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僕はゴーレムになっちゃった!?

 目を覚ますと、なんだか変な感じがした。

 僕ってこんなに背が高かったっけ、という疑問を浮かべて、寄りかかっていた木から立ち上がる。木の葉っぱのところにずぼっと頭が入ってしまい、混乱した。しかも上手く抜けられないし。

 あれ、手先が不器用になったかな、と思った。そうして手を見たら、手の大きさや指の太さが違った。というか、手が人間の肌ではなかった。

 石、みたいな……

「ノッポ、起きたの? 何やってるの?」

 呆れたような声が聞こえる。僕は屈もうとして、失敗した。失敗といっても、しりもちをついただけだ。だけ、とは言うが、僕の体は大きいらしく、ずしん、と重たい音を立てて、森を震わせた。

 声の主は今一度「何やってるの」と呆れたように告げる。少し恥ずかしくなった。

 ようやく、声の主の姿が見えた。僕の膝丈ほどの小人が、平坦な目で、僕を見上げていた。

「ちょっと、夜なんだから、静かにしてよ。出来たばかりで体が不自由なのは仕方ないけど、森の近くには村もあって、人間が住んでいるんだからさ」

「にん、げん?」

 あれ、と思った。僕の声がエコーがかかっているように思えたし、僕の知っている僕の声じゃないような気がした。けれど、頭の中では自分の声だと安心していて……どういうこと? わけがわからないよ。

 小人は僕を胡乱げに見て、それから深々と溜め息を吐いた。

「一から説明しないとわからない? ゴーレムに寝ぼけるとかあるんだ。しょうがないなあ」

「え、ちょっと待って……」

 聞き捨てならない一言があった。

「ご、ゴーレム?」

「そうだよ。君はゴーレム」

「人間じゃないの!?」

「え、そこから?」

 小人……というか、おそらく人間なのだろう彼は、面倒くさそうに眉をひそめた。

 呆れているし、怒ってもいるのだろう。ごめんなさいとは思うけれど、僕だって、何がなんだかわからないのだ。

 ゴーレムと言われれば、背の高いのも、手がゴツいのも納得できる。けれど、僕の意識は人間なのだ。どうして。

「参ったな。自我の強いゴーレムができてしまった……まあいいや。君の名前はノッポ。ボクが名付けたんだ。ボクはミント。よろしくね」

 僕には人間という意識がある。それなら人間としての名前もあるはずなんだけど、何故だか思い出せない。仕方ないので、ノッポという名前を受け入れることにした。

 別に、ミントは素っ気ないだけで、悪い感じはしないしね。


 ミントはは天涯孤独で、死霊術師に育てられた。死霊術師はミントに寂しくならないように、と「友達を作る方法」として「ゴーレムを作る方法」を教えたのだという。

 あるとき、死霊術師はミントの前からいなくなってしまい、ミントは一人暮らしになった。ミントは小さなゴーレムを作り、彼らに生活を助けてもらいながら、生活をしているのだという。

「ミントは死霊術は習わなかったの?」

「うん、師匠がボクに習わせなかったから。死霊術師って、嫌われるんだって」

 まあ、死人の魂やら、遺体やらを弄くる存在、と言われたら、好きにはなれないよな、と僕は思った。人は死ぬからこそ美しい、みたいな文言に思い切り逆らっているもんな、うん。

 ミントは、師匠である死霊術師が好かれようが、嫌われようが、かまわなかったという。僕に対しても雑さが表れているように、他人のため云々の話は興味が向かないのだろう。

「ノッポはやけに流暢に喋るね。何か秘密があるのかな」

「そ、そうかな……秘密かぁ……」

 指摘されて、僕は焦った。秘密というか、自分でもよくわからないけれど、「以前の記憶」というのがある。

 僕は前、人間だった。こんなに森深くじゃなくて、人間の中に住んでいた。その詳細を思い出そうとすると、目を焼くような光が脳内に溢れて、思い出せない。なんとなく、事故に遭ったんじゃないか、という考えに至った。

「ミントは、別な世界ってあると思う?」

「あるかどうかっていうより、あるよ。師匠から教わった」

「え、あるの!?」

 なんでそんなに驚くのさ、とミントは言った。思えば僕から話題を振ったのに、おかしなことだ。

 ミントが説明してくれる。

「世界っていうのは、交わらないように存在している。でも、時々、事故が起こる。世界同士の衝突事故だ。それはあらゆる偶然が重なって、同じ場所に派生した世界の『道』同士が繋がってしまったことを言うんだ。それを矯正して、交わらない状態に戻すのが、死霊術師の役目なんだって」

「え、ここで死霊術師が出てくるの?」

「うん。事故で死んじゃう魂とかがあるらしいよ。それを元いた世界の方に正しく導くのが死霊術師の役割なんだって」

 知らなかった。ミントのお師匠さんは、随分と大きな役割を担っていたんだなあ。

 あれ? でも、それだと、僕はどうしてここにいるんだろう? 僕も事故に遭ったんじゃないのかな。

「……ミント、もしかしたら僕は、とんでもない存在なのかもしれない」

「どうしたの? いきなり」

 これは、もしかしたら、異世界転生というやつなのかもしれない。夢の溢れる言葉のような気がしていたけど、世界に逆らう行為なのかな?

