の大三角形を答えながら、望遠鏡を覗き込む。
「ちなみに、この学校は何人いたら正式な部活動として認められるの?」
「えっと、確か5人の部員と1人の顧問を見つけたらいいはず…。」
俺は生徒手帳をポケットから取り出しそう説明した。
「ふーん…。じゃあその部員数が達しなくてここは廃部になっちゃったんだね。」
茅ヶ崎は近くにあった天体模型を手に取り、呟いた。
「去年の3年生が引退してから、廃部になったんだよな。確か。」
少し埃をかぶった地球儀を回しながら、俺はうろ覚えに言った。
「立花君は、星見るの好き?」
「天体観測なんてしたこと…、あったわ。小学6年生の林間学校の時。冬の大三角形。えーっと。」
「シリウス、プロキオン、ベテルギウス。」
「そう!それだ。それ見た以来だな。」
「夏の星も綺麗だよ。」
窓を開けた茅ヶ崎が真昼の空を眺めながら三角形の線をなぞる。
『キーンコーンカーンコーン』
タイミングが良く予鈴が鳴る。
「予鈴鳴ったな。戻ろうか。」
そう言って慌てて教室へと戻った。
茅ヶ崎ってなんか不思議な奴だな。俺は心の中でそう呟いた。
「今日はここまで。明日は小テストするから絶対忘れんなよー。」
ホームルームが終わり、部活に行く連中はそそくさと荷物を持って教室から離れていく。
帰宅部の俺には無縁な話だ。
ゆっくりと荷物をまとめていると、後ろの席から背中を定規で突かれる感覚があり、振り返った。
「どうしたの。」
「3人見つけたよ。」
「何が?」
「天文部の部員」
「…いや嬉しそうに三本指立ててるけど、俺全然何のことかわかってないんだけど?」
俺の問いに茅ヶ崎は少し身を屈めて、ぽつりぽつりと呟く。
「天文部、作ってみたいんだよね。それでちょっと裏技使ってみたの。」
「裏技?ってかみんな受験勉強とかでそれどころじゃないんじゃねぇの?」
「AO推薦で他に行く人とか、内部進学で余裕がある人、まだ受験を控えてない人を中心に選んで声かけてみたの。」
「は?いつそんなタイミングが合ったんだよ。」
「ふふ、それは内緒。」
確かにうちは付属高校なのである程度の成績があればそのまま大学にも進学できる。
後ろに気配を感じ、振り向くとにやりと微笑む幼馴染が立っていた。
「あっ、お前もしかして…」
「掛け持ちでいいって言うしほぼ幽霊部員になるけど、一応春高バレーでうちら3年は引退したんだから。」
「なんだよそのしてやったり顔は。」
俺とカオリで睨み合いになる。
「あとは、帰宅部の水無月さんと、書道部の田中くんが掛け持ちで入ってくれるし、副担任の佐藤先生にお願いしたらOK。元々去年まで顧問やってらしたんですってね。」
俺は転入生、茅ヶ崎の根回しと人材収集能力に舌を巻いた。
あれよあれよと部活動申請書に名前を書かされ、それを持った茅ヶ崎とカオリが生徒会長を捕まえに行ったので、仕方なく天文部の部室へと向かった。
帰宅部の水無月さんに身に覚えがなかったが、部室に着くと水無月さんであろうショートカットの女の子が部室の掃除をしていた。
「あ、あの、君が水無月さん?」
俺が問いかけると小さくこくんと頷いた。
「掃除、手伝うよ。」
そう言って彼女の足元にあるバケツにかかった雑巾を手に取るときに、上履きの色を見て驚いた。
「えっ?1年生?」
思わずそう声に出してしまったようで、水無月さんは少しびっくりした顔で俺を見て、
「はい、立花先輩ですよね?えっと、琴美先輩に休憩時間の自販機前で声を掛けられて…。興味があったので入ることにしました。よ、よろしくお願いします。」
小さくなってお辞儀する水無月さん改め後輩の水無月に戸惑いながら会釈を交わし、掃除を始めた。
俺が窓を拭いている頃、扉が開く音がして振り返ると、高身長の男子学生が暖簾をくぐるかのごとく扉をくぐって入ってきた。
書道部の田中って、隣のクラスのイケメンかよ。
俺と水無月さんが驚いて手を止めると、この雰囲気を察知した田中が、
「天文学部の部室ってここ?」
と確認する様に俺に聞いてきた。
「嗚呼、ここだけど。お前、書道家の家系の書道部一筋の田中じゃねぇの?」
俺は、よく女子から流れてくる噂話通りの印象をそのままぶつけた。
「秋の展示会まで暇だって言ったら、廃部した天文部再建するから高校最後の思い出に入ってみないかって誘われたんだよ。あぁ、お構いなく。僕はここに座ってるから。」
長机に鞄を置き、パイプ椅子に座る田中を見ながら、俺は茅ヶ崎の度胸と勢いに改めて感心した。
再び窓ガラスに向き直り、窓を拭いてると後ろから田中の「1年生?」という驚く声が聞こえた。
俺もそう思ったよ田中。奇遇だな。
「あれ、もうみんな集まってる。」
のんきなカオリの声が聞こえてきて振り返ると、部活申請承認のハンコが押された申請書を持った茅ヶ崎とカオリが部室の扉から顔を出して部室を見回していた。
「早く入って来いよ。もう掃除も終わって、ただただ雑談してたんだからな。」
「ちょっと陸人怒りすぎだし!掃除はありがとうだけど、私達だって遊んでたわけじゃないんだからね?」
「じゃあ何してたんだよ。」
むっとしたカオリが俺の向かい側、水無月の隣に座った。
「じゃーん、生徒会長の判子もらってきましたー。」
