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第三章 37話

2014/6/26の投稿です。次回の投稿は6/30の予定です。

 3日目


 昨夜はディメンションホームの中で夜を明かし、用意を整えてディメンションホームから出た。俺が出たのは獣道から少し外れた所にある大きな木の根元。外に出た時は木を背にする形になる。


 しかし今日はディメンションホームから出た所でいきなり魔獣の気配を感じた。それも獣道の方からだ。


 俺が刀を抜いて警戒していると、やって来たのは1羽の鳥の魔獣。その姿はダチョウの様で、地面を凄まじい速さで走り、俺に向かってくる。


「げっ、こいつもしかして……」

「ゲゲゲゲゲゲ!!!」


 その鳥の魔獣は俺を避けて獣道とは反対方向に走り去っていった。しかし、獣道の方からは多くの足音と木の枝や地面の草を踏みしめる音と共に何処にこれだけ居たんだと思う程のラプターの群れがやってくる。


「朝っぱらからいきなりかよ!」


 今の鳥の魔獣はテイクオーストリッチという魔獣で、見た目はダチョウに近いが生態はハゲワシとかハイエナに近い。あの鳥は肉食だが戦闘能力が低くて空も飛べない代わりに強靭な足腰を持っており、他の肉食の獣の前に自分の姿を晒して自分を餌に魔獣を引き連れ、別の獲物にけしかけて獲物を殺させ、自分はその後でこっそり戻ってきて死体をあさるそうだ。


「木々が邪魔で全体の数が分かりにくいが……気配からして50以上。こりゃ洒落にならんな……」


 そんな事を言ってる間にも獲物を前にしたラプターは興奮状態で駆けて来ている。血走った目と軽く開いた口から覗く牙を持つラプターが、大群で木々の間を水が流れるようにすり抜けて近づいてくる。気配からも感じたが、どうやら今回のラプター達は身を隠そうとは微塵も思っていない様だ。


 その勢いは凄まじく、迫力に飲まれて対処が遅れたり冷静さを失った冒険者は大抵その場で死ぬ。事前に調べた限りでは、それがテイクオーストリッチによって殺される冒険者の最大の死亡原因だそうだ。


「流石にこの数は面倒だ『パラライズミスト』『スパークボール』『スパークボール』『スパークボール』『スパークボール』」


 俺は落ち着き、ラプターの群れに向かって毒属性の中級魔法と雷属性のオリジナル魔法を4発放つ。


 パラライズミストは吸い込むと体を麻痺させる効果のある即効性の毒霧を生み出す範囲攻撃魔法であり、スパークボールは着弾すると周囲に放電する電気の玉を撃ち出すちょっとした範囲攻撃魔法だ。


 麻痺毒の霧を吸い込んだラプターは目に見えて動きが悪くなるが、足を止める程では無かった。しかし動きの鈍ったラプターの群れは続けざまに来たスパークボールを躱せず、パリパリと音を立てて炸裂した電撃に巻き込まれていく。


「大体、3割かっ!」


 俺はそう言って接近してきた2匹のラプターを斬り倒す。今の魔法で倒せたのは視界に捉えた群れの3割位だった。スパークボールは人間相手なら十分な効果があるが、魔獣相手だと威力が不足気味だな。


 しかし1瞬で3割を減らしたからか、ラプターの足が止まり、群れは逃走を始めてくれた。


 そしてラプターの群れが去っていったのを確認した後、俺は魔法で倒したラプター達の様子を見に行く。


「あー、やっぱりな……」


 まだ生きているラプターが結構居た、麻痺毒の霧と電撃で体が動かないだけなのがかなり居るな。


 とりあえず動ける様になってから襲われても困るので、出来るだけ苦しまないように仕留めて回収する。


「流石は魔獣の巣窟、朝っぱらからあんな大群に襲われるとは……」


 俺はそう呟いてから先ほどの電撃で木が燃えたりしていない事を確認し、今日も歩き出す。




 それから昼過ぎまで歩き通しになった所で、獣道が途切れて大きな岩に突き当たった。ここからは道なき道を行かなければならない。


「この岩から南東に行くと湖があるはず。まずはそこを目指すんだったな」


 俺はガイン達の手紙に書かれていた村への行き方を口に出して確認しながら歩き出す。ここからは本当に道が無いので道を阻む蔦などは刀で切り開き、時折居るトレントを倒しながら進む。




