第二章 8話
2014/2/17の投稿です
俺は宿に戻り、広告の内容を決めた。しかし1つだけ中々決まらない事がある。店の名前だ。単純なものしか思い浮かばない……
「うむむむむむ……」
俺が悩んでいると、セバスさんが来た。
「リョウマ様、お戻りですか?」
「はい、居ますよ」
そう言いながら扉を開ける。
「リョウマ様、お嬢様がたがお茶をご一緒しないかと申しております」
「いいですね。ちょうど作業が行き詰まっていた所でして。有り難く頂きます」
そう言ってエリア達の部屋に行く。
「お待ちしてましたわ、リョウマさん」
「ささ、座って座って」
「ありがとうございます」
お茶が配られ、俺はそれをひと口飲んだ。するとラインハルトさんが俺に聞いてきた。
「最近、頑張っているみたいだね。頑張り過ぎてないかい?」
「はい、大丈夫です」
「店を作っていると聞いたが、どんな感じかの?」
「店はほぼ完成しました、あとは明日店の周辺に芝生と花の種を蒔き、木属性魔法で育て、看板と営業中の札などを作れば建物の準備は整うかと思います」
「ええっ!? もうそこまで完成してるの!?」
「リョウマ君、やっぱり無理してないかい?」
「いえ、特に問題はありませんが」
「リョウマ様、リョウマ様は土魔法で建物を建てていると聞きましたが、魔力の方は毎日どれほど使われていますか?」
「そうですね……魔力切れの症状が出る少し前には魔法の使用はやめていますよ。後は手作業で出来る事をやってます」
その言葉を聞いて俺以外の人が全員溜息を吐いた。
「リョウマ君、それは十分に働きすぎだよ……」
「リョウマ様はエリア様に次ぐ魔力量を持ったお方。それほど膨大な魔力を持つリョウマ様が魔力切れの症状が出る直前まで魔法を使うという事は、並の魔法使いでは40人程度が魔力切れで倒れてしまう程の魔力を使っている事になります。1人が行う仕事量としては、間違いなく働き過ぎと言えるでしょう」
そういや俺の魔力、異常に多いんだった。
「今気づいたという顔をしておるのぅ」
「なんか、急に心配になってきたわ。本当に一人にして大丈夫かしら……」
「大丈夫ですよ。昔の仕事場に比べれば何て事ありませんから」
「昔の仕事場って何をなさってたんですの?」
「へ……?」
やっべ!口をついて出たけどプログラマーと言っても分からないだろうな……バイトの話をするか。
「色々やりましたね……普通の荷運びもそうですし、ちょっとした人形作りもやった事がありますし」
「そうですか……リョウマさんは、お仕事が苦しいとか思った事はありませんの?」
「辛かった時もありましたが、働かなければ生活が出来ませんでしたからね……それに、全てが辛いだけでもなかったです。さっき言った荷運びは建築現場の資材運びでしたが、建物が段々と出来ていくのはおもしろいとも思いましたね。完成した時は達成感がありましたし。人形作りは指定された場所に指定された色をつける作業の繰り返しでしたが、出来上がりが良かった時は嬉しくなる事もありましたから」
「そうですか。私も将来そんな仕事に就きたいですわ」
え、エリアは働くのか? 公爵令嬢なのに?
俺がそんなことを考えていると、エリアがとんでもないことを言い出した。
「そうですわ! リョウマさん、お人形を作って下さいまし。私、リョウマさんが作ったお人形を見てみたいですわ!」
「え!? いや、それは……」
いかーん!! 趣味と実益を兼ねて色々作ってたが、色んな意味でマズイ! 注文されれば何でも作ってたけど、こっちの人にはネタが分からんだろ? 中にはエリアの歳では見てはいけないものもあるし……
「どうかされました?」
「僕のやってた作業は色付けで、人形自体を作ってた訳では……」
何とかこれで諦めてくれ!!
「リョウマさんは土魔法がお上手ではありませんか。本体は土魔法で作って下さいまし」
……ここに来て土魔法の便利さが仇に……
仕方ない、適当に何か、当たり障りの無い物を作ってみるか……?
