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過去を見ちゃった!?

 流れてきた映像の中にはミントがいた。ただ、僕の知っているより小さいミントだ。

「師匠、起きてください」

 黒く長い髪の椅子で寝こけている人物を揺すっている。師匠というと、死霊術師の人だろうか。

「師匠、師匠ってば! もう、一体何時に寝たんですか! いつもいつも夜にばっかり起きて! そんなんじゃ、体調崩すんですからね!」

 どうやら、ミントの師匠という人は寝坊助みたいで、全然起きない。ミントは怒り心頭で、師匠の体をぽかぽか殴ったり、果てには腕にかじりついたりと、手を尽くして起こそうとしていた。

 さすがにかじりつかれたのは目が覚めたらしく、乱れた髪をぽりぽり掻きながら、不承不承起きていた。

「ミントや……私の睡眠時間を奪わないでおくれ……」

「夜更かしするからでしょう? 朝ごはん、食べます?」

「お茶飲んで寝ます」

「だーめーでーすー! 今日こそはゴーレム作るところ、見ててもらうんですから!」

 えっ、ミントって、誰も見てないところでゴーレム作っていたの!? お師匠さまも放任が過ぎるよ。それに、このミントはまだまだ子ども。自分が何かできるようになるたびに褒めてもらいたい年頃のはずだ。そうじゃないとひねくれてしまう。

 僕の知っているミントはひねくれてはいないけど、多少大人びているようにも感じた。ここでお師匠さまに見てもらえなかったのだろうか。子育てって大事よ。

 それに、万一失敗して、暴走でもしたらどうするんだろう。ゴーレムの暴走という響きが何かヤバそうだし。

「ミントのゴーレムは見せてもらってるよ。すごい出来じゃないか」

「作っている過程も見てほしいんです!」

 ふふっ、ミントってば子どもみたい。いや、子どもなんだけどさ、なんか、安心したや。

 ミントには子どもらしく子どもでいられた時間があったんだ。それは子どもにとって、健やかなことだから。

 ちょっと自己管理のできていない駄目そうな大人だけど、いい人だったんだな、ミントのお師匠さま。そういえば、この人は安否不明なんだっけ。

「お茶じゃなくてコーヒー出すよ。ほら、起きた起きた!」

「うえーん、もっと寝るー」

 それにしたって、本当に子どもみたいな大人だな、お師匠さま。

 いや、見た目はひょろっと背が高くて、大人ということはわかるんだけど、ミント相手になんだか甘えているところがあるような気がする。死霊術師は嫌われているっていうから、人に気を許すなんて、簡単にはできないんだろうけど、ミントに甘えすぎじゃないかな。

 もっとミステリアスなの想像していたよ。

「ミントはしっかり者だなぁ」

「褒めるのはゴーレム作り見てからにしてください。はい、コーヒー」

「ありがとう」


「ノッポさん?」

 っと、危ない危ない。今はメルトと話しているんだった。

「ノッポさんどうしたの? ぼーっとして」

「うん、ごめん。ええと」

 これは今見たものを正直に話すべきだろうか。

「ミントの過去? みたいなのが見えて」

「ん? もしかして同調?」

「同調って?」

 メルトが人差し指を一本ずつ立てて、向かい合わせて説明する。

「相性のいい魂とか、存在とかが、波が合いすぎて、不意に普通なら見えないものを見たり、聞こえないはずの心の声を聞いたりするの。滅多にないことだけど、ゴーレム師とゴーレムならあり得なくもないかな」

 ふむふむ。ということは、僕が見たのはミントの中にある、ミントが見ている心象風景とか、そんなところだろうか。

「過去が見えたってことは、ノッポさんの結晶石が見せた可能性もあるよ。ゴーレム師によっては、質の高いゴーレムを作るために、結晶石を育てるって聞くわ」

「石って成長するの?」

 メルトは肩を竦める。

「その辺に転がってる石ころはしないでしょうけど、結晶石はどうかしらね。何の結晶かもわからないのよ、結晶石って。ゴーレム師は当たり前に持っているけど、どこで採れたかもわからないのよね」

