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からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第2部

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41/67

第41話:歪みなき黄金の魂(ゴールデン・マブイ)

『からくり空手』

第41話:歪みなき黄金のゴールデン・マブイ


 ソウル・ドームの夜空に、花火が上がった。

 決勝戦。アメリカ代表の五人がリングに上がる。それぞれが固有の哲学を持ち、固有の傷を持ち、固有の理由でここに立っている。統一感はない。それがアメリカの強さだ。

 秋吉会館の五人が向き合った。

 大将席に三浦が座っている。第41話の夜、秋吉館長の手を一度だけ握った。何も言わなかった。それで十分だった。

 「ようやくここまで来たな、嵐。だらしねぇ準備はしてねぇだろうな」ビリーが不敵に笑った。

 「あんたたちを倒して、俺たちの空手が世界一だと証明してやる」

 先鋒戦。田所対カズヤ。

 カズヤの引き込みが田所を地面へ引きずった。しかし田所は「引きずられながら頭突きを放つ」という原始の選択をした。カズヤの体勢が崩れた瞬間、田所の投げが決まった。

 次鋒戦。遠野対TDN。

 TDNの連打が遠野のアーマーを叩き続けた。遠野はその衝撃を大地へ流しながら、蓄積した反力を一度だけ解放した。TDNの日拳が、遠野の掌打に止まった。

 副将戦。木村対ボブ。

 ボブの突進を木村は三度受け、三度吹き飛び、三度立った。四度目に、ボブのアーマーの継ぎ目へ「不協和音の連打」が炸裂した。

 【日本 12 - 12 アメリカ】

 中堅戦。嵐対van様。

 van様が「ナイファンチン」の構えを取った瞬間、リングに重い静寂が落ちた。

 「安道。君の旋風は明るすぎる。私の深淵で、迷子になれ」

 嵐の正拳突きが放たれた。van様はそれを「拒まずに迎え入れ」、嵐自身の力が嵐自身に返ってきた。暗の空——相手の攻撃を吸収し、消し去る。光を飲み込む深淵だ。

 (叔父さんは言った。マブイを「空」にしろと。……でも「空」には二種類ある。飲み込む「空」と——透き通る「空」だ)

 嵐は、次の正拳突きを「力を込めずに」放った。

 深淵は「力」を吸収する。しかし「透明なもの」は吸収できない。嵐の拳に、マブイの色がなかった。熱もない。意図もない。ただ、真っ直ぐに。

 van様の「迎え入れ」が、一瞬だけ空を掴んだ。

 その一瞬に、嵐の全マブイが一点に爆発した。

 「——それが、俺の旋風だ」

 van様がマットに沈んだ。

 【日本 15 - 12 アメリカ】

 「日本、勝利に王手!!」

 会場が揺れた。しかしビリーは笑っていた。

 「よくやった、嵐。——だが、ここからが本番だぜ」

 ビリーがリングに立った。対面に、三浦が立った。右腕のないまま。それでも帯は締まっている。

 「三浦さん。あんたと本気でやり合うのが、俺の哲学だった。今日ここで——完成させる」

 「ビリー殿。あなたの歪みなき心、すべて受け止めましょう」

 ビリーが動いた。マブイが黄金の熱を持って全身を包む。音速の連撃が三浦へと迫る。

 三浦は受けた。一撃、また一撃。退かない。吸い込むのではなく、ただ「そこにいる」。

 ビリーの拳が三浦の胸を捉えるたびに、その拳が——少しずつ、重くなっていく。

 (重い。三浦さんの体が、重くなっている。俺の力を「空」に変えているんじゃない——俺の力を「自分の重さ」に変えている)

 ビリーの内側で、何かが変わっていく感覚があった。

 「——最後だ、ビリー殿!!」

 「——来い、三浦ぁぁぁぁッ!!」

 二人の拳が、リングの中央で交わった。

 音が、消えた。

 嵐はその瞬間を、息を止めて見ていた。叔父アンディの面影が、二人の背中に重なった。あの病室の朝から始まった旅が、この一点に収束している。

 静寂が、ドームを支配した。

 審判が、口を開いた。

 「勝者——」

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