第三章 18話
2014/5/5の投稿です。次回は5/8の予定です。
馬車に揺られる事5日間。
今日までの5日間、旅の間俺は主に食事の用意を担当したり、ミゼリアさんやミーヤさんから馬の扱いを習いながら過ごした。
俺が料理担当になったのは、この集団で1番料理の腕が良いと判断されたのが俺だったからだ。
俺が料理担当になった代わりに、他の仕事は殆ど他の皆さんが担当してくれている。例えば道中の戦闘。ギムルから離れるとゴブリン等の魔獣が何度か襲ってきたが、すぐさまレイピンさんの魔法で仕留められていた。その後の襲撃も簡単に対処されていて、俺の出る幕は無い。
少し時間を持て余していた俺は、馬車を御せれば何かと便利だと聞いて、教えて貰えないかと話したら快く教えて貰える事になった。
そんな訳で俺は今も、前世で未経験である馬車の御し方を習っている。
「基本は大体身に付けたみたいね。あとは慣れれば問題ないと思う」
「ありがとうございます、ミゼリアさん」
お、隣で様子を見ていてくれたミゼリアさんからお墨付きを頂いた。でもまだ完全に身に付いたとは言えない。この依頼が終わってから練習しなきゃ忘れるだろうし、帰ったら馬車を買うか? ……使う機会はあまり無さそうだから勿体無い気がする。馬車だけじゃなくて馬も必要になるし、よく考えてから決めよう。
それから4時間程が経ち、そろそろ目的の森から最寄りの町が近いと言われる。さらに20分ほど馬車を進めると、町の門が見えた。
ここからは人通りが多くなるのでミゼリアさんと操縦を代わり、俺は門や町並みを眺める。ギムルより大分小さく静かな町だが、それなりには賑わいがある。街中の建物は全て木造で、木材を積んだ馬車と頻繁にすれ違う。この町は林業が盛んなのだろうか?
そんな事を考えていたら宿に着いた様だ。男3人女4人で別れて部屋を取り、その後は冒険者ギルドに行ってトレントが多く出る場所等の情報を収集し、明日に備えた。
翌日
「準備は良いでござるな?」
アサギさんの声に俺達は頷き、森に入っていく。
先頭はミーヤさんとミゼリアさん、次にシリアさんとウェルアンナさん、続いて俺とレイピンさん、そして殿にアサギさんだ。
森は薄暗く、鬱蒼としている。それだけならガナの森にも同じ様な所があったが、何かが違う。なんとなく空気が澱んでいるような、息苦しい感じがするな……
「む……早速居るのである。ミーヤ、前方20m程にある他より若干太い木が分かるであるか?」
「あれかにゃ?」
「そうである」
レイピンさんの言葉に1本の木を指し示して聞くミーヤさん。指された木の幹は直径30cmから40cm位だろうか? 高さは4m程の針葉樹だ。見た目は本当に周りの木と見分けがつかない。若干周りの木より大きくて枝が長い気がするが、注意深く見なければ気づけないだろう。
レイピンさんから間違い無いとの返答を受けると、周囲に他のトレントが居ない事を確認した後、ミーヤさんとミゼリアさんが片手斧を持って向って行った。今日の相手はトレントなので、今日の女性陣はナタと小型の斧を持ってきているのだ。
2人が近づくと先ほど指し示された木の枝が曲がり、2人に向けて上から鞭のように振るわれた。2人はそれを軽く躱す。しかし、トレントの枝は意外にも良く曲がるらしく、枝を躱したミゼリアさんに絡み付こうとする。
ミゼリアさんが枝を斧で叩き切り、それと同時に俺の居る場所からは陰になっていてよく見えなかったが、ミーヤさんがトレントの幹に斧を叩き込んだようだ。
その直後、トレントの枝が僅かに下垂してゆっくりと幹が傾いた。すると、2人がもう大丈夫だと手を振ってくる。全員で2人の所に向かってみると、ミーヤさんの斧がトレントの顔に刺さっていた。
「枝を避けてこうすれば一撃で仕留められるにゃ」
「一匹なら結構楽な相手だから、次に一匹だけで居たらリョウマ君が戦ってみたらいいと思うよ」
「ありがとうございます」
2人がそうアドバイスをくれたが、俺はここでレイピンさんが難しい顔をしているのに気がつく。
「レイピンさん、どうかしました?」
「見つかるのが早いのである。トレントは森の奥深くの暗い場所を好む魔獣なので、こんなに森の入口付近に出てくる事など滅多にないのである」
そういえば、昨日のギルドで得た情報にも入口付近での目撃報告は無かった。
「こりゃ奥は多いかもしれないね」
「はぐれたトレントが迷い出て来ただけかもしれぬが、油断せずに進むでござる」
その言葉に俺を含めた全員が気を引き締める。そして仕留められたトレントを切り倒し、枝を落とし、レイピンさんのディメンションホームに収納して再び歩き出す。