茅ヶ崎がみんなに見えるように掲げた申請書にはきっちり生徒会長のハンコが押されていた。
「正式に提出するのは明日だけど。そう、部長は立花くんね。」
「はぁ?なんで俺?そんなこと聞いてねぇぞ。」
俺が目を丸くして立ち上がると、茅ヶ崎が両手を広げた。
「…落ち着いて。とりあえず部室はここ、顧問は佐藤先生。部員は今いるみんなです。」
困ったように眉を下げ、みんなを見回す。
「とりあえず、挨拶しましょ。、時計回りで田中くん。」
ぱんっと手を叩き、茅ヶ崎が自己紹介を田中へ促す。
「3年3組、書道部の田中裕理です。秋までは特に展示会も発表会もないので掛け持ちで入りました。よろしく。」
「時計回りってことは次、水無月ちゃんだね。頑張って。」
少し緊張した表情の水無月にカオリが声をかける。
「はい、1年1組の水無月みなみです。先輩に入りたい部活無いなら作るからおいでと誘われ、入りました。終バスまでしか活動できませんが、よろしくお願いいたします。」
「私、今日この学校に転入してきました。茅ケ崎琴美です。みんな自由に呼んでください。部活の出席は絶対ではありませんが、来てくれると嬉しいです。」
「はーい、次3年2組の筒井香里です。元バレー部セッターでしたが、春高バレーで負けちゃって引退したので、セカンドキャリア?みたいな感じで琴美ちゃんに誘われて入りました。まぁ後輩にアドバイス行ったりするからほぼ幽霊部員になるけど、みんなよろしくね。ほら、最後なんだからびしっと締めなさいよ。」
カオリはにこやかに自分の挨拶を終えると、俺を指さし注文をつけた。
「えーっと、アルタイルを知ってるだけで勧誘されて入ることになりました。同じく3年2組の立花陸人です。元々帰宅部だったのでまぁ新しいことできるならちょっといいかなって思ってます。よろしく。」
全員の自己紹介が終わると、茅ヶ崎がホワイトボードを引っ張ってきた。
いやそれ何処から持ってきたんだ。
「じゃあ、活動内容言いますね。まずは、天体の観測。先輩たちが残したこのノートと部屋中にある天体図鑑を元に勉強していきましょう。今は初夏で暗くなるのも遅いけど、暗くなくても観測できる星はあるので、大体18時くらいにはこの天体望遠鏡をもって屋上に行きます。屋上の使用許可も、明日には取り付けてくるから安心してください。大体この時期から夏にかけて見れる星に関してまとめた資料あるから配るね、回していってください。」
俺は茅ヶ崎の用意周到さに圧倒された。
他のみんなも同じようで、驚きながら資料を回し、それぞれ確認し始めた。
ー初夏の天体観察についてー
・金星と木星の大接近(6月上旬)
日没後の西の低空で、金星と木星が寄り添うように輝く。最接近時には肉眼でもしっかり確認できるほど華やかな光景を観測できる。
・惑星のパレード(6月中旬)
水星の東方最大離角の前後には、西の低空に水星・木星・金星が並び、そこに三日月も加わりパレードのように連なる光景を観測できる。
「こんな資料いつ作ったんだよ。」
田中が不思議そうに茅ヶ崎を見る。全くもって同感だ。席が前後なのに全く資料を作っているような節を感じることはなかった。
「え?判子もらいに行きながらスマホで文章作成して、職員室のコピー機使ってコピーして持ってきました。」
「えっ、そんなことしてたの?全然気づかなかった。」
一緒にいたはずのカオリまでそういうもんだから、みんな驚いた。
「謎に行動力があるのは父に似てるんだそうです。」
少し恥ずかし気に琴美が呟いた。
「まぁとりあえずはこの観測を目指そう。ほらスマホ出して?みんなでグループ作ろう。」
カオリが話を変え、各々ポケットを探りスマホを取り出し、みんなと連絡先を交換し始めた。
数秒後には、天文部のグループチャットの申請が来ていた。お前も仕事早いな。
「えっと…とりあえず今日は、曇りだしこれで解散します。ちなみに部長は立花君、私茅ヶ崎が副部長です。ただ形式的なものなので何かあったら何でも言い合いましょう。」
そうして今日の天文学部の活動はお開きとなった。
「陸人、帰ろ。」
「今日は自転車じゃねぇぞ。」
「じゃあバスじゃなくて歩こうよ。健康維持の為にね。」
当たり前のように隣を歩くカオリと歩きながら、帰路に着く。
「茅ヶ崎って不思議だよな。」
「琴美ちゃん?確かに最初はクールビューティだと思ってたら行動力あるし、不思議な求心力あるよね。中学時代の陸人みたい。」
「普通転入初日に部活復活させるか?その発想がすげぇよまじ。」
「いい子だよね、琴美ちゃん。色んな人に分け隔てないし。というか人のパーソナルスペース図るの上手。」
「琴美か…。名は体を表すってあるんだな。」
「ちょっと、私に見ながら言わないでよ。私だって気品あふれる香織、なんだからね」
ぶつぶつと何かを言うカオリを横に、今日の怒涛の一日を振り返る。
茅ヶ崎琴美、転入早々に他クラスや後輩にまで声をかけて廃部だった天文部を建て直した。生まれて初めて見た人種だ。
俺は彼女に間違いなく振り回されている人間だが、それすら不快に感じないあの人間力はどこから来たものなのだろうか。
男女に隔てないコミュニケーション能力と、我を通す力にそれを不快にさせない人柄。人生二週目か?
