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第一章 17話

今日ももう一話投稿するかもしれません。


本日一話目です

 翌日


 ~Side 竜馬~


 目が覚めると既に日が高かった


 あ~……よく寝た、徹夜仕事なんて久しぶりだったなぁ……もう大分日が高い……


 ………………日が高い? …………ヤバイ!


「おはようございます、リョウマ様」

「セバスさん、今の時間は?」

「もう昼前ですな。やはりお疲れだったようで、よくお休みになられていました。お食事はどういたしますか?」

「ありがたいのですが、ギルドに行かなければならないので、帰って来たら」

「そうでしたか、かしこまりました」


 俺は用意を手早く済ませてギルドに向かう。ヤバイな、時間がない。仕方ない……


 俺は体の周囲に隠蔽結界を張って姿を隠し、無属性魔法の『肉体強化』を発動した。魔力が体を包み込み、身体能力を増幅させる。


 俺は強化のかかった身体能力で近くの建物の屋根に駆け上り、屋根の上を走ってショートカットし、足場のない所は空間魔法の短距離転移魔法『テレポート』を使い、ほぼ1直線にギルドまで走り、そして昼に間に合わせた。


「失礼します」


 案内された部屋にはもう他の人達が揃っていた。


「来たか、リョウマ。これで全員揃ったな」

「お待たせしました」

「ギリギリだが時間まではまだある。間に合ったんだから気にすんな。そんじゃ、今回の報酬だ!」


 報酬の分配がされ、俺は元々の汲み取り槽掃除の依頼の報酬30本分の中銀貨3枚+小金貨30枚。他の人たちはそれぞれ小金貨10枚を貰っていた。


「おいおい、おっさん、随分気前がいいじゃねぇかよ」

「ホントだね。くれるってんなら貰うけど、アタイたちはただ見張りをしてただけだよ?」

「報酬の額が多すぎるのではないか?疫病の蔓延する場所の近くとは言え、直接的に何もしてない以上、この半分が妥当だろう」

「いや、その金額で間違いねぇ。その理由なんだが……リョウマ」

「なんでしょうか?」


「お前さんが言ってた、あの汲み取り槽の疫病はイダケ病って言うんだろ?」

「はい、鑑定で確認したので間違いありません」

「それな、かなりやばいヤツだったらしい。そう言うのに詳しい知り合いの糞ババアに聞いたらよ……死亡率は疫病としては低い方らしいんだが広まりやすく、後遺症が酷くて生き残った奴も手足が動かなくなって、働けなくなって結局死んでいったって答えやがった。


 それで報酬がその額になった訳だ。死亡率が低いといっても老人、子供は死ぬだろうし、生き残っても働けなくなるんじゃ生きていけねぇからな」


 その言葉に冷や汗を流す面々。


 本当にヤバイよな……後遺症の重さにもよるけど、働けないって事は生活費も稼げない。保険や国の保護等の制度が無いこの世界じゃ致命的だ。結局飢えて野垂れ死にする事になる。


「未然に防げて良かったにゃ……」

「ある意味ただ単に死亡率の高い疫病より恐ろしいな……」

「1度かかって死んだらあの世、生き延びりゃそれはそれで地獄だぜ……」


「今回の事で役所の連中は大目玉食らったみたいでよ、これから共同トイレの汲み取り槽の掃除はどうするかと大騒ぎらしいぜ」

「スラムの連中に任せるんじゃないのかい?」

「残念だが、そりゃ無理だ。今回の件で金を出し渋った役所のトップがクビになって、元の金額で支払われるって言っても信用されないらしい。それにもうスラムの連中は新しい仕事に就いちまったみたいだ。


 ほかの街ならともかく、ここは鉱山に近い。力仕事、汚い仕事を厭わなきゃ、それなりに人手の需要はある。汲み取り槽掃除の仕事に拘る理由も無いってのが向こうの言い分だ。


 役所側も元々役所側が悪いんだし、既に就いちまった仕事を辞めろとは言えねぇからスラムの連中を雇用するってのはほぼ諦めてるみてぇだ」


「ならどうする気だ? 今回はたまたまリョウマが気づいたから良かったものの、何度もこんな事があっては堪らんぞ」

「そうなんだよなぁ……ぶっちゃけ昨日、金を払うからギルドで処理しろって押し付けられたよ。今後は定期的に依頼の失敗が多い奴や規約に違反した奴の罰則として強制的にやらせるしかねぇかもな……」