 不安になって、ミントに相談する。ミントは少しびっくりしてから、からからと笑った。

「笑ってる場合じゃなくない?」

「そうだけど、別に罰があるとか聞いてないし。なるようになるでしょ」

 なんて楽観的なんだ。世界に逆らったら、神様とかに消されるかもしれないのに。そういう伝承とかはないのかな。

「じゃあさ、ノッポ」

 ミントは僕の足にひたりと手を当てた。その体温をこの体は感じ取れない。土塊(つちくれ)の人形だから。

 人間じゃない、ということがひどく悲しい。体温がわかったら、こんなに寂しくなかっただろうに。

 それでもミントは笑っているから、ないはずの心臓が苦しい気がするんだ。

「逃げよう、どこかに。捕まらないように」

「どこかって、どこに?」

「どこでもいいよ。ちょうどこの森の景色にも飽きてきたところだし。旅に出よう」

 旅なんて、呑気な……でも、他にすることも思い浮かばない。

「じゃあ、行こっか。森の出口はどっち」

「教えるから、肩に乗せてよ」

 こうして、ミントと僕の旅が始まった。


 森を出てすぐの村に行くと、僕の姿を見るなり、人々は悲鳴を上げて逃げた。僕に害意はないのに、傷つくなぁ。

 人間じゃないことをまざまざと思い知らされるのが、ちょっと辛い。ミントはどうして、僕をこんなに大きく作ったんだろう?

「みなさん、びっくりさせてごめんなさい。この子は僕が作ったゴーレムです。誰も傷つけないと約束するので、降りてもかまいませんか?」

 ミントが声を張ると、村の代表のような人が、恐る恐るといった感じでこちらに寄ってくる。ミントは僕の手に乗って降りた。

 ミントは村長さんと何やら話し始めた。話の内容がわからないので、僕は手持ち無沙汰になり、辺りを見回した。なるべく気をつけて歩いたけれど、花を踏んだりしていないだろうか。

 すると、僕の足跡を物珍しそうに眺めている子どもが近づいてきた。僕は慎重に屈んで、声をかける。

「こんにちは」

「!」

 子どもが驚いて、飛び上がる。僕は「悪いゴーレムじゃないよ」と慌てて自分で名乗った。

「僕の名前はノッポ。よろしくね」

「ノッポさん」

「ノッポでいいよ」

「ノッポさんノッポさん」

 なんだか子どもが僕の名前を気に入ったようで、歌うように繰り返す。ミントがどう考えて、僕にこんな名前をつけたのか知らないけれど、やっぱり、背が高いから「ノッポ」なのかな? だとしたら、可愛いネーミングだよね。

 相手は子どもだから、慎重に対応しないと、怪我をさせちゃう、と思いながら、指で遊んであげた。僕の太い指も、それだけで面白いらしく、子どもはきゃっきゃと楽しそうだ。

 けれど、向こうから、母親と思われる女の人が現れて、僕から子どもを引き離す。子どもがしょぼんとしたのが見えた。僕もちょっぴり悲しい。

「駄目よ! 怪我したらどうするの!?」

「でも、ノッポさん、優しいよ?」

 子どもの言葉に、僕は胸が暖かくなる。優しいって、思ってくれたんだ。

「うわべではそう見えても、それが本性とは限らないのよ!? ゴーレムって魔物でしょう?」

 魔物。ずきん、とないはずの心臓が痛む心地がした。やっぱり、ゴーレムを作る方法があるだけあって、魔物とかいるのか。魔王とかがいたりして、人々は苦しめられたりしているのかな。

 それを思うと、このお母さんの心配する気持ちもわかる。寂しいけど、僕はこの子から離れた方がよさそうだ。

 間違って飛ばさないように、ゆっくりと僕は手を引く。僕の顔がどんななのか、まだ理解していないけれど、微笑むような気持ちで、子どもを見た。

「ノッポ、準備できたよ」

「準備してたの?」

「それ以外、何だっていうのさ。旅をするための先立つものだよ」

 ああ、ゴーレムの僕は特に必要ないけれど、人間のミントには必要だよね。ミントはしっかりしているなぁ。

 数日分の食べ物と、まとまった路銀。それを頭陀袋に入れて、ミントは僕の上に乗った。

 村とは何も揉めることなく、僕たちは旅に出ることができた。

「よく食べ物やお金をもらえたね。何かと交換したの?」

「うん。ゴーレムの核になる結晶石を渡したんだ。結晶石は魔物避けになるからね」

「結晶石……核ってことは、それ取られたら、僕、死んじゃう?」

「ゴーレムは死ぬって言わないけどね」

 旅をするために、ミントは今まで動かしていた僕以外のゴーレムを土に還したと語った。

 術師によって、土に還されたゴーレムの結晶石は貴重で、高い魔力を持つのだとか。だから、魔除けにもなるし、加工もしやすく、アクセサリーに使われるのだとか。

「でも、僕だけ残してよかったの?」

「だって、死にたくないでしょう?」

「それはそうだよ。でも、死にたくなかったのって、他のゴーレムも同じことじゃない?」

 僕の言葉に、ミントはノンノンノン、と指を振った。

「その『死にたくない』って言葉が出てくる辺り、ノッポは特殊なの。普通、ゴーレムはこんなに喋らないし、感情を持たないから」

 そうなんだ。僕と同じゴーレムはいないのか、と思うと、少し寂しいような気がする。この「寂しい」っていう感情も、普通のゴーレムは持ってないんだな。

 ミントは続ける。

「つまり君は、ボクが作った中で最高傑作ってことさ。人間と同じ感覚を持ってる。すごいことだよ」

「えへへ、そうかな」

「だから、よろしく頼むね」

 僕たちはまだ、知る由もなかった。

 お別れが突然来ることを。

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