そしてしばらく行くと、1匹のトレントが居た。
「居たのである。リョウマ、やってみるのである」
「はい」
俺は前に出て武器を抜く。今日の武器は刀、正確には刀の形になってもらったビッグアイアンスライムだ。ちなみに鞘はビッグメタルスライムだ。
硬化スキルのお陰で強度は十分だし、切れ味も良い。何より万一曲がったり刃溢れした場合も変形して即座に修復してくれるのが良い。
俺は魔力感知で標的のトレントを再確認し、体と刀に気を纏い、刀を八相に構える。今回のトレントは先程よりは細いが、ゆっくりと近づいていくとトレントの攻撃範囲に入った所で上から枝の攻撃が来た。
俺が枝を躱しながら右に回り込むと、弱点であるコブを確認できた。すぐさまそのコブに向かって刀を振り下ろす。するとすんなりとコブを断ち切る事が出来た。
切った瞬間トレントが呻き声の様な音を出したが、特に害は無い。切り落とされたコブは落ちた場所にあった根にぶつかりカラカラと音を立てて地面に転がる。
今の一太刀で仕留める事が出来たようで、先程のように枝が垂れて傾く。それを見て皆さんが歩いて来た。その後またトレントを回収して別のトレント討伐に向かう。
トレントの危険性は周囲の木に擬態しての不意打ちで、逆に言えばトレントの攻撃範囲に入る前に発見できているならそれほど強い相手では無い。とりあえず1対1なら問題は無さそうだ。あとは群れた場合にどうかはこれから確かめる。
それから森の中で昼まで討伐を行ってトレントを確保し、俺も大分戦い慣れてきた頃、トレントの群れを見つけたのでそれを皆で殲滅した。
その数、なんと147匹。本来は森が開けていて森に入る人が休憩に使っている場所らしいが、そこをトレントが埋め尽くして見た目には森が続いている様に見せていた。これも昨日の情報には無かった。
「時間はまだある故、トレント材の確保はそう急ぐ必要は無い。それより先の情報より大分トレントの数が多いでござる。早めにギルドに伝えた方が良いな……」
確かに情報と今では状況が大分違っている。ここまでに狩った分を含めると、既に200本近いトレントが集まっている。最低300本の予定だったが、もう既に半分以上が集まっているので、今日は早めに街に戻る事になった。俺達は森から出たその足でギルドに行き、現状の報告をする事にした。
ギルドで今日の森の様子を受付に居た受付嬢、というには少し歳を食っている女性と話す。するとその女性は神妙な顔をしてこう言った。
「そうでしたか……ありがとうございます。実は先程も皆様と同様に森の様子が違うと言って来た方々が居りましたので、これから森の奥の様子を調べに人を出そうという話になっていた所です」
「そうであったか、何かこの大量発生に心当たりは?」
「エルダートレントが居る可能性があります。この街の近くの森の奥には常にトレントが生息していますし、数年から十数年に一度の間隔で発見報告があります。理由はわかりませんが、エルダートレントが生まれるとその周囲にトレントが大量発生すると言われています」
「やはりか……我々が森に入るのは構わないであるか? 規制等は?」
「皆様はご自由にどうぞ。AランクやBランクの皆様なら問題ないでしょう」
俺はEだが、黙っておこう。女性も俺だけ森に入るのを止めたりしないみたいだし。それどころか女性は俺達にどうせ森に入るならば、とトレントの討伐依頼を持って来た。
冒険者が複数の依頼を同時に受注する事は可能。例えば何か依頼を受け、その付近で出来る依頼を受注して仕事をこなし収入を増やすのは、余裕を持って仕事が出来る様になった冒険者なら当たり前の様にやっている事だ。
今回の場合、ここでトレントを倒して討伐報酬を貰い、倒したトレントをギムルに持って行ってトレント材確保の報酬を貰う。ここの依頼はトレントを倒すことが目的で、ギムルの依頼はトレント材を集める事が目的なので、余計な手間も問題も無い。今日の様にトレントを狩っていれば良いんだ。
こうして必要な情報を得て、ついでにトレントの討伐依頼を受けた俺達は明日まで自由時間を取る事になった。そこで俺は亜空間倉庫に入り、スライムと訓練をする。今日はポイズンスライムとの槍術訓練がメインだ。
一通りの訓練をしていてふと思ったんだが、アイテムボックスの中にあるメルゼンの槍をポイズンスライムに与えたらどうなるだろうか? 少し重いかもしれないが、槍としては何とか使えると思う。だが魔法武器としてはどうか?
