第三章 19話
2014/5/8の投稿です、次回は5/12の予定です。
翌日
今日も昨日と変わらないトレント狩り。違う所があるとすれば、初日より戦い慣れたおかげで前より手際良くトレントを倒せる様になっている事だろうか?
予定では今日か明日で狩りは終わらせ、ギムルに戻る事になっている。今日の午前中でレイピンさんのディメンションホームが一杯になり、今は狩ったトレントを俺のディメンションホームに収納しなければならない状態になっているからな。
「はっ!」
俺は刀を振り下ろして1匹のトレントの顔を額から顎まで一刀両断し、その右に居た1匹の顔を左下から右上への切り上げて真っ二つ。そしてそこに振り下ろされてきた1匹のトレントの枝を躱し、顔を横から切り落とす。
これ、何度もやってて思うけど、横から切り落とすとまるで仮面みたいだよな……
くだらない事を考えつつ3匹のトレントを仕留め、周囲にほかのトレントがいないことを確認する。
「リョウマもだいぶトレントに慣れたみたいだね?」
「リョウマは元々しっかりと剣技を身につけていた分、対処に慣れるのが早いでござるな」
「動きに無駄がにゃいにゃ」
「ありがとうございます。武術は祖父から徹底的に叩き込まれているので、それなりに自信がありますよ」
一応危険な場所なのだが、こうして皆さんと軽く話す余裕はある。気を抜き過ぎても良くないが、余裕が無さ過ぎるのも問題なのでちょうどいいだろう。
だが、そこから更に奥に入って行くと、突然周囲の様子が変わった様に感じた。魔力感知に集中すると、この先に数え切れない程のトレントがいる事がわかった。
「レイピンさん」
「うむ。随分数が多いであるな……残念ながら、ここから全ては把握しきれないのである。アサギ」
「分かっている。おそらく、この先にエルダートレントが居るのでござろう。退路を確保しつつ進み、万一無理だと判断した場合は情報を持ってギルドに戻るでござる」
そして周囲に注意を払いつつ、先に進むと……
「「ハッ!!」」
「ニャアッ!!」
「――!」
「エイッ」
「『ウインドカッター!』」
進行方向にはトレントの群れ。俺達に気づいたトレント達がゆっくりとだが這いずり、襲いかかってこようとしていて、俺達は総出で対処している。
女性陣は手斧とナタで顔を狙い、アサギさんは顔より下を太刀で一刀両断にして仕留めていく。レイピンさんは魔法での援護。俺はトレントに囲まれない様に、俺達の背後に回り込もうとするトレントを仕留めている。
しかし奥から別のトレントが続々とやって来ている。幸いなのはトレントがそれほど強くない事、そして今俺達が仕留めているトレントは移動していてしっかり地に根が張られていないため、仕留められると地面に倒れこむので視界が割と良好な事だ。
「まだ問題ありませんが、キリが無いですね!」
シリアさんのその言葉に対して誰からも返答は無かったが、全員が同意したのが何となく分かった。
「魔力感知で調べた限り、この周辺の木は殆どがトレントである! 全て伐採するつもりで行くのである!」
「皆、無理はするな! 撤退は恥ではない!」
「分かってるよ!」
「命あっての物種ってね!」
会話内容の割に皆さんからはあまり深刻な感じがしない。単に確認をしただけで、すぐに次のトレントに向かっていく。やはり皆さんもAランクとBランク、この位は何とも無いのだろう。
俺も俺の仕事に集中しよう。少しこっちに来るトレントが増えてきた。
俺は刀を鞘に収め、代わりに鞘になって貰っていたビッグメタルスライムに分離して貰う。足元には分離した100匹のメタルスライムが現れ、その内の2匹を持ち上げて指示を出すと、俺の指示通りに変形する。
メタルスライムが変形したのは投擲用の斧だ。そして俺は当然の如く、体を気で強化して、投げる!!
「オッ……」
「オ……オォ……」
投げた2本の斧は綺麗に弧を描き、寄って来ようとしているトレント2匹の額に突き刺さり、2匹を仕留める事に成功した。
その後もすぐに次のメタルスライムに斧になって貰い、投げる。投げたら次のメタルスライムに……を繰り返し、ひたすら斧を投げまくる!!