 そうして3時間が経つと、さらに移動が困難になっていた。


「流石に、一筋縄では行かないか……」


 ここら辺の地面は泥で、一歩進む毎に足首まで埋まる。今までより格段に歩きにくくなっているが、魔獣は遠慮なく襲ってくる。


 そして今、俺の目の前では体長4m程の茶色いワニが俺を睨んでいる。


 これはガロモスアリゲーターというCランクの魔獣で、その強靭な顎にかかれば鎧を着た人間でも容易く噛みちぎられてしまうらしいが……現在、その自慢の顎は使えない。


 事前準備は万端にしたからな。ガロモスアリゲーターの対策も勿論用意してある。




 ワニの噛む力は強いが、その反面口を開ける力が弱いというのが前世の雑学知識にあった。だから俺はそれを利用し、濃縮硬化液板を錬金術で変形させて作ったスプレー缶大の筒を作り、スティッキースライムの粘着液を詰めて密閉した物を大量に用意した。


 そして、俺はその内の数本を目の前のガロモスアリゲーターの口に放り込んだんだ。


 筒は落としても割れない程度の強度だけ持たせるために、出来るだけ薄めにしてあったので鎧も噛みちぎる様な牙と顎の力には耐え切れず、当然筒は噛み砕かれて中の粘着液が口の中に漏れ出す。


 漏れ出した粘着液はガロモスアリゲーターの上顎、下顎、牙にへばりつき、何度か咀嚼する度に口の中で広がってくっつき、最終的に口を開ける事が出来なくなった。


「飲み込まれたり、唾液で流されたりして効果が無くなるかもしれないと警戒はしてたが、予想以上に上手くいったな」


 多少の水分では洗い流せないのは実験済みだったけど、ここまで上手くいくとは思わなかった。せいぜい少し隙が出来れば良い、位にしか思ってなかったので驚きだ。




 とりあえず目の前で俺に噛み付きたくても噛みつけず、逃げようにも背を向けたら危ないと思っているのか瞬きもせずに俺を睨むガロモスアリゲーターの頭部に刀を突き入れて止めを刺し、死体を回収して先に進む。


 この魔獣の革は鎧や服、カバンや小物に加工され、貴族に高値で売れるらしい。中でも1番高価なのは全身の革と牙を使った剥製がかなりの値がつくそうだ。勿論、出来るだけ傷が無い方が高く売れるのは間違いない。


 その後も泥濘んだ場所を抜けるまでに4時間歩き、大きさは様々だったが計8匹のガロモスアリゲーターに出くわしたので全部狩った。




 そしてまた黙々と歩き、ぬかるんだ場所から抜けて2時間程進んだ。


 目印となる湖にはまだたどり着かないが、途中に休憩も挟んだし、そろそろ暗くなって来るので今日はここまでにしようか……と考えていたら今までの場所より生き物の気配が少ない場所があった。


 普通は虫の気配位はあるんだが……何か居るな……?




 警戒を強めて3分ほど歩いていくと、頭上の木から気配を感じた!


 俺は咄嗟に後ろに飛び退く。するとその直後、木の葉の擦れる音を立てて木の上から俺がさっきまで立っていた位置に緑色で丸太の様な太さがある長い筒状の塊が落ちてくる。


「これ……俺、やっぱり運悪いのかなぁ……」


 目の前の塊は地面に落ちてからモゾモゾと動き出し、俺に光る目を向ける。当然だ、それは生き物なんだから動くし目もある。しかし、この巨体でよく木の上に隠れていられたな?




 落ちてきた……いや、俺に襲いかかってきたのは人を数人丸呑み出来る巨大な蛇だった。


 この蛇について事前に調べた情報の中から該当する物を探すと、1つしか無い。


「アンデッドスネーク、Aランク」


 シュルス大樹海に居る蛇の魔獣は1種類だけではないが、ここまで大きい物になると間違い無くアンデッドスネークだろう。


 このアンデッドスネークはシュルス大樹海の中でも中心部に生息する魔獣で、ここは本来の生息域から遠い。せめてあと1週間位は中心部に向かって歩かなきゃその場所にはたどり着かない筈なんだが……


「まぁ、同じシュルス大樹海の中に居る魔獣なんだ。絶対出ないって保証は無いし、運が悪かったとしか言えないよな」


 俺がそう呟くと同時にアンデッドスネークが地面を滑る様に這って俺に襲いかかってきた。鎌首を持ち上げ、俺を射程範囲に捉えたと同時に弾丸の様に首を突き出して噛み付きに来る。その速さは今までの魔獣より段違いだ。


