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第三章 24話

本日2話目の投稿です、次回は5/26の予定です。

 セバスが竜馬を連れて行った後、ラインバッハ達が竜馬について話をしていると話が終わる前にセバスが戻ってきた。それを見てシーバーは急いで準備を始める。


 彼は足早に自室に戻り、現役時代から使っているハルバードと退役後に購入した鎧を取り出して眺め、独り言を呟く。


「あの少年の腕前は如何程か……あの少年の身のこなしから相当の実力があるとは思ったが、測る事は出来なかった。ラインバッハから聞いた話も含めると、本気で相手をするべきだろう……こうなると、この身体の老いが恨めしいな……」


 彼は騎士団長の職を辞した時は何度も周囲から老いてはいない、まだ十分に職を全うできると引き止められていたが、彼の決意は固かった。


 かつて体の一部の様に軽々と振るえていた愛用のハルバードが段々と重く感じ始め、昔と同じように振るうには長い修練の末に得た気功の力が必要不可欠になり、次第に技の冴えも悪くなっていく事で自身の老化を痛感していたのだ。


 そして結局彼は自身の後釜に座るに足る者が育った事を見届けた後、騎士団長の職を辞した。




 彼は引退後も腕は落ちぬように、体の老いに抗おうと心がけているが、老いは心構えでどうにかなる物でもないと思い知らされていた。昨夜などは酒を飲み、それを吐露したりもする程に。


 それを横で聞いていたレミリーは


「時の流れはそんな物よ。貴方も私も、老いは受け入れるしかないの。でも、シーバーちゃんは心構えがあるだけ老いも緩やかだと思うわよ、気を抜いていたらもっと早く老いるから」


 と、流石に長命のダークエルフらしい達観した言葉をシーバーにかけていた。


 その言葉を思い出した様で、シーバーの顔に苦笑が浮かぶ。


「全くレミリーは……ダークエルフにも分かりづらいだけで老いはあると言うが、本当なのだろうか? 私もレミリーの歳を正確には知らないが……私の倍近い年齢の可能性があるにも関わらず、姿は初めて会った時と変わりなく体の動きも衰えている様には見えない。あれで老いていると言われても納得がいかん。


 恥をしのんで秘密でもあるのかと聞いたら、心が若いから、とはどういう事だ。……いや、今そんなことを言っても仕方があるまい。今は用意と試合に集中せねば」




 彼は思考にかかった雑念を祓い、用意を整えてラインバッハやレミリーと共に、セバスの空間魔法で移動する。門を抜け、二度目の転移が終わると目の前には岩場、そして何故かその一部だけが綺麗に均されていた。そこには多くのスライムに囲まれた竜馬が居て、シーバー達を見て近寄る。


「胸を借ります、シーバーさん」

「こちらこそ、よろしく頼む。ところでこのスライムと地面は?」

「スライム達は僕の従魔です。あと地面の方は試合が出来る様に魔法で均しておきました。訓練場の様にした方がやり易いかと思いまして」

「それは有り難いが、魔力は大丈夫なのか?」

「大丈夫です、土魔法を使えるアーススライムに頼みましたので」


 それを聞いて納得するシーバー。


「成程。では試合のルールだが、騎士団式で良いだろうか?」

「どういうルールでしょうか?」

「双方武器を持ち1対1で戦うが、魔法も中級までならば使用可の実戦形式だ。武器は魔法武器でも構わん。優秀な回復魔法使いが居なければ危険もあるが、幸い今はレミリーが居る」

「私は回復魔法も上級まで使えるわ。手足が切り落とされちゃっても、切れてすぐなら繋げるから、安心してね」


 竜馬はその言葉に驚きつつも、そういう物だと自身を納得させ、ルールについて1つ質問をする。


「武器の事ですが……」


 それと同時に竜馬の持つ刀がスライムに分離してゆき、再び一本の刀に戻る。


「僕が使っている武器はこれなのですが、1対1というルールに抵触しますか?」


 その言葉を聞いてシーバーは少し考え込む。


「スライムを武器として使う者を見たのは初めてだが…………君個人の実力を見るためだ、武器として使うのなら問題ないだろう。スライムに襲わせるのは反則とさせて貰おうか」

「ありがとうございます」




 こうしてルールが決まり、互いに武器を構えて整えられた試合場の上で向かい合う。2人の間にはセバスが立ち、審判を務める。そして、試合開始の時が来た。


「では…………始め!」

「ふっ!!」


 セバスが試合開始の合図を出すと同時に、シーバーが小手調べに鋭い突きを放ち、竜馬がそれを躱して間合いを詰めに行く。そうはさせまいとシーバーがハルバードの先を持ち上げ石突で攻撃を行う。竜馬はそれも躱し、今度はファイヤーアローを放ち、シーバーもそれを躱してファイヤーアローを撃ち返す。