「そこらへんは任せる、何とかするのである」

「簡単に言うんじゃねぇっての……」

「まぁまぁ、僕もこの街にいる間は依頼として受けますから、その間に手を考えてください」

「助かるぜ」

「にゃ? リョウマはどこかほかの街から来たのかにゃ?」

「街というか、森ですね」

『森?』

「ガナの森って知ってますか?この街から馬車で1週間くらいの所にあるんですが……」

「確かガウナゴの街の近くだったか?」

「そうです。僕はその森の奥に住んでました」

「森に? なんでまたそんな所に?」


「孤児だったんですが拾ってくれた祖父母が亡くなりまして、余所者に厳しい村だったので、出て行く事にしたんです。幸い祖父母が冒険者はだったので、生きられるだけ知識と技術は与えてくれましたから森で生活出来ました。そのまま人里より森の方が気楽に暮らせるかな?と思ってたら、たどり着いたガナの森でそのまま3年間暮らしてました」


「長っ!?」

「ちょっと、リョウマ君って今何歳?」

「11歳です」

「8歳から森で一人暮らしという事ですか!?」

「アンタも無茶するねぇ……」

「それで、何故この街に?」


「祖父母は他の街に行けと言っていたのに、僕は森で生きてましたから……このままの生活で本当に良いのかと考えてたんです。そしたら丁度この街に向かう人たちと出会いまして、人里を見に来ました」

「帰るのか?」


「悩みますね……森に作った家には3年住んで愛着がありますし……案外この辺の森の奥か何処かに住み着くかもしれませんけど」

「いや、街に住めよ。何で態々森に行くんだよ」

「家は魔法で、食事は狩りで何とかなりますから。案外気楽で快適な生活ですよ? お金とか要りませんし」


「リョウマ、その年で世捨て人になるのは早すぎると拙者は思うぞ?」

「そうですよね……それは薄々感じてます」


「まぁ、後悔のない様によく考えるこったな。お前さんが居てくれりゃありがたいが、変に気負ってこの街に居続けなくて良いぞ。お前さんは自由に自分の生きたいように生きればいい。


 とりあえず今回街の金を横領してた連中は首の上財産没収されたし、その部下で黙認していた連中は減給になった。その分の金が何割か街の維持費に注ぎ込まれてるから金はある。最悪金に任せて人を雇うって事も出来なくはないからな。


 ……さて、これで渡すべきモンは渡した。あとは1つ連絡事項だ。明後日以降に1つ大きな依頼が出る。今年廃坑になる鉱山だが、実質的には去年から廃坑でな。鉱山の中に多数の魔獣が巣食ってる。小物ばっかりだが範囲が広いので討伐に行く冒険者を募集する。奮って参加してくれ。以上!」


 そこで解散となり、皆それぞれ帰っていった。俺も宿に戻るとエリア達が俺を待っていた

 どうやら昼食を一緒に食べようとして、待っていてくれたらしい。礼を言って席に着き、昼食を食べる。するとエリアがこう言ってきた。


「リョウマさん、一緒に特訓しましょう!」

「いきなりどうしたんです?」


 ……前にもこんな会話をした気がする……


「私、今日から特訓してますの。ですから、リョウマさんもいかがですか?」

「実は今回の旅は旅行と同時に、エリアの実戦訓練も兼ねてるのよ」

「我が家では男女問わず、魔法の訓練と従魔術の訓練をさせて旅に行かせる習わしがあるんだ。希望次第では冒険者にもなるね」


「旅をして、広い知識や視野を養う事もいい事じゃ。しかし、それには身を守る強さなど、必要な物が多いからのぅ。護衛をつけても良いのだが、それでは窮屈じゃし、何の苦労もせんのではせっかくの旅で学べる事が半減する。そういう訳で、エリア自身に戦い、身を守れる力をつけるのが目的なんじゃ」


