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第一章 16話

 ~Side 竜馬~


 さて、今日も掃除をはじめるか……最初の見張りはミーヤさんとジェフさん。それにドラゴニュートのアサギさんだ。


 アサギさんは拙者とか時代劇風の喋り方をする人だ。聞いてみると先祖が転移者と思われる人の弟子だったらしい。曰く、人族にもかかわらずドラゴニュートにも勝る体を持った剣の達人らしい。喋り方と名前が代々弟子となったドラゴニュートに受け継がれたようだ


「では扉を開けますが、その前に顔に巻く手ぬぐいをこれに浸して下さい」


 そう言って俺はクリーナースライムに指示を出し、用意していた器の中に消臭液を出させる。


「何だ? それ」

「クリーナースライムの消臭液です。悪臭をかなり軽減しますよ。毒物など体に有害なものは入っていません」

「そうか」


 そう言って三人は手ぬぐいを消臭液に浸して口と鼻を覆った。


「それでは開けます」


 そして扉を開け……


「行ってき……」

「うぐっ! ……おえっ……」


 一言挨拶をして作業に入ろうとしたら、いきなりアサギさんがえずいていた


「大丈夫ですか?」

「すまん……扉を開けた時、臭いと思って覚悟していたら何も臭わなんだ。それで、思った程ではないと手ぬぐいをずらしたら……油断したでござる。ドラゴニュートも、獣人と同程度には鼻が効くのでござる」


 ああ、それでか……俺も昨日、最初はそうだった。


「仕方ないですよ。人間の僕でも昨日はそうなりましたから、臭すぎて目にも来ます。僕もスライムが居なければ耐えられなかったでしょう。消臭液はおいていきますから、自由に使ってください。では、あらためて行ってきます」


 俺はそう言って中に入っていった。ここの汲み取り槽も昨日と同じく酷い状態だった。


 掃除を始める前に汚物に居る病原菌を調べられるかと思って鑑定すると、こう出た。


 イダケ病菌:汚物に繁殖したイダケ病を発症させる病原菌。感染すると10時間以内に発病する。症状は発熱、寒気、目眩、手足の痺れ、全身麻痺、意識混濁、心停止の順に発症し重篤になる。後遺症として手足の痺れもしくは麻痺が残る。感染経路は経口感染。熱と乾燥に弱い。


 やっぱりヤバイ病原菌が居た!

 昨日はさっさと処理してしまったから鑑定できなかったんだ。昨日のうちに鑑定しとけば良かったな……そうすれば確かな情報として提供できたのに。


 鑑定はできたので、もう汚物に用はない。今日もスカベンジャースライムに頼み掃除をしていく。


 余談ではあるが、昨日の分裂でスカベンジャースライムが1000を超え、1つに合体するとキングスカベンジャースライムになった。


 とうとうキング~スライムが出た。そこからもまだ合体は出来たので、更に増やすと変化があるかもしれない。


 キングスカベンジャースライム×1

 スキル 病気耐性Lv7 毒耐性Lv7 悪食Lv8 清潔化Lv8 消臭Lv8 消臭液Lv5 悪臭放出Lv7 養分還元Lv6 物理攻撃耐性Lv3 肥大化Lv4 縮小化Lv6 ジャンプLv3 暴飲暴食Lv1


 消化と吸収が無くなり、暴飲暴食という新しいスキルがあったので試しに使わせてみると、キングスカベンジャースライムは肥大化のスキルで汲み取り槽の天井まで届くほど大きくなり、普通の何倍もの速度で処理をしていた。


 スキルがLv1だからか、まだ昨日の分裂前の730匹が一気に処理したほうが早いが、1匹の処理速度と考えるとかなり早い。


 また分裂させてキング2匹になれば、地下の両端をキングで、真ん中を通常のスカベンジャースライムで分けても良いかもしれない。体が大きくなったから壁から天井まで綺麗になっていた、そうすると俺の魔法はいらないので、とても楽だと思う。


 閑話休題


 昨日スカベンジャースライムが分裂して数が倍になったため、昨日より作業は2時間も早く終わった。3時間でここでの仕事を終えた俺は昨日と同じように清潔化をして外に出た。


