第五章 35話
竜馬がスライムとトレル峡谷を疾走している時、テレッサの街ではレミリーとシーバーを除いた大人組と女子4人に加え、エリアの搜索に協力していたホスロウら冒険者6名が人払いをされた宿の食堂に集まっていた。
雰囲気はとても重々しく、宿の主であるヘカルドに出された茶もほとんど口をつけられないまま冷めている中へ、シーバーとレミリーが姿を見せる。
立ち上がる少女達と、座ったまま2人に問うラインバッハ。
「何か情報は掴めたか?」
「関係ある話は幾つか聞けたけど、エリアちゃんの居場所は分からなかったわ」
悔しさを滲ませながら、レミリーは食堂の机に乗っていたスペーススライムを撫でる。
彼女たちは街に放たれた監視を数名捕まえており、レミリーが情報を吐かせていた。
「服従の呪いは?」
「下っ端だったのよ。知らない事は喋れないわ」
「待ってください。最初の1人は末端でも、そこから聞き出した上の者を捕まえたのでは?」
リエラの問いにレミリーは黙して首を横に振り、シーバーが答えた。
「そやつも多くの情報が与えられない下っ端なのだ。“闇金”は知っているな?」
「はい、闇ギルドが運営、または闇ギルドと関わりのある違法な金貸しの事ですね?」
「そうだ。あやつらは闇金と知らずに金を借り、返済に困った冒険者や商人だった」
「闇ギルドが実際にある儲け話でこの街に来るように仕向けて、手伝いをさせていたのよ。例えば行方不明の死体を見つけたとか、魔石がとれないから諦めて地元に帰ったとか、返済の際に噂を聞かせてそれとなく情報操作に利用したり……一部は借金の減額と引き換えに積極的に協力していたみたいね」
「……誘拐なら冒険者の持ち物も手に入る。ギルドカードを提出して死体を見つけたと報告すれば、その冒険者は行方不明から死亡扱いになる、か……死体はアンデッドにならないように焼いた、とでも言えば誤魔化せる。儲け損なった冒険者が街を出るのも別におかしな話ではない……」
シーバーに続くレミリーの言葉を、声に出して反芻したホスロウが抑えきれない怒気を放っているが、他の面々も皆同じで諌めようとする者は誰もいない。
「犯罪の片棒を担ぐことになっても借金が減るなら、自分に被害がなければ何でもやるって奴も居る。証拠の提出はそういう奴らを選んでやらせている、と言っていたまとめ役本人もそういう奴の1人だったの。だから得られた情報も少ないけど――」
「皆さん!」
ここで宿の主であるヘカルドが食堂へ駆け込み、レミリーの言葉が遮られる。
「あんた、落ち着きなって。何があったんだい?」
「ネール、鳥が来た。これを、リョウマ君からです!」
「貸してくれ!」
差し出された紙をシーバーが受け取って目を通し、固唾を飲む周囲に要点を伝えた。
「誘拐犯のねぐらへの道が判明した!」
「本当っすか!?」
「エリアとリョウマはんはどうなったん!?」
「リョウマは無事だが取引は陽動、捨て駒の一部を捕縛して情報を吐かせるだけに留まったと書かれている。彼が捕まえた犯人の話では、隠し通路によって西へ向かっている頃だそうだ」
「西って、国境じゃないか!」
「無闇に逃げてる訳がねぇ、隣国に逃げられたら追えねぇぞ!」
ネールとバラックの指摘にその場にいる者の表情が引き締まり、シーバーから手紙に書かれた事情の詳細が伝えられ、最後に食堂の隅で話を聞いていたヘカルドに水が向けられる。
「手紙にはヘカルド殿に洞窟の場所を聞けと書かれている。地下通路の入口の1つが街に近く、入口が封じられた洞窟の中にある。
先日、リョウマと洞窟の話をしなかったか? 街の者がゴミを投棄している場所から近い所だ。心当たりがあれば教えて欲しい」
「心当たりがあります! あの洞窟なのですか?」
