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からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第2部

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28/84

第28話:規格化される暴力(システム・オブ・バイオレンス)

 「予選Aブロック第2試合――韓国第一選抜対後藤道場第二選抜!」

 K・マブイ・ドームが冷徹なホワイトアウトに包まれた。現れたのは五人の格闘家ではない。寸分違わぬ漆黒の装甲『モノリス・量産型』を纏い、ミリ秒単位で同期された「暴力の工場」だ。

 「……全員の波形が、単一のホストに接続されている」

 三浦の険しい声。先鋒・長島の『モノリス』は、韓国の天才・洪が脚を振り上げる前に、控えの四人と共有したセンサーデータから既に「処理」の答えを導き出していた。

 「計測完了。――処理を開始する」

 洪の会心の蹴りは、長島の装甲表面の微細振動によって無機質に相殺キャンセルされた。長島の放った直突きは最短距離、最大効率。洪のアーマーは干渉のデッドスポットを突かれ、内部から爆散した。

 大将戦。金子が自らのマブイを自爆寸前まで加熱させ、福田を関節技で捕らえた。システムに一瞬のノイズが走る。だが、福田の装甲から冷却窒素が噴き出した。

 「個別の熱は、平均値によって補正される。……あなたの怒りは、今、我々の一部になった」

 福田は極められた腕を自らパージし、無防備な金子の眉間を鋼鉄の拳で叩き潰した。拍手すら起きない。そこにあるのは、機械の稼働後の冷たい余熱だけだった。

 嵐がリングを見つめていると、背後から影が差した。後藤だ。

 「旧いですね。実に、旧い」

 後藤は嵐の選手証をスキャンし、冷酷に告げた。「嵐くん。君の空手は手書きの古文書だ。美しくはあるが、再現性がない。私はそれを、誰もが使える『普遍的な言語システム』へ翻訳しているのですよ」

 「……あんたの言葉じゃ、俺の拳の痛みは、一文字も綴れない」

 その瞬間、嵐の右腕『昇龍』が、かつてない激しさでハウリング(共鳴)を起こした。風圧だけで周囲のモニターに亀裂が走る。装甲の隙間から、叔父アンディがかつて負ったものと同じ「十字の痣」が、黒く脈動しながら浮かび上がった。

 「……一ヶ月です、嵐くん。それは特訓期間ではない。システムが君というバグを学習するための『アップデート期間』だ」

 後藤が去った後、嵐は自分の右拳を、血が滲むほど握りしめた。

 システムに勝てるのは、計算を焼き切る「不条理」だけだ。

 安道 嵐。彼がアンディの執念を背負い、規格化された世界へ「最後の手書きの怒り」を叩き込むための特訓が、再び始まる。

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