第二章 16話
2014/2/24の投稿です
閉店後
クリーナースライムに簡単な店の掃除をさせてから、スライムに水を飲ませていた俺に、カルラさんが売り上げの報告に来た。何か普段の報告とは雰囲気が違うな……
「店長、今日の売り上げですが……」
「どうしたんですか? 赤字でも出ました?」
「違います、赤字ではありません。黒字です」
「黒字? それなら今日まででも十分な儲けは出てたでしょう?」
「昨日までとは額が違うのです、リョウマ様。今日だけで、26036スートの売上が出ました」
26036スート!?
「ちょっと待った、昨日と一昨日まで16000スートちょっとだったはずですよね? 何で急に10000スートも売上が伸びたんですか?」
「今朝、店長が店を出た後大口の契約が舞い込みました。この店の噂を聞いたらしく、鍛冶職人や大工の元締め、それに製鉄所の職員が来たのです。合わせて50、35人分の袋を買って頂き、早速出しに来て頂きました。それだけでなく、噂が広まり個人も小集団のお客様も増えています。1人で何袋も洗濯を頼まれるお客様もそれなりにおり、袋の販売も続いています」
「売上の板の数を教えて貰えますか? 疑ってる訳ではありませんが、ちょっと自分の目でも確認したくて……」
「勿論です。執務室でお待ち下さい、すぐにお持ちします」
そう言われたので俺は執務室に行き、椅子に座って待つ。
…………そういや俺ここ使うの初めてだ。いつも自分で洗濯物運びか接客するか、休憩室に居たからな……
そんなことを考えていると、カルラさんが1枚の紙を持ってきた。
「こちらが今日の売上板の数になります」
「ありがとうございます」
俺はカルラさんが持っていた各売上板の枚数が書かれた紙を受け取って見てみる。
え~っと……
個人向け1回 10スートが 998で 9980スート
14人分1回 18スートが 152で 2736スート
35人分1回 40スートが 55で 2200スート
個人用の袋1枚 20スートが 159で 3180スート
14人分の袋1枚 25スートが 68で 1700スート
35人分の袋1枚 30スートが 50で 1500スート
装備洗浄サービス 15スートが 316で 4740スート
合計26036スート……間違いないな。
「確かに、26036スートの売り上げですね。驚きました、まさかここまで……本当に驚きました」
まだ袋の販売が続いてる事を差し引いても20000スートに近い。これもクリーナースライムと皆さんのおかげだな。
「そういえば、他の人達は?」
「休憩室に集まり、売上の確認作業をしております」
「売上確認?」
「売り上げは中銅貨と小銅貨が混ざっていますので、それを分ける作業をしつつ計算で算出された額と同額があるかを確認しております」
「そういう事でしたか、じゃあ手伝いに行きましょう」
「いえ、それは下の者の仕事で……」
「いいですいいです、そんなの。仮にも僕はこの店の店長、皆さんの仕事仲間ですからね。手伝いますよ」
「かしこまりました。しかしリョウマ様、リョウマ様は仮ではなく、この店の本当の店長です」
俺はカルラさんを伴って従業員休憩室に向かう……と言っても向かいの部屋なんだがな。
「お疲れ様です」
「店長、お疲れ様です」
「「「「「お疲れ様です」」」」」
中に入るとカルムさんを始めとした従業員6人が挨拶してきた。彼らは休憩室の大きなテーブルの上に大量の銅貨を乗せて、数えていたらしい。手作業で1枚1枚。
「毎日ありがとうございます。皆さんに仕事を任せられて、助かります」
「そんな事ないですよ~、このお店とっても待遇良いですし~」
「その通りですリョウマ様。このくらいは従業員として雇われた以上当たり前の事です」
カルムさんの言葉に部屋中にいる全員が頷く。後ろに居たカルラさんもだ
「そうですか、そう言ってくれるならありがたいですね。では仕事を続けましょうか、この銅貨の額を数えれば良いんですね?」
「はい。しかしこれは我々だけでも……」
「人手は多い方が良いですよ。それに凄い量ですし」
今日の売り上げは26036スート、その全てが小銅貨と中銅貨、つまり1スートと10スートだ。当然銅貨の量も大量になる。
「それではどうぞこちらへ」
「私の隣、空いてるヨ」
「失礼します」
俺はフェイさんの隣の席につき、銅貨を数え始めた。しかし作業だと時間がかかるな……俺を含めてここに8人居るからその分早くはなるが……
そして1分ほど作業を続けた所で閃いた。というか、思い出した。銀行とかにあるやつ。
そしておれはすぐにアイテムボックスから石灰の袋を取り出す。それに伴い周りの7人の視線が俺に送られる。俺はそれに構わず小銅貨を鑑定する。この銅貨1枚の直径と厚さは?
