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俺はAI漫画家さ  作者: 白滝さとる


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第十一章 七百七十二万円

 数日後、アキが居酒屋のアルバイトへ出かける前だった。


 いつものように管理画面を開いたアキの手が、止まった。


「一、十、百……千……」


 画面へ顔を近づけた。


「……万?」


 瞬きをして、もう一度、右端から数字を追った。


「一、十、百、千……ええっ!?」


 アキが勢いよく振り返った。


「さ、さとる! さとる、来て!」


「どうした?」


「売れてる! い、いっぱい売れてるよ! 早く、これ見て!」


 さとるが近づくと、アキは彼の袖をつかみ、画面を指さした。


「一万だよね!? これ、一万って読むよね!?」


「落ち着け。ちょっと見せてくれ」


 表示されていた販売数は、一万一千二百五十六冊だった。


 昨日まで、零だった。


 さとるは画面を見つめた。


 表示がおかしくなったのか。


 画面を閉じ、もう一度開いた。


 数字が、増えた。


「増えた! さとる、今、また増えた!」


「……何だ、これ」


 電話が鳴った。


「はい、白滝です」


「白滝先生でいらっしゃいますか。フジノヤマテレビ、制作部の立花と申します」


 先生?


 聞き慣れない呼び方に、返事が遅れた。


「このたびは、先生の作品について取材をお願いしたく、お電話いたしました」


「取材……ですか?」


「はい。フランスのマカロン大統領が絶賛された件で、お話を伺えればと」


「フランスの、大統領?」


 さとるは販売画面を見た。


「すみません。ちょっと、話が見えないんですが……」


 その横でスマートフォンを操作していたアキが、突然声を上げた。


「あった! さとる、これ!」


 画面を目の前へ突き出してくる。


「マカロン大統領が『大きな第一コマ』を大絶賛だって! ニュースになってる! ほら、さとるの名前!」


《フランス大統領、日本のAI漫画を絶賛》


 記事には、何度も作り直した、あの表紙が載っていた。


「俺の漫画が……?」


「そうです。その件につきまして、ぜひ当局で取材をさせていただきたいのですが」


 アキの声は、電話の向こうにも聞こえていたらしい。


 さとるは、記事と販売数を見比べた。


 間違いではない。


 本当に、買ってもらえたのだ。


「白滝先生?」


「あ、はい。もちろんです」


 取材の日程を決めて電話を切ると、待ちかねたようにアキが腕へ飛びついた。


「さとる! 売れたよ! 本当に売れてる!」


「ああ……」


 さとるは、もう一度画面を見た。


 数字は、また増えていた。


「ねえ、Kinbleの手数料って三十パーセントだよね。一冊九百八十円だと、いくら残るの?」


「六百八十六円。」


 アキがスマートフォンで計算した。


「さっきの冊数だけで……七百七十二万円、超えてる」


「……七百七十二万?」


 二人で、電卓の数字を見つめた。


「どうしよう。私、これからバイトなのに、落ち着かないよ」


 さとるは、もう一度販売画面へ目を戻した。


「読んでもらえたんだな」


「そうだよ! だから言ったでしょ。さとるの漫画、面白いんだって!」


 さとるはアキを見た。


 嬉しそうに笑うその顔を見て、ようやく、自分の口元も緩んだ。


 何か言おうとしたところで、また電話が鳴った。


 今度は、別のテレビ局だった。


     *


 取材の依頼は、そのあとも続いた。


 さとるは一つずつ応じた。テレビでも、新聞でも、ネットでも、マカロン大統領が絶賛したAI漫画が取り上げられた。


 SNSには、読んだ人の感想が流れ始めた。


《AI漫画って初めて読んだけど、面白かった》


《続きはいつ出るの?》


「さとる、これ見て。続きが読みたいって!」


 アキが新しい感想を見つけるたび、さとるを呼んだ。


 さとるは作業の手を止め、何度でも見に行った。


 やがて、返事をくれなかった出版社からも連絡が来た。


「ぜひ、弊社で先生の作品を扱わせていただきたいのですが」


 電話を切っても、さとるはしばらく、その言葉を確かめるようにメモを眺めていた。


 もう、続きを読みたいと言ってくれる人がいる。


 嬉しかった。けれど、何度確かめても、どこか夢を見ているようだった。


 ふと、疑問が浮かんだ。


 マカロン大統領は、どこで俺の漫画を読んだんだろう。


 考え始めると、今の幸せまで何かの間違いだったとわかってしまいそうで、怖くなった。


 それ以上は、考えられなかった。

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