「ねぇ、陸人ってば聞いてるわけ?」
「んぁ?なんだよ。」
「だから、今年もあるでしょ、緑台の夏祭り。」
「嗚呼、じいちゃんが今年も屋台出すって張り切ってたよ。」
「家族総出で屋台の手伝いするから、最後の花火もどうせ一緒に見てくれる人いないでしょ?」
カオリに図星を付かれた。うちは代々祭りごとになると火が付く家庭で、じいちゃんが発起人となり、両親も駆り出されて屋台をやる。小学五年生からずっとそうで、その時からずっと俺は最後の花火大会をカオリとベンチから見ていた。
「うるせぇ…。図星ついてくんじゃねぇ。」
「ふふっ、毎年のことだよね。今年も居ないんだ?一緒に見てくれる人。」
「別にもう楽しみにもしてねぇよ。家で過ごしててもいいかなって思ってるよ。」
「嘘!だって陸人小さい頃から花火大好きじゃん!花火大会終った後もやりたいっていうから毎年手持ち花火やるくせに。」
そんなやり取りをしていたらあっという間に家に着いた。
俺の家の隣の一軒家がカオリの家でカオリは軽く駆け出し、
「仕方ないから今年も付き合ってやるかー」
と言いいたずらっ子のように微笑んで家に入っていった。
仕方ないってなんだよ。そうぼやきながら、自宅に辿り着いた。
今日は怒涛のように過ぎていった。疲れた。自室にまっすぐ向かい、ベッドに倒れこんだ。サッカー部の練習よりも疲れたかもしれない。瞼が降りてくる。抗うことなく受け入れ、そっと寝落ちした。
6月中旬なのに寝苦しさで目が覚めた。
時刻は朝7時。ちょうどいい時間だ。目覚まし時計を止めて大きく伸びをした。
今日は、延期になっていた天文学部の天体観測会の日。梅雨のせいで全くできていなかった天体観測会が今日やっとできる。
少なからず楽しみな自分がいることに少し驚きつつ、洗面台へと向かった。
いつもより早く起きた為、気持ちがよくいつもより朝ご飯をゆっくり食べてネクタイも鏡を見ながら結んだ。
「いってきまーす」
祖父母に声をかけて自転車に乗る。
まとわりつくような湿気を振り払うように下り坂を自転車で下っていく。
今日の天気予報は曇りのち晴れ、夕方には晴れる予報だ。
自転車を漕いでバイクに抜かされながらも小高い丘の上にある高校を目指していく。
「りっちゃんおはよう。今日なんかすっきりした顔。」
教室に着き、席に座るなり後ろから声が飛んできた。
「おお、琴美おはよう。今日なんかいつもより早く起きられたんだよな。」
この数週間、部活以外でも話す機会が多く、茅ケ崎と俺は、りっちゃん、琴美と呼び合う関係になっていた。
「今日英語の小テストですね。」
「…昨日早く寝たから今日早く起きられたわけでさ。つまり、言いたいことわかるよな?」
「予習する前に寝ちゃったと。」
「ちくしょう。すげぇいい目覚めだったのに。代償がでかすぎんだろ…。」
「じゃあ…10分だけノート貸してあげます。」
神の恵みならぬ琴美の恵みで、この後すぐに控えた英語の小テストを乗り切ることが出来た。
小テストの後、俺をからかいに来たカオリにドヤ顔で返せるほどには、いい点を取れた。
俺らは部室が出来てから習慣的に昼ご飯を部室で食べるようになった。
今日も弁当を持って立ち上がった。
「先輩、おはようございます。」
尻すぼみな挨拶が聞こえてきて振り返ると水無月が立っていた。
「水無月、おはよう。購買派だっけ?」
「い、いえ、友達に頼まれてて。」
「そうか。じゃあ、部室でな」
少しの違和感を覚えながら、部室へと階段を登ろうとした時、階段の上から琴美が降りてきた。
「それ本当に友達?」
「琴美?急にどうした」
そう問う俺の言葉をすり抜け、水無月に近付いていく。
「い、いや、実はクラスメイトで話したことない3人組に頼まれて…。断れる空気じゃなくて…。」
水無月は俯きそう答えた。そしたら琴美が水無月の手をパシッと掴み、
「りっちゃん、1年1組の教室ってどこだっけ?」
「おいおい、殴り込みかける気かよ。」
「そんなことしません。平和的解決を望みます。」
貼り付けたような笑顔でそういう琴美の勢いに負け、俺は1年1組まで案内した。
琴美は水無月の手に握られた500円玉3枚を教壇の上にばんっと置き、
「天文部所属、水無月みなみをお使いに出した人、今すぐ出てきてください。」
とにっこり笑った。
上級生に怖気ついたのか,それまで騒がしく笑い声を立てていた1組の女子生徒3名が立ち上がる。
「うちのみなみは購買に用がないそうです。預かってるお金、取りに来て。」
真顔で問いかける琴美の凄みにこっちまで冷や汗をかいた。
「はい…。」
慌てた様子で500円玉を取りに来る女子生徒に何の温度もない声で、
「次からは上級生の指導が入る前に自分たちで気付けるといいですね。」
と言った琴美とただただ隣で驚いた顔をしていいる水無月を引っ張って教室を出た。
「琴美、怖ぇよ…。水無月固まってんぞ。」
「あっごめんなさい、みなちゃん怖かったですか?私も昔上級生にそういうこと言われたことあって…。ああいう芽は調子に乗って伸びる前に摘んだ方がクラス的に見てもいいかなって思ったんですけど…。」
先程とは打って変わっておろおろとする琴美の手を水無月は取り、
「小学生の頃から助けてもらったことなんてなかったから…。本当は先輩みたいに言い返せたらってずっと思ってて…。」
小動物みたいにぽろぽろと涙をこぼす水無月を琴美と慌てて部室まで連れて行った。
飛び込んだ部室には田中とカオリがすでに来ていて、涙を流す水無月に驚きながらも椅子を引いたり、お茶を入れたりと動き始めた。
「嫌なことは嫌でいいんです。あなたが誰かにとっての都合のいい人になる必要なんてないですから。」
「ありがとうございます。先輩。ほんとに、私、嬉しくて…。」
2人が会話している間に田中とカオリに情報を共有する。
「先輩かっこよかったです。毅然としていて、本当に頼もしかったです。」
「先輩なんてそのためにいるんだから。後輩を守ってこその先輩だからね?気を使わないでいくらでも相談しな。せっかく部活も一緒なんだから、ね?」