「鉱石じゃないってこと?」

「それすらわからないの」

 掘り当てたとか、そういうものじゃないんだ……なるほど。

 ゴーレム師にしか見つけられないとか、そういうジンクスみたいなのがあるのかな。夢があるな。

「それで、ミントのどんな過去を見たの?」

「うん。ミントには、ゴーレムの作り方を教えてくれたお師匠さまがいるんだけど、その人との日常の話だった。その人は寝坊助で、ミントに関しては放任気味で、ミントはゴーレムを作るところをちゃんと見てほしいって言っていたよ」

「やっぱり、ゴーレム師って師匠がいるものなのね。というか、家族じゃないの? その人とは」

 うーん、たぶんだけど違うな。でもこれ、言っていいのかな?

 まあ、言うしかないか。

「ミントは天涯孤独なんだって。だから、血の繋がった家族じゃないと思う」

「へえ……まだまだ子どもだろうに、大変ね。ゴーレム師なのは血統かと思ってたけど、違うのね」

 血統……つまり、一族でゴーレム師をやっているってこと?

「そういうのあるんだ」

「ええ。ゴーレムは街を魔物から守るために配備されることがあるからね。ゴーレム師の一族っていうのが、歴史のある街にはよくいるわ。ゴーレムって、勇者を除いたら、人間が魔物と戦うための唯一の手段ですもの」

「人間の兵隊とかは? 駄目なの?」

「まあ、戦力としてはいいんでしょうけど、ほら、今、レイたちがやってるあれ」

「浄化?」

「そう、浄化ができないからね」

 確かに、浄化をしないままだと、復活するんだっけ? そうなったら二度手間だよね。

「? でも、ゴーレムも浄化できるわけじゃないし、同じじゃない?」

「ゴーレムはそもそも生き物じゃないからね。人間は生き物だから、魔力に充てられると、よくないのよ」

「凶暴化しちゃう?」

「そうね。それが大方。悪魔みたいになっちゃうパターンもあるわ」

 うわ、それは嫌だな。

 でも、勇者も人間なのでそれほど変わらないのでは、と思ったけれど、勇者と言われるだけあって、特別な加護があるらしい。

「レイの光の加護は魔力による干渉を一切受けないものらしいわ。レイはそれを一時的になら仲間にも分け与えることができるの」

「すごく都合のいい力だね」

「神様が遣わした、というだけのことはあるわよ。ただ『都合のいい』という言い方はレイが傷つくからやめてね」

「あ、ごめん」

 確かに、棘のある言い方だった。気をつけないと。というか、なんで棘なんて出ちゃったんだろう?

「とにかく、魔物と戦うのは、ただの人間の兵士じゃ駄目なの。レイの加護も、一度に三、四人くらいにしかかけられないし」

 そういう制限があるのか。それじゃあ、大勢で魔物に立ち向かうのは難しいな。

「でも、魔物って、世界各地に出るんだよね? それらを四人だけでって、大変じゃない?」

「大変よ。でも、今のところはそうするしかないの。近くの街にゴーレムがいたら、頼るようにはしてるけどね」

 ゴーレムは生き物じゃないから、魔力の悪影響は受けないんだっけ。

 生き物じゃないと言われると、複雑な気持ちになるけど、土でできた人形だもんなぁ。生き物ではないか、やっぱり。

「協力はしたいけど……」

 僕はやっぱり、戦うのが苦手だ。助けなきゃ、とか怒りとか、そういう感情でいっぱいになるのが怖い。感情の制御ができなくて、周りの人を傷つけてしまうのが怖い。戦うことで感情が昂って、誰かを傷つけてしまったとき、処分されるのも怖いんだよなぁ。

 怖がりすぎかな?