「分かりました。今度作ります」
「本当ですか!? お願いしますわ!」
「セバスさん、画材や絵の具などはどこで買えますか?」
「それでしたら、明日までにご用意しておきます」
「ありがとうございます。店の看板にも使いたいので絵の具を多めにお願いします。あとでお金は渡しますので」
「かしこまりました」
それからはたわいもない話をして、部屋に帰った。帰る際に無理をしすぎるなと念を押されたな……気を付けよう。
そういや店の名前どうしよう……………………………………単純でいいか。
ゴブリンの汚れもお安く落とします! 洗濯代行業者 バンブーフォレスト
広告はこれで決まりだ。
店建築8日目
セバスさんから画材と絵の具を受け取り、お礼を言ってからギルドに向かう。
ギルドに入ると、受付嬢のメイリーンさんが声をかけてきた。
「あら! リョウマ君じゃない、廃坑の依頼が終わった後からギルドに来なくなったから心配してたのよ?」
「申し訳ない。色々と忙しくて」
「そうだったわね、お店を作ってるんでしょ? ギルドマスターから聞いたわ。その年で凄いじゃない」
「ありがとうございます。そうだ、その件で一つ聞きたい事が」
「何かしら」
「何処かでギルドの掲示板に広告が載せられると聞いたんですが、本当ですか?」
「広告? ギルドではそういうサービスは無いわ。多分、リョウマ君が聞いたのはアレの事よ」
そう言ってメイリーンさんが指し示したのは、ギルドの隅にあった1つの小さな掲示板だった。
「パーティー募集の掲示板。仲間が欲しい人が自分の情報や仲間にしたい人の募集要項を書くの。お店の宣伝をする掲示板は無いわね」
「そうでしたか、ありがとうございます」
こうなるとコツコツ自分で宣伝したりクチコミで広まるのを待つしか無いのか? チラシ配りは出来ないしな……
この世界、紙は日常的に使えるくらいの値段だけど、生産量の問題があるのでバンバン使えるほど安くもない。
例外的にトイレットペーパーだけは使い放題だ。昔、歯ブラシとトイレットペーパーを生み出す魔法道具を制作して世界中に広めた男(おそらく転移者)が居たらしい。
閑話休題
「あ、そうだ。ギルドマスターの部屋に行ってくれる? 次にリョウマ君が来たら呼べって言ってたから」
「分かりました。行ってみます」
そしてギルドマスターの部屋に行くと、ギルドマスターに笑顔で迎えられた。
「リョウマ! やっと来たか!」
「こんにちは。一週間ぶりでしょうか? 店の方にかかりきりでしたので」
「早速で悪いが、汲み取り槽の掃除の依頼を受けてくれ」
「どうしたんですか?」
「前話したろ? 早いうちから苦情を出しとこうって考える奴らの話だ。あいつらたった1週間で苦情出してきやがったんだ。
お前に絡んだオブテモの牙を覚えてるか? 罰則で済む程度の奴らに掃除させたんだが、それじゃダメだってあの廃坑の依頼が終わった翌日に苦情が来た。
それから1週間でさらに苦情が来てんだよ。相当お前が来る前の5ヶ月がキツかったらしい。もうあの時みたいな匂いはこりごりだ、一時は匂いまで綺麗さっぱり無くなったじゃないか、今度もそうしろってあっちも必死で苦情出してきてんだよ」
うわぁ……綺麗にし過ぎたか? 1度生活環境のレベルが上がると戻すのが辛いってことか? ……それもあると思うが、何より5ヶ月が辛かったんだろうな……
「まぁ、理由は分からなくもないですね。あの匂いは本当に酷かったですから。了解しました。すぐ取り掛かります」
「頼むぜ」
元から受けるつもりだったしな。俺はすぐに依頼を受け、汲み取り槽の掃除をした。
掃除を終えた後は達成報告をして報酬を受け取って店に向かった。
俺はスカベンジャースライムに指示し、養分還元のスキルで食べた物を消化して得た養分を肥料にして吐き出して貰う。それを店の周りの土に混ぜ、芝生と花を植え、水を撒いて今日は宿に帰る。
育てるのは明日だ。
店建築9日目