そう周りを見渡すカオリに俺は頷いてみせた。
「後ろに立つ者の前に居る者としては当然だな。」
「田中くん、難しい言い方しないでー。みなちゃん、せっかく先輩がこんなにいるんだから困ったときは頼っていいんだよ。」
田中を押しのけカオリが水無月に近付き頭を、撫でていた。
俺は田中の肩をそっと叩き、そろそろ昼飯にしようとみんなに声をかけて、各々がパイプ椅子に座って昼食を食べた。
放課後、各々のタイミングで再び部室に戻ってきた。
俺が着いた時には既に琴美とカオリが部室にいて、2人で天体図鑑を見ながら、琴美の天体講義が始まっていた。
「遅かったじゃない。帰宅部兼任の陸人。」
「部活入ったんだから、帰宅部からは自動退部させろよ。」
「正式に部として認められてもう2週間経つんだから、そろそろ部長の貫禄出て来てもよくない?」
「強引に部長にしたの琴美だからな。」
カオリと言い合いをしながら鞄をパイプ椅子に引っ掛け、ドサッと座った。
「2人、とっても仲良しさんですね。」
「お隣さんのよしみで仕方なく、だよ。ほんと私が助けてあげなきゃこの高校の入学だって怪しかったんだから。」
「もう3年以上前のこと掘り起こすなよな。」
「ほんとのことじゃん!陸人のパパとママ、じいじとばあば、それに担任と、学年主任の先生。あんなに大人の人に感謝されたの初めてだったからね。」
俺がこの高校に受かるようにカオリはかなり尽力してくれて、うちの家族含め色んな大人がカオリに感謝したのは本当のことだ。
「あの時のことは散々礼も言ったし、春高バレーも欠かさず応援に行っただろ?」
「また進級は近付いてきてるんだからね。今度は応援じゃ割に合わないよ。」
「私もちょこっと力貸してたり…。」
琴美がにっこりと笑って俺にだけ聞こえる小声でそう呟く。
俺は琴美に手刀で詫びた。
「あれ…何やってんの?そろそろ天体望遠鏡を屋上に運ぶよ?」
扉の前で不思議そうな顔をして立ち尽くしている田中がいた。
「あぁ、そろそろ運ぼうぜ。」
田中と二人で天体望遠鏡を持ち上げ、女子2人は天体記録ノートや方位磁石などの細かなものを持ってきてもらった。
水無月は少し遅れて、部室ではなく屋上に直接来た。
「遅くなってすみません。」
「みなちゃん待ってたよ。今日はいい感じに雲がないから綺麗に見えると思います。水星、木星、金星、月のトロピカルパレード。」
琴美が迎え入れて、天文部の部員が揃った。
「もうちょっと西です。それでもうちょっと角度上げて。」
その後顧問が活動を見守りに来て、今は琴美の指示で天体望遠鏡をセッティングしている。
「うーん、もうちょっと西です。こっち側にして…。あ、いい。見えた見えた。」
セッティングが終わったのは18時20分を過ぎた頃だった。
「3つの惑星と月が連なってるの見えます。ほらみんなどうぞ」
琴美はセッティングが終わるとさっと場所を開け、ノートに方位と角度をメモし始めた。
望遠鏡の前には田中、水無月、カオリ、顧問が並んでいる。え?佐藤先生?
まぁ、俺は最後でいいやと考えながら、琴美がノートに書きこんでいる内容を見つめた。
「琴美、絵上手いんだな。」
「えっ?あぁ、天体だけ。小さな頃から天体図鑑見続けたから、こういうことだけ書くの得意なんです。それより、りっちゃん見なくていいんです?」
「嗚呼、俺は最後でいいよ。みんな綺麗に見えるって喜んでるな。今日晴れてくれてほんと良かったよな。」
「りっちゃん優しいですね。いっつもみんなを最優先。」
「今見ても後で見ても星の輝きは変わらないだろ?」
『全然違います。星の輝きは何億光年前に輝いた一瞬が、今の私達に届いてるんですよ。」
琴美はそう言うと望遠レンズのついた一眼レフで写真を撮り始めた。
このカメラは佐藤先生の自腹で買ったもので、使用許可が下りているのは使い方をなぜか熟知している副部長である琴美だけだった。
琴美の後を付いていき隣から覗き込む。
「写真と動画も取ってんの?」
「うん、もしかしたら文化祭で使えるかもでしょ?」
「確かに…。てかこっちでもよく見えるな。」
俺は琴美の手元にある望遠レンズ付きの一眼レフカメラを覗き込んだ。
「えっ、あ、う、うん。望遠レンズ使ってますから。」
なぜかしどろもどろになった琴美に疑問を抱き顔を上げると数cm先に琴美の顔があり、慌てて身を引いた。
「おわっ、す、すまん。無意識。」
「ふふ…。望遠鏡空いたみたいです。見てきたらどうです?」
琴美は三脚にカメラをセットし直して、俺を望遠鏡の方へと押し進めた。
「おぉ…。」
肉眼とも写真レンズとも違った見え方に思わず感嘆の声が漏れた。
「ね?凄いでしょ。超楽しいよね。天体観測」
「カオリが見つけたみたいになってるけど、角度とか調整したの俺と琴美だからな。」
「そんなことわかってるわよ。でもこの感動はみんなで分け合いたいじゃない。ほらみなちゃんまた見てご覧!」
終始カオリはハイテンションで、ぐるぐると何度も何度も交代交代でこの惑星のパレードを見ることなった。
夏の音が聞こえてくる7月上旬。やっと夏服が解禁になりワイシャツの腹筋あたりの生地を掴み、パタパタと仰いでいると後ろから『うぃーん』という音と共に生ぬるい風が背中を撫でた。
驚いて振り向くと、いたずらっ子のような微笑みで琴美がこちらを見ていた。
「おはよう。やっと夏服に慣れてきましたね。はい、ハンディーファン。貸してあげますよ。」
「何このミニ型扇風機。」
「だから、ハンディーファンです。無いよりマシでしょ?」
半ば押し付けられるような形でハンディファンを受け取った。
「じゃあホームルーム始まるまで借りとく」
俺がそういうと満足そうに頷いて、琴美は予習に戻った。
「それなんの予習?」
「英語です。明日からテスト本番ですし、山を張って出そうなところ予習してるんです。」
「へぇ、真面目さんだなぁ。」
「真面目は母譲りなんですって。」
「へー、そうなんだ。あ、カオリおはよ」
2人で雑談してると教室にカオリが駆け込んできた。
