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第三章 28話

2014/6/2の投稿です。本日は2話連続投稿します。

「お疲れ様~」

「おっと!」

「なんで避けるの!?」


 アンデッドを討伐し終えると後ろから突然レミリーさんの声が掛かり、抱きつかれそうになる。俺がとっさに避けると、レミリーさんが不満そうに言う。


「いきなり飛びつかれたんで、つい……」

「じゃあ、はい! カモン!」


 そう言って両腕を大きく広げるレミリーさん。……俺から抱きつけと?


「何してるの? はい、カモン!」

「いや、カモン! じゃなくて……」

「……柔らかいわよ?」

「やわらか……っ!?」


 戸惑っていたら突然の言葉に驚き、舌を噛んだ。そんな俺を見つつ更にレミリーさんは続ける。


「最初に会った時、私の胸を見てたわよね~? 触らせはしないけど、抱きついたら当たっちゃうのは仕方ないわよね~?」

「いえ、そんら……」

「ごまかしてもダメよ? お姉さんは騙されません」


 何と言うべきか、どう行動するべきかに困り狼狽えていると、ここでセバスさん達が止めに入ってくれた。


「レミリー様、リョウマ様をからかうのはその位にしておいてくださいませ。ここは一応迷宮の近く、魔獣が来ないとも限りませんので」

「リョウマ君も、魔法の事以外はあまりレミリーの言葉を真剣に受け取る必要は無いぞ」

「レミリー、お前は普通に労いの言葉をかけられんのか?」

「むー……仕方ないわね。リョウマ君って真面目だから面白かったんだけど、3人にそう言われちゃねぇ」


 助かった、と思うと同時に若干残念な気もする。レミリーさんはかなりの美人だし、俺も一応男ですから。


 そういやこんなふうにからかわれるのはこの世界に来て初めてだな、別に前世ではよくあったという訳でも無いが……こういう事がある場合の大半は面倒な仕事を押し付けられる時だったし……急に頭が冷えてきたな。


「リョウマ君ごめんなさいね、ついからかっちゃったわ。胸を見てたのは男の子だから仕方ないし、気にしなくて良いわよ。魔法を教えてあげるから許して」

「あ、はい」


 何か生返事っぽくなってしまった。気持ちを切り替えよう。


「とりあえず、この辺のアンデッドは倒せたみたいですね」

「そうじゃな。アンデッドは自分が感知できる範囲に居る生物に引き寄せられる様に集まる。感知する方法は様々じゃが、次が来ないという事は感知できる範囲にアンデッドが居らんと言う事じゃ。しばらくは安全じゃろう」

「それにしても随分多かったな。運悪く間引きの前に来てしまったか」


 ここは道が悪く敵が倒しにくくて面倒臭い。更に採れる魔石の量が他の魔造迷宮より少ないため、実入りが少ない。そうなると当然ここに来る冒険者も減る。


 しかし、その間もアンデッドが増えるのは止まらない。だから年に何度か騎士団か各地の教会から聖職者が派遣され、訓練がてらアンデッドの討伐を行うらしい。


「それはそうと、アンデッドが居ないうちに安全な場所を確保してしまおう」

「そうね。今すぐ入るとまた面倒そうだし、迷宮の中に入るのは明日にしましょう」


 大量のアンデッドが昼間から迷宮の外に出て来ていた場合、迷宮の中のアンデッドが多くなり溢れ出た可能性がある。入って倒してもいいが、さっきの様な高威力の魔法の連発は出来ないので面倒になってしまう。


 だから今夜はホーリースペースを使って作った安全地帯の中で野宿をしつつ、活動が活発になる夜から日の出前までの間に迷宮の外に出て来るアンデットを間引くことになった。


 そんな訳で、俺達は野営の準備を始める。


 俺がホーリースペースを使い、その中で事前に用意してあった特製の野営道具セットをアイテムボックスから取り出すと、それを見ていたセバスさんが俺に聞いてくる。


「リョウマ様、それは何でしょうか?」

「野営道具です」


 まず俺が手にしたのは4本の鉄の棒。片方の先端は杭の様に鋭くなっていて、もう片方の先端には乗せた物を固定できる円形の台座が付いている。


 俺は鋭い方の先端に気を纏わせてホーリースペースの四方の地面に突き立てていき、アイテムボックスの中から台座に置いて使う丸い筒状の入れ物を取り出した。


 その入れ物は少し形が違うが、日本人が見れば分かる人は多いだろう、アルコールランプだ。




 半年前からドランクスライムの酒精生成で梅酒や果実酒を漬け始めたが、個人的に楽しむ分だけに留めてある。なぜならドランクスライムの酒精の事をセルジュさんに話した所、売り物としては微妙だと言われたからだ。


