第三章 21話
2014/5/15の投稿です。次回は5/19の予定です。
翌日
俺達は冒険者ギルドから派遣された冒険者を15人連れ、昨日エルダートレントと戦った現場にやって来た。彼らの力を借りて今日中に全ての木材を回収する予定だが、回収された木材の内、レイピンさんのディメンションホームに収納される分以外は全てこの街とギルドの倉庫で保管され、後日馬車でギムルに運ばれる事になっている。
派遣されて来た冒険者はまず仕留められたトレントの数の多さと、これだけの数をたった7人で倒した事に驚いていた様だ。
なにせ、今日改めて数えてみたら俺達が仕留めたトレントは全部纏めて2000匹以上に及んでいたからなぁ……
どんどん集まってきていたから次々と倒し続けなければならなかったし、顔を正確に狙えば一撃で倒せたので、俺を含めた全員が攻撃範囲に入った奴からサクサク仕留めていた。そのせいで全員が仕留めた数を合わせたのがこの大量討伐という結果だ。
ちなみにこんなに森の木々がトレントになり、切り倒されて森は大丈夫なのかと聞いたら、大丈夫だとの返事が返ってきた。
何でもこの森の木々はトリギリという木で、生える場所が限られている代わりにとても生命力が強く、成長が早いらしい。その速さは何と、一度根元から切り倒しても半年以内に元通りになり、苗を植えて育てても1年以内に木材として伐採可能な大きさまで成長するそうだ。
だから今回の様に木が切り倒されても来年には元通りになるし、町の収入にも大して問題なく、そもそもここまで森の奥には滅多に木の伐採に人が来ることも無いと言われた。
俺はその説明に納得しつつ、ここが異世界だった事を思い出す。
地球じゃ苗を植えて木材にできるようになるまで何年、十何年とかかるのに、ここだと半年。最近忘れかけてたけど、ここ異世界なんだった。地球の常識が通じない事もあるよな……
その後、時々発見されるトレントを仕留めながら木材回収が始まる。アサギさん達が木材を一箇所に集め、俺とレイピンさんはディメンションホームに木材を突っ込んで街と森を行き来し、木材を運んだ。
人手と魔法があるため大体午後3時頃には木材の回収は終わり、最後に木材の受け入れ準備を整えて貰うため俺の店にナイトメアリムールバードのアインスを飛ばし、ギムルの冒険者ギルドに馬車で大量のトレント材が送られてくるという連絡を頼む。
これでトレント材に関してはひと段落したので、ここで木材回収の手伝いをしてくれた冒険者達は街に帰っていった。
しかし、俺たちにはまだ1つやらなければならない事が残っている。それはエルダートレントの解体と回収だ。
ギムルで受けた依頼の内容はトレントの木材の調達で、エルダートレントは対象外。この場合は狩った者の好きにして良い事になっているのだが、伐採と運搬を冒険者ギルドに依頼すると、その分の依頼料は自腹になる。
しかしエルダートレント材ならば一級品の杖の素材として高値で売れるため、捨てるのは勿体無い。だからこのエルダートレントは俺達で回収する事になったんだが、何分大きいので手間がかかる。
まずやる事は枝を落とす作業で、事前に用意しておいた梯子に登って枝打ちをするが、このエルダートレントは成長し過ぎて梯子では届かない位置にも枝がある。
そこで俺は他の皆さんに梯子が届く位置の枝を担当して貰い、ワイヤー並みの強度を持つスティッキースライムの糸を編んで作り上げた強靭なロープをアイテムボックスから取り出す。先端には輪と結び目が作ってあり、メタルスライムにガッチリとしがみついて貰った後に体の形を鉤爪状に変えて貰い、ロープから鉤縄にする。
そして俺はメタルスライムの鉤縄を振り回し、狙いを定めて投げた。
鉤縄は狙い通りに飛んでいき、太くてしっかりとした枝に巻きついていく。ロープを何度か引っ張って問題が無いことを確認してから登り、狙いを正確につけられる距離まで近づいたら周囲の枝を一本一本ウインドカッターで切り落としていく。そして周囲に落とせる枝が無くなったら場所を変えて改めて同じことを繰り返す。