「私は今年から学校に行き、魔法や学問を学びます。ですがその前に、少しだけ経験を積んでおくのですわ」

「なるほど、それでここに来たと」

「そうですわ。今日の朝から先程までも訓練していましたし、昼からも訓練をします。その訓練にリョウマさんも参加されませんか?」


 いい機会だな。


「お邪魔でなければ、よろしくお願いします」


 俺がそう言うと快く了承され、午後からの訓練に同行させて貰う事になった。


 訓練内容は魔法のようで、街の外に出て馬車で20分ほど行った所にある岩場で訓練をするらしい。俺達がその岩場に着くと、ジルさん達が迎えてくれた。


「お嬢様、お待ちしていました。リョウマもよく来た、三日間大変だったようだな」

「ジルさん達もお疲れ様でした。そっちも忙しかったと聞いてます」

「それなりにな」

「さぁ、話してないで早く訓練ですわ!」


 張り切っているお嬢様が急かしてくる


「所で、どの属性の魔法を訓練するんですか?」

「私は火と氷の魔法が得意ですの。魔力が多いので、もっと訓練すれば強力な魔法が沢山撃てますのよ」


 強力な魔法が沢山って火力特化型っぽいな。


「リョウマ様は前に話した通り、各属性の攻撃魔法の習得をするとよろしいと思います。お嬢様は午前に引き続き、魔法の制御訓練ですよ」


 その後はセバスさんがエリアの訓練を担当し、俺にはカミルさんが教えてくれる事になった


「よっし、僕たちも始めようか」

「よろしくお願いします」

「こっちこそよろしくね。で、聞いた話だと、リョウマ君は全属性持ちなんだよね?」

「はい、森での生活に使える魔法と、基本の攻撃魔法だけしか使えませんが」

「オッケー。じゃあ覚えてる攻撃魔法を一通り見せてくれる?」

「わかりました」


 そう言って俺は近くの岩に向かって火・水・風・土・雷・氷・毒属性の基本攻撃魔法『ファイヤーボール』『ウォーターボール』『ウィンドカッター』『アースニードル』『スタン』『アイスショット』『ポイズン』を放った


「うん、基本とは言え良く出来てるよ。これなら次の魔法もすぐ覚えられそうだよ。なら……まず1つ1つ僕がお手本を見せるから、それを見て、新しい魔法をやってみようか」

「よろしくお願いします」

「じゃあ行くよ。まずは火属性、『ファイヤーアロー』」


 カミルさんが魔法を唱えた瞬間、カミルさんの手から火が出て収束し、矢になって一直線に岩に飛んでいき、弾けた。


「これが火属性の下級攻撃魔法『ファイヤーアロー』だよ。『ファイヤーボール』より早くて貫通力がある。これが火属性だと最も使い勝手が良くてよく使われる魔法だね、じゃあ、やってみて」

「はい」


 俺はカミルさんの『ファイヤーアロー』を思い出し、再現する。掌に『ファイヤーボール』と同じ要領で火を出し、それを圧縮・収束させ矢として放つイメージを作る。


「『ファイヤーアロー』」


 俺がそう唱えて放った『ファイヤーアロー』は、カミルさんのと同じように生み出され、飛んで、岩に当たり弾けた


「うん、成功だね。1度で成功するなんて飲み込みがいいよ」


 あれ、こういう時、小説のテンプレだと怪しまれるよな? 少し誤魔化しとくか?


「弓を使えますから、イメージしやすかったです」

「そっか、それもあったね」

「それも?」

「うん。魔法使いじゃない人に時々あるんだけど、生活に魔法を使って魔法系スキルが上がってる人は攻撃魔法を習った事がないだけで、技量は既にその魔法を使えるレベルに達してる事があるんだ。


 そう言う人はイメージさえ出来ればちょっと練習すればすぐ出来るようになるし、人によっては2,3回練習しただけで使えるようになるんだよ」


 なんだ、小説でよくありがちな魔法の習得速度が異常なんて事は無いんだ……良かった。


 それからは攻撃魔法の『ウォーターショット』『ウィンドハンマー』『ロックバレット』『スタンアロー』『アイスアロー』を習い、習得した。


 さらに防御魔法の『ファイヤーウォール』『ウォーターウォール』『ウィンドシールド』『アイスシールド』も習得した。


 ちなみにカミルさんは下位属性全てと雷と氷属性を使えるらしい。そのため毒属性と木属性、上位属性は教えられないそうだ。


「う~ん……教えることが無くなっちゃったな……中級に行くか、練度を高めさせるか……う~ん…………」


 どうやら俺の魔法の習得速度は異常ではないものの早いらしく、今日教わる予定だった魔法をもう教わりきったらしい。するとそこにセバスさんがやってきた


「なにかお困りですかな?」

「セバスさん」

「リョウマ君の飲み込みが早くて、今日教える予定だった魔法をもう全部覚えちゃったんですよ」

「なるほど、そういう事でしたか。それではここからは私がお教えしましょう。空間魔法ならば教えられますので」


 これは嬉しい! 国有数の空間魔法使いから学べるのはラッキーだ!