朝から店に行き、敷地の地面に水魔法の『ウォーター』で水をやり、木魔法の『グロウ』で昨日蒔いた種の成長を促進させる。魔法をかけ始めてから3時間ちょっとで店の周囲に芝を青々と茂らせ、花を咲かせる事ができた。
この魔法、便利だけどかなり集中が必要なんだよな……あと、土に水と栄養が足りないとその分魔力の消費が増えるし、この魔法で急成長させていくと高確率で土が栄養不足になる。結果育ちきらないか何日も時間をかけるしかなく、使い勝手が悪い。スカベンジャースライムが居なかったらこんな広範囲に短時間で芝生を茂らせるのは無理だな。
後は風属性魔法の『サークルソー』で伸びすぎた芝を適度に刈り、スカベンジャーに刈った芝のみを食べて貰う。こうして周りの整備が終わったらとうとう看板に取り掛かる。
切り出した木の板の1枚を白く塗り、『洗濯代行業者 バンブーフォレスト』と書いてその両脇に竹林とその根元に居るスライムの絵を描いた。あとはこれを乾かしておき、防水ツヤ出し加工をして完成だ。
その間に洗濯の値段表など、細々した物を作り、店の最終確認を行った。次は……接客とか営業の流れの確認か?
ジェフさんたちを呼んで試させて貰うか……ならいっそ知り合いを呼んで完成祝いもやろう!
そう思い立った俺は、帰る前にセルジュさんの所へ寄っていく。一応開業に最低限必要なものは揃ったからだ
「ようこそいらっしゃいました、リョウマ様」
「こんばんは、セルジュさん。早速本題に入らせて頂きますが、今日で一応店の形が整いました」
「本当でございますか!? 随分とお早いですね……」
「冒険者ギルドの知り合いに開店を待ち望むと言われた事もありまして、ここしばらく気合を入れて店作りにかかったのです。そのおかげで何とかなりました。そこで、形は整った事ですし、今度知り合いを集めて店のお披露目と知り合いから仕事を受ける事で一連の作業に問題が無いかなどを確認したいと思います」
「本格的な営業の前の最終確認という事ですな?」
「はい。本格的な営業はその翌日からという事で、その後は軽食などを食べつつ、完成祝いもしたいと思います。よろしければセルジュさんにも参加して頂きたいのですが、ご都合に空きはありますか?」
「お誘いありがとうございます。そうですな……明日は少々予定がございますが、明後日以降なら2週間は何の予定もございません。そちらの都合のいい時間で構いませんよ」
「ありがとうございます。知り合いにも確認をとり、決めさせていただきます」
「リョウマ様、その際は2人ほど連れて行っても宜しいですかな?」
「はい、問題ありませんよ。ピオロさんとギルドマスターですか?」
「いえ、我が商会の者です。リョウマ様は冒険者業をなさるのですから、補佐が出来る者をご紹介させて頂きたく思います。仕事に慣れる為にも早めのうちに会って頂く方がよろしいかと」
「お心遣い、感謝します」
あ……そういやそういう話になってたな。従業員の宿舎作っといて、店員さんの事忘れてた。1人だと冒険者としての仕事できないから、かなり重要だ。ホントにありがたい。
俺は礼を言い、店を出た。その次に冒険者ギルドでギルドマスターとメイリーンさんに同じ話をし、予定を聞いた。2人とも3日後が休みらしい。ジェフさん達、疫病防止作戦に参加した人達にも声をかけておいてくれるそうだ。明日また来よう。
その後は商業ギルドに行き、ギルドマスターに伝言を頼もうとしたら応接室に通された。これが多めの額を商業権に支払った事の効果らしい。
「よく来たねぇ。あれから1週間ちょい、作業は順調かい?」
「おかげさまで、なんとか店の形は整いました」
「もう出来たってのかい? 建物の出来にもよるけど、アンタ大工でもやっていけるんじゃないかい?」
「簡単な構造の建物しか建てられませんよ?」
「それで十分さ。凝った家なんて貴族か変わり者しか建てやしないんだからね」
「なるほど」
「今日は店ができた報告に来たのかい?」