「もー、寝坊したぁ!隣なんだから起こしてくれてもいいじゃんよー。」
「カオリが俺より遅く起きるなんて思ってねぇから気付かなかったんだよ。」
「昨日、夜遅くに月の観測してたら寝坊しちゃったのー。」
「へー、部活動に積極的で、次の日遅刻は本末転倒じゃね?」
「うるさいなぁ…。遅刻じゃないし、ギリギリセーフ!」
むくれるカオリをからかいながら、ホームルームの時間を待った。
いつの間にか昼休憩は部室で食べることが習慣化していた。
いつも通り弁当袋を携えて渡り廊下を歩き、天文学部の部室を目指す。
「あれ、琴美だけ?他のみんなはどうしたんだ。」
俺は定位置に座る琴美の向かい側に座った。
「なんだっけ、伝説のメロンパン?をみなちゃんが食べたことないとかで、買いに行くの手伝うって3人で出ていかれました。何なんですか?伝説のメロンパンって」
「あぁ、メロンパンの移動販売車が月2回だけ来てくれるんだよ。ただ月2回な上に数量限定だから争奪戦になるし、水無月1人だと押しつぶされて終わりだろうな。」
俺は笑いながら弁当を広げた。
「焼きそばパンって炭水化物に炭水化物だよな」
俺が琴美の昼食を見つめながらついつい独り言がこぼれ出てしまった。
「エネルギーを沢山摂取してるんです。効率的に。」
「他の栄養素全て置き去りじゃねぇか。焼きそばのキャベツに野菜の栄養素背負わせんな、荷が重すぎるぞ。」
「そう言えば、廊下に貼り紙が貼ってあったんですけど、花火大会…?もうすぐみたいですね。」
「花火大会?あぁ、もうそんな時期か…すっかり忘れてたなぁ。」
「何ですか?その苦虫嚙み潰したような、変な顔。」
俺の顔を見て真似するかのように眉間にしわを寄せてピクピクと痙攣させている。
「いや、うちの家族祭りになると気合が入ってじいちゃんばあちゃんと両親が張り切って出店を出すから。いつも1人なんだよなぁ」
「そうなんだ。詳しいんですね。よかったら、一緒に行きません?」
「あぁ、それなら…。」
「お待たせー。見て3つも変えちゃった」
俺の言葉を遮って、カオリたちが部室のドアを大きく音を立てて開き、購買で買ってきたであろうメロンパンを机の上に並べて見せた。
「田中君は甘いの苦手なんだってー。だから残りの1つ2人でシェアしたらどう?私はねぇ、このピスタチオで、みなちゃんがストロベリーなんだよね。それで余りが夕張メロンなの。めちゃくちゃ正統派でいいでしょ?2人で分けて食べて。」
そういうとカオリは俺に夕張メロンパンを渡して、各々手に取ったパンに噛り付いていく。
どうやら今日弁当を食べているのは、田中と俺だけのようだった。
女子群がパンを食べる中、俺たちは、茶色一色の母親特性スタミナ弁当を食していく。
「あ、そういえば今年の手持ち花火はもう激安の王道ショップで買ってきたから、あとで半額ね。」
「なんだ、あれ今年もやるのか。」
「当たり前でしょ?受験生とか関係ないからね。」
「まぁ、花火選びの手間を買って出てくれたのは感謝するよ。」
そんな雑談を部室に響かせながら、昼ご飯を食べる。
「みなちゃんは誰かと行くの?来週の花火大会。」
気を利かせたカオリが水無月に話題を振る。
「はい、行きますよ。中学の頃の友達に誘われてて、せっかくなら浴衣きて見に行こうかななんて気合入れちゃってます。」
水無月は照れ臭そうに微笑みながら、浴衣姿の写真をスマートフォンで見せていくれた。
「紫陽花かな。とっても素敵ね。」
「そうなんです!茎をイメージして若草色にで、帯留めもブルーにしてみたんです。」
琴美に褒められた時の顔がまさに忠犬ハチ公で、見えないはずの尻尾と犬耳が見えた。
「田中くんは?」
「僕は自分ちの庭から見えるからわざわざ人混みに突っ込みにいかないって感じだな。」
せっかく琴美が話を振ったのに、やはり少々鼻につく言い回しの田中だ。
ただ最近はそんな田中の言い回しが癖になり、好きになっている自分もいる。
それからは、貰った夕張メロンパンを琴美と分けながら、それぞれ夏休みの予定と、天文学部の課外活動について話し合った。
『キーンコーンカーンコーン』
終礼が終わり、僕はゆっくりと帰り支度をしていた「。
「先、部室言ってるからねー。」
「ったく、カオリの奴、教室に響くような大声で言わなくても聞こえてるっつーの。それと、後ろで笑ってるの聞こえてるからな琴美。」
俺が振り返らずにそう言うと、琴美はふふっと笑って、
「ふふ、ごめんね。」
と茶目っ気たっぷりに言う。
「琴美はもう行かねぇの?」
そう言い振り返ると、琴美は後ろにおらず、教室のカーテンを一つ一つ丁寧に閉めながら、一言呟いた。
「ねぇ、私と一緒に花火大会に行かない?」
どこか遠くを見る伊織の視線とは絡まらない俺の視線。
「あぁ、その事なんだけど、いつもカオリと見に行ってて。それで今年もカオリといくことになってて。よかったら3人で行く?」
俺がそういうと琴美はそっと目線を合わせ、
「あー…ふふっ、冗談冗談。私浴衣とか持ってないので。それに花火の音とかも苦手で…」
そう言って笑って見せた。
「そっか。そろそろ部室…行くか。」
「そうですね、みんな待ってるだろうし。次の野外活動の日付決めましょうか。夏休みになっちゃうけど1日くらいなら大丈夫かな。」
話しながら教室を出て、部室棟へと向かった。
結局その日は、前回の南十字星の観測についての記録と話し合い、8月10日の夏の大三角形を見る野外活動の申請書と日時の確認をして解散となった。
7月27日、花火大会当日。
祖父と父はお昼からテントの設営や鉄板の準備などで出払い、祖母と母がキッチンで食材を準備しているのを感じながら背を向けて、ソファーに横になり、テレビをごろ寝しながら見る。
「陸人、あなた今年も縁日始まってから来るのよね?」
「あぁ、カオリが浴衣着るらしいから、その着付けが終わってから自転車で行くよ。」
「あぁ、お義母さんそれは向こうで混ぜるそうなので、カットした野菜だけ混ぜで5人前ずつに分けて入れましょう。」
母はテキパキと俺と祖母に指示を出しながら、にんじんを短冊切りにしていく。
