祈り
小さな祈りが大きな力になるんだ
「拝啓、神様。ペルセポネー様。ヘスティアー様。私を護る女神様。私はこれより旅立ちます。ようやく、ようやくこの時が来ました」
「……」
ベルの私室の隠し部屋に祀られた、2柱の像に祈りを。当然女神たちが応えることなんて、ありはしない。
世界は皆に平等に不平等だ。ベルもまた、そんな世界の犠牲者の一人。直に祝福を受けた彼女ですら、応えが返ってきたことは1度もなかった。普通ならありえない事だ。なぜなのか?
答えは簡単だ。その女神たちには力がないのだ。民に安らかな眠りを。民に暖炉の小さな灯火を。そんな些細な願いさえも、声高に語れないほど。十二神に属さないというのはそういうことなのだと、女神たちは強く思い知らされていることだろう。
近年は特にアーレスの力が強く動いていた。結果として隣国との戦が始まり、勝利し、王都は栄えた。争いが混沌を産み、技術を、産業を発達させたのだ。
勝者がいれば敗者がいる。それは国同士のことには限らない。
急速な発展は街に影を産み落とした。二束三文の端金で下働きをすることしかできない、泥を啜る民衆は教会に救いを求める。
その彼らに、安寧はない。体を壊すまで働きつめて、ようやく一食のパンを得ることができるのだ。ボロ屋でボロ布を被ってガタガタと震え、身を寄せあって寒さを凌ぐのがやっとこさ。
それを憂いてみせたのが、彼女を祝福したペルセポネーとヘスティアーだ。
2柱から寵愛を受けたベルの指名は些細な、しかし何よりな大切な、全ての人々に暖かな光と安らかな眠りを届けるということだ。
何をしたら良いのか? 何をしたら為せるのか? それは人間の権力のしがらみの内にいては決して分からないだろう。
ならばより簡潔に、よりスマートに。世界を一望し、全てを俯瞰できる場所。
いざ行かん、神々の地オリュンポスへ。
――ベルの旅が、始まる。
次回も気長にお待ちください。
レイモンドの導入に入ります。(本当ですよ?)