スライムは進化の際に魔力を放出し、それを取り込んでいた事は確認している。それは進化の時だけの事なのだろうか? それとも何時でも出来る事なのか?
ポイズンスライムを1匹呼び寄せ、魔力の放出を試させる。すると、あっさりと魔力を放出し始めた。 これならいけそうだ!
そう思った俺はメルゼンの槍を取り出し、目の前のポイズンスライムに持たせて魔力を込めさせる。すると勢い良く槍の穂先から火が吹き出た。
成功だ!
「このまま槍を振れるか?」
ポイズンスライムは火を吹き出す槍を操り始めた。やはり槍が重いのか普段より動きが悪いが……それでも一応使えているな。しかし、続けさせていると若干動きが悪くなってきた。
「スライムに疲れは無いはずだが、魔力切れかな?」
もうやめさせようと思った瞬間、ポイズンスライムが槍を取り落とし、小さくなった。
「どうした!?」
駆け寄って様子を見てみると命に別状は無さそうだが、少し弱っている。体は大体普通のポイズンスライムの半分程になり、動きも鈍い。とりあえず毒属性の魔力を与えながら様子を見る。
「体が小さくなったのは縮小化じゃないよな? ただのポイズンスライムには縮小化のスキルは無いはずだ」
魔獣鑑定で調べてみたが、やはり縮小化のスキルは持っていない。ならば何故? 魔力を使わせたからか? それくらいしか思い当たらないが、そうなると今度は何で魔力を使ったら体が縮んだのかという話になる。
「体……魔力…………消費した?」
確証は無いが、スライムの体が魔力で出来ているとしたら魔力を使わせた事で縮んだ事と弱った事に説明がつく。というか、それ以外に理由が思い浮かばない。
だが魔力は目に見える物じゃないし、スライムの体の様に触れられる物でもない……でも、スライムは死ぬと体が消える。スライムの体が魔力だとしたら、その現象にも説明がつく、かもしれない……だがそうなると……
「…………一旦これは置いておくか。とりあえず、仮説としてスライムの体は魔力で出来ていると考えてみよう。後は、レイピンさんにも話してみて意見を聞こう」
その後、俺はディメンションホームから出て、夕飯の時にレイピンさんに聞いてみたが、レイピンさんにも分からないそうだ。そもそもスライムに高価な魔法武器を与えようとする事がまず無い事であり、スライムが魔力を放出して魔法武器を使えた事にも驚かれた。
そして最終的に出た結論は、可能性はある、という一言だった。そもそも魔獣は普通の動物より多くの魔力を体に宿しており、魔法が使えない種類も例外ではない。よって、スライムが魔力を持っている事には何の不思議も無いのだ。
だが体である魔力を使ったから縮んだとなると、アーススライムやヒールスライム等、魔法を使うスライムが縮まない理由が分からない。まだ研究を続ける必要があるな……
次の日
今日も森に入り、トレント狩りと回収を続けている。それにしても、本当にトレントが多いな……朝から昼まで狩りをして交代で休憩をとり、今日まででざっと600本分のトレント材を回収しただろう。
「そろそろ吾輩のディメンションホームの空きが少なくなってきたのである。今日はこれくらいで良いと思うのであるが、どうであるか?」
目標には達しているし、時間はまだある。皆異論はなく、今日の仕事は終わりにして帰る事になった。そして森を抜けるために歩いていると、突然レイピンさんが空を指差し、声を上げた。
「リョウマ! あれを見るのである!」
レイピンさんが指し示す方向を見てみると、森の木々の間から空に浮かぶ緑色の小さな球体が見え、その上には大きなタンポポの綿毛の様な物が付いている。あれは、何だ?