「陸人もぼーっとしてるなら手伝ってよ。そこの段ボールにラムネ瓶入ってるからガレージに4箱持って行って。あぁクーラーボックス2つもその箱の横に置いておくのよ。お父さんの声聞こえたら冷凍庫から6kgの氷出して渡してあげてね。」
母の勢いに負かされて渋々ソファーから立ち上がり、段ボールをガレージの扉前に積んでいく。
「重っ…。」
段ボールを3回に分けて運び、空のクーラボックスを2つ肩にかけて段ボールの横にそっと置く。
「おう、手伝ってくれとんのか」
クーラーボックスを置くと同時にガレージに続く扉が開き、父が顔を出した。
母の指示通り、父がラムネ瓶の段ボールをミニバンの後ろに積んでいる間に冷凍庫から氷を6kg抱きかかえて戻り、クーラーボックスに押し込んだ。
「母さん、野菜の準備はできた?」
父がガレージから声を張り上げる。
そうすると奥のキッチンからパタパタと急ぐ足音が聞こえ、祖母が山のような野菜を小分けにした袋を抱えて持ってきた。
俺はも一つの空のクーラーボックスを開けて野菜入りのポリ袋を詰め込んだ。
「陸人、お前今年もカオリと一緒に回るのか?」
「まぁ、そんなとこ。」
「こっちは例年通手間出店で忙しいからな。楽しめよ縁日。」
父はクーラーボックスを持ってミニバンへと乗り込んだ。
楽しめって言われてもな…例年通りだし。
午後7時、家を出て近くの公園へ自転車で向かう。
いつもの待ち合わせ場所だ。
「おーい。遅いぞ」
「カオリが浴衣着るのもたつくと思ってたんだよ。早く後ろ乗れ。」
「やったー、これで下駄で歩かなくて済む」
カオリが自転車の後ろに横乗りになり、腰に腕が回った。
俺は力を入れてペダルをこぎ始めた。
「今年は40周年の花火大会だから千発打ち上げるらしいよ。」
「そんなに打ち上げるなんて費用すげぇかかってそうだな。」
「今年は特別なんだから大掛かりにしたんだろうね。」
「じゃあ1時間くらい花火大会やるのか?」
「そうみたいよ。有料で観覧できる観覧席売ってるみたいだけど、いつもの場所でいいよね?」
「あぁ、あそこなら早くいけば空いてるしゆっくり見れるからな。」
慎重に自転車を漕ぎながら坂道を下っていく。
せっかくならみんなであの場所を満喫した方が良かったかなぁと琴美の顔が浮かび、
「天文学部皆誘えばよかったかなぁ…。」
と呟いた。
「…鈍感。」
「ん?なんか言った?」
前を見ながらカオリの方に耳を傾ける。
「…んっ、もう、もっと早く漕げって言ったの!出遅れたらあんず飴買えなくなっちゃうし。」
神社境内に続く石段が見えて来て、屋台の並ぶ通りに到着した。
カオリを下ろし、入り口付近にある自転車置き場に自転車を止める。
「ねぇ、あれってみなちゃんじゃない?」
カオリが見つめる方向を見ると、以前見せてもらった浴衣に身を包んで友達と談笑する水無月がいた。
「おお、水無月だ。言ってた浴衣じゃん、それに友達と一緒で楽しそうだな。」
「ねっ。楽しそうにしてるし、私達も早く縁日行こっか。」
様々な屋台や出店が並ぶ路面をカオリと2人並んで歩く。
射的やヨーヨーすくい、金魚すくいなど昔ながらのものもあり、子供達がお面をつけて走っていく。
カオリと二人で縁日を見回りながらふと、琴美のことを思い出した。
見に行かないって言ってたけど、本当に来てないのだろうか…。
歩き進んでいくうちにフルーツ飴の屋台が見えて来て、カオリが小走りで近づいていった。
「あっ、あんず飴買いたい。」
いちご飴にぶどう飴、パイナップル飴やみかん飴、定番のりんご飴など、色とりどりの飴を眺めながら、カオリがあんず飴を手に取り購入する。
琴美なら大きなりんご飴を欲するのかもな…。そう思いながらフルーツ飴を眺めているとカオリがくるりと振り返った。
「陸人の家は今年何を出してるの?」
「あぁ、焼きそばの屋台だよ。」
「へぇ、良いね。じゃ後で寄ってみようよ」
「えっ?あぁ、そうだな」
焼きそばの屋台を目指して歩いていると、金魚すくいや射的などの屋台が立ち並びだした。
「ねぇ、金魚すくいあるよ。勝負しようよ、どっちが取れるか。」
「昔やってたなそんなこと。久しぶりにやってみるか。」
各々300円を支払い、ポイを受け取る。懐かしい感触にくるくると回して見せた。
お椀を近づけて、狙いを定める。この小さな金魚なら、脆弱なポイでもすくえるだろう。
斜めの角度でそっと水にポイを刺し入れ、優しい手つきでお椀に金魚をすくい入れる。
カオリの方を見るとすでに失敗しており、ポイには大きな穴が開いていた。
俺のポイはまだ破れてはいない。
同じように小さな金魚に狙いを定めすいすいと泳ぐ金魚の向かう方向へポイを滑らせるように水に潜らせ、金魚をお椀に入れる。
「えっ、凄い破れずに2匹も獲れてるじゃん。」
「兄ちゃん上手だねぇ。」
「2匹だけで十分なんでもう大丈夫です。」
屋台のおじさんにポイを返し、2匹が仲良く入ったビニール袋をカオリに差し出した。
「えっ、良いの?」
「でっかくなるまでちゃんと育てろよ。」
嬉しそうに笑うカオリにそう言い、2人で金魚を眺めた。
「ねぇ、射的もやろうよ。」
「別にいいけど、荷物が増えても持ってやんねぇからな。」
そのままスライドするように移動して、射的屋に入った。
「1回5発、600円ね。」
射的屋の主人に声を掛けられ、2人でお金を払い、コルクを受け取った。
景品をパッと見たところ有名なゲームから子供向けのぬいぐるみまで様々なものが陳列されていた。
「うーん、当たらない」
カオリが懸命に何かを狙っている。
「何狙ってるんの?」
「あの、あれ…、クジラの置物。」
「あぁ、あれか小さいな。」
そこからは2人でクジラの置物を狙って射的をする。
「当たる気がしない。」
「いや軌道修正はできた。絶対落ちる。」
俺は最後のコルクを詰め、引き金を引いた。
『ポンッ』
とコルクが当たり、クジラの置物がコロンと落ちた。
「わっ!当たった。当たりだよ!」
嬉しそうに跳ねるカオリに主人から受け取ったガラスのクジラを渡す。
