表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第2部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/67

第25話:鋼の舞、岩の門

『からくり空手』

第25話:鋼の舞、岩の門


 「次鋒戦——始め!!」

 審判の声と同時に、が宙を舞った。

 からくり義肢『スカイ・ブレード』。大腿部から足先にかけて高周波の刃が仕込まれ、テコンドーのしなやかな蹴りが空気を切り裂く。着地より先に次の蹴りが来る——連続の中に途切れがない。

 【日本A 00 - 00 韓国B】

 遠野は「四平大馬」の構えで動かなかった。『クロオビ・岩鉄』が地中のマブイを吸い上げ、その質量を擬似的に増幅させる。

 「来い、若造。お前の刃が、この大地に届くかな」

 「——大地ごと切り刻んでやる」

 李の蹴りが三度、遠野のガードを叩いた。センサーが反応する。

 【日本A 00 - 03 韓国B】

 嵐は観客席で立ち上がりかけた。

 (まずい。ポイント制では、受けているだけでは負ける)

 李の戦術は明確だ。高速の蹴りでポイントを積み、遠野が前に出る前に距離を取る。大地のマブイを武器にする遠野にとって、「触れさせない」ことが最大の対策になる。【00-06】になった時、嵐の隣で秋吉館長が低く唸った。

 リングの中の遠野は、その点差を見上げていた。

 (……このまま受け続ければ、時間切れで負ける。大地を動かすか、こちらから行くか)

 遠野は、生涯で数えるほどしかしたことのない判断をした。

 前へ、出る。

 李が次の蹴りを放った瞬間、遠野は一歩踏み込んだ。避けるのではない——自らの肩で李の回転軸を物理的に押し返した。

 洪家拳・サバキ:「鉄山開門てつざんかいもん」。

 ドォンッ。

 「——これは」

 空中で姿勢を崩しながら、李が呟いた。華麗な舞いを、力で止められた。恥辱ではない——初めて、この男と「本当に戦っている」という感触だった。

 遠野が巨大な掌を李の胸板へ突き出す。足元の板間が、打つたびに数センチずつ沈んでいく。大地から吸い上げた重さが、そのまま拳になって伝わる。

 李のアーマーが弾け、マットをバウンドしながら後方へ飛んだ。

 「ダウン!!」

 【日本A 03 - 03 韓国B】

 李はすぐに立ち上がった。からくり義肢の炎を再点火させ、青白い光がアーマー全体から噴き出す。

 「……いい一撃だ。だが、テコンドーの舞いはここからだ」

 李が高く跳んだ。天井に迫る高さ。そこからからくりモーターを逆回転させ、縦回転しながら落下してくる——「鳳凰・断罪蹴ほうおう・だんざいしゅう」。振動刃が回転と合わさり、降下するほどに速度と熱が増していく。

 これは技ではない。天から落ちてくる、意志を持った刃だ。

 「……来い。全て受け止めてやる」

 遠野はアーマーの冷却水を放出した。周囲に霧が広がり、マブイを極限まで一点へと凝縮させる。

 李の踵が、遠野の頭上で展開されたマブイの盾と激突した。

 金属が金属を削る音が、ドーム全体に響いた。李の振動刃が盾を削り、遠野の重圧が李の脚部フレームを歪ませる。どちらも動かない。どちらも止まらない。

 嵐は拳を握った。

 その時、遠野が盾を解いた。

 衝撃を吸い込み、圧縮し、右拳へと転嫁する。染川戦でも、ノリス戦でも使わなかった——この試合で初めて、遠野は自分の受けたものを「全部返す」選択をした。

 洪家拳奥義:「萬斤砕まんきんさい」。

 重力を殴り返すようなアッパーが、空中で逃げ場のない李を捉えた。李の体が天井付近まで跳ね、そのままマットに深く沈んだ。

 「ダウン!! ——李、戦闘不能!」

 【最終スコア:日本A 09 - 03 韓国B】

 「勝者、遠野!!」

 「……良い舞いだったぞ」

 遠野は膝をついた李へ静かに一礼した。李は砕けた装甲を手で押さえながら、遠野の顔を見た。悔しさよりも先に、何か別のものが目の奥にあった。

 日本、二連勝。

 しかし韓国ベンチのスンヒョンは、笑みを崩していなかった。タブレットに何かを書き込み、顔を上げる。

 「遠野の『地脈』は、地に足がついている間だけ機能する。田所の日拳は、間合いを潰せなければ無力化できる——データは揃った」

 スンヒョンは隣のヤンへ目を向けた。

 「中堅戦。嵐の『昇龍』が地を踏む前に、封じろ」

 楊は無言で頷いた。その目には、田所戦でも遠野戦でも見せなかった種類の冷静さがあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