 俺はそれを躱しながら胴体を刀で切り上げる。すると肉を斬る際に今までの魔獣より強い抵抗を感じ、傷をつける事には成功したものの、思っていたより傷は浅い。


 浅いと言っても血がそれなりに流れ出る位の傷は付けたが、アンデッドスネークはそれを気にしていないかの様に俺に巻き付きに来る。俺は気で強化した足で飛び上がり、アンデッドスネークの胴体を飛び越え、着地の際には刀を振り下ろして胴体を斬り付けてから後ろに跳んで距離を取る。


 Aランクともなると、戦えない事は無いが油断はできない。そう思った俺は今のうちに刀で近くの木を斬り付け、進行方向に向けた矢印の傷を付ける。このまま戦って向かう方向を見失っても拙い、目の前の戦いに集中するためだ。


 そしてその時アンデッドスネークは――


「流石、名前にアンデッドなんて付いてるだけあるなぁ……」


 俺の目の前で、俺が付けた傷がみるみるうちに治って行く。


 アンデッドスネークの最大の特徴は異常な生命力と怪我の回復の速さだ。その再生力がまるでアンデッド系の魔獣を彷彿とさせるため、アンデッド系の魔獣ではないのにアンデッドという言葉が名前になっているそうだ。


 なお、アンデッドスネークはアンデッド系の魔獣ではないので光魔法は効果がない。その上で本物のアンデッドであるグールなんかとは比べ物にならない再生能力を持っている。それを知れば戦うと厄介な事にはすぐに想像がつく。


「毒が無いってのが救いといえば救いか。というか、本来は複数人で魔法か何かを使って動きを封じて、死ぬまで袋叩きにし続けて仕留める魔獣だそうだし……」


 一応対策は練ってあるが、とりあえず普通に戦ってみよう。ヤバくなりそうならすぐ奥の手を使えば良い。……用意してある奥の手は、いろんな意味で気軽に使うべきではない。


「シャアッ!!」


 掠れた音を出しながら、傷が癒えたアンデッドスネークが襲いかかってくる。攻撃方法は先ほどと同じ飛びかかりだ。俺はそれを躱し、魔闘術で氷属性の魔力による冷気を纏わせた刀で先ほどより深く切り付ける。


「キシャアアアアッ!!」


 今回は先程の様な出血はなく、傷口は凍りついて塞がっている。アンデッドスネークの叫び声からも先ほどより効いている事が分かる、が……


「シャアアアッ!」


 アンデッドスネークがまた飛びかかってくる。効きはしたが、仕留められる程ではなかった様だ。


「むしろ怒らせただけだな、これ」


 苛烈になった噛み付きと巻き付き……更に周囲の木に巻きついて登り、上から横からと縦横無尽に攻めて来た。その動きは流石ここに住む魔獣というべきか、地の利は向こうにある。


 俺は攻撃を躱しながら冷気を纏った刀でアンデッドスネークを斬り付け続けるが、いくらやっても致命傷にならない。精々傷の治りが遅くなる程度の様だ。


 斬りつけるだけではいくらやってもダメそうだな……


 そう思った俺は巻き付こうとしてくるアンデッドスネークを躱して上段に構え、アイアンスライムに刀身を少し伸ばして貰い、全身と刀を全力の気で強化する。


「はっ!」


 そして襲い来る鎌首を躱し、その首元から60cm程の位置に思い切り刀を振り下ろすと、頭と胴体を切り離す事に成功した。気で強化されて鍔元でも切れる状態だから成功したような物だ。素の状態ならまず鍔元では切れず、両断は不可能だっただろう。


「シャアッ!? シャアアア!!!」

「おっ!?」


 驚いた事に切り落とした頭部はまだ生きており、胴体は胴体で滅茶苦茶にのたうち回り始めた。頭を潰しに行こうと思っていたが、胴体の動きに巻き込まれないように胴体から距離を取り、頭を見る。


「……どうなってんだこいつの体」


 なんと、切り離したばかりの頭は既に切り口から体を再生させ始めていた。即死しないだけならまだ分からなくもないが……これ、本当にアンデッドじゃないんだよな?


