降灰した世界③
八丈島を出港して三時間。私たちの進行方向から微かに黒いモヤが現れるようになりました。
「ここからでも噴煙が見えるね」
「ええ。ですが、影響を受けるのは私たちはまだ先になりそうです」
マチちゃんはそう言って、美岬ちゃんが持っている端末のメールアプリの通知を確認していました。
「副長、連絡は来ていませんよ」
「分かっている。だけど情報が少なすぎるから気になるのよ」
マチちゃんは今の状況を把握したいのか、落ち着かない様子が見えていました。
「確かに。このまま行くと危険に思える」
「艦長もそう思いますか?」
私の可能性には機械の設備不良の可能性が大きく、進むにつれて噴煙に引き込まれるような印象がありました。
「窓から見えないからって拭くこともできないから常に四方の確認が必要になるはず。それに機械が壊れる恐れもあるから難しいね」
「はい…」
私とマチちゃんが進むのに慎重派ではあったものの進まないと状況が変わらないどころか悪化までしそうな雰囲気を見せていました。
「とは言え、危険だからって進まないと小笠原諸島の方々の避難も出来なくなりそうだね」
「そうですね…」
暗く周囲の海も未だに穏やかに揺れている中でも私たちは父島の情報が来るのを待っていました。
「とりあえず。雫ちゃんと漆ちゃんは噴煙の記憶をお願いします」
「確かに。良い案です」
『はい』
『任された』
電測員の雫ちゃんと水測員の漆ちゃんは伝声管から返事を返すと、他の子たちにも指示しているのが聞こえて来ました。
「今のうちに私たちで火山灰の対策だね」
「はい。どんな状況でも被害に遭うことになるでしょうし。考えましょう」
火山灰の中で進む手段をまとめていましたが、対策をしておらず、良い提案も出て来ませんでした。
「火山灰が近づいたら、見張り番の人に報告してもらいながら動く形で進むことになるので、そちらの人たちにできることを考えないとですね」
「うん」
マチちゃんは私の話を聞いて真っ先に見張りの対策について話を振ってきました。
「見張りは四方をガラス窓で覆っています。ですが、基本的に肉眼で確認することが多いので閉めたら火山灰を防ぎますが、進むことが困難になるかと」
美岬ちゃんもマチちゃんの話を聞いて見張の話に加わりました。
「肉眼とどのくらい変わるのかな?」
「明確には分かりませんが、火山灰でガラス自体にも影響があるので、相当かと」
マチちゃんは悩みながら私の質問にも答えてくれました。
「それこそ。電波で位置情報を拾ってできたら良いけど」
「ノイズだらけだし、こっちから発信しても火山灰のせいで届くのか分からない」
通信が途絶えた比叡と伊吹に合わせるため、事前に話した進路指導をそのままに対策することになりました。
「視界が広がって火山灰でも影響されない方法は難しいですね」
「常に暗いから危険よね…」
美岬ちゃんとマチちゃんは案を出そうと唸りながら考えており、私も何か無いか周囲を見回しました。
「あの。モールス信号で使う照明を斜め上に広がるのかな?」
「確かに。基本的には使用方法は違いますが、火山灰に含まれるガラスの屈折で周囲をより明るく照らす可能性はあります」
マチちゃんは私の案を聞いて、表情を和らいで話を進めていきました。
「司令室から見張り塔、話は聞こえていた?」
『聞こえていました。やってみましょう』
マチちゃんは伝声管に伝えるとすぐに返事が聞こえてきました。
「照明をつけました」
「少し傾けて!」
マチちゃんは航海員の人たちに少しずつ傾けて調整を始めました。
「見張り!見えた?」
『先ほどより明るくなりました』
見張り番の人の声も先程よりも気持ち明るく聞こえてきており、対策も順調に進んでいきました。
「今できることはこのくらいかな?」
「そうですね」
マチちゃんの不安そうな表情は落ち着きを取り戻しており、船も順調に進んで行きました。