小銅貨 1スート
最少額の硬貨 銅製 直径0.9cm 厚さ2mm
よし! 昼間言ったこと訂正、鑑定は意外と使えるかもしれん。
「店主? 何してるカ? 銅貨なんか鑑定して……まさか贋金でも見つけたアルカ?」
「いえ、ちょっとした道具を作ろうと思いまして」
「道具?」
「見てて下さい『クリエイト・ブロック』」
俺はクリエイト・ブロックを使って石灰を縦長の石材に変える。ただし石材の内部は空洞になっている箱の様な形。そこから箱の一端をブレイクロックで取り除き、傾ければ中に入れた物が落ちる様にする。
さらに空洞になっている部分に土魔法で1cm四方のマス目が5×10の計50マス出来るように盛り上がらせ、線を作った。盛り上がった部分の高さは2mm、これで1つのマス目に1枚の銅貨が入る。
鑑定するとこうなった。
石材(石灰)縦14cm横7cm高さ1cm
石灰を土魔法で固めた物。術者の意思により形状が歪になっている。
よし、完成だ!
「店長それ何ですか?」
「これはこう使うんですよ」
俺はそう言って二掴みの小銅貨を作った石材の中に入れ、端を押さえて前後左右に揺する。銅貨がジャラジャラと音を立て、全部のマスにピッタリ填った所で抑えていた手を離し、マスに嵌っていない銅貨をそっと数え終わっていない銅貨の山に戻す。そしてマス目に嵌って石材の中に残る銅貨を隣にいるフェイさんに数えて貰う。
「フェイさん、この銅貨を数えて貰えませんか?」
「分かった。数えるヨ」
そしてフェイさんが銅貨を数え始め、数え終わるのが近づくにつれてフェイさんの目が鋭くなる。
「50枚ネ。丁度だたヨ。店主、また便利な物つくたネ?」
フェイさんがそう言うと、カルムさん、カルラさん、リーリンさんはこの石材の利点に気づいたようだが、出稼ぎ3人娘は気づいていないようだ。なので今度は3人に数えさせてみる。手早く小銅貨を石材に入れ、揺すって残った銅貨を3人に配る。
「え~っと~……50枚ですね~」
「50枚です」
「こっちも全部50枚ですよ。どうして?」
「硬貨は大きさと厚さが概ね決まってますから、丁度50枚ずつ収まるマス目を石材の中に作ったんですよ。逆に言えば、これにピッタリ小銅貨を入れれば50枚になるという事です」
「素晴らしい!」
「リョウマ様、それを我々にも作って頂けませんか?」
「勿論です」
「え? え??」
どうやら3人娘の1人ジェーンさんはまだこの有用性が理解出来ていないらしい。この人は明るくて仕事熱心な良い人なんだけど、考える事が若干苦手なようだ。とりあえずフィーナさんとマリアさんには有用性が伝わったようで、2人が説明し始めた。
俺はすぐに石灰の袋に向けてクリエイト・ブロックを使い、人数分の石材を作って配った。その次は中銅貨を鑑定し、中銅貨100枚が入る石材も人数分作り、配った。
その甲斐あってその後の作業はスムーズに進み、それから10分もかからずに終わった。
数え終わってみると、殆どが小銅貨だったな。中銅貨が多いと思っていたが、実際は小銅貨で払うお客が殆どみたいだ。
その後店の様子を聞いたり、何か困っている事は無いかと聞いてみた。
「困ってる事ですか?」
「特にはありませんね~」
「このお店待遇良いし、文句なんか出ないよ」
「この店の待遇に文句言う人、居たら贅沢過ぎるネ」
「そうですか? 給料はともかくやす……!!」
いかん、従業員の皆さんに休みをあげるのを忘れてた!! 休み無しで働かせて何が福利厚生だ!!