 この世界では果実酒を漬けるために使う砂糖が高価で、必然的にスライムの酒を売るとしたら値段も高くしないと儲けが出ない。


 また、魔獣の肉も普通に食べられているのでスライムの酒を販売する事は出来るが、魔獣の種類によっては敬遠する人も居る。スライムの酒はそれと同じ理由で人気が出ない可能性もある。


 この2つの理由から商品として扱うには難しく、損失を出す事も覚悟しなければならない。


 だったらいっそ酒にするのは俺個人で楽しむ分だけにして、別の利用法はないかと考えたらこうなった。アルコールのみを錬金術で抽出して消毒、溶剤、そして燃料に使う事にしたんだ。


 なお、地球の燃料用のアルコールには飲用可能なエタノールと有害で飲用不可能なメタノールが混ざっているが、ここではメタノールを手に入れる事が出来なかった。


 そのままでも煤が多く出るだけで使用には問題ないと思っていたが、スティッキースライムの濃縮硬化液板を変形させてアルコールランプの器を作った時、濃縮粘着液を溶かし込む事を思い付いて試したら多少の改善がされた。


 更にエタノールのみだと青白くて明るい所では見にくい火が出るが、濃縮粘着液を混ぜたエタノールの火は松明として使える位の光を発する。それを利用したのがこの特製アルコールランプだ。入れ物を筒状にして燃料を多く入れ、1本につき1時間程度燃料を継ぎ足さずに使い続けられる優れものだと思う。


 光魔法のライトで明かりを付けても良いが、別の明かりを用意しておけば魔力を節約できる。それに灯り以外にも湯沸しや料理にも使えるから無駄が無い。


 セバスさんには湯沸し用に作った普通のサイズのアルコールランプに火を点けて使い方を教える。


「なるほど。ロウソクよりも明るく、火力が強いので野外での料理には便利そうですな。少し使わせて頂いても宜しいですか?」


 そう言われたので基本的な使用上の注意をしてから持っていたアルコールランプを貸すと、そこでレミリーさんから声をかけられる。


「ねぇリョウマ君」

「何でしょう?」

「この寝具、何で出来てるの? とっても軽くて良い感触だけど……」


 どうやら俺の寝袋に興味を示したようだ。寝袋と言っても俺のは体がすっぽり入るタイプではなく、布団を二つ折りにして足元を縫い合わせ、万一の場合すぐに出れる様にした物だ。まぁ、何時もディメンションホームの中なので、咄嗟に外に出る機会は今まで無かったけど。


 ちなみにこの寝袋の素材は半年前に捕まえたフラッフスライムの綿毛だ。フラッフスライムの研究中に綿毛が宙を舞っているを見て、綿毛を座布団や枕、布団に出来ないかと考えた。


 思いついてすぐに試した時は手近にあった麻袋に綿毛を詰めたので肌触りが悪かったが、可能性は十分にあると思えた。そして次にセルジュさんの店でシーツを数枚買ってそれを縫い合わせた袋なら肌触りも問題なく、柔らかく、軽く、そして温かい羽毛布団の様な寝具になった。


 そこで更にシーツを防水布に加工したり、中の綿毛が均一になる様に工夫を行い、地面に接する部分を綿布団にする等して俺好みに改良した結果、この寝袋が完成した。


 なお、フラッフスライムの綿毛を採取するためにギムルの廃坑でフラッフスライムの観察をした結果、分裂方法がタンポポの綿毛と酷似している事も確認した。


 しかし、最初の頃は分裂が行なわれても大半の核は成長しきれずに死んでしまった。普通の植物の種は内部に発芽のための養分を蓄えているが、どうもフラッフスライムの核には蓄えられておらず、成長には地面に落ちて周りの養分を吸い上げる必要がある様だ。そして土の養分が足りなければ成長しきれないんだ。