「僕は、戦うのが怖いんだ。自分が傷つくのも怖いし、自分の手で他人が傷つくのも怖い。止めてくれる誰かもいなくて、止めるどころか、そのまま戦えって言われるのが怖いんだ」

 僕の言葉をメルトは静かに聞いていてくれた。受け入れられなくてもいい。聞いてくれるだけで安心できた。

 メルトは少し考えるように目を閉じて、それから深く息を吐くように告げた。

「ノッポさんは優しいんだね」

「そうかな」

「怖いっていうことを話してくれるの、優しいと思うよ。自分の都合だって後ろめたくなって、一人で抱え込まずに話せるのは、強いって思うし、胸を張っていいんじゃないかな」

 でもまるで、とメルトは付け加える。

「人間みたいだね」

 その言葉は嬉しいような、悲しいような、複雑な心境をもたらした。僕が人間じゃないことが強調されている。それはどうしようもない、事実なのだけれど。

「やっぱり、人間みたいだと変?」

「変っていうか、ゴーレムじゃないみたい。普通のゴーレムは感情について話さないから」

 普通のゴーレムには僕みたいな自我がないらしい。あっても、自分を作ったゴーレム師に従順なくらいなもので、人間のように強く感情を昂らせたりしないという。

「どうして、僕は普通のゴーレムと違うんだろう?」

「それは私も気になるけど、ゴーレム師が変わった作り方をしたとか?」

 なるほど、作り方か。そういえば、ゴーレムはどんな作り方をするのか、ミントには聞いていなかったな。お師匠さまが死霊術師だから、変わった作り方をするのかもしれない。

 ミントに聞ければいいんだけど、目覚めるかどうかもわからないから……

 死霊術……うん、なんだかよくない想像をしてしまった。でも、その可能性の方が大いにあり得る。

「メルトは、死霊術って知ってる?」

「へっ?」

 メルトは驚いたように口元に手を当てる。

「なんで、禁術を知ってるんですか!?」

「えっ?」

 メルトの返しに僕は間抜けな声を上げてしまった。禁術って、死霊術のことだよね?

「死霊術は生命の神秘を貶める禁術よ? まさか、ノッポさんの作り方に死霊術が関わってるんです!?」

「ま、まだわからないよ。禁術なんだ。知らなかった」

「知らなくてよかったよ。場合によってはノッポさんを消さなきゃないから」

「えっ」

 け、消す? いかにも物騒な感じの響きだなぁ。殺されるってことだよね? そこまでするの? 禁術こわ……

 でも、これで安易にこの話題を出してはいけないということがわかった。

 ミントが起きたら、話してあげないとな。って、また考えが逸れている。

「危険なものなんだね」

「ええ。はあ、びっくりした」

 メルトが胸を撫で下ろす。これってそんなに危険なことだったのか。

 でも、ミントのお師匠さまが禁術使いってことになるよね? 存在を許されているわけだけど、それって普通、あり得てはいけないんじゃないだろうか。

 穿って聞いても墓穴を掘りそうだから、やめておこう。この謎は追々だ。

「ノッポさん、これからどうするの? 私たちと一緒に旅する?」

「ええと、うーん」

 それは少し悩みどころなのだ。ミントの処遇もあるし。

「ゴーレムって、元いたところの村では怖がられてたんだけど、街に行っても大丈夫なものなの?」

「そんなこと気にしてたの? ゴーレムは確かに魔物にも存在するけど、魔物と戦ってくれる英雄よ。あなただって戦ったのだから、胸を張っていいのよ?」

 そうは言うけど、この先、魔物が出てきて、戦いたくないっていう僕には、ちょっと後ろめたさがあるよ。

 人の中で生きることができるかな。それが一番心配なんだけど。

「大丈夫、大丈夫! ノッポさんは優しいから、きっと人に受け入れてもらえるよ」

「そうだといいな」

 メルトの励ましに、僕は微笑むような心地になる。あまりうじうじ言っても、仕方ないもんね。

 なるようにしかならないんだから、どうなるかはそのときを待つしかない。腹を据えないと。

 考えを切り替えていると、レイたちが戻ってきた。

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