 そうして互いに魔法を撃ち合い、幾度も武器を打ち合わせたが、まだ互いに全力は出していない。2人はまだ相手の出方を伺っている。




 しかし、もしこの試合をセバス達以外の何も知らない誰かが見ていればそうは思わなかっただろう。


 2人の周囲の地面には今までの攻防で放たれた魔法の爪痕が散見され、その中心に居る2人の試合は激しく、辺りに響く金属音と魔法の応酬による破壊音がその激しさを如実に表している。とても相手の出方を伺っている様には見えないだろう。


 事実、2人は並の兵士や冒険者では動きを見切る事すら困難な斬り合いをしている。開始早々に放たれたシーバーの突きも、小手調べと思っているのはシーバーと竜馬のみ。並の兵士ならば反応しきれずに貫かれている一撃だ。竜馬の様に躱して反撃に移る事など出来ない。そして同じく、竜馬の反撃を止める事も、並の兵士には無理だ。両者の技量の高さ故に、ただの様子見が様子見に見えなくなっている。




 そんな試合が続く中、ここでシーバーが勝負に出た。


 ハルバードを振り上げ、竜馬の肩口に振り下ろすと共に魔力を通す。

 竜馬は一歩引いて躱すが、魔力が流された事を察知した瞬間右に跳ぶ。


 次の瞬間、ハルバードから風の渦が吹き出し、先程まで竜馬が居た場所の地面に無数の浅い傷を付ける。


 シーバーのハルバードは風の下級魔法の『ウインドカッター』と中級魔法『トルネードカッター』が込められた魔法武器であり、トルネードカッターを発動すれば小さな風の刃が渦を巻き、敵を切り裂く事が出来る。今の一撃は勿論殺さぬように威力の加減がされていたが、直撃を受ければ戦闘不能かそれに近い怪我は負っただろう。


「気づいたか」

「武器に込めた魔力を感じられなければ、今ので終わりでしたね」


 魔力の感知、魔法として発動するつもりか武器に込めたかの判断、判断の後の回避の実行。竜馬がそのどれか1つでも出来なければ、もしくは判断に迷いがあれば、回避が遅れて間に合わなかっただろう。


 しかし竜馬は見事に躱して無傷。シーバーは心の中で竜馬を賞賛すると同時に、一層気を引き締めた。


 そして再度打ち合いが始まる。


 だが今の一撃で気を引き締めたのは竜馬も同じ。今度は竜馬が勝負に出る。


「『ファイヤーアロー』」


 竜馬が魔法を放ち、斬り込む。ここまでなら今までと何もかわらない。だが、竜馬が切り込む直前にもう一度魔法を放った。今度はアースニードルを無詠唱でだ。


「っ!」


 シーバーは無詠唱で放たれ足元から飛び出るアースニードルを躱したが、虚を突かれ攻防に僅かな隙が生まれた。間合いが瞬時に詰められ、気を纏わせたハルバードの柄で刀を受け止めざるを得なくなる。


 この状況を打開すべく、シーバーが即座にファイヤーボールを連発して竜馬の足止めをしつつ距離を取り、ハルバードからウインドカッターを放つ。


 するとここでシーバーの中にある疑問が浮かんだ。


(妙だ……この少年は私の攻撃を防いだが、その後即座に反撃をしてこない。……違うな、反撃はしてくるが、攻防に不自然な間がある。剣術の腕前は見事としか言い様がなく、魔法も無詠唱まで使えている。が、その腕前の割に妙な隙……言うなれば、ぎこちなさがある。


 隙を見せてこちらの攻撃を誘っていると思っていたが、それにしては少々露骨……もしやこの少年……)




 それから打ち合いを続け、シーバーは自身が見つけた竜馬の隙を軽く突いて様子を見る。そしてシーバーは自身の予想が正しい事を確信した。


(この少年はおそらく剣術と魔法を身に付け、我流で組み合わせているな……剣を身につけているからか多少は隙を減らす事を考えられているが、まだまだ経験が足りん。歳を考えれば十分だが、隙である事は間違い無い!)