初めに地面に倒してやれば楽だと思うが、枝も杖の材料になる。それも幹より枝の方が杖に適している部位らしく、先に切り倒すとせっかくの枝が折れてしまうのだから仕方がない。
黙々と作業を続けた結果、なんとか今日中に枝を落とす作業は終わったが、今日は疲れたな……木の上り下りは一回や二回ならともかく、何度も繰り返していると流石に疲れる。
そう言えば俺は普段杖を使わないが、このエルダートレントが手に入るなら、一本くらい杖を持っておこうかな……
次の日
今日もエルダートレントの回収作業を行う。
エルダートレントの枝打ちは昨日のうちに終わらせていたので、今日は根を掘り返して切り落とす作業になるが、ここで思わぬ事態が発生する。
俺がアーススライムと一緒に土魔法で根元を掘っていると、エルダートレントの真下に朽ちて原型が崩れている木箱や石の箱がある事が分かった。俺は、大声で他の皆さんを呼ぶ。
「皆さん! ちょっと来てください!」
俺がそう叫ぶと、アサギさん達が集まってくる。
「どうした?」
「何かあったのか?」
「ここに何か埋まっているみたいなんです。ほら」
「これは……木箱か?」
「何でこんな物が?」
「とりあえず、幾つか取り出して中を調べるのである」
レイピンさんがそう言い、慎重に箱を回収して開けてみると白く濁った色の石が大量に詰まっていた。聞いた所によると、これは使用済みの魔石だそうだ。使用前の魔石は水晶の様に透き通っているが、魔力を使い切ると白く濁るらしい。
ほかの箱も次々と回収して開けるがその殆どに使用済みの魔石が詰まっていた。しかし完全に使い切られていない魔石も少量だが入っていて、その中には無属性と闇属性の魔石があった。それから更にその作業を続けると、ここにこれほどの量の魔石がある理由が判明する。
とりあえずこの事をギルドに伝えるため、一度レイピンさんが街に戻り、ギルドの調査員を連れて戻ってきた。
それから更に調査を続けると、箱と一緒に数人の人間の遺体が出てくる。体は朽ち果ててしまっていたが持ち物が少し残っており、その中にあった帳簿から遺体は魔石商人、それも密輸や横流しを行う非合法な商人の物だと判明。この大量の魔石は彼らの商品だったと思われる。
ここで取引をしようとしていたのか、それとも魔石の隠し場所だったのかは分からないが、エルダートレントはここにあった大量の魔石の魔力を吸収して成長・巨大化。そして魔石の魔力を使って大量のトレントを生み出し、闇魔法まで使えるようになっていた。エルダートレントがこの場を動かなかったのは、魔石の入った大量の箱を持ったままでは動けなかったという推測がされ、しばらく時間は取られたが調査は終わった。
その後エルダートレントを横倒しにし、アイアンスライムとメタルスライムの大鋸で収納しやすいように切り分け、俺のディメンションホームの中に収納する。
これで俺達がこの街でやるべき事は終わったので、俺達は明日この街を出てギムルに向かう事になる。
だが、それと同時に今日までの働きを互いにねぎらうため、夕食後はディメンションホームの中で軽い打ち上げをすることが決まった。
「まだギムルまでの道中が残ってはいるが、トレント材は十分に確保できた。今回の依頼は達成したと見ても良い。今宵はひとつ、呑むでござる。乾杯!」
『乾杯!』
俺達はアサギさんの乾杯の音頭で酒を飲み始め、目の前のつまみに手をつける。
今日のつまみは天ぷらだ。俺達がトレントを狩っていた森では山菜の類がよく採れるらしく、町の八百屋で沢山売られているのを見かけた俺が、山菜か……天ぷらにしたら美味いかな? と呟いたのをアサギさんが聞きつけ天ぷらの話が始まったのだが、他の皆さんも話を聞いていて食べたいと思ったそうだ。
アサギさん以外は天ぷらについて何も知らなかったけど、この街に来るまでの旅で俺がちょくちょく日本食を出していたから興味を持ったらしい。
