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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2026.6.
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2388/2440

ジューンブライド(予約)




 赤提灯の光がより際立つ時刻。

 美味しそうな焼き鳥の匂いが店から流れて来る歩道にて。




 六月に結婚する花嫁は幸せになれるっつーヨーロッパの言い伝えを知っているか。




 結婚式か葬式か。

 ネクタイは外していて判別はつかない慶弔兼用のブラックスーツを着た公務員の二十代男性、うめが、千鳥足で向かいながら言った。

 配達運送業の社員であり、今現在、配達運送業の作業服を身に着けては、梅が出て来た焼き鳥店に荷物を持って来た、梅の幼馴染の二十代男性、枇杷びわへと。

 酔っぱらう梅に呆れながらも手を貸そうと近づく枇杷との距離を縮めるや否や、梅は白の木綿のハンカチを枇杷の頭に被せると、その場に跪いては呆気に取られる枇杷の手をすくいあげてのち、財布から一枚の銀色の硬貨を取り出して、明日ここで結婚式を挙げようと、人懐っこい笑みを向けた。


「………俺たち、付き合ってすらない、よ、な?」


 衝撃的な告白を口にするや否や意識を手放した梅を難なく抱き上げた枇杷。トラックの助手席に梅を乗せてシートベルトをかけたのち、手渡された一枚の銀色の硬貨を見て、誰と間違えてんだかと呟いた。

 一枚の銀色の硬貨は、幼い頃によく遊びに行っていたゲームセンターのコインだった。






「………結婚、式場?」


 心地よさそうに眠る梅をトラックに乗せたまま、梅を今でも住んでいる梅の実家へと送り届けた枇杷。その後一時間ほどで配達を終わらせて会社に戻り、電車に乗って、アパートに帰り着いては、シャワーを浴びて、テレビを見ながらレトルトカレーを食べて、歯磨きをして眠りに就いた。

 待ちに待った休日、掃除洗濯生活必需品の買い物を済ませて、気になっている映画でも観ようと思いながら。

 けれど翌日。掃除洗濯生活必需品の買い物を済ませた枇杷が向かったのは映画館ではなく、ゲームセンターであった。

 正確に言えば、ゲームセンターがあった場所である。

 枇杷と梅が大学生の頃にゲームセンターが潰れては更地になったところまでは見届けていたが、その後は何が建てられていたのかは知らなかったのだ。


 まさか結婚式場になっていたとは。

 え、まさかあいつ知ってたんか。

 知ってて。

 いや、

 いやいやいや。

 酔っぱらいの言ったことを真に受けるなっての。

 うん。

 よし、今から映画館に行こう。

 雨も降って来たことだし早く立ち去ろう。


 ぽつりぽつりぽつ。

 ひとつぶ。

 ふたつぶ。

 みつぶと。

 少しだけ大きな雨粒が落ちて来たかと思えば、糸雨が降ってきたのである。

 傘を持って来ていたかと思ったがそうではなかった枇杷が、結婚式場に背を向けて走り出そうとした時だった。


「おう」

「………おう」


 梅が漆黒の傘を枇杷にさしかけたのである。


「昨日は世話になった」

「おう」

「兄貴にすげえ文句を言われた。世話をしてくれたおまえに全財産渡せって言われた」

「おう。よこせ」

「………おう」

「いや。そこは………おい」

「昨日。あ~。昨日のことは覚えてる。俺はおまえにプロポーズしましたね」

「そうでしたっけ?」

「そうですよ。昨日結婚式に出席しまして。おまえが思い浮かびまして。一生ダチで居るのだと思っていましたがどうやら違ったようでして。結婚式で酒は飲まなかったんですけど、お開きになった途端、焼鳥屋の梅酒を飲みたくなりまして、酔っぱらっちまいまして。気持ちいい気分でいたところ、おまえに偶然出会いまして。これは恋の神様のお導きだとプロポーズしました」

「はあ………おまえ。俺を人生の伴侶にしたいのか?」

「はい」

「………恋人をすっ飛ばしてか?」

「順序を重んじたいのであれば否やはありません」

「………」


 枇杷は昨日と同じ慶弔兼用のブラックスーツを着ている梅に身体を向けて、昨日頭に被せられた白の木綿のハンカチで濡れている梅の肩の雨粒を拭いながら、口を開いた。


「おまえは俺のかけがえのない友だ。宝と言ってもいい」

「はい」

「おまえは俺の友ってだけじゃ満足しないんだな?」

「はい」

「………そうか」

「………はい」

「………うん。じゃあ。とりあえず。お試しで三か月間、同棲しよう。一緒に生活して、お互いに伴侶になれるか判断しよう」

「………俺がおまえのアパートに行くってことか?」

「おまえの実家に俺が行けってか?」

「………行きます。お願いします」

「おう。じゃあ。必要なもんを取りに行くか?」

「おまえ、行動早いな」

「おまえにだけは言われたくない」

「………枇杷」

「おう」

「好きです。付き合って下さい」

「おう」

「好きになってもらえるように頑張ります」

「一生頑張り続ける気か? やめとけやめとけ。そのまんまでいい」

「いや。そのまんまだとおまえに家事を丸投げにすることになるから」

「………おまえ。おばちゃんに家事を任せっきりなのか?」

「実家に住んでいるとどうしても。てへ」

「おう。じゃあ。一生頑張ってもらうわ」

「優しく教えてね?」

「厳しく教えるわ」


 へたくそなウインクをした梅にへたくそなウインクを返した枇杷。傘の柄を持ち続ける梅に代わると言ったのだが梅が譲ることはなく。二人で柄を持ったまま梅に実家に辿り着いたのであった。


「なんか。あちいな」

「………まだ酒が残ってんじゃねえの」











(2026.6.3)




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