今までの経験で分かったが、トレントのもつ魔力には偏りがある。全体的には均等な量の魔力が行き渡っている様に感じるのだが、その中に一箇所だけ他より魔力が多い点が存在する。そこは、弱点である顔だ。
どうやらトレントの顔は体に魔力を行き渡らせる要、人間で言う所の心臓になっているらしく、魔力が集まっている。そしてその顔を傷つけられるとそこから魔力が抜けて死んでしまうらしい。顔を心臓、魔力を血に例えると、まるで人間のようだ。
しかし血と違い、魔力の流れは魔力感知で把握できる。だからトレントは魔力感知が出来れば弱点の位置まで分かる魔物だった。今も倒れるトレントが積み重なり、生きているトレントの顔が見えない時があるが、魔力感知で的の位置は把握できる。
だから、トレントを倒すのはかなり楽だ。油断してはいけないと思うが、実際に大分余裕がある。
俺は魔法を使っていないので魔力切れにはならないし、体が気で強化されているので疲れにくい。普通の投擲武器なら手持ちの武器を投げきってしまえばそれ以上の攻撃は出来ないが、俺が投げているのはメタルスライムなので刺さった後は自分で帰ってくる。よって弾切れは無く、拾い集める手間もかからない。
その上顔の位置が分かるから、斧を投げて一撃で仕留められるのでサクサク倒せてしまう。しかも投げたメタルスライムが帰ってくる時にはトレントが反応して攻撃を仕掛けるが、その際にはただでさえ遅い足が止まるので狙い易く、攻撃範囲まで近づかれる前に倒す事が出来ている。正直、戦闘ではなく作業だ。
ちなみに、攻撃を受けたメタルスライムは全員無事だ。金属の塊に対して木の棒での一撃では効果が無かった。
こうして俺は一方的に俺たちの後ろに回り込んで来ようとするトレントを仕留めていき、他の皆さんは前方のトレント達を蹂躙している。
みるみるうちにトレントの数は減って行き、周囲の森が倒れたトレントが散乱しているだけの広場になる。普通の木はまばらにしか生えていない。
「とりあえず、乗り切れたであるな……しかし、妙なのである」
「何がですか?」
呟いたレイピンさんに、俺はそう問いかける。
「まずはトレントの数が多過ぎる事、こんな数の群れは見た事が無いのである。そしてこの場所、トレントは魔力を持って魔獣となった木々であるが、ここまで広範囲の木々がトレントになるなど初めて聞いたのである。最後に、極めつけがアレである」
レイピンさんが示した方向には、遠目に巨木が立っていた。強い魔力を感じるので、あれがおそらく……
「あれがエルダートレントですか?」
「だと思うが……吾輩はあれだけの巨体と強い魔力を持つエルダートレントは初めて見たのである。それに、なぜあのエルダートレントが我々に向かって来ないのかも気になるのである」
その言葉を聞きつけて、ちょうど近くに来たミーヤさんが俺より早く問いかけた。
「気づいてにゃいという可能性はにゃいか?」
「ここまで同族であるトレントを倒している以上、それは無い。我々に勝てぬと思って襲ってこない可能性もあるが、それなら逃げずにあの場に留まっているのはおかしいのである」
だったら……
「何かあそこから動けない理由が?」
「そう考えるのが妥当であるが、前例が無い。少なくともエルダートレントが逃げもせず、襲いかかっても来ないなんて吾輩は聞いた事がないのである」
「放置しておくのは少々危険か……討伐、もしくは何か情報だけでも持っていくべき……レイピン、リョウマ、魔力は?」
「問題無いのである」
「僕も、魔法は殆ど使いませんでしたから」
「そう言えばそうでござったな。まさかスライムを斧にして投げるとは思わなかったでござるよ。……それでは警戒しながらになるが、もう少し休んでからエルダートレントを狩りに行くでござる」
エルダートレントを狩りに行く事が決まり、俺達はエルダートレントの特徴を再確認して木属性魔法への注意が呼びかけられ、その後休憩を取った。
休憩中には俺のスライム投擲に皆さん興味があったらしく、特に普段は弓を使っているシリアさんが話に食いついて来た。
しかし、休憩を終えてからエルダートレントに向かって行くと、まだ距離がある場所で突然メタルスライムに異変が起こった。
「ちょっと待ってください」
「どうした?」
「メタルスライムの様子が……恐怖? ……何かに怯え始めたんです」
契約の効果でメタルスライムの様子が分かるが、今すぐにでも逃げ出しそうなほど怯えている。今までこんな事無かったんだが……
「大丈夫にゃのか?」
「申し訳ないですが、この状態ではメタルスライムは戦えませんね」
