第三章 23話
2014/5/22の投稿です、今日はもう一話投稿します。
殺風景な景色を見ながら山道を歩き続ける。周りは岩だらけで緑も少なく、景色にはもう飽きていたが、ここでテレッサの街の門が見えてきた
今日はこの街に泊まって、迷宮に行くのは明日にする。宿はどうするかな……食事とかは自分で作らなきゃならないが、ディメンションホームがあれば下手な宿に泊まるより快適だし……まずは少し回ってみるか。ここは環境もそんなに悪くなさそうだし、宿の様子によっては宿をとっても良いかもしれない。そろそろ昼だし、どこかで食事もしようかな?
門をくぐってブラブラと街を歩いていると、一件の宿の馬車乗り場にある一台の馬車が目に留まる。
「ん? これって……」
ちょっとお高めの宿っぽいから素通りするつもりだったんだが、この馬車どっかで見たような……見間違いじゃないよな?
目の前にある馬車の側面に描かれている紋章に見覚えがあると思ったら、去年ガナの森からギムルの街まで俺を乗せてくれたジャミール公爵家の馬車だった。
何でこんな所に!?
そう考えていると、後ろから忍び寄ってくる人に気づいたので、振り向く。すると褐色の肌に肩まである銀髪を風になびかせた眼鏡の美女がゆっくりと忍び寄って来ていた。俺と彼女の間は3m程しかない。
この人、こんな近くまで近づいていたのに気配を全く感じなかった……相手が槍を持っていたら気づかぬうちに突かれていたかもしれない……気をつけねば。
「あら、気づかれちゃった。カンが良いのね」
「……あなたは、どちら様でしょうか?」
気配を消して近づかれたため、警戒して少々不躾な態度になってしまった。
「警戒させちゃったかしら? ごめんなさいね、ちょっと脅かそうとしただけなのよ。その馬車を熱心に見てるものだから、何してるのかなーと思って見てたら悪戯心がね」
確かに敵意は無さそうだが……
ここで女性の後ろから男性の声がした。
「レミリー様、こちらにおられましたか。そろそろ昼食の……おや? もしや、リョウマ様では?」
この声……
聞き覚えのある声の方を見ると、そこには執事服を着た白髪の男性の姿があった。
「セバスさん!」
「えっ? セバスちゃん、知り合いなの?」
そこに居たのは、公爵家の執事長であり、空間魔法の事でお世話になったセバスさんだった。どうやらこの女性はセバスさんの知り合いらしい。なら、とりあえずは大丈夫かな?
「レミリー様、彼は我々の友人でございます。まさかこのような場所で再会するとは思ってもみませんでしたが」
「友人? 我々って事はセバスちゃんだけじゃなくてラインバッハちゃんとも? へぇ……」
この女性、本当に誰なんだ? まだかなり若く20代、下手したら10代後半位の容姿にしか見えないのに、セバスさんやラインバッハ様をちゃん付け。この人の素性が分からない……にしても、改めて見ると本当に美人だな。
さっきも言った通り見た目は若い。身長は今の俺よりは高いが、成人女性としては小柄な方か? そして着ているローブの前が空いているのでスタイルが良い事が分かる。
胸には身長に対して少々不釣合にも思える膨らみがあり、腰が細い。地球の雑誌に載っていたグラビアアイドルの様な体型。健康的ではあるが戦うために鍛えられている様には見えない体つきからすると、武器で戦うタイプでは無いと思われる。身軽ではありそうだ。
「さっきは驚かせちゃってごめんなさいね、私はレミリー・クレミス。魔法使いよ」
「申し遅れました、リョウマ・タケバヤシと申します」
「お2人の挨拶が終わった所で、場所を移しましょう」
「そうね。リョウマ君も良いかしら?」
「はい。問題ありません」
セバスさんが居るならとりあえずはついて行っても大丈夫だろう。しかし、本当に何でこんな所にセバスさんが居るんだ? いや、ラインバッハ様も居るみたいだし、付き添いか。
セバスさんについて行くと、目の前にある宿の中に案内される。そしてある部屋の前にたどり着き、セバスさんがノックをしようとする。しかしそれに先んじてレミリーと名乗った女性が扉を開け、俺の手を引いて部屋の中に入った。
「ラインバッハちゃん、お客様よー」
「ちょっ、と……お久しぶりです」
部屋に入ると、去年と変わらないラインバッハ様の姿が目に入ったので挨拶する。室内にはもう1人ラインバッハ様と同じ位の歳の男性が居て、ソファーに座って寛ぎながら何かを話していた様だ。
「……リョウマ君か? ギムルで別れた時より少し背が伸びたかのぅ……しかし、何故ここに居るんじゃ?」