「それに加え、3日後に本格的に営業を始める前に知り合いの分だけ仕事を受け、業務の手順を確認したいと思っています。その後、軽食などをつまみながら完成祝いをしたいのです。ギルドマスターにはお世話になりましたし、もしよろしければ」
「アタシを誘ってくれるのかい?」
「大した物は用意できませんし、他の知り合いもいますが。それでよろしければ」
「ひっひっひ、気楽な宴会ってことでいいんだろ? その方が嬉しいさね。立場上、そんな集まりに呼ばれる事なんてなくなったからねぇ。表向きは気楽でも、行ってみたらガッチガチにお堅い集まりなのさ。でも、冒険者仲間が出るってんなら本当に気楽にやるつもりなんだろう?」
「はい、僕も堅苦しいのは苦手ですから。言葉遣いも表面的な部分を取り繕うだけの物ですし」
「分かった、3日後だね?」
「その予定です。ほかの方々の予定も聞いて、確定させて頂きます。明日には確定できますので、ギルドに伝言を残します。あと、ピオロさんとの連絡の取り方を教えて頂けませんか?ピオロさんも時間があればご参加頂きたいので」
「ピオロかい? アイツは3日後なら大丈夫だよ、アイツは別の街に拠点を持っていてね、ここに明日の会合に来るってのを口実に休みを取ってる。明日から暫くは予定も無く街をフラフラしてるのさ。ピオロにはあたしが声をかけておいてあげるよ」
「それではよろしくお願いします」
俺はギルドマスターに礼を言い、商業ギルドを出る。
その後は宿に帰り、エリア達に洗濯屋のプレオープンと店舗完成祝いのお誘いをした。するととても喜ばれ、公爵家4人とセバスさん、アローネさん、リリアンさん。それに護衛の中からジルさん達4人も参加する事が決定した。
これで参加者はエリア達11人+冒険者ギルド組11人+商業ギルド組5人の計27人。俺を含めて28人か。完成祝いの会場は従業員用の休憩室を使えば大丈夫だろう。
明日は冒険者組の予定確認と他への連絡だな。
10日目
ギルドに行って確認した所、冒険者組も全員参加が決まった。元々休みだったギルドマスターとメイリーンさんは確定だったが、他9人も明後日は仕事を休みにして来てくれるそうだ。
それを聞いた俺はセルジュさんの店とギルドに明後日の朝から試験的開業、昼から完成祝いを行うと伝言を残した。
その後は1週間ほど放置していた廃坑の見回りと道中の魔物討伐を行って宿に帰り、エリア達に明後日の事を伝えて就寝した。
突貫工事でしたが、店となる建物が完成です!
店名は作者が迷走した結果、こうなりました。店の名前にスライムを入れようかとも思ったのですが、スライムは店の看板の絵やトレードマークになります。
とうとう店完成!は良いものの、普通はこんなに気軽に公爵家の人を呼ぶとかありえませんよね。浮かれていますね、主人公。
良い人ばかりだから良いですけど、物語に出てくるテンプレ傲慢な貴族だったらどうなっていた事か……
それに今回、スカベンジャーの養分還元スキルの効果が日の目を見ましたね。実は、竜馬は森の家の中に畑を作っていて、少しの薬草と、もやしを育てていたんです。食料確保・栄養摂取・木属性魔法の練習のために。そういう設定を用意していたものの、書き忘れていました……Orz
作者は第一章の始まりで書いたつもりになっていました。
ここで何の説明もなく突然そんな能力が判明したので、そんな能力あったの!?と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
あと忘れていた事がもう1つ。主人公の居る国の設定まで書き忘れてました。
改訂版には第一章に書き加えますので。今はとりあえずここに簡易の設定を載せます。
リフォール王国
大陸の内陸部にある国。規模は大国に分類される。
内陸部のため海は無いが、巨大な湖がある。
鉄や鉱物の産出量が多く、製鉄が主な産業である。
鉱山地帯以外にも、国土には森や山も多く、水源が豊富で豊かな国。
ジャミール公爵領は国の東部にある。
これが主人公の居る国の設定です。
読者の皆様、申し訳ありませんでした。