「いいの?ありがとう」
カオリは大事そうにクジラを受け取りかご巾着の中にしまいこんだ。
そこから少し歩いた先に焼きそばの屋台があった。
俺は祖父と父にからかわれるのが嫌で、カオリを1人焼きそばの屋台に行かせて、俺は隣の綿菓子屋を見ていた。
琴美、そういえばたまにおやつとして食べてたなぁ。お土産に1つ買っていこうかな。
そう思い、1つ綿菓子袋を手に取り500円を支払った。
「あっ」
いつ渡すんだろう。買ってから気付いてしまった。綿菓子の賞味期限っていつぐらいなんだろう。
慌ててスマホで検索をかける。天文部の野外活動の日は8月10日だ。その日まで持つといいのだけれど。
「ねぇ見て!特盛。300円でおまけしてもらっちゃった。」
検索していると屋台から戻ってきたカオリが、嬉しそうに特盛の焼きそばを見せてきた。
「こんなに食えるの?」
「陸人もいるから平気でしょう。お箸も2膳貰ってきたし。」
「じゃあ、イートスペースで食おうか。」
「うんっ。あれ陸人、綿菓子好きだったっけ?」
大木の下にあるベンチに腰掛け時、カオリが俺の手にある綿菓子の袋を見て不思議そうにつぶやいた。
「ん?あぁ、まぁな。」
「そっか…。じゃ、いただきまーす。」
「いただきます」
今日は花火のせいで天体観測は上手にできないだろうな…。
カオリと焼きそばを分け合いながら、そっと空を見上げた。
中学の同級生と合流した私は縁日の屋台を見て歩いていた。
「あっ」
視線の先には立花先輩とカオリ先輩だ。私は挨拶をするべきか少し悩み2人を見つめる。
2人は楽しそうに、屋台で焼きそばを買ってベンチで分け合っていた。
2人の仲が睦まじい雰囲気を察し、私は声をかけるのを諦めて、友達の輪の中に戻った。
「ねぇみなみ、焼きそば買ってみんなでシェアしよ?」
「私イカ焼きも食べたいな。」
「ねぇ広島焼きもありじゃない?」
「じゃあ少しずつ買ってみんなでシェアしよっか。」
友達とバラバラに分かれて屋台に並び、それぞれ焼きそば、イカ焼き広島焼き、そして私はたこ焼きを買って集合場所に戻る。
集合場所に戻る際、綿菓子屋の前を通った。
そういえば琴美先輩はコットンキャンディーのアイスが好きっていてたなぁ。
琴美先輩や田中先輩、立花先輩にカオリ先輩、天文部のみんなで来ても絶対楽しかっただろうな。
来年にはみんな卒業してしまう。今年が最後のチャンスだったのかも…。友達と見て回るのも楽しいけれど、きっと先輩たちと来ても楽しかっただろうな。
もしかして琴美先輩も見に来ているのかな…。
軽く辺りを見回しながら、集合場所へと戻ったのでした。
花火大会は7時30分からの為続々と人が集まってくる。
人混みに流されないように、カオリをかばいながら花火が見やすい展望台の方へと歩く。
地元の人間のみが知っている展望台にいち早く移動した為、まだ展望台には人がいない。花火が見える位置にあるベンチに2人で腰掛けた。
「やっぱここは穴場だね。」
「あぁ、地元民しか知らない場所だしな。」
「でもちょっと早めに来ないと子のベンチは埋まっちゃうんだよね。」
「だから焼きそば半分残してでも移動してきたんだろ?」
「じゃあ、花火大会が始まるまで焼きそば食べて待ってようよ。」
「そうだな。箸くれ。」
カオリから箸を受け取り、やっと半分ほどに減った焼きそばに再び手を付ける。
「んーまっ、やっぱ陸人のじいじ天才だね。」
「作れるの焼きそばだけだってばあちゃんいつも嘆いていたけどな。」
「すき焼き作るのもじいじでしょ?」
「下準備するのはばあちゃんと母さんだからな。不満も言いたくなるんだろう。」
そんな雑談をしながらも、カオリはぺろりと特盛焼きそばを完食した。
「あんず飴は手持ち花火した後にたーべよ」
「まだ入るのかよ…。」
花火大会開始まであと10分。
展望台にも続々と人が集まってきた。有料観戦席を見降ろせる展望台で、花火が上がるその時を待っていた。
「もうすぐだね。千発の花火楽しみだなぁ。」
カオリは嬉しそうに空を眺める。
『ヒューッ』
花火特有の打ち上がる音がして、空に花が咲く。
黄色や赤色の花々が次々と星夜の空に咲いては散っていく。
「綺麗だね。」
「あぁ、綺麗だ。」
俺はキラキラな笑顔で空を見つめるカオリを見つめ、同意した。
「始まったばっかりなのにもう終わらないでほしいって考えてる」
そう少し照れた顔でカオリが呟く。
ベンチに着いた手と手が触れ合う。
咲いては散る夜空の花火を見ながら、どちらからともなく手を重ねた。目線は空に向けたままに。
空に咲く花は形を変えハートマークやニッコリマークも空に浮かぶ。
俺たちは何も発しないまま、手を繋いで花火を見続けていた。
枝垂桜のような花火が咲き散った時、カオリが口を開いた。
「来年も一緒に見られる?」
「なんだよ急に。」
「だって、来年は大学生でしょ?」
「それはそうだけど、俺たちは変わらないだろ?」
「変わってもよくない?」
「えっ?」
俺は思わずカオリの横顔を眺めた。
「私、陸人が…」
『バーン』
花火が空へ飛び、散っていく。
地元の人だけが知る展望台に辿り着くと、そこにはもう沢山の人がいて、遠くから眺めることになった。
友人が皆夜空の花火に夢中になってる中、私は一つのベンチに目を向けた。
立花先輩とカオリ先輩が2人でベンチに座りながら、手を繋いでいる。
そっか、2人ってそういう関係だったんだ。
私は花火に目をそらした。
きっとこれは二人の大事な思い出になるだろう。私が目撃していいものじゃない。
咲いては消える夜空の花々を眺めながら、私は2人の幸せを祈った。
『ピピーッ』
スマートフォンをが鳴り、友人に断りを告げて反対を向いて、電話に出た。
電話は、過干渉気味の母からで、帰宅時間を問うものだった。
「終バスまでには帰るよ」
そう話しながら視線を彷徨わせていると、1つの大きな大木が目に入った。
大木に背中を預けて立っている女性がいる。
黒い髪を簪で束ねた紺色の浴衣に白百合があしらわれている。
あれ…、琴美先輩?