ちなみに、驚いた事にこの国には揚げ物が殆ど無いらしい。アサギさんの故郷には天ぷらがあるし、全く無い訳ではないがマイナーな食べ物なんだそうだ。
その理由としては揚げ物をする際にはどうしても大量の油を使い捨てにするので勿体無い、贅沢品というイメージがあり、更に調理法に詳しくないと火事になると言われていて、一般家庭では手を出しにくいそうだ。
俺としては揚げ物の味を知らない方が勿体無いと思うが、他の料理より使う油の量が多いのは確かだ。それに油を使い捨てるのも仕方ない、酸化した油は体に悪いからなぁ……俺の場合は錬金術で酸化した油から酸素を分離すれば良いだけなので、油そのものが汚れない限りは使い回せる。
……今更だけど、俺は錬金術でジュースとか油とか料理に色々手を加えてるけど、錬金術の使い方として正しいんだろうか? まぁ、間違っていても便利だからやめる気は無いけど。
「しっかし、本当にリョウマのスライムは変わってるねぇ」
「スライムは雑食、酒を飲んでもおかしくは無いであるが……」
「確実に味わって飲んでますよね、おつまみと一緒に」
そう、実はこの打ち上げには今、俺を含めた男3人と女性4人の計7人に加え俺のスライムが1匹混じっている。
このスライムは属性魔法を使えるスライムへの進化実験のために捕まえ、未だに進化していないスライムの内の1匹だ。このスライムは闇属性の魔力を好んでいたが、木属性の魔力を与えていた。でも何時からか俺が晩酌をしていると近寄ってくるようになり、大分前から一緒に晩酌をしていたりする。
初めは器に入れた酒に飛び込んで一気に飲んでいたので、一緒に晩酌といった感じにならなかった。しかし、俺が木を削りスティッキースライムの粘着液を塗って作ったスライム専用のお猪口を与えてみたら、段々と俺に合わせてゆっくり飲むようになってきた。近頃はお酒が無くなると注いでくれるし、つまみも食べる。
そんな事を皆さんに話していると、突然スライムが震え始めた。
「おっ、まさか」
「どうかしたのかにゃ?」
「スライムが進化を始めました」
「えっ!?」
間違いなく、目の前のスライムが進化を始めている。それを伝えると皆さんの視線がスライムに集中する。そしてスライムは他のスライムと同じ様に、魔力を吹き出し、吸収し、を繰り返して進化した。
進化したスライムはこうなった。
ドランクスライム
スキル 酒精生成Lv4 病気耐性Lv3 消化Lv5 吸収Lv1 分裂Lv1
加護:酒の神テクンの加護
……ちょっと待った、酒飲んでたし、ドランクスライムって名前はいい。真新しいスキルも酒精生成になるのは納得できる。間違いなく酒が原因だと分かるから。でもなんでここにテクンの加護が出てくるんだ? というか、スライムに加護って与えられるのか?
……まぁ、それはいつかテクンに聞こう。とりあえず好む魔力を調べる……闇、水、木か。闇は元々好んでたし、木は俺が与えてた。水は……普通に飲んでたけど、それが原因か?
そこでレイピンさんから声をかけられた。
「リョウマ、どうなったのであるか?」
「あ、ええ……なんか、ドランクスライムってスライムになりました。酒精生成というスキルを持ってます。多分お酒を吐き出すのかと」
「また変わったスライムであるな?」
とりあえず俺は新しい器を出し、酒精生成スキルを見せてもらう。すると予想通り、ドランクスライムが吐き出した液体からはアルコールの匂いがした。鑑定の結果、アルコール度数40程、人体には無害と出たので、俺はそれを飲んでみる。が……
「お酒、ではありますね。ただ……」
「ただ?」
「味が無いです」
特に味も匂いも無かった。美味しくはない。そのまま飲むのではなく梅酒とか、果物を漬けて果実酒にすればいけるかもしれない。これは要研究としよう。
そんなことを考えていると、今度はスライムの進化祝いにもう一度乾杯され、酒とつまみを楽しんで今日が終わった。