 ここから竜馬が少々劣勢となる。


 竜馬とシーバーの実力は、武術だけならば拮抗していた。だがここに魔法という要素が加わると話が変わる。


 竜馬も工夫を重ねているが、相手であるシーバーは元からこの世界の住人。初めから自分も敵も魔法を使う事を前提とし、騎士としての訓練により技を洗練させてきたので、ハルバードでの攻撃後に魔法での追撃、大技の後にできる隙を魔法でカバーする等の一連の動きが竜馬に比べて滑らかだ。


 今までの竜馬はぎこちなくとも、戦ってきた相手との実力差があり過ぎたため問題にはならなかったが、シーバーは竜馬と拮抗出来る実力者。隙を見せれば当然隙を突かれる。そしてそれは竜馬に僅かな苦戦を、シーバーに僅かな余裕を与えていた。


 しかし、暫く劣勢が続いた竜馬は突如気を体に全力で巡らせ、今までよりも格段に早く、一瞬にしてシーバーに切りかかった。


 シーバーの魔法を躱し、懐に飛び込んでの突き。シーバーはそれを躱して反撃に移るが、若干有利だった先程までの僅かな余裕は無くなっていた。






 竜馬は一時的に劣勢となり、魔法が隙になっている事を自覚したと同時に自身の本領を忘れていた事に気がついた。


 相手が魔法を使う事、それに魔法を使って対抗する事はこの世界では当たり前の事だが、竜馬の居た地球には魔法が存在しない。


 地球で学んだ剣術は、魔法と組み合わせて使う事は考えられておらず、そこに無理矢理魔法を組み合わせた今までの竜馬の技は生兵法と言える。隙が出来るのも無理は無い。


 魔法を使うと隙が出来るのならば、使わなければ良い。そして自らが長く鍛え抜いた剣術1つに全身全霊を込め、相対すべきだと気づいたのだ。




 竜馬がそう自身を戒めてからの試合は熾烈を極めた。


 シーバーがハルバードを左上から右下に振るい、竜馬の頭部を狙う。


 刀で防ごうとも刀ごと首を撥ねる勢いでハルバードの刃が迫るが、竜馬は刀を右の脇構えから右足を右斜め前に半歩踏み込み、体を沈めて円を描く様に刀を振り、ハルバードを受け流す。そして即座に左足を大きく踏み込んで間合いを詰め、シーバーの左足を断ち切りに行く。


 シーバーは体を捻りつつ後ろへ下がる事で刀を躱し、竜馬の足に向けてハルバードを振るい牽制、それを躱して追撃に来る竜馬へ『ウインドカッター』を放ち、竜馬の回避先を先読みし魔法武器の『トルネードカッター』を叩き込む。


 それにより地面が大きく抉られ、土砂が風に巻き上げられた事により土煙が周囲に舞うが、肝心の竜馬は気で強化された肉体の瞬発力でかろうじて躱す事に成功していた。そして竜馬は土煙を押しのけ、再びシーバーに斬りかかるために駆けだす。




 こうして互いに全力で力と技をぶつけ合い数分が過ぎた頃、余計な事を考える余裕の無いやり取りの間で、シーバーは忘れて久しい充実感を覚えていた。


 老いて力を失ったと思っていた肉体には力が戻り、鈍ったと思っていた技が研ぎ澄まされていく様な感覚が心地よく、シーバーは無心にハルバードを振るい、魔法を放ち続けている。


 しかしそれも無限に続きはしない。激しい戦闘の中、不意に両者の距離が離れると、今度は互いに荒れた呼吸を整えながら、重い圧迫感を放ち睨み合いを始めた。


 申し合わせた訳では無いが、2人は同じ事を考えていた。次が最後だと……









「「はっ!!」」


 張り詰めた緊迫感の中、同時に裂帛の気合を込め、最後の攻防が始まる。


 竜馬は刀の切っ先をシーバーに向けて抱える様に構え、体に巡らせていた全ての気を足腰といった下半身に集中させた。これにより爆発的な脚力を得た竜馬は2人の間に距離など初めから無かったのではないかと錯覚する程の速度で間合いを詰める。


 尋常ではない速度で迫る竜馬に対し、シーバーは自身のハルバードに魔力を込め、更に無詠唱でトルネードカッターを使う。シーバーと魔法武器により同じ魔法が発動され、威力を倍加させたトルネードカッターは竜馬を迎撃するためにハルバードの突きと共に放たれる。


 竜馬は突き出されたハルバードの穂先を躱すが、ハルバードが纏う竜巻と風の刃は躱しきれず、頬と肩、そして体の左半身数箇所に出血を伴う浅い切創が出来た。だが竜馬は傷に構わず更に踏み込む事でそれ以上の負傷を逃れ、気を集中させていた下半身から全身に戻しながら渾身の突きを放つ。


 その必殺の突きを、シーバーは体を捻り思い切り捻る事で躱そうとするが、完全には躱しきれず左脇腹に浅い傷がつき血が流れた。


 竜馬は勢いそのままにシーバーの脇を駆け抜けるが、気で強化された足腰で思い切り地を踏みしめ、無理矢理体の勢いを止めて反転する。その際突き出していた刀を背負う様に振りかぶり、足と膝にかかる負荷をバネに変え、弾ける様にシーバーに飛びかかる。


 シーバーはハルバードを引き戻し竜馬を迎え撃とうとする。




 そして、次の瞬間、その場に血飛沫が舞った――


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