「どうした? 店主、急に顔色悪くなたネ」
「……僕、皆さんの休日の事を忘れていました」
俺の言葉に皆さんは各自、自分の耳を疑い、俺のことを見てきた。そしてジェーンさんが叫ぶ。
「店長! もしかして私達、休みまで貰えるんですか!?」
え、何この反応……当然じゃない? 今まで忘れていた俺が言えることじゃ無いけど。
よく見たら他の人も同じ様に驚いて俺を見てる。
「週に1度くらいはあった方が良いのではないでしょうか? 週に一度定休日を作るか交代で休みを取るかして……」
そう言ったら何か出稼ぎ3人娘がすごく喜び始めた。その反応に困惑していると、カルラさんから説明される。
「店長、通常出稼ぎに来た労働者が決まった休みを得られる事はそう多くはありません。何かしらの技能を持たない場合、下働きとして酷使されがちですし、給料も比較的安いです。しかしこの店は待遇が良く、高額の給料を支払っています。こうなりますと、その分お休みは無い物と考えるのが普通です」
「休みに関しては出稼ぎ労働者に限らず、小規模な商会や八百屋などの小売店は祭りや特別な行事が無い限り休み等はありません。仕事を休むと経営が苦しくなりますので、休み無しで働かなければならない事も珍しくないのです」
自転車操業か。まぁそういう店もあるよな。
「私達、村から出る前は家族に凄く謝られたんですよ~? 辛い役目を押し付けて済まない、って」
「運悪く酷い雇い主に雇われてしまったら、安い賃金で酷使されるどころか貞操の危機まであると聞いてたので……」
この世界の従業員の扱いは酷いのか? そう思ってカルラさんの方を見ると……
「雇用主である事を盾に肉体関係を迫るのは法に触れますが、残念ながらそういう事を行う雇用主も居ります。それほど多い訳ではありませんが、雇われる側として注意すべき点の1つではありますね」
セクハラとかは前世にもあったが、こういうのは世界が変わっても変わらない物なんだなぁ……
「うちの店は、従業員を大切にする健全な経営を目指しますので、よろしくお願いします」
俺がそう言うと全員笑顔でこれからもよろしくお願いしますと言ってくれた。
休みに関しては、客が途切れない今定休日を作るのは勿体無いと言われ、週1日ずつ交代で休日を取る事になった。
そんな話をしていたら9時に近いことに気がつき、皆さんに挨拶をして俺は宿に帰った。また夜遅くなって怒られるかもしれん……
宿に着くと、エリア達はもう帰って来ていた。
部屋に荷物を置いて、エリア達の部屋に行く。
そこでセバスさんとラインバッハ様に聞いたが、今日皆さんは役所で接待を受けていたらしい。色々と不祥事があったので役所側が機嫌を取ろうとしたそうだ。
尤もそんな事が通用するはずもなく、只管ラインバッハ様による役所の責任者達への説教になったそうだ。
なお既に役所のトップ含めた数名は逮捕されてクビになっており、その他の者も減給という処分になっていたが、新しい役所のトップを含め管理の為の人員を手配したそうだ。今後役所はその人達によって厳しく管理されるらしい。
管理するのは街ではないのかと聞いたら。
「街を管理するには流石に人員が足りませんので」
「多少はマシな者の根性を叩き直し、鍛えて使わなければ人員の補充が追いつかんよ。本当に優秀で信用出来る人材には限りがあるからのぅ」
という答えが帰ってきた。なるほどな……
ちなみにエリアは酒を振舞われたのでもう寝ているそうだ。俺の店の完成祝いでも1杯だけ飲んでたが、少し顔が火照っていた。あまり酒に強くはないのだろう。
ラインハルトさんや奥様ももう寝たそうだし、今日はあまり長居しても迷惑になりそうなので早めにお暇した。
今回は店の従業員とのふれあいの回でした。
主人公はまだ人を使うのには慣れてませんね。人を雇って店を任せてはいますが、自分が店に居る時は自分で働きます。ほかの従業員と同じように。
今回、本当はもう一人居るはずの料理人のシェルマさんは登場しませんでした。シェルマさんは厨房で従業員の夕食の用意をしていたのです。シェルマさんの登場は後日改めて行います。
さて、役所ですが。腐って居るなら何とか公爵家の機嫌を取ろうとするだろうと思ったので接待の話を入れました。しかし、逆効果でしたね。
元々公爵家一行は役所には良くない印象を受けていましたが、これで決定的に信用できないとなりました。
その結果、態々他の街から人を呼び寄せて管理させると言う事に。今後、今居る役所の職員は新しい上司の下で心を入れ替えない限り、出世は望めません。
描写不足でご指摘を頂いたのでここで補足を少々。
この世界の硬貨は鋳造です。使用される金属は合金(転移者の伝えた知識が僅かに入っています)で、その製法は国が管理しています。
改訂版を作る際には、この点をもう少し詳しく描写します。
ご指摘くださった皆様、ありがとうございました。