「たまたま修行に来ていたんです。そうしたら公爵家の馬車を見かけて、そこに……」
そう言いつつ、つい視線がレミリーさんの方に向いてしまう。するとそれを追ってラインバッハ様ともう1人の男性の視線もレミリーさんに向かう。視線が集まった事でレミリーさんが、色々端折って非常に簡単な説明をした。
「この子がラインバッハちゃん達の知り合いみたいだったから、連れてきたのよ」
その後、互いの自己紹介をし、俺とラインバッハ様の関係やラインバッハ様達がここにいる理由を聞いた。
どうやら今ラインバッハ様達は友人との旅行中だったらしい。セバスさんは予想通りその付き添いだ。
友人と言うのはレミリーさんともう1人の男性、名前はシーバー・ガルダックさん。なんと、昔俺が店を開いたときに護衛として雇わないかと言われた元騎士団長だった。歳と衰えを感じて退役したと言っているが、筋骨隆々で衰えを感じさせない体をしている。しかし威圧感を感じたりはしない。まぁ初対面で威圧されても困るが、騎士団長と言うと雰囲気が重々しい人だというイメージが何故かあったので若干気が抜けた。
そしてレミリーさんだが、彼女は元宮廷魔道士らしい。驚いた事に、おそらくこの中で最も年上だ。彼女はダークエルフだそうで、見た目で年齢を判別できるような明らかな老化が現れないので分からなかった。
年齢がおそらく、なのは聞けなかったからだ。俺が聞くかどうか迷っていると、シーバーさんがレミリーさんの年齢に関して口を滑らせかけ、シーバーさんに向けて視線と殺気と魔力を放った。その瞬間、俺はレミリーさんの年齢に関しての話題は避ける事にした。
ちなみにシーバーさんとレミリーさんの事を最初様付けで呼んだらレミリーさんには嫌がられ、シーバーさんはもう騎士団長でもないただの老いぼれだからと言われ、2人をさん付けで呼ぶ事になった。
知人に会うためにこの街に集まったのは分かったが……
「何故この街で会う事になったんですか?」
「修行中のリョウマ君なら知っておると思うが、この街の近くにある亡霊の街に行くのが目的なのじゃよ」
「常闇草という薬草を知っているかしら?」
「主に精神の安定剤や睡眠薬に使われる薬草ですね。混ぜる物・量によって人を錯乱させたり苦しめる毒薬にもなるので扱いの難しい薬草です」
「詳しいわね、その通りよ。でも常闇草の用途は薬に使われるだけではないわ」
レミリーさんはそう言いながら1本の黒い杖を差し出してきた。
「この杖はダークエルフの村で作られた物で、常闇草の煮汁に浸した木材で作られているの。こうすると出来上がった杖で闇属性の魔法を使いやすくなるのよ」
「へぇ……それ、教えてしまって良いんですか?」
「別に構わないわ、大した事じゃ無いもの。ただ煮汁に漬け込むだけで良いんだから、ダークエルフの村では常闇草を手に入れた人は皆家でやってる事よ」
秘伝の技術かと思いきや、そうでもないらしい。
「この杖は私が成人の時に贈られた物で、手入れをしながら使っていたけどそろそろ限界が来そうなのよ」
「なるほど、新しい杖を作るために常闇草を採りに来たんですね」
「その通りよ」
「儂らも軍を退役し、領地経営を息子に任せてからは暇じゃしのぅ、たまには良いかとレミリーの話に乗ったのじゃ。しかし、まさかリョウマ君がこの街に来とったとは思わんかったぞ」
「その若さで修行の旅をしているとは……何か目標があるのか?」
シーバーさんにそう聞かれたので、俺は祖父母の遺品を回収しに行く事を話した。
「ふむ、シュルス大樹海の中の村にか……」
「確かに、あそこに行くにはアンデッド対策は必要ね」
「はい。光魔法は使えますがまだ実体の無いアンデッド系魔獣との戦闘経験は無く、その経験不足を解消するためにも亡霊の街で経験を積みたいと思っています」
「あら、光魔法を使えるの?」
「はい。初級攻撃魔法のライトボールと対アンデッド用防御魔法のホーリーカーテン、その2種類だけは覚えました」
「歳を考えれば十分に優秀と言えるが、それではアンデッドが群れた場合に少々不安が残るな。せめて中級まで光魔法を使えれば問題無いだろうが」
「だったら、私が少し教えてあげましょうか? 中級の光属性魔法」
「良いんですか?」
「良いわよ。ラインバッハちゃんのお気に入りの子みたいだし、私が『ハイド』を使っても気付く位優秀そうだから」
ハイド? 聞いた事無いが、隠れる魔法かな? ……会った時に使ってたのか?
