水の都決戦 其の一
ラクルスはどうにかして、鈴音と合流した。
鈴音はラクルスの傷を見ると、すぐに飛行船に送る。
残ったニューズと鈴音は爆音のする方を見た。
『お前、単独行動なんだな』
「私の場合、側に誰かがいると機動力が落ちるので」
ニューズは鼻を鳴らして、歩き出す。
『先に行け。追いつく』
「………………いえ、やめておきましょう」
目の前に現れたのは、黒い炎を纏った鳥だ。
「止マレ、人間」
ニューズはその匂いに戸惑いを覚えた。
つい先程、嗅いだ匂いに似ていた。
『あり得るのか?』
もし、そうなら。
彼女は? どこにいるのだ?
「……………」
鈴音も気づいたのか、険しい顔でその鳥を睨み付ける。
「お前……鈴音。お前ダケは許サナイ」
「哀れな姿ですね、泰山殿。依々恋々はどこですか?」
「許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ」
ニューズは毛を逆立てる。
まさか、最高神官に会ったのだろうか?
『退こう。俺達で勝てる相手ではない』
「馬鹿言わないでください。貴方は私と同じ“御付き”なのでしょう? ならば、知っているはずですよ」
鈴音は足元に転がっていた石を、無造作に投げる。
石はすぐに消えて。
「グァア!」
黒い化け物は飛び立った。
「やはり、威力は足りませんね」
鈴音はそう呟くと、ニューズを見た。
「“御付き”は、“三柱の神子”の最も強い配下の者から選ばれるのです」
つまり、鈴音は東大陸最強の魔術師ということである。
○○○
花鳥諷詠は目の前で倒れている人物に駆け寄った。
同行者の悪事千里もその人物に目を丸くした。
“幻影の神子”を倒し、皆んなと合流するはずだったのだが。
「依々恋々……? どうして、こんなとこに。そもそも、泰山はどこ?」
「千里。それは、彼女に直接聞けばいい」
恋々はうめき声を上げて、ゆっくりと目を開けた。
「依々恋々。何があった? 話せ」
「最高神官が、北斗を化け物に変えて。私は“神聖”だからと放置され……。私は、何も出来なかった」
恐怖で動けずにいる恋々に、千里は恐る恐る触れた。
普通ならば、千里に触れた者は毒にやられるはずだ。
しかし、恋々は。
「純愛は、“神聖”」
諷詠は舌打ちをする。
「今すぐ飛行船に戻る。恋々はしばらく動けない」
「そうね。私は、泰山を追うわ」
「気をつけろ。まだ、最高神官がいないとも言い切れない」
「了解」
千里は一人で歩き出す。
「“神聖”は、“悪”に弱い」
千里は寒気を覚えた。
「私の魔力は、最高神官と同じ?」
《ちがーう!》
突然の声に、千里は足を止める。
「誰?」
《はっ! 黙って見守るつもりが僕としたことが! これは、アレだね。また、死神に怒られる奴だ》
千里は後ろを振り向く。
そこにいたのは、白猫だった。
目は宝石のように綺麗な紫色で、首にはオシャレなリボンがついている。
威厳はなく、しかし、その毛並みは恐ろしいほど神々しい。
《僕は“猛毒の神”、リグネルド》
リグネルドはそう言うと、欠伸をした。
《確かに僕は“悪”の属性だが、最高神官みたいな“悪い”魔術じゃない》
「私の魔術は、誰かを殺す」
《使い方次第じゃないかな。君は、その力で誰かを守れると思うけど?》
千里は俯く。
神の言うことは正しい。
「神様。どうして、私にこの力を?」
《んー? 悪事の家を贔屓にしてるし。それに》
リグネルドは後ろ足で首元を掻く。
リボンが無造作に揺れる。
《君に渡す能力は、きっと素晴らしいものになると思った》
かつて、悪事の家は毒の魔術を自分達の家系のために使って来た。
それが、最も正しいことだと考えていた。
しかし、ある時を境に“神子”が生まれる頻度が空くようになり、別の国で“毒の神子”が生まれることもあった。
《今までとは違う、君は、君のために力を使うと思った。僕の愛する魂は、自分のために能力を使うことを選んだ》
リグネルドは千里の足元に座る。
《君がそう言ったんだ。ほら、早く行くといい。僕は、そばでずっと見ているから》
千里は頷いた。そして、走り出す。
もう振り返らなかった。
○○○
百花繚乱も合流し、“水源の神子”は現在、五人の魔術師に囲まれていた。
俺は顔を顰めて化け物を見る。
こいつから、魔術を奪うことが目的らしいが、本当にそんなことが可能なのだろうか?
