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森と鋼のあいだ ー大往生 のち 恋をするー  作者: ヒトツキト樹


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第3章(終) 流れの源

夕暮れの王宮庭園は、昼間とは違う静けさに包まれていた。


石の小径のあいだからのぞく土は、日中の温もりをまだわずかに残していた。

ユリエルはゆっくりと庭園を歩いている。肩の上では、リュネが落ち着きなくもふもふと体を動かしていた。


小さな体を左右に揺らしながら、何かを探すように周囲を見回している。

ユリエルは足を止めて、肩にいるリュネに聞いた。


「どうしたの?」


リュネは庭園の奥を見ながら、小さく言った。


「……へん」


ユリエルの眉がわずかに寄り、首をかしげる。


「へん?」

「もり じゃない」

「でも もり」


ユリエルはその場にしゃがみ込み、石畳の隙間から見える土に手を触れた。


目を閉じる。


森で流れを読むときと同じように、意識を魔力へ向ける。


庭園の魔力は森ほど濃くない。

それでも、流れは確かにある。    


指先の奥に、かすかな感触が残る。

ユリエルはゆっくり目を開いた。


「……似ているわね」


リュネが、ちょこんと首をかしげながら、ユリエルの顔を覗き込む。


「ユリィ?」


ユリエルは指先の土を見ながら言った。


「森の魔力の流れに近いの。でも、少し違う」

「ちがう?」


ユリエルは指で土の上に円を描いた。


「森の魔力は、こうして巡っているの」


円をなぞる。


「木や水や土を通りながら、森の中をゆっくり回り続ける。だから森は生きていられるし、私たちもその流れの中で魔術を使うことができる」


リュネはその円をじっと見ている。  

ユリエルは今度は円の外へ線を引いた。


「でも、地面の下にも流れがあるの」

「した?」

「ええ」


ユリエルの頭に、書庫で読んだドワーフの国の話が浮かんだ。


鉱脈流動。


鉱石はただ埋まっているわけではない。長い年月の中で、少しずつ偏り、移り、濃さを変えていく。

ドワーフたちはその変化を読みながら鉱山を掘る。


ユリエルは自分の思考を整理しながら、静かに続けた。


「鋼の国の人たちはね」

「地の流れを読んで、鉱石の場所を探しているの」

「ながれ?」

「そう」


ユリエルは土の上の円と線を見つめた。


森の循環。


地の流れ。


これまで別々のものだと思っていた二つの動きが、頭の中で重なり始めている。


「別のものだと思われているのよね…」


ユリエルはゆっくり言う。


「森の魔力は森のもの。地の流れは鋼のもの」


庭園の木々が風に揺れた。

葉音がさらさらと広がる。

いつの間にか、空には夜が訪れ、星が輝き始めている。


時間の経過に気づくことなく考え込んでいるユリエルの肩では、難しい話に疲れ始めたリュネが眠そうにしている。


もし——


「同じ流れだったら?」


リュネがぱちぱちと瞬きをする。


「おなじ?」


ユリエルは遠くを見る。

森の向こう。

さらにその先にある鋼の国の方向へ。


「森では魔力として現れて、地下では鉱脈として現れているだけで……」


言葉にしながら、自分でも考えを確かめている。


「もとは一つの大きな流れなのかもしれない」


リュネは眠さでボンヤリとしながら聞く。


「おおきい……ながれ?」


ユリエルは頷いた。


森の流れ。

地の流れ。


そして、境界で揺れた森の魔力。


それらがすべて一つの現象だとしたら。


ユリエルはしばらく黙って庭園の地面を見ていたが、小さく息を吐いた。


「……もし、そうなら」


ユリエルはまだ考えを確かめるように、静かに言った。


「森の異変も、鋼の国の騒ぎも……原因は同じ……?」


その瞬間、泉で交わした言葉が脳裏によみがえった。


——これは国家同士の問題ではないかもしれない。


レンヴァルトの声だった。


ユリエルはゆっくり顔を上げる。


夜の風が庭園を渡り、白樹の葉を揺らした。風は森の奥へ、さらにその向こうへと続いていくように感じる。


もしこの仮説が正しいなら。    

今、揺れているのは森でも鋼でもない。


この世界そのものなのかもしれない。


――あらあら、困ったわね

――わたしなんかに、どうにかできる話じゃない気がするわ……


思わず天を仰いだユリエルの瞳には、夜空を埋め尽くす星空が映っていた。


第3章【完】














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