「ハイドとは魔法ですか?」
「闇魔法だから知らなくても無理ないわね。気配を隠す闇の中級魔法よ」
「レミリー様は光と闇の魔法の達人であり、優秀な宮廷魔道士であった方でございます。彼女以上の実力を持つ方はそう居られませんよ」
「少々性格に難があるが、技量は申し分ないじゃろ」
「失礼ねぇ……性格も良いわよ」
そう言うレミリーさんを訝しげな目で見るラインバッハ様とシーバーさん。セバスさんは我関せずとラインバッハ様の横に居る。光魔法を教えて貰えるのは嬉しいが、大丈夫なのだろうか?
「会ってしまった以上、苦労するのは教わる教わらないに関わらんか。リョウマ君が良ければ教えてもらうと良い」
どう言う意味だろう? 少々不安だが、貴重な機会は逃したくない。
「光魔法を教えて頂けるのは非常にありがたいです。レミリーさんが良いのでしたら、お願いします」
「じゃあ決定! 一時的かもしれないけど、これからは師匠って呼んで頂戴」
「師匠ですか? わか……」
「もしくはお姉ちゃんでも可」
分かったと言おうとしたら、予想外の提案が来た。それは恥ずかしいので断る。
「師匠でお願いします」
「えー、私のやる気に関わるのにー」
俺の言葉に、レミリーさんからあからさまな不満の声が出た。それを聞いて3人がそれぞれ発言する。
「自分で師匠と呼べと言ったのはお前だろうに」
「レミリーの相手は疲れるじゃろうが、耐えるか流すしか無いのでな。頑張ってくれ」
「リョウマ様、レミリー様の実力は確かですのでご安心を」
何と言うか……レミリーさんは自由人な気がする。
そんな事を考えていたら、ラインバッハ様がもう1つ提案をした。
「そうじゃ、リョウマ君。ついでに君の戦いぶりを見せてくれんか?」
別に構わないけど、どうしたんだろうか?
「亡霊の街に一緒に行けば良いのでしょうか?」
「それもあるが、一度試合をして欲しいんじゃ。ここに居るシーバーとのぅ」
え!? 俺が元騎士団長と!? というか、シーバーさんも驚いてるし。
俺より先にシーバーさんが聞くと俺の実力を見たいので試合をして見せて欲しい。だが自分だと評価が甘い可能性がある。その点シーバーさんなら初対面かつ元騎士団長だけあって俺の技量を正確に評価できるだろうとの事だった。
そもそも俺がシュルス大樹海に行く前に、俺の実力を測りたいとは前々から思っていたらしい。
公爵家の人達には前から手紙で事情を話していて、最初は俺が行かずとも信頼の置ける者を雇って回収に行かせてくれると言っていたが、俺が自分で行くと譲らなかったので最終的に行く前には一度連絡して会いに来る様に言われていた。多分その時から実力を試すつもりだったんだろう。
この話を聞いて、シーバーさんは試合をする事を了承した。そもそもいきなり試合をしろと言われたから驚いただけで、別に断るつもりは無かったらしい。
それからシーバーさん曰く、どうせやるなら相手の情報が無い状態で戦ったほうが、素の実力がよく見える。情報を集めて用意周到に準備をするのは良いが、それだけでは事前に用意が出来ない状況に追い込まれた時に生き残れない事があるとの事で、昼食前の運動がてらすぐに試合をする事になった。
そんな訳で、俺はセバスさんの空間魔法で先に試合が出来そうな街の外に連れて行って貰う。シーバーさんは旅をしてきたばかりの俺と違い、武器を持ってなかったので準備をしてから来る事になっている。
まず転移したのはテレッサの街の門の前。そのまま街の外に出る事も出来るが、門を空間魔法で飛び越える事は緊急時を除いて禁止されているからだ。
門を出たら再び転移し、何の変哲も無い岩場にたどり着く。ここなら周りを気にする必要は無さそうだな。
俺はシーバーさん達を連れてくると言い転移していくセバスさんを見送り、準備を整えておく。相手は元騎士団長、強くて当たり前だろう。年老いたとか言ってたが、今まで戦ってきた盗賊とは比べ物にならない程強いと感じた。油断は出来ないな……




