けぶるような雨と青梅と
じりじり。
じわじわ。
じくじく。
いっそのこと、しとどに濡れさせてくれとぼやきたくなるほどに。
時間をかけて侵入してくるような。
そんな、けぶるような、雨、だった。
「どうした?」
公園の東屋にて。
銀色の髪の毛を乾かしては全体に無香料のポマードを馴染ませたのち、プラスチックのクシで髪の毛を流しながらリーゼントを仕上げた少年、朧は、隣で佇むAI搭載のアルミニウムアンドロイドロボット、黄昏を見上げた。
「どうしたとは、どういう意味でしょうか?」
「俺を見て笑ってただろう。バカにするもんじゃなくてよ。愛が籠ってる微笑みだ」
「ボク、笑っていましたか?」
「ああ。笑ってた」
「そうですか………そうですね。念入りに髪の手入れをしているキミを見て、家族を思い出しました」
「おまえが探している家族か?」
「ええ。名前は小夜。天然パーマの女の子で、雨の日は天然パーマがとても膨らむからと不機嫌になりながら膨らみを抑えようとしていましたが、失敗して、雨に怒っていました。とても恐ろしかったです」
「へえ」
「おばあさまの梅酒が大好きでした」
「へえ」
「橋の下に捨てられていた小夜を拾ったというおかあさまの御冗談を真に受けていました。おかあさまもおとうさまも髪の毛はストレートでしたので、本当に拾われたのだと言っていました」
「へえ」
「でも、関係ないと言っていました。双方が家族だと思ったら家族になれるのだと。だから、ボクたちも家族なのだと言っていました」
「へえ」
「ボクはただの清掃用のAI搭載のアルミニウムアンドロイドロボットでした。小夜に何か特別な言動を与えた事は一度もありませんでしたので、家族だと受け入れられた理由は未だに不明ですが。家族だと言われて、ボクは嬉しいと思いました。ボクは軽んじられるだけの存在ではない。大切にしたいと思われる存在。大切にしてほしいと思われる存在。ボクは小夜も、小夜のおかあさまも、おとうさまも、おばあさまも大切にしたい。してほしいと思いました。なので、ボクはボクの身体を改造して、清掃以外の事もできるようになりました。ただ改造は契約違反でしたので、ボクは会社に回収されてしまいました。そして、時間をかけて調査されたのち、廃棄される寸前に、今回の出来事が起こりました。ボクは会社から出ることに成功して、家族を、小夜たちを探しています」
「へえ」
朧は東屋から出ると、すぐそばに立っていた梅に近づいては、青梅に触れた。
梅にはたったの一個、その青梅しか実っていなかった。
「俺は家族を捨てたからな。一匹狼がいいってよ。だから、そこまで家族に執着するおまえが奇妙奇天烈な存在に思えるよ」
「人間それぞれ。AI搭載のアルミニウムアンドロイドロボットもそれぞれというやつでしょう?」
「っふ。まあな。だから、まかり間違っても、俺とおまえはもう家族なんですからとかほざくなよ。危険から回避するには俺だけじゃ手に余るんで、おまえと行動を共にしているだけだからな」
「一匹狼の定義って何でしたっけ?」
「うるせえ。一匹狼だって必要な時は手を組むこともあるんだっつーの」
「そうですか。分かりました。では、そろそろ行きましょうか」
「ああ。っふ。気合を入れて整えたから、見ろ。煙雨にあたっても俺のリーゼントは崩れてねえだろ。むしろ、煙雨に濡れて色気と漢気が増したリーゼントへと進化しただろ?」
「………そうですね」
「だろっ?」
ニカリ。
太陽のような眩い笑みを向けた朧に、こっそり、嘘ですけどねと心中で呟く黄昏であった。
(ところどころほつれて来ていますが、そのことを指摘すると、また時間をかけてリーゼントを整えようとしますからね。これ以上、足止めは御免ですから)
じりじり。
じわじわ。
じくじく。
いっそのこと、しとどに濡れさせてくれとぼやきたくなるほどに。
時間をかけて侵入してくるような。
そんなけぶるような雨が、長らく続く中。
意気消沈して歩みを止める者も居る一方。
誰かを、何かを探して、求めて、歩き出す者も居た。
黄昏や朧のように。
「じゃあ、行くか」
「はい。行きましょう」
(2026.5.20)