 その証拠に普通の土では殆ど成長しなかったが、スカベンジャーの肥料を混ぜ込んだ土の上に綿毛を落とすと数日で大量のフラッフスライムが生まれた。上手く成長した後はそうでもないが、綿毛からフラッフスライムになるまでの成長段階でかなり土の養分が必要になる。




 おかげでスカベンジャーに肥料を吐いて貰うために、汲み取り槽の掃除の依頼を時々受ける必要がある。まぁあの肥料はフラッフスライムを増やす時だけじゃなくて普通に畑にも使えるし、木魔法で薬草を育てる時にも必要になるから無駄にはならない。


 スカベンジャーの消臭と清潔化のスキルが効いているから臭くなくて安全。更に森に居た頃はすぐ使い切っていたから気づかなかったが、錬金術で水分を抜けば乾燥させ、粉末状で軽くして保存が出来る。


 汲み取り槽の掃除にもなるので、今となっては微々たる額だが収入にもなる。他の冒険者の人達は何故未だにそんな依頼を受けてるのか、なんて言うけれど……俺としては割の良い仕事だったりする。


「あ、スカベンジャーに肥料吐かせないと……」


 俺はディメンションホームから大きめのワイン樽を2つと石の階段を出し、全てのスカベンジャースライムに肥料を吐かせる。


 さっき大量にゾンビを食べてるから、余分な栄養は肥料として吐き出して貰わないとまた一気に増えてしまう。フラッフスライムのための汲み取り槽掃除をさせたら徐々にスカベンジャースライムも増え、今では5009匹も居るからなぁ……


 少しずつ増えるなら良いが、今のスカベンジャーが倍に増えた場合一日じゃ契約しきれない。分裂の早いスライムは分裂の管理が大変だ。


 それに前にコーキンさん達から聞いた話だとスライムの分裂はある程度我慢させる事が出来るが限界があり、限界を超えると爆発的に分裂するスライムスタンピードという現象が起こる。しかもその場合スライムの負担が大きく、分裂後に弱ってしまう。


 余談だが、これが発見されたのはまだ今ほど冷遇されていない昔のスライム研究室で、分裂せずに栄養を蓄え続けたらビッグスライムになるのでは? という仮説が立てられ実験を行った時で、その際爆発的に増えたスライムが研究室を埋め尽くし、他の研究室にまで溢れたらしい。その後、スライムの駆除活動や弱った体で少しでも栄養を摂取しようとしたスライムにより、多くの研究資料や書きかけの論文が失われ、当時のスライム研究者達は大顰蹙を買う事になったそうだ。


 閑話休題


 



 スカベンジャーの数は5000を超えたが、キング以上の姿は出なかった。これ以上集まっても変化はないのか、それとも数が足りないのかは分からないし確かめたいが、今一気に増やす訳にはいかない。


 スカベンジャーに指示を出して樽の中に肥料を吐き出して貰い、一杯になったら錬金術で水分を全て分離して乾燥させ、用意してあった麻袋に詰める。今更レミリーさん達に隠し事をする意味も薄いと思ったので、特に隠したりはしない。


 2人は暫く俺の作業を見ながら何をしているのか聞いてきたが、説明すると肥料の袋詰めを手伝ってくれた。そのおかげで20分もかからずに作業が終了した。


 ちなみにその間、アンデッドは二度、1匹ずつしか出てこなかった。


 その際に、レミリーさんが使ってた光魔法、ビームを教えて貰った。しかし微妙にそれっぽい光が出ただけでまだ実戦で使える威力ではなく、魔力の消費が多かったので今の俺には使えない。


 レミリーさんのを漫画やアニメのロボットが出すビームに例えるなら、俺のビームは虫眼鏡で太陽の光を集めた位だったからな……冗談抜きで。今後の訓練次第だ、焦らずやっていこう。


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