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からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第3部

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第49話:雑草の意地、冷徹の理

『からくり空手』

第49話:雑草の意地、冷徹の理


 「始め!!」

 二つのリングで同時に号令が響いた。

 第2リング。佐藤対本田——黒いライセンス、通算110勝。

 佐藤は開始早々スラスターを全開にし、弾丸のような飛び込み正拳を放った。しかし本田はそれを紙一重でかわし、佐藤の勢いをそのまま利用して足を掛けた。

 「クリーンヒット、本田! 2点!」

 第3リング。佐野対向井——黒いライセンス、通算125勝。

 向井が日拳の突きを繰り出す。佐野はサンボのいなしで捌きながら、じりじりと後退した。

 「逃げてばかりか? 秋吉の看板が泣くぞ」

 「ヒット、向井! 1点!」

 【佐藤 02 - 07 本田】

 本田はニヤニヤと笑いながら、佐藤の空振りを誘ってポイントを刻んでいく。田所が客席で身を乗り出した。「佐藤のバカ野郎、あんな大振りじゃ本田の餌食だ!」

 嵐だけは静かに佐藤の足元を見ていた。「……いや。佐藤はまだ死んでいない」

 佐藤は、わざとスラスターを暴走させた。右足のからくり義肢が限界を超えた熱を帯び、道場の空気が歪む。溶けかけたマットを支点に、不規則な軌道で跳ねた。

 「なっ……予測不能の動きだと!?」

 第3リング。

 「分析完了」佐野が初めて口を開いた。「向井さんの突きには、0.2秒の溜めがあります」

 【佐野 04 - 06 向井】

 ポイントは負けている。しかし佐野の瞳に迷いはない。向井がとどめの胴への突きを放とうと大きく踏み込んだ——その瞬間、佐野の『ボルシチ・ギア』の関節ロックが解除された。

 佐野は突きを受ける直前、自らの体を歪ませて向井の懐へ滑り込んだ。細い腕一本が向井の支点を奪い、巨体が天井を向いて宙を舞った。

 「ダウン、佐野! 3点!」

 【佐野 07 - 06 向井】

 第2リング、クライマックス。

 佐藤の暴走するスラスターが、最後の一噴射を上げた。本田がカウンターの突きを合わせようとする——佐藤は避けなかった。左肩を盾にして受け流し、右拳を本田の胸板に押し当てた。

 打撃ではない。ゼロ距離からのマブイの排熱による衝撃だ。

 本田の黒いアーマーが白煙を上げ、後方へ三回転してマットに沈んだ。

 「ダウン、佐藤! 3点!」

 【佐藤 15 - 12 本田】

 「勝者、佐藤!!」

 第3リング、クライマックス。

 佐野は投げた後の向井を逃さなかった。立ち上がろうとする向井の関節を、冷徹なまでに正確な計算で次々とロックしていく。タイマーが鳴る前にスコアが上限に達した。

 「終わりです」

 【佐野 15 - 09 向井】

 「勝者、佐野!!」

 道場が静まり返った。黒いライセンスを持つベテラン二人が、真っ白な新人に敗れた。

 佐藤は膝をついて溶けたアーマーを外しながら叫んだ。「勝った……! 嵐さん、俺、勝ったぞ!!」

 佐野は静かに白いカードを端末にかざした。通算成績が「2勝0敗」に書き換わる。

 嵐は二人のもとへ歩み寄った。「いい試合だった。だが、満足するなよ」

 それから石田たちを見た。「石田さん。これが秋吉会館・広島支部の空手だ」

 石田は何も言わず、敗れた仲間を連れて道場を出ようとした。門を出る間際、振り返った。

 「……安道。今シーズン、本戦で待っているぞ。その白が何色に染まるか——楽しみにしておこう」

 広島の夕焼けが、道場を赤く染めていた。

 「まずは2勝。あと8勝で黄だ」佐野が言った。

 「おうよ! 次はもっと派手に決めてやるぜ!!」

 佐藤の声が、広島の夕空に響いた。

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