「魔獣はCとBの間で格段に強くなるとは聞いてたが……このアンデッドスネークといいラインバッハ様のイグニスドラゴンといい、Aランクの魔獣はどいつもこいつも化物か」


 俺がそんな風に呆れているうちに、頭は元々の体と同じぐらいまで体を再生させていた。


「胴体の方まで頭が生えて来なくて良かったが、このままじゃ埒があかなそうだ……仕方ない『エクスチェンジ』」


 俺は刀を鞘に戻してオリジナルの空間魔法、エクスチェンジを使う。その瞬間、俺の手元に長さ1.4mの銀色に輝く短槍が1本現れる。


 このエクスチェンジという魔法は手元に見える範囲の物を転移させる空間魔法、ピックアップを応用した物で、ディメンションホームやアイテムボックスの中にある物を瞬時に取り出せる魔法だ。


 本当はエクスチェンジの意味通り持っている物をディメンションホームの中の物と交換出来るように、瞬時に武器を持ち替えられるようにしたかったが、今はまだ物を取り出すだけの未完成な魔法だ。何時かは完成させたいと思う。




「さて、これで終わりだ!」


 俺は短槍を持ってアンデッドスネークに駆け寄っていく。アンデッドスネークは一度頭を斬り落とされて俺を警戒したようだが、鎌首を持ち上げて数回、ゆらゆらと揺らしてから一気に噛み付きに来た。


 何度も見た攻撃なので俺はそれを楽に躱し、短槍に気を纏わせ、アンデッドスネークの胴体に深々と突き刺す!




 その程度でアンデッドスネークを止める事は出来ないが、これでいい。俺は槍から手を離し、巻き付いてこようとするアンデッドスネークを避ける。


 するとアンデッドスネークは俺に追撃をしようと追ってくるが、途中でアンデッドスネークは突然地面に倒れ伏し、先程俺が切り離した胴体の様にビクビクと痙攣を始めた。


 それを見て、俺は奥の手が有効だった事を確信する。それから様子を見て、アンデッドスネークを確実に仕留められた事を確認したあと、槍を回収する。


「お疲れ様、もういいぞ」


 俺が槍にそう声をかけてねぎらうとその意思が槍に伝わり、槍の形が崩れて地面に落ちた。そしてもう見慣れた俺の従魔、アイアンスライム本来の姿になる。


 俺が使った槍はアイアンスライムの槍だった。しかし、アンデッドスネークを倒した奥の手とはアイアンスライムの事だけでは無い。


 アイアンスライムに続いて、槍が刺さっていた傷口から大量の液体が出てきた。生き物が傷ついて血が出るのは普通だが、これは血ではなくブラッディースライムだ。




 俺は1匹のアイアンスライムに中が空洞の槍になるよう指示を出し、その空洞にブラッディースライムを待機させてあった。アイアンスライムの硬化と俺の気功を合わせて強度を補い、敵の体内に槍を突き刺し、体に刺さったらアイアンスライムが変形。槍に返しをつけて抜けにくくし、空洞の中に居るブラッディースライムが槍によって付けられた傷から敵の血管に入り込めるようにする。


 その後は説明するまでもなく、ブラッディースライムに全身の血を吸い尽くして貰えば敵は仕留められるという訳だ。


「Aランクの魔獣相手でもやっぱり通用したか……多用は控えるべきだろうな……」


 この技、思いついたは良いがかなり凶悪だ。人も魔獣も、血の通った生き物であれば、この技で殺せない生き物は多分居ない。俺は魔獣の全てを知ってる訳じゃないからもしかしたら生き残る魔獣も居るかもしれないが、槍を刺す事が出来ればほぼ確実に殺せる。


 少なくとも思いついてから実験に使ったゴブリン等の魔獣には絶大な効果を発揮した。


 効率的ではあるがこれに頼ってしまうと腕が鈍りそうだし、何よりこんな技を人前では使えない。この話が広まって、もし悪党に知られでもしたらと考えると、恐ろしすぎる。


 これは本当に奥の手にしようと思う。


 俺はそう心に決め、アンデッドスネークの死体を回収してから今日はもう休む事にする。流石に今日は疲れた……

ちなみに、ディメンションホームの中には主人公が回収させた獲物をせっせと処理しているスライム達が居ます。

1.体を回収したスライムがディメンションホームの中で死体を出す。

2.ブラッディースライムが死体から血を抜く。

3.別のグレイブスライムが処理後の死体を回収・保管。

4.汚れが残っている場合、スカベンジャーorクリーナースライムが掃除。

こんな感じです。

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