第41話:歪みなき黄金の魂(ゴールデン・マブイ)
『からくり空手』
第41話:歪みなき黄金の魂
ソウル・ドームの夜空に、花火が上がった。
決勝戦。アメリカ代表の五人がリングに上がる。それぞれが固有の哲学を持ち、固有の傷を持ち、固有の理由でここに立っている。統一感はない。それがアメリカの強さだ。
秋吉会館の五人が向き合った。
大将席に三浦が座っている。第41話の夜、秋吉館長の手を一度だけ握った。何も言わなかった。それで十分だった。
「ようやくここまで来たな、嵐。だらしねぇ準備はしてねぇだろうな」ビリーが不敵に笑った。
「あんたたちを倒して、俺たちの空手が世界一だと証明してやる」
先鋒戦。田所対カズヤ。
カズヤの引き込みが田所を地面へ引きずった。しかし田所は「引きずられながら頭突きを放つ」という原始の選択をした。カズヤの体勢が崩れた瞬間、田所の投げが決まった。
次鋒戦。遠野対TDN。
TDNの連打が遠野のアーマーを叩き続けた。遠野はその衝撃を大地へ流しながら、蓄積した反力を一度だけ解放した。TDNの日拳が、遠野の掌打に止まった。
副将戦。木村対ボブ。
ボブの突進を木村は三度受け、三度吹き飛び、三度立った。四度目に、ボブのアーマーの継ぎ目へ「不協和音の連打」が炸裂した。
【日本 12 - 12 アメリカ】
中堅戦。嵐対van様。
van様が「ナイファンチン」の構えを取った瞬間、リングに重い静寂が落ちた。
「安道。君の旋風は明るすぎる。私の深淵で、迷子になれ」
嵐の正拳突きが放たれた。van様はそれを「拒まずに迎え入れ」、嵐自身の力が嵐自身に返ってきた。暗の空——相手の攻撃を吸収し、消し去る。光を飲み込む深淵だ。
(叔父さんは言った。マブイを「空」にしろと。……でも「空」には二種類ある。飲み込む「空」と——透き通る「空」だ)
嵐は、次の正拳突きを「力を込めずに」放った。
深淵は「力」を吸収する。しかし「透明なもの」は吸収できない。嵐の拳に、マブイの色がなかった。熱もない。意図もない。ただ、真っ直ぐに。
van様の「迎え入れ」が、一瞬だけ空を掴んだ。
その一瞬に、嵐の全マブイが一点に爆発した。
「——それが、俺の旋風だ」
van様がマットに沈んだ。
【日本 15 - 12 アメリカ】
「日本、勝利に王手!!」
会場が揺れた。しかしビリーは笑っていた。
「よくやった、嵐。——だが、ここからが本番だぜ」
ビリーがリングに立った。対面に、三浦が立った。右腕のないまま。それでも帯は締まっている。
「三浦さん。あんたと本気でやり合うのが、俺の哲学だった。今日ここで——完成させる」
「ビリー殿。あなたの歪みなき心、すべて受け止めましょう」
ビリーが動いた。マブイが黄金の熱を持って全身を包む。音速の連撃が三浦へと迫る。
三浦は受けた。一撃、また一撃。退かない。吸い込むのではなく、ただ「そこにいる」。
ビリーの拳が三浦の胸を捉えるたびに、その拳が——少しずつ、重くなっていく。
(重い。三浦さんの体が、重くなっている。俺の力を「空」に変えているんじゃない——俺の力を「自分の重さ」に変えている)
ビリーの内側で、何かが変わっていく感覚があった。
「——最後だ、ビリー殿!!」
「——来い、三浦ぁぁぁぁッ!!」
二人の拳が、リングの中央で交わった。
音が、消えた。
嵐はその瞬間を、息を止めて見ていた。叔父アンディの面影が、二人の背中に重なった。あの病室の朝から始まった旅が、この一点に収束している。
静寂が、ドームを支配した。
審判が、口を開いた。
「勝者——」




