↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり空手  作者: 水前寺鯉太郎
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/84

第12話:燃えよマブイ

 大呉(おおくれ)ドームの地下闘技場の空気が、一瞬にして「真空」へと変貌した。

 Bブロック準決勝。そこには最新テクノロジーを嘲笑うかのような、異質な二頭の獣が立っていた。

「――光栄だぜ。噛み殺してでも超えさせてもらう。シャオロン!」

 サイトハウンド獣人である木村の纏う『燕(ツバメ)』の関節モーターが、猟犬の殺気に呼応して高周波の悲鳴を上げる。対するチャウチャウ獣人のリ・シャオロンは、鏡のように磨かれた『からくりヌンチャク』を腰に差し、獅子のような被毛を揺らして無重力のように佇んでいた。

「演算(ロジック)を棄てろ。――獣の血で聴け」

 それはからくり依存の格闘理論の否定。機械の計算の彼方にある「本能」への宣告だ。

「始めッ!!」

 木村が消失した。サイトハウンド特有の極限の動体視力と瞬発力が生む、一秒間に二十五発の連環拳。獲物の急所のみを的確に削り取る神速の牙が、シャオロンへ殺到する。

 だが、シャオロンがヌンチャクを解いた瞬間、闘技場に暴風が吹き荒れた。

 キィィィィィィィィン――!!

 シャオロンの太い腕と、獅子のような尻尾が複雑に連動し、超高速回転するヌンチャクがマブイを巻き込んで不可視の「ジャイロ防壁」を形成する。チャウチャウの分厚い被毛と遠心力が合わさり、木村の拳がことごとく円軌道の外へ無造作に弾き飛ばされていく。

「全部、毛皮の上を滑ってやがる……!」

 観客席の嵐は戦慄した。だが、木村は絶望を焼き切った。

「――まだだぁっ!!」

 オーバーヒートした右腕のモーターを、己のマブイで強引に暴走させる。全生命力を推進力に変え、サイトハウンドの細い腕そのものを槍と化す捨て身の一撃。

 パシッ。

 シャオロンの頬に、一条の赤い血が走った。伝説の顔に刻まれた、木村という男の泥臭い「意地」。

「……ほう」

 シャオロンが口角を上げた。刹那、彼は回転させていたヌンチャクから不意に「手を放した」。

 防壁が消えた――木村が左拳を突き出した瞬間、宙を舞うヌンチャクの鎖を、シャオロンの太い尻尾が蛇のように絡め取り、木村の腕を拘束した。

「――囮か!?」

 気づいた時には、シャオロンの素手が木村の喉元を射抜いていた。

 西方大陸由来の絶技:『截撃(ストップ・ヒット)』。

 相手が踏み出すエネルギーをそのまま利用し、脳が認識する前に「終わり」を叩き込む。

 カチッ。

 衝撃波すら起きない。木村の全からくりと生体神経が、強制的にシャットダウンを命じられた。

「勝者、リ・シャオロン!!」

 地鳴りのような獣たちの咆哮。シャオロンは倒れた木村の前に膝をついた。

「木村。からくりはただの分厚い皮ではない。お前のマブイを、形のない水に変えるための『器』だ。それを忘れるな」

「……へへ。……やっぱ、あんたの牙には勝てねぇや」

 木村は満足げに瞳を閉じ、気絶した。

 シャオロンは立ち上がり、観客席の嵐を射抜いた。

 貴賓席ではピットブル獣人のビリーが立ち上がり、鼻を鳴らして冷笑している。

「古臭い犬の曲芸だ。あんな旧式の遠心力、私の屠殺(円)でねじ伏せてやる。……おい、アンディの搾りかす。早くリングへ来い。お前の『円』とやらを解剖してやる」

「……行くぞ、叔父さん」

 嵐は立ち上がった。一週間の地獄の修行で作り上げた新しい右腕――金属パーツが生肉とグロテスクに癒着し、獣の神経系に直接根を張った禁忌のからくり腕が、パグの太い心音に合わせてドクンと脈動する。

 闘技場の騒乱が、小柄なパグがリングに足をかけた瞬間、嘘のように消えた。

 マブイの波動を「零」に固定し、世界の中心に立つ少年。

 直線が、円に溶ける。絶望が、確信に変わる。

「準決勝第2試合。安道嵐、対、ビリー。――始めッ!!」

 

 ホワイトアウトする視界の中で、少年の「嵐」が、静かに世界を飲み込み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。