「あれは何ですか?」
「スライムである!」
「スライム!?」
「フラッフスライムという種類で、飛行能力を持つのである。リョウマは飼っていなかったはずだと思うのであるが……」
「確かに、あのスライムは飼っていませんし、知りませんでした。今捕まえられますか?」
「容易い事なのである。『ピックアップ』」
レイピンさんは飛んでいるスライムを見据えて手を前に突き出し、呪文を唱えた。するとその瞬間、空に居たスライムがレイピンさんの手元から少し離れた位置に現れた。
「今の魔法は?」
「ピックアップと言って、対象を自身の手元かその近くに転移させる空間魔法である。対象を目視出来る範囲でなければ使用不可。そして狙いを付けるのが難しい魔法なので使い手は少ないのであるが、相手によっては無傷で捕獲できるという利点もあるので、吾輩はこの魔法で研究する魔獣を捕まえているのである。グレルフロッグの捕獲にもこれを使っているのである」
「なるほど……」
そう言えば、グレルフロッグ狩りの時、魔法で捕まえるとか言ってたな。この魔法か。
「それより、早く契約してしまうのである。ここも安全とは言えないのである」
「そうでした」
俺は急いで目の前のフラッフスライムと契約する。フラッフスライムは近くで見るとこぶし程の大きさだった。手乗りスライムだな。
フラッフスライムをディメンションホームの中に入れ、レイピンさんと周辺警戒をしてくれていた皆さんに礼を言って、再び歩き出す。
そして日が暮れる前に街に着いた俺は、すぐに宿に戻ってフラッフスライムを魔獣鑑定する。
フラッフスライム
スキル 飛行Lv1 成長促進Lv5 軽量化Lv10 光合成Lv3 吸収Lv1 分裂Lv8
光合成があるから消化は要らないのか。吸収は水だろう。 この飛行と成長促進、軽量化は初めて見る特徴的なスキルだ。あと、分裂のレベル高っ! 綿毛みたいなの付いてるし、やはりタンポポの様に増えるのかな?
とりあえずスキルの確認のためにフラッフスライムを持ち上げ、軽量化をさせる。すると突然重さが無くなった様に軽くなった。元々他と比べても軽かったけど、それでも重さはちゃんとあった。それが本当に軽くなってる。
軽く出来るのは自分の体のみの様だ。まぁ他の物まで軽く出来るんだったら荷物運びに便利だ、位は誰かが気づいてるだろうな。なんてったって、軽すぎて浮かんでるくらいだし。
飛行はまさにその状態。俺が腕を振ったり動いたりするだけの僅かな風で飛ばされている、飛行と言うより浮遊が正しい表現だと思う。一応軽量化の調節で地面に降りる事は出来るみたいだが、方向や速度は風任せにしか出来ないみたいだ。
観察を終えてレイピンさんから話を聞くと、風に乗ってかなり遠くまで移動する事があるので、割とどこでも見かける可能性はある種類だそうだ。ただし、大量に発生する事はあまり無いとの事。分裂のレベルが高いのに何故だろうか?
そう思って聞いてみたら、フラッフスライムの分裂時には俺の予想通りタンポポの綿毛の様に飛ぶそうだが、全ての綿毛がフラッフスライムになる訳では無いとの答えが返ってきた。
なお、大量発生したらしたで綿毛が鬱陶しく、近隣の街や村の人がすぐに駆除するよう討伐依頼を出すらしい。
フラッフスライムにも何か出来ないかは今回の仕事が終わってから、時間をかけて考えてみよう。