「おっ、どうかしたか?」

「ここでの処理は終わりました。衛生確認をして、次に行きましょう」

「もう終わったのかにゃ!?」

「1日に汲み取り槽1本では無かったのか?」


 え?…………あ! そうか、昨日俺が掃除した汲み取り槽は1本だったって情報を受けてた3人は、1日に1本しか掃除を終わらせられないと思ってたんだ。


「微妙に誤解があったようですね。じつは昨日、処理をした後スカベンジャースライムが分裂を始める兆候がでまして、汲み取り槽の中で分裂と契約をしてたんです。それで時間をとりました。実質的な所要時間は1本につき5時間ほどでしたが、分裂で数が倍になりましたのでその分時間も短く済みました」

「数が倍って……それでも1匹2匹だろ? そんなに早く、その……食うのか?」


 そういや、スライムの集合体だって事は知られてないんだった。


「そう言えばスカベンジャースライムとしか言ってませんでしたね。これ、普段は縮小化というスキルで小さくなっていますが、ホントはキングスカベンジャースライムというスカベンジャースライムの上位種です。ビッグスライムはご存知ですか?」

「ああ、知っている。巨大なスライムだな」

「ビッグスライム以上の上位種は多くの同種のスライムが集まって合体した群体生命体なんです。ですから、1匹に見えて大量のスライムの塊なんですよ」


 そう言って俺は3人の目の前でスカベンジャースライムを20匹だけ分離させて見せる


「うにゃ!?」

「うぉお……マジかよ……」

「これは……」

「この前聞いたらスライムの研究は殆どされていないらしく、これを知っている人は僕と僕が教えた知り合いしか居ないそうです。


 僕はずっとスライムの研究をしてまして、当たり前の事だと思って話していました。すみません」

「いや、作業が問題なく出来るなら良い。しかし、これは何匹のスカベンジャースライムとやらが集まっているんだ?」

「1464匹です」

「千!?」

「そんなにいるのかよ!?」

「ええ、キングスカベンジャースライムになるには、最低1000匹のスカベンジャースライムが合体しなければなりません。ちなみに100匹以上500匹未満だとビッグ~スライム、500匹以上1000匹未満だとヒュージ~スライムです」

「なるほど……それならばこの早さも納得できよう」


 そんな話をして、確認をして、納得して貰ってから俺は次の汲み取り槽へと移動して掃除する……という行動を只管繰り返した









 3日後


 ~Side 竜馬~


 これで最後だ。この三日はほぼ不眠不休で働いた。


 1つの汲み取り槽の処理を終えたら次の見張りの人が来ていたり、いつの間にか次の見張りに変わっていたりして少し雑談くらいはしたものの、ほぼ休まずに働いた。


 驚いたのが、掃除を終えて外に出ると1日に1度はセバスさんが待っていた事だ。俺が何かに熱中すると食事も忘れるのを知っていて、軽食を持ってきてくれた。実際忘れていたので非常にありがたかった。


 他にも見張り役をしてくれた9人にも支えられた。


 昼~夜担当のジェフさん、ミーヤさん、アサギさん。夜~朝担当のウェルアンナさん、ミゼリアさん、シリアさん。朝~昼担当のゴードンさん、シェール君、レイピンさん。皆いい人たちだった


 スカベンジャースライムがまた分裂して3033匹になってからは1011匹ずつをキングスカベンジャースライムにして、3匹横に並べて肥大化+暴飲暴食のコンビネーションで壁と天井まで綺麗に出来るようになったので楽になった。スキルのレベルも上がり、こうなった


 キングスカベンジャースライム×3

 スキル 病気耐性Lv7 毒耐性Lv7 悪食Lv8 清潔化Lv8 消臭Lv8 消臭液Lv6 悪臭放出Lv8 養分還元Lv7 物理攻撃耐性Lv4 肥大化Lv5 縮小化Lv6 ジャンプLv3 暴飲暴食Lv4


 病気耐性はもう成長しなかった。7ならここにあったイダケ病の病原菌には十分だったのだろう。


 ここでの作業で清潔化、消臭、暴飲暴食のレベルが上がった。そして何故か物理攻撃耐性までレベルが上がった。体がずっと壁を擦っていたからか? それとも隣のスライムとぶつかっていたからか?よく分からない。まあレベルが高い分には良いだろう。