「それじゃ僕はこれで、頑張ってね、リョウマ君」

「ありがとうございました、カミルさん。よろしくお願いします、セバスさん」

「それでは始めましょう。まず、リョウマ様はアイテムボックスの他に習得している空間魔法はありますか?」

「テレポートが使えます」

「見せて頂いてもよろしいですか?」

「はい、勿論です。では、『テレポート』!」










 ~Side セバス~


 リョウマ様がテレポートを発動され、近くの岩の傍まで転移されました。そこから更に4度連続でテレポートを発動して周囲を移動し、私の目の前まで戻って来ました。素晴らしい。確りと習得されているようですな。


「お見事でございます、リョウマ様。そこまで発動が速く、連続使用が出来るのならば、既に中級魔法のディメンションホーム及び中距離転移魔法のワープも使えると思われます」

「本当ですか!?」

「ええ、本当ですとも。リョウマ様は空間魔法が上位属性であり最も使用が難しい理由をご存知ですか?」

「いえ、分かりません」

「では、空間魔法の使い方はどうやって行いますか?」

「まず魔力で空間に干渉し、捻じ曲げる事が基本です」

「その通りにございます。ですが……その基礎である魔力で空間に干渉するという事が、既に大多数の方々が躓いてしまうポイントなのです。空間と言う物は常にそこにあります。しかし、それを本当に意識できる人は稀なのです。


 空間魔法について語る教本の類には“この世界の万物を包む”等といった大仰な記述が多く、大抵の人は自分の中で確たるイメージを持たず漠然としたイメージを持ってしまっていますからな。干渉が不完全なのです。


 本当に必要な事は、自分達が居るこの場所、魔法を使う空間を如何に正確に、深く把握するかが必要なのです。そして、これは言葉で説明できる物ではありません。言葉での理解ではまだ不完全。訓練を重ね、自らの感覚で把握するしか無いのです。そして、それが確りと出来なければ、中級以上の空間魔法は使用できません。


 こう言うと驚かれると思いますが、下級の空間魔法と中級の空間魔法は、本当は同じ魔法なのです」

「!?」


 ふふ……やはり驚かれているようですな。


「昔は空間魔法に現在の下級魔法は無かったとされています。一説には下級中級といった区別すらも無かったとも言われます。その理由は、空間魔法は空間の把握が確りとできてようやく初めの1歩を踏み出せる物であったからです。それが出来ない者の空間魔法は失敗か不完全な物とされていましたが、時代と共に空間魔法を使える者が減り、空間魔法使い全体の質も落ちた事でかつての基礎であった下級魔法が今の中級魔法に、そして不完全な中級魔法が下級魔法とされてしまったのです」


「アイテムボックスとテレポートと同じイメージで、中級魔法のディメンションホームやワープが使えると?」

「はい。ディメンションホームに関しては補足がありますが、ワープに関してはその通りにございます。ただ転移する距離をテレポートより更に遠くに、転移先を確りと把握出来ればどれだけ遠くにも行けますよ。そうですな……あの岩の頂上を目指しては如何でしょう?」


 私は目に見える範囲内で一番遠くにある大きな岩を指し示します。ちょうど良くあの岩の頂上は平ですから、足場もしっかりしています。


「わかりました、やってみます」


 リョウマ様はすぐに挑戦するようですな。このように素直な態度なら、教えがいがあると言うものです。


 思えば、私は何人の者にこうして魔法を教えたでしょうか…………空間魔法の才を持って生まれ、ジャミール家に仕えつつ、才を役立てるために訓練に励んだ若かりし頃はただ訓練と執事としての勉強に明け暮れました。


 先代様と共に旅をした頃、その魔法は役に立ちました。旅を終え、先代様の補佐をする毎日……この頃からでしたね、私が国有数の空間魔法使いと言われ始めたのは……


 幼い頃からの訓練と旅で使い続け鍛えられた空間魔法は、いつの間にか国中で話題になっていました。先代様の補佐として、大量の荷物をディメンションホームに入れて行動していた事も一因でしょう。


 それから何人もの人が弟子にしてくれと頼み込んできました。私に来る嘆願書は全て無視をしていましたが、中には先代様を通し、先代様との繋がりを盾にして家臣やご子息に空間魔法を教えろとのたまう方々も。


 そういった方の要請は流石に無視するわけにも行かず、教えましたが……これが何とも言えません。教えた者が100人を超えてから数えるのは辞めましたが、最終的に中級以上を使えたのは10人にも満たなかった筈です。特にいくつかの家のご子息は、空間魔法は言葉で伝えられる物ではないと言っても聞きもせず、不満を言うばかりで訓練もろくにされなかった。