「リョウマが向こうで複数の犯人を締め上げて吐かせた。上で縛っている男も指示を受ける密会の場を幾つか吐いたが、トレル峡谷のゴミ捨て場がその1つだと話した。他の場所もゴミ捨て場を目印にしていたりと、そこから遠くない。
私の経験上、何度も継続して事に及ぶ者は、拠点から近すぎず遠すぎない場所を選んで犯行や取引を行う事が多い。これからゴミ捨て場の周辺の捜索を提案するつもりだったが、先に具体的な場所が分かったな」
シーバーがへカルドそう答え、ヘカルドが用意した町周辺の地図を使い、洞窟の場所が伝えられると
「早速問題の洞窟へ参りますか? 皆様既に用意は整っているご様子ですが」
ここで壁際に立っていたセバスが食堂の一角に目を向け、その先のホスロウ、ネール、バラックが口を開く。
「この場にいる我々6名は既に復調しています」
「話を聞く限り犯人は娘の仇か娘を探す糸口なんだろう? それに今も被害が出てる、ここでじっとはしていられないね」
「そいつらはこの手でぶっ飛ばさねぇと気がすまねぇ」
その仲間3名も加わって、同行を断られても勝手に行くであろう6名に続き、4人の少女も声を上げて頭を下げる。
「私達も、どうか共に戦わせてください!」
「僕達がまだ未熟なのは、わかっているつもりです!」
「でも、それでもエリアを助けたいっす!!」
「お願いします!」
リエラ、ミシェル、カナン、ミヤビの4人について、ホスロウたちは判断をラインバッハ達に任せる、と無言で目配せをする。
「ふむ……危険に飛び込むことも厭わぬか、孫のためにそこまで言ってくれてありがとう。じゃが――」
「連れて行っても良いんじゃない?」
「レミリー!?」
意気込みを買いつつ同行を断ろうとしたラインバッハの言葉にレミリーが割り込み、ラインバッハがレミリーとシーバーを連れ、少し離れて問う。
「何を考えておる」
「あの子達もそれなりに戦える力はあるでしょ? それに、さっき話した通りこの街の冒険者や警備隊の何処に敵の手足が伸びているか分からない。この場にいる6人は良いけど、他の冒険者や警備隊は信用ならない中に残すのもどうかしら? ねぇ、シーバーちゃん」
「リョウマの手紙を鑑みれば、戦力を割ける状況ではない。残すことによる危険も一理ある。……連れて行くなら指示に従うことが絶対条件だ、勝手は許さん」
シーバーも険しい表情だが同行は認め、渋るラインバッハも4人の同行を認めた。
「さて、貴女達は連れて行ってもいいという話になったわ。分かっていて志願したのだと想うけど、もう一度聞くわ。本当に危険よ、それでもついてくるのね?」
4人がレミリー言葉を噛み締めてなお頷くと、レミリーは続ける。
「これ以上はもう聞かないわ。行く前に遺書を書いておきなさい。これは自分の意志だと、何があってもいいように。それくらいの時間はあるから、ね?」
「ああ。ラインバッハ、セバスを借してもらうぞ。セバス、悪いが足になってもらいたい。闇ギルドの倉庫の存在と犯罪者の国外逃亡を理由に国境警備隊を動かす。
職務上彼らは国境からそう離れられんが、国境付近の警備を固めておくに越したことはない。相手が国境に向かうなら、どこかで捕まるかもしれん」
「かしこまりました。今すぐにでよろしいですか?」
「頼む。皆は用意を万全にしておいてくれ、そう時間をかけずに戻る」
それを聞いたホスロウ達とヘカルドは食堂を出て、リエラ達は遺書を書きに部屋へ。それを見届けたシーバーとセバスは空間魔法で転移した。
食堂に残されたのはラインバッハとレミリーの2人。
「……レミリー、遺書を書けなどと言う意味があったのか?」
「書きながら怖気づくならその時はその時、くらいにしか考えてないわ。それに……私の手と目が届く所なら、遺書なんて使わせない。使わせてたまるもんですか」
「そうじゃな。儂らも今一度用意を見直すとするか」
残された2人は、静かに気迫を滾らせていた。




