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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2020.2.
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113/2515

狐の孫




 可憐美の極致。

 恐怖の塊。


 妖怪の中で注目の的になっているのは、一匹の銀狐。

 梅の時期にだけ、眠りから覚めて現世に浮上してくる。


 この時期だけ。

 理由は明瞭簡潔。


 妖力が強くなるから、

 梅の香りが好きだから、

 梅が枝餅が食べられるから、


 白玉粉と水と小豆と蜂蜜で作られたあんこもち。

 背は低くとも、それはそれは優艶で厳然として、なおかつ、可憐な紅の花がこぼれる梅の木枝に刺しては日干しをすること、丸一日。

 香味豊かな梅が枝餅の完成である。

 

 

 


 

「雪と梅の両方を見られるなんて。眼福眼福」


 銀と紅の幽遠な世界を肴に。

 人に化けた銀狐が手ずから作った梅が枝餅を頬張り、次々と消化していく中、手に収められていたはずの梅が枝餅はなく、代わりに、黒くて丸い物体がある事に気づいた。


 一瞬にして痛めたか。

 原因不明だが追求せず、梅が枝餅の不遇に滂沱と涙を流した銀狐。

 しかし酸っぱくなった程度だろうと、大きく口を開いて、一口で口の中に収め、予想通りの酸味も気に留めず、歯を当てた。

 その瞬間。

 阿鼻叫喚がこだました。











「烏天狗のひなだけど育てるつもりはなく、これも世の習わしと森に捨ててまた眠りに就いたけど、口に入れた時に妖力を与えていたらしくて、無事生還。梅の精が育てて、立派な深紅の烏天狗になりました。で、終わりにしとけばよかったのに」


 紅の瞳に、銀の髪を持つ孫狐は、じろりと、祖父である烏天狗を睨んだ。

 祖母も睨んでやりたがったが、例によって、魔界で就寝中であるので叶わなかった。


「刷り込み、みたいなもんだ。仕方ない」

「なら梅の精と番になればよかったのに」

「おばあちゃんが嫌いか?」

「きーらーいーでーすー。梅がこぼれる時期にしか起きないし。起きたとしても、梅が枝餅を作って食べる事しかしないんだもん。一緒に遊ぶのがだめなら、せめて一緒に梅が枝餅を食べたい!おばあちゃんの梅が枝餅食べたい!」

「ならじいちゃんが教え方作るから、一緒に作って、ばあちゃんにあげよう。そして、ばあちゃんの梅が枝餅がほしいって言ってみな。きっとくれるから」


 烏天狗が提案するや否や、瞳を爛々と輝かした孫狐は烏天狗の腕を掴んで厨房へと引っ張り出した。

 烏天狗は苦笑しながら、落ち着けとたしなめた。


 成功確率は一分、だろうが、やってみない事にはどうしようもない。

 

 しかい癇癪を起こした時の対処法を、子らと練らなければ。


 危機感はあるものの、同時にほっこりとした気持ちを抱く烏天狗は材料集めから始めようと、孫狐を外へと誘ったのであった。







(2020.2.12)




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