 リョウマ様のように素直に言葉を聞き、ひたむきに魔法の訓練に取り組もうとする。そういう方は教えていて楽しいものです。才があるのならば尚更面白い。私が誰かに魔法を自ら教えようと思ったことなど、今までにあったでしょうか? あったかもしれませんが、覚えておりませんな。


 こんな事を考えている間にも、リョウマ様は目を瞑り、只管精神を集中されています。この歳でこれほどまでの集中力をお持ちとは、素晴らしいですが……一体どういう訓練をすれば、こうなるのでしょうね……


 考えてみれば、リョウマ様は初めて会った時から歪な少年でした。親が居らず、森に篭る奇妙な少年と聞き。実際に会ってみれば森に長く住んでいる割に随分と身奇麗で。口を開けば初めは貴族と言っても通用するような丁寧な口調で我々を迎え、家に招かれて出てきたのは最高級の紅茶とこれまた高級品のハチミツ。


 家の作りは頑丈で、快適な家であることがよく分かり、聞いてみればお風呂まであるという住み心地だけなら貴族並みの家に住む少年。


 何より奇妙なのはその知識と技術。スライムの研究という誰からも相手にされない研究を続け、クリーナースライムとスカベンジャースライムで生活の質を向上させ、防水布や今まで見た事のない品質の糸を作り出した。


 ギムルまでの道中の馬車では錬金術でガナの森の岩塩の毒を取り除けると言い、それに興味を示したラインハルト様に『量が少ないから流通させたら他の産地に競争で負ける』と貴族、もしくは商人として教育を受けていなければ、この歳では持っていないであろう商業の知識の一端まで見せました。


 街についた際の空虚な目と悪漢達からお嬢様をお守りする手腕は今でも私の目に残っています。そしてこの街についてからは既に、疫病の蔓延を事前に人知れず防ぐという偉業を成し遂げられました。


 どれもこれも、普通の子供には不可能な事、それを成す少年。普段は大人びていますが、最近は我々に少し心を開いてくれたようで、時折年相応の反応を見せます。リョウマ様が……


「セバスさん」


 おっと、考えに夢中になっていたようですな……


「はい、何でしょうか?」

「行けそうです、やってみます」

「どうぞ」

「…………行きます、『ワープ』」


 次の瞬間リョウマ様の姿が消え、私が先程指し示した岩の上に現れました。それを見て私も岩の上に転移します。


「おめでとうございます。中級空間魔法『ワープ』成功にございます」

「やった! ありがとうございます! セバスさん!」


 ふふ……こういう所は年相応ですな。


「それでは次に、ディメンションホームの説明にまいります。基本はアイテムボックスと同じ、空間に穴を開け、その中の空間を広げて維持するイメージで大きな部屋を作って頂きます。


 ここまではアイテムボックスと同じ事ですので詳しい説明は省きますが、この際、作り上げた空間の中に周囲と同じ環境があるように意識して下さい。アイテムボックスと違い、ディメンションホームには空気があるのです。


 ですから生活も魔物を飼う事も中で可能になります。ここを再現できなかった魔法が、下級魔法のアイテムボックスなのです」

「わかりました」


 そう言ってリョウマ様は今一度集中を始めました。ワープより複雑で難しい魔法ですので、リョウマ様も必死で感覚を掴もうとしている様子です。


 そして何度もディメンションホームと唱えますが、出てくるのは黒い穴。これは失敗でございます。それをリョウマ様に伝えると、再び集中を始め、もう一度。そして失敗。


 それを繰り返し、次第に汗を流し始めました。それでもリョウマ様の集中は途切れません。そうして時折休憩を取りつつ練習をし、1時間2時間と時間が過ぎてゆき、とうとう4時間になろうとした時リョウマ様が呟くように唱えました


「……『ディメンションホーム』」


 その瞬間、リョウマ様の目の前に『ディメンションホーム』によって出来た空間に繋がる白い穴が生まれました。


「おめでとうございます。『ディメンションホーム』も成功にございます」

「よし! ありがとうございます! これでスライムを中に入れて運べます!」


「お力になれたようで、何よりです。もし今作り出した空間が手狭になった場合、魔力を多く使いますが、更に空間を作り出す作業をする事で新しい空間を増築する事が可能になります。その際開けた穴が黒い場合は失敗、白い穴が成功の証ですので、お気を付け下さい」

「了解です」

「それではお嬢様方の所に戻りましょう。もうじき暗くなってまいりますので」

「え……? あっ!? 結構時間経ってたんですね……」


 どうやら気づいていなかったようですな。


「集中されていましたからね。それでは参りましょう『ワープ』」


 これからも、彼を静かに見守るとしましょう。


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