攻撃を交わすだけでも手一杯だというのに。
「オルクリィ! 時を止めろ!」
「魔術を奪うまでの時間と、私が時を止める時間は後者の方が短いです! 危険を冒すより、一度あの化け物を気絶させた方が早い!」
俺は舌打ちする。
もし、化け物を元の姿に戻しても、おそらく“水源の神子”は敵対してくる。
そうなると、理性がある分厄介だ。
俺に出来るのは、飛んで来た魔術を無効化することだけ。
「どうすんだよ!」
俺は無意味に叫ぶ。
このままではこちらが消耗するだけだ。
こう火力をぶつけて、化け物を殺しては意味がないらしい。
「………こうなったら、奥の手ね!」
リティアが動き出す。
「我が神よ! お力をお貸し下さい!」
辺りが静まり帰った!
「ふざけんな! 神頼みかよ!!」
「うわぁあああ! うそーーん!」
俺の怒鳴り声に、リティアが涙目になる。
ミーウが呆れた顔で呟く。
「神頼みしなくても、どうにかなるってことか」
「どうするの? 良い案思いつかないんだけど!?」
俺は舌打ちをする。
このままでは防戦一報で、何もできない。
「〈不思議之国〉!!」
“水源の神子”が引きずり込まれた。
俺たちは、全てを察して“水源の神子”に続く。
「サンキュー、アリス!」
ようやく、“水源の神子”を倒せそうだ。
○○○
「何故………ロネシェを向かわせたんですか!?」
レウスは申し訳なさそうに諷詠を見た。
「すまない。事情を知っていれば待たせたのだが」
「それに! 風月まで!!」
諷詠は肩を震わせた。
彼女はロネシェのように自衛の手段がない。それに、風月の魔術から考えればすぐにわかる。
「風月を、見捨てたのか?」
「アイツから言い出したことだ。それに、北大陸の方針に西は一々口を挟まない」
「東の問題でもあるんだ!」
「花鳥の者とはいえ、すでに彼女はシャンカラの勢力だろう?」
「僕の妹だ!!」
恋々の治療をしていたローリエが、二人のいる操縦室にやって来て、気まずそうな顔をした。
「あの、諷詠さま」
「なんだ?」
「風月さんは、覚悟を決めていました。その覚悟を、否定してはいけないと思います」
「そりゃ、お前はあの男を殺したいだろうが………」
「彼とは同郷ですし、この大陸のことを教えてもらった恩もあります」
ローリエは静かに続ける。
「私は彼女の覚悟を否定することはできませんでした」
諷詠は悔しそうに言った。
「あの子は、ずっと不幸だ。あまりにも、可哀想じゃないか」
「不幸だとか、可哀想だとか、決めるのは、風月さんです。彼女は、幸せだったと思います」
ローリエは断言する。
去り際に言っていた言葉を思い出した。
『結局、ルシェルは気づかなかったけれど、私はそれでも、彼と出会えて幸せだった』
「“水源の神子”から能力を取り戻したら、すぐに後を追いかけましょう」
遅くなりました!
次回も遅くなりそうですけど……。




