100数えるまで、~編
100数えるまで、線香花火の灯火を落とさずにいられないとこの部屋から出られません(この部屋にいる間は睡眠以外は生理的な欲求や現象が発生しないので安心してください)。
真っ白い空間に突如として発生した文字は瞬く間に消えて、いつの間にか線香花火と火が点いているロウソクが置かれていた。
「「っふざけんじゃねえぞっ」」
気が付けばこの摩訶不思議な空間に立っていた、対立するヤンキー少年、武尊と輝虎の二人は壁、天井、床を殴りまくっては蹴りまくった。うんともすんとも言わなかったものの、二人は構わずに殴りまくっては蹴りまくった。
結果。壁にも天井にも床にも、何の変化も与えられなかった二人。今度は武尊と輝虎の担任である魔法使いへ、罵詈雑言を浴びせまくったのである。
冗談だと思っていたのだ。
あの言葉は。
今日の帰り際、体育館裏でいつものように喧嘩を吹っかけて来る先輩たちと喧嘩をしまくっていた高校一年生の武尊と輝虎に、魔法使いと名乗る担任は言ったのだ。
もしも、このまま勉強をせずに喧嘩ばかりしているのであれば、ぼくにも考えがあります。と。
魔法使い、などと。
武尊と輝虎だけではなく、クラス全員が信じてなどいなかった。
ただのイタイ大人が教師になってしまったと、面白がったり、不安がったり、無関心であったりと、様々な反応を示していた。
武尊と輝虎は、無関心であった。
武尊と輝虎にとって、教師はどうでもいい存在であった。関わらないようにする教師が多い中、積極的に関わって来る教師もいたが、最後まで付き添う事はなく去って行った。去って行くように仕向けたのである。
喧嘩できればいい。
欲しいものは喧嘩で手に入れればいい。
ゆえに、喧嘩さえできればいいのである。
「「………あの魔法使い、ぜってえゆるさねえ」」
武尊と輝虎は掠れた声音でそう言ったのち、線香花火を乱暴に手に取って、ロウソクの火を点けたのであった。
「「123456789101112131415っげ」」
蕾、牡丹、松葉、散り菊と燃え方に変化がある線香花火。
武尊と輝虎は口早に数字を数えては、さっさとこのふざけた部屋から出て行ってあの魔法使いをボコボコにしてやると考えていたのだが、それは叶わなかった。
武尊も輝虎も蕾の段階で灯火を落としてしまったのである。
武尊と輝虎は軟弱な線香花火だと手に持っていた線香花火を床に叩きつけたのち、新しい線香花火を乱暴に手に取って、額に血管を浮かび上がらせながら、唇の感覚がおかしくなるほど口早に数字を数えたのであった。
「………俺たち、一生をここで過ごすのかもな」
「ッケ。だったら、こんな茶番に付き合ってないで喧嘩をしようぜ」
いつまで経っても二十の手前で蕾の段階で灯火を落としてしまう中。
武尊は立ち上がる輝虎を見上げては舌を出した。
「いやだね。俺はあの魔法使いをボコるって決めてんだ。ぜってえ、ここから出るんだよ。だから、おまえとは今は喧嘩しねえ。おまえだって、あの魔法使いをボコりたいだろ」
「ストレス発散に喧嘩した方が成功しそうな気がする」
「………それも一理あるな。よし。じゃあ。どっちかが倒れるまでな」
「ああ」
武尊も立ち上がると、輝虎と共に軽く飛び跳ねたり腕を回したりしては、何の合図もなくお互い目がけて殴りかかったのであった。
「よしよし。卒業式まで十分余裕を持って出られてえらいっ! おめでとうおめでとうっ!」
丸い黒サングラスをかけて、胡散臭い笑みを貼りつける男性にして、武尊と輝虎の担任でもある魔法使いは、約一年かけて、100数えるまで、線香花火の灯火を落とさずにいられないと出られない部屋から出てきた武尊と輝虎に熱い握手を贈ると、これで分かっただろうと、ウインクをした。
「喧嘩だけでは解決しない事もあるって事をさ」
「ああ」
「よおく分かった」
「ただし、おまえをボコらないと気が収まらない」
「ただし、てめえをボコらないと腹の虫が治まらない」
「アッハハ。だよねえ。人はそうそう変わらないよね」
ウインクを飛ばした魔法使いは、殴りかかって来る武尊と輝虎を華麗に躱しては、呪文を唱えた。
「さあって。次は、100数えるまで、見事なフルーツカービングを完成させないと出られない部屋にでも送っちゃおうかなあ。まだ卒業式まで一年あるし。ぼくの学生である以上、先生として君たちを絶対に見放さないから安心してね☆」
(2026.8.26)