「無理はさせないでやると良いのである」
そう言われて俺はメタルスライム達をディメンションホームの中に入れる。しかし、気になる……メタルスライム達の怯え方は尋常じゃなかった。天敵でも居るのだろうかと思ったが……見える範囲にはエルダートレント1匹のみ。それにエルダートレントがスライムの天敵だなんて聞いた事が無い。
更に、怯えていたのはメタルスライム達だけで、アイアンスライムは平気だったようだ。メタルスライムは一体どうしたんだろうか? ……まぁ、アイアンスライムは参戦できて良かった。一応アイテムボックスに予備の武器はあるけど、アイアンスライムの刀が一番良い武器だからな。
それから様子を見ながら更に歩いて行くと、今度は周囲に異変が起こった。
「左の木!」
「にゃっ!」
俺達はエルダートレントに向かって歩いていたが、その際まばらになった木々の内の1本の横を通った。その木は俺の魔力感知ではただの木だった。
おそらくレイピンさんの感知でもそうだったんだろうけど、俺たちがその木の横を通ろうとした瞬間、急に木が魔力を持ってトレントになり、襲いかかろうとしてきたんだ。尤も、すぐさまレイピンさんに察知され、ミーヤさんに仕留められたが……
「これは、どういう事だ?」
「レイピン?」
「この木は先程までトレントでは無かったのである。今、この瞬間にトレントになったのである。こんな事は本来ありえないのである」
トレントは木が魔力を持って魔獣になった魔獣だが、一気に魔獣になる訳ではない。時間をかけてゆっくりと変化するのが普通なのだとか。
そんな事を言っていると、まばらにあった木々がまたしてもトレントに変化したのを感じた。
「レイピンさん」
「うむ、トレントが続々と生まれているのである」
「こりゃ予想外だねぇ……」
「この様な状況、予想のしようがあるまい」
まぁ、先ほどより数が断然少ないので問題は無いが、この異常事態は気にかかる。そう思いつつも周囲のトレントに対処するため、魔力感知に集中する。すると土の中に魔力が通っていたのを感じた。
その魔力が通った先を見ると、トレントに変化したばかりの木を確認した。そしてさらに集中して魔力感知をしてみると、同じ様に足元の近くを微かに魔力が通っているのを感じる。これが原因か?
「土の中に何かあります! 『ブレイクロック』『ブリーズ』!」
俺は魔力を感じた場所の土をブレイクロックで崩し、風魔法のブリーズで強い風を起こし崩した土を吹き飛ばしていく。するとそこには木の根が通っていて、その中に魔力が流れているのを感じた!
レイピンさんもそれに気づいてこう叫ぶ。
「エルダートレントの根! ……もしや、エルダートレントがこの根を通じて木々に魔力を送り込み、トレントに変えていたのであるか? そう考えればエルダートレントが現れるとトレントが急増する事に説明がつく、これは驚くべき発見である!」
「研究より対処が先でしょ!」
「とにかく、この状況を解決するにはエルダートレントを倒してしまうしか無いのか?」
「その可能性が高いのである。これを放置すればその分さらにトレントが増える可能性もあるのである」
「エルダートレントまではここから500m程……一気に接近しエルダートレントを仕留めるでござる。リョウマ、殿を頼む。エルダートレントは我々が受け持つ故、追ってくるトレントの足止めを頼むでござる!」
「了解!!」
俺が答えると、すぐさま行動に移る。ウェルアンナさん、ミーヤさん、ミゼリアさん、アサギさんの4人が先行し、進行方向に居るトレントを伐採していく。それに続いて俺、レイピンさん、シリアさんが続いてエルダートレントに向かっていく。
トレントの動きが遅い事が幸いし、トレントは障害にはならなかった。しかしここでとうとう、エルダートレントが直接的に攻撃を加えてきた。
枝の攻撃範囲にはまだ遠かったが、地中にあった自分の根を地面に出して攻撃してきたのだ。しかも情報にあった木魔法を使っているらしく、根が伸び、俺達を追って捕まえようとしている。
レイピンさんはウインドカッター、俺達は武器で切り落として対処しているが数が多く、特に足元からくる攻撃が躱しにくい……ならば!
「『ペイブメント』!」
店を作る時に使ったペイブメントで地面を押し固め、舗装してやる。木の成長力で突き破られる可能性はあるが、時間稼ぎにはなる。そう思って使ってみたが、予想通り押し固められた地面は足元からの攻撃を防ぐ事が出来た。
「援護します!」
「助かる!」
こうして俺達は一気にエルダートレントに突撃していく。