 なにはともあれ、これで作業は終わりだ。外に出よう。


「終わったのかね?」

「ええ、終わりました」

「よくやった! これでぜんぶ終わったぜ。よくやりきったな」

「途中で休むかと思えば、本当にほぼぶっ通しだったしね」

「飯の時位だろ、休んでたのは」

「確かにそうですね。あ、レイピンさん確認お願いします」

「うむ。……………………よし、問題ない。服も持ち物も周辺も『鑑定』したが、清潔だ。ギルドに戻って報告するのである」

「ありがとうございます。では行きましょうか」

「待て、吾輩が連れて行ってやる。『ワープ』」


 レイピンさんが中距離転移魔法、『ワープ』でギルドの前まで送ってくれた。

 レイピンさんは学者の魔法使いで、魔獣の研究や観察のために冒険者になったらしい。そしてスカベンジャースライムとクリーナースライムにえらく関心を示して、俺のスライムの研究成果を高く評価してくれた。言葉は少々偉そうな感じだが、よく気遣ってくれる人だ。


 俺達がギルドに入ると受付嬢さんがすぐにギルドマスターの部屋に通してくれた。


「リョウマか、終わったのか?」

「はい、共同トイレの汲み取り槽30本、全ての処理、終わりました。もう大丈夫です」

「そうか! 良かった……よし! 全員今日は帰って休め!ほかの連中にはこっちで終わった事を通達しておく。そして明日の昼にギルドに来い、報酬を支払う」


「わかりました、失礼しま……そうだ、ギルドマスター」

「何だ?」

「イダケ病って知ってます?」

「イダケ病? ……………………知らん。俺は元々そういうの詳しくねぇしな。それがどうした?」

「いえ、汲み取り槽の中の汚物を『鑑定』したらその病名が出てきまして。症状と危険だって事は分かりましたけど、どれぐらい危険なのか分からなくて」


「そうか……とりあえず大丈夫なんだろ?」

「はい、もう処理は終わりましたから」

「ならいいさ、そのイダケ病ってのはこっちでも調べとく。さっさと帰って休め、お前さんは寝てないんだろ?」

「そうですね、今度こそ失礼します」


 俺はそう言って宿に戻った。他の3人もそれぞれ好きに過ごすようだ。


「お帰りなさい! リョウマさん!」

「お帰りなさい、リョウマ君」

「お帰り」

「無事に帰ったようじゃの、良かった良かった」

「お帰りなさいませ、リョウマ様」

「お荷物をお預かりします」

「お食事はお済みですか?」


 俺はエリア達7人に迎えられた。……ああ……いつ以来かな、人に出迎えられるのは…………母親が死んで以来か? いや、エリア達は何度も俺を迎えてくれた、なのに何でこんな気分に…………


「リョウマ君、どうしたの?どこか悪いの?」

「いえ……体調は悪くありませんが、何故か昔の事を思い出しました……か……!」


 家族……そうだ……似てるんだ、この人達の雰囲気………………俺が会社で上手くいかず、毎日毎日疲れ果てて、仕事を首になって、仕事を探して、見つからなくて、欝になって…………そういう時にいつも迎えてくれた……母親の雰囲気に……


「リョウマさん!? どうされたんですの!?」


 エリアの声で気がつくと、俺は泣いていたみたいだ。知らず知らずのうちに目から涙が出ていた。


「ああ……すみません、大丈夫です。ちょっと家族の事を思い出したのですよ。皆さんの雰囲気が、かぶりまして……顔は全く似てないのですけどね……」


 母親は中国人と日本人のハーフだったからな。ブサイクではなかったが、特に良くもない普通の顔だ。こんなイケメン美女美少女ダンディ集団とは顔の作りが違いすぎる。


 そんな馬鹿な事を考えていたら、奥様に抱きしめられ、エリアに腕を抱きしめられ、ラインハルトさんに肩に手を置かれ、ラインバッハ様に頭を撫でられ、セバスさんとメイドさん2人に温かい目で見られた。


 それからはあれよあれよと世話を焼かれ、料理を食べ、風呂に入り、布団に入れられた。俺はそのままぐっすりと眠った。


竜馬はこの世界に来て初めて、前世の社畜時代のように徹夜仕事をしました。そして体の疲労感で昔を思いだして、亡くなった母親の面影を公爵家一家に感じてしまいました


…という事を表現したかったのですが、どうでしょうか?


本当はこの3日間の話も書いていたのですが、作業はとても単調かつ過去の愚痴などを重苦しくだらだらと書いていたので、カットしました。


そのせいで多少突然な展開になったかもしれません…突然過ぎましたか?


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[一言] アニメでのこの場面は本当に泣けました。
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