暗がりで遠く、しかも横顔しか見えない。
確かな理由はないが、ふとそう思った。
どうしてあんなところに?
「みなみ、話し終わった?花火もピークだよ。」
「あぁ、ごめんごめん、今終わったとこ。」
私は振り向き友人と共に花火を見ることにした。
千発の花火大会が終わり、ぞろぞろと人々が去っていくのを見送り、
人がいなくなった頃合いを見て立ち上がる。
「そろそろ行くか」
「そ、そうだね。」
さっき何を言ったのか聞き直そうかとしたが、タイミングを見失ってしまった。
展望台を下り、自転車の後ろにカオリを乗せて川沿いへと向かう。
「ねぇ…。陸人は大学何処に行くか決めた?」
「あぁ、内部進学でそのまま上がるつもり…かな。実家から通えるし。」
「そっか…。私はまだ第一希望決めきれてない。」
「まぁ、夏の間に決めればいいじゃないか?」
「そうだね」
将来をぼーっと予想しながら、自転車を漕いでいく。
いつもの河川敷に到着し、自転車のかごから花火セットとバケツを取り出す。
バケツに川の水を汲み、手持ち花火に火をつけるようのろうそくを立てて、火を灯す。
『パチパチ』
手元で火花が輝く、手持ち花火も悪くない。
カオリが楽しそうに手持ち花火を回して見せる。
「手元で見る花火も綺麗だね」
「ああ、空にあると手が届かないからな。」
「これ、最後の。一緒にしよ?」
カオリが手渡してきたのは線香花火だった。
同時に線香花火に火をつけ、小さな火花がパチパチと小さく爆ぜる。
「陸人って子供の頃からずっと、線香花火好きだよね。」
「あぁ、小さな打ち上げ花火が手元にあるみたいで好きなんだ。」
「そういうとこ、子供の頃から変わらないね。」
「カオリだって絶対線香花火買ってくるじゃん。」
「だって陸人が好きだもん。」
「えっ?」
ポトリと線香花火の明かりが落ちた。
カオリが俺の目を見て言う。
「陸人が好き。」
「お、俺…」
俺はどうなんだ…。
昔からずっと一緒にいる幼馴染。小さい頃はお風呂も寝るのも一緒だった。
嬉しいことも悔しいこともずっと一緒に共有してきた。
そのポジションを誰かに奪われたら…。それは、嫌だ。
「俺…、カオリが好きだ。」
俺は震えそうな手で、カオリの手を取った。
「俺もカオリのことが好きだ。」
カオリの目は涙で潤んでいた。
「鈍感…遅いよもう…随分待ったんだからね。」
カオリが俺の胸の中に飛び込んできた。俺は優しく、頭を撫でる。
「鈍感でごめん。遅くなってごめん。大好きだ。大好きなんだ。」
俺は、カオリをそっと抱きしめた。
『pipipi』
アラーム音と蒸し暑い空気に目が覚める。
目を開けるとそこは俺の部屋の天井で、体を起こす。
湿気がこもって、じめじめとしている。ベッド横の窓を開いて換気をする。
ふっと壁のカレンダーを見るとカレンダーは6月を示していた。
そうだよな。今は6月17日、6月の中旬に間違いない。
でも何故だ?何かに違和感がある。先程までクリアに見えていた夢の内容がだんだんとぼやけて消えてきて、今はなんだか思い出せない。
何故なんだろう。何か大事なことを忘れている気がしてしょうがない。
どうしてだろう。俺の記憶から何かが抜けている。
確かに重要な何かがあったのに…。そんな気がしてならない。
「陸人、遅刻するわよー。」
下の階から母親の声がする。
俺は慌てて制服と鞄を持ってリビングのソファーに置き、洗面台へ駆け込み顔と歯を磨く。
なんだろう。何も間違っていないはずなのに何かが違う気がして止まない。
制服に着替え、ポケットにネクタイをねじ込み、鞄に弁当袋を詰め込んで、家を出る。
「いってらっしゃーい」
「ん」
母の言葉に適当に返事し、自転車のカゴに鞄を入れ、学校まで漕ぎ進める。
このジメジメした空気も身に覚えがある。そりゃ毎年この憂鬱な梅雨の時期を乗り越えてきたから、身に覚えがあって当然なのだが、何かが違う気がする。
憂鬱な気分のまま下り坂をゆっくり下がっていく。
高校の自転車置き場に自転車を止め、鍵を指先で回しながら校舎に入っていく。
3年2組の教室に着き、自分の机に座りネクタイを結ぶ。
「おっはよー。おはよ、おはー。おっ陸人、おはよう。今日は意外と早いね。」
色んな人に挨拶を交わしながら、幼馴染のカオリが近づいてきて隣の席に座った。
「ねぇ陸人、今日うちのクラスに転校生来るって知ってた?」
やはりどこかでその質問を投げかけられた気がして、言い返してみた。
「それって黒髪ロングの色白美少女だったり?」
「えっ、なんだぁ。陸人知ってたの?」
「やっぱり…」
何故だろう。どうして既視感があるんだろう。そんな不思議な気持ちを抱えながら、机に鞄を掛けた。
「はい、ホームルーム始める。席ついて。」
本令が鳴り、副担任が教室に入ってきた。
「今日は転入生が来てます。挨拶します。転入生おいで」
疑心暗鬼で扉を見つめていると黒髪ロングをたなびかせた白い肌が特徴的な女子生徒が教室に入り、黒板前へと立った。
「彼女の名前は、茅ヶ崎琴美さんです。茅ヶ崎さん、挨拶してくれるかな。」
呼ばれた女子生徒はお辞儀をした。
「初めまして、家庭の都合で引っ越してきました。茅ヶ崎琴美と言います。皆さんどうぞよろしくお願いいたします。」
どうしてだろう。俺は彼女と初